力がほしかった、なにかを変えられるだけの力がほしかった。
嘆き悲しんでも誰も、手を差し伸べてなんてくれなかったから。
カルディアの回顧録・4
船上で行われている馬鹿騒ぎを眺めて、一人酒を飲んでいた。
計画通りの成果を挙げられて、がっぽりとお宝をいただいた後だから、海賊団をあげての宴だった。喜ぶ船員達を眺めて、とっておきに取っておいた上質なワインを傾けいると、俺の元へ近づいてくる大きな影があった。
「どうしたジャンバール?」
「一杯どうかと思いまして」
そう言って度数の強いウイスキーの瓶を揺らす相手に少し笑って、いただこうと返し。飲んでいたグラスを空けて、琥珀色の液体を受けた。ご丁寧なことに水と氷も持って来てくれたようで、少し水を足して割ってもらった。
「どうだ、この船には慣れたか?」
「ああ、いい仲間達で安心している」
あんたも、いい頭だ。
そう言う相手が、手酌で自分の杯に酒をなみなみと注いでいく。昔は瓶で煽ってたんじゃないかと聞くと、彼は苦笑いして格好つけてそうしていたこともあると言った。
「しかし、あの頃飲んでいたよりもいい酒だ。瓶に口をつけるわけにもいかないし、ゆっくり味わいたい」
「そうか」
瓶ごと煽るような、そういう豪快な船長の方がいいかと言えば、あんたは今のままでいいと思うと返ってきた。
「人それぞれだ、あんたはグラスを傾ける、静かでお上品な飲み方が似合ってる」
「上品でもないけどな」
ワイングラスでウイスキーなんだ、全然ルールも無視してる。そう言いながら、入れてもらった酒を一口飲む。独特の香りを楽しみながら、喉の奥へと落としていく。
馬鹿騒ぎする船員達を見つめ、これは明日には二日酔いの薬が必要かなと考える。
「船長、嫌じゃなければ俺の昔話に付き合ってくれ」
「なんだ?お前にしては感傷的な話だな」
そんな気分か?とたずねると、黙って自分の酒に口をつけて、まだ俺がキャプテン・ジャンバールと呼ばれていた時の話だと言った。
「航海の途中、海戦で俺の海賊団が酷い被害に遭ったことがある」
相手が悪かったというのもある、実力ではどうしても勝てる相手じゃなかった。それを承知でも戦う方法を選ぶしかなかったのだと言う。
「船員が意味もなく射殺された、怒りを鎮めるには戦う道しかなかった」
まだ若かったということもある、判断を誤ったと彼は溜息をこぼした。
「あの時ばかりは、俺も死ぬことを覚悟した」
「それでも生き残れたんだろ」
悪運が強いなと返すと、静かに俺を見やってその通りなんだと言った。
「実は、助けてくれた奴がいる」
通りかかりの、闇医者だった。
そう言うと、酒を飲み干して息を吐いた。
「ドクター、前方に破損した船が見えますよ」
望遠鏡を手にしていたシャチが声をかけてきた、貸してくれと望遠鏡を手に物見台に上がると言われた方角を確認する。確かに一艘、大きな船が大破寸前といった形で海を走っていた。
「海賊船だな」
「どうしますか?避けて通りますか?」
震えているぞと指摘すると、シャチは別に怖がってるわけじゃないです!と強い口調で言った。
「もう少し近づくぞ、状況を把握して患者になりそうな奴がいれば客になる」
速度を上げるぞと告げ、船員たちを甲板に集める。三十分ほどで目標にしていた船にかなり近づけた、船の様子を観察すればかなりの被害が見て取れた。重症患者もいるだろう、処置の手が足りているとは、とてもだが言い難い。
「お前達、患者の診察に向かう」
まずは交渉のために船に向かうと、買い出しようの小型船を出す。警戒されないように気をつけるものの、一人では不安だとシャチが付き添いを申し出てきた。
「お前、さっきまで震えてたろ」
「そんなことないです!ドクターを一人で危険な場所に行かせるわけにはいかないので!」
心配性だと思いながらも、じゃあしっかり護衛を頼むぞと頭を撫でて鬼哭を片手に船に乗った。近づくにつれて俺達の姿を見つけたらしい船が騒がしくなってきた。
「安心しろ、俺は医者だ!」
船上から叫ぶと、警戒する船員を押しのけて大柄な男が現れた。
「ドクター……あれ、キャプテン・ジャンバールじゃないですか?」
震える声で傍にいたシャチが言うので、知っているのか?とたずねると、手配書にありましたよ、賞金首ですって!と言う。
「それがどうした?俺達は戦いに来たんじゃない、患者を診察しに来たんだ」
利害関係さえしっかりしていれば、心配することはないだろう。そう言って安心させて、更に近づけさせるように言った。
「海賊相手に、医者がなんの用だ?」
「患者が誰かは関係ない。ちゃんと払ってもらえるだけの代金があれば、それだけの仕事をするだけだ」
胸を張ってそう言うと、キャプテンと呼ばれた男は俺を船にあげるように船員に告げた。
渡された縄橋子を登る途中、震えるシャチにここに残ってもいいんだぞと告げるも、彼は頑なにそれを拒んで一緒に行くと言った。
「俺が船長の警護役です!」
「そうか、まあ期待はしてない」
ちょっと酷くないですか!と叫ぶシャチに、大丈夫だからと笑いかけた。
「不穏なことは考えるな、患者を引き取ってどう処置するかを考えておけ」
「はい!」
迎え入れられた船は戦いの傷跡がすさましく、息絶え絶えといった船員達を一人の医師と思しき男が診ていたが、明らかに手が足りていない。
「お前、医者だと言ったな?」
ジャンバールという船長は、俺が肩に担いだ鬼哭を見て、随分と物騒な物を持ち歩いているなと言うと、酒瓶から酒を一気にあおって飲んだ。
「海賊船に乗りこむのに、丸腰なのも危ないだろう?」
「確かにそうだ。しかし、あまり正規の医者ではなさそうだな」
名前はとたずねる男を真っ直ぐに見つめて、俺は右頬だけをあげて笑いかける。
「俺はカルディア、あの船が俺の診療所だ」
そう言うと、船員の中から声があがった。
「キャプテン!カルディアっつったら最近、噂になってる闇医者だぜ」
「海賊相手に商売するかわりに、法外な値段の医療費をぶんどるって話だ」
「支払いを拒めば、解剖されるとか……薬の実験台にされるとか……」
死神だとも、悪魔だとも言われてると騒ぐ船員を見回して、ふと息を吐く。
「そんな噂があるとはな。一応言っておくが、俺はしっかりと代金を払ってくれれば別にバラすことなんてしねえよ」
払ってくれるならなと、改めて付け加えて言うと船長であるジャンバールは、俺を真っ直ぐに見つめて、なにがほしいと聞いてきた。
「見ればかなり重症の患者が多いな、派手にやりあった後なんだろう?手が足りない分を俺が治してやるから、この船に積んでる宝の五割を代金としていただきたい」
「法外な治療費を取るのは嘘じゃねえんじゃねえか」
そう言って立ち上がったジャンバールに見下ろされる、感じる威圧感は非常に強いものだったが気にもとめず、妥当な値段だと告げる。
「値切ったらどうなる?」
「助かる命が減るだけだ、そこに転がってる奴なんてすぐにでも処置しないと今日の内には死ぬぞ?」
どうすると選択を迫ると、俺を睨みつけていた男が払ってやると言った。その言葉に周りの船員達から驚きの声と、否定の声があがる。
こんなどこの誰とも知れない男に命を預けるなんて、よくないんじゃないかという言葉に、黙れとジャンバールは一喝した。
「助かるかもしれない奴を見殺しにできるか、ここで無様に死に晒すよりは、まともなことを考えろ」
生き残れるかもしれないなら、生きれる方に賭けるもんだろうと叫ぶ男に、周りの船員が黙りこんだ。
「賢い選択だキャプテン・ジャンバール」
依頼通り、患者はしっかり診察してやるよと俺は笑って返す。
「本当に五割でいいんだろうな?」
「いいぜ別に」
いいだろうとキャプテン・ジャンバールは告げると、船員にこいつに協力しろと言って奥に引っこもうとした。
「ちょっと待て、キャプテン・ジャンバール。あんたも患者の数に入ってる、俺の船に来てもらおう」
「ああ?俺のどこが患者だって」
傷もなにも負っていないと彼は言うものの、その様子を見ていればわかる。
「あんたが吸いこんだのは、遅効性の毒だ。すぐには死なないけど、特徴である斑紋が既に出始めている。少しずつ体に麻痺が広がって、その内に脳に達する」
その腕にあるのがそうだと告げると、彼は無言で俺を睨みつけてきた。
「処置できると?」
「できないことは言わない」
しばらく安静にしてもらわないといけないけどなと告げると、しばし無言でいたものの、船医にこいつの言ってることは本当か?とたずねた。
船医そのものはその症状に気づいていなかったらしく、申し訳ないと平に謝っていたものの、本人も体の調子からおかしいことは勘付いていたのか、俺の前に腰を下ろし、腕を突き出した。
「お前はこれを治せるのか?」
「見立てに狂いはない、俺の船には薬もある」
しばらく睨み合いを続けていたものの、わかったとジャンバールは言った。
「よし、交渉成立だ。シャチ、本船に連絡しろ。患者を引き取るぞ」
「アイアイ、ドクター!」
慣れない敬礼を格好つけてするシャチに、本当に頼りになるのかこの若造共はと、ぼやく船長を無視し、呼び寄せた船に重症患者を運び入れた。
交戦した相手が悪かったのは、その傷の具合からよくわかった。まあよくも無事で済んだもんだと思う者もいれば、既に助かってない者がいたのも事実だ。
全て助けることは不可能だと教えた時も、船長であるジャンバールは不動のままそうかと言っただけだった。鎮痛剤と解毒剤を打ち、作用として体の動きが鈍っているためかもしれない。
「助からなかった奴らは、船に返してくれ」
「わかった。どうするつもりだ?」
「同じ船に乗ってた俺の大事な船員だ、なんとか弔いをしてやらねえといけないだろ」
どこになるかはわからないがなと呟く相手に、いい場所があると棚に仕舞っていたエターナルポースを渡した。
「この近くにある島だ、このままの航路で行けば三日もかからないで行ける。火葬できれば小さな墓くらい建てられるだろう」
俺が交渉してやるよと言うと、そこまでしてもらういわれはないと、男は冷たく言い放った。
「流れの海賊よりも、流れの医者の方が島民は安心してくれるだろう」
助けられなかった者の火葬をさせてほしいと言えば、ちいさな場所くらい開けてくれるかもしれない。そう言えば確かにそうかもしれないと思ったのか、彼は小さくため息をついてそれなら頼むと言った。
「代金は上乗せさせてもらう」
「ふん、本当にぼったくりもいいところだ」
「正当な代金をもらってるだけだ」
そう返せば、若いくせに肝が据わった野郎だと呟いた。
「海賊相手に商売しようってんだ、よっぽどの奴だとは思ったが」
「頭がおかしいと思ったか?」
「いや、その肝の太さは気に入った」
俺の船に乗る気はないか?とたずねる相手に、誰かの下で働く気はないし、海賊やる気はないんだと返す。
「似たような仕事じゃねえか、お前がしてるのは」
「強奪はしてない、患者の治療をしている、相手が犯罪者だってことが問題になるんだろうが、そんなんどうでもいい。俺も、闇医者なんだから」
もぐりの医者だから正式な診療所は開けないから、政府の追求を逃げるなら船はいい方法だろう、なんたって移動できるんだからと言えば、頭はいいようだなと返ってきた。
「しかし、ここの船員もまともな奴には見えない。あんたと二、三人以外はまともな医者には見えなかったが」
「元々はただの船乗りだからな。今は研修医だ、俺が指導してる。他に薬剤師が一人と医療助手が一人いるがな、執刀医は俺一人で今は充分だ。その規模の仕事しか受け入れないからな。その分、稼げる相手にはそれだけのものをしっかり払ってもらう」
俺のような相手かと、呆れたように呟く相手に笑いかけてやる。
「いい商売だ。政府に目はつけられてても、俺は別にやましいことはしていない」
「医師免許を持たないで医療行為を行うことは、法律に触れるんじゃないのか?」
そんなことが怖くて、仕事ができるかと返す。
「あんた、なんで闇医者なんだ?その腕があれば、医師免許なんて取れるだろう」
「悪いが昔話をする趣味はない、お互いのために詮索すべきじゃないことがある」
そう返して、他の患者の往診をしてくるとジャンバールを部屋に置いて出た。
島の火葬場の人間に頼み葬儀はいいからと言うと、とにかく遺体を焼くことは了承してくれた。料金は交渉して安くしてもらったし、手間賃を少しだけ上積みして請求するくらいでいいだろう。
墓はどうしたい?と持ち帰った遺灰を前にたずねると、こいつらは海にまいてやろうとキャプテン・ジャンバールは言った。
「海賊として死んだんだ、海が居場所の俺達には海が墓場がいいだろう」
「そうか……まあ、好きにしろよ」
これはあんたに命を預けた奴らだと、遺灰を渡してやった。
翌日、ジャンバールの船員達は揃って岬に立つと、ゆっくりと黙祷を捧げて、船長の合図と共に灰を海に流していた。
「お前は、海に流されるのは嫌だったな、ペンギン?」
その様子を遠目に眺めていた俺の傍に寄って来た相手に問えば、今はそうは思いませんよとあっさり返ってきた。
「ほう、どんな心境の変化だ?」
「もしもドクターを残して俺が死んだとして、海に灰をまいてもらえば、海を見るたびにあなたは俺のことを思い出してくれるでしょう?」
名もない島に置き去りよりも、ずっと傍にいれるならその方がいいとペンギンは言った。
「どうだろうな、海に流した時点で忘れられるかもしれないぞ」
「あなたは、そんな人ではないでしょう」
どこからその自信がくるのか、ペンギンはさらっとそう返すと、できる限り傍にいられる方法でお願いしたいなと思いますと答えた。
「そうか、だがペンギン。それは俺が許さない」
「海へ遺灰をまくことですか?環境汚染なら、最近は技術も進歩してますし」
「俺を残して勝手に死んだら容赦しねえ」
冥府の底からでも蘇ってもらうからなと言うと、あなたが言うとあながち嘘に聞こえないですよと、苦笑いした。
「ドクターなら、死者でも蘇らせられるんじゃないんかって、時々思いますよ」
「俺はそこまで優秀じゃねえ。それに、死者を蘇らせるほど優秀な医者は、冥府の神から疎まれて、そいつ自身が殺されちまうんだ」
白衣のポケットに手をつっこんで言うと、彼は首を傾げた。
「なんですかそれ?」
「知らねえか?俺の育った街では、昔話としてあったんだけどな」
育ったところが違うんだろうなと返すと、ペンギンは神様は信じてないんじゃないですか?と聞き返してきた。
「ああ、神は信じてない。でもな、優秀すぎるやつはその内に、邪魔になって誰かに消されちまうってことだろ」
人間はほどほどの力しか持っちゃダメなんだよ。
言い聞かせるようにそう告げる、どこかの誰かが望んでいたような破壊する力を手にしていいのか、迷い続けている。
この体にある力を知ったら、世界の奴らはどうするんだろう。俺の中に宿る能力だけじゃない、どうやら俺の名前と家族が背負っていたなにかも、この世界には、あいつにとっては大変なものだというのだけはわかった。
時折思う、俺は本当は人間なんじゃないんじゃないかって。
「でも、ドクターはそれ以上の力を持ってるでしょう」
「当たり前だ、俺は化け物だからな」
そう茶化して言えば、それに付き合わされてる人間のことも忘れないでくださいねと、彼は返した。
「好きでついてきてる癖に」
「そうですよ、あなたに付いて来てる俺達はあなたのことが好きです。だから、あなたのことを危険に晒したくない。あなたが表に立つなら、オレ達は矢面に立って守りたい」
そう返す相手は俺に背中を向けて、あなたが誰のことを考えているのか知りませんし、あなたがなにを企んでいるのかも知りませんし、なにを背負ってるのかもしりませんけれどと、前置きしてから俺の頭を撫でた。
その手つきにいつの日だったか、俺を優しく抱き締めてくれたコラさんの手を重ねてしまい、すぐに違うと振り払う。あの人の手はもっと大きかった、もっと背丈もあった。
なによりあの人は死んでしまった。
俺は死者を蘇らせる医者にはなれない。だから、生きてる奴らはできるだけ殺させるわけにはいかない。失ってしまうことの意味をよく知ってる。
埋葬できなかった、いくつもの大事な人達をいやというほど、胸の中に葬ってきた。
「いつか、あなたが本気でほしい力が手に入るまでに、俺達はもっと強くなるんで」
あなたに、仲間の灰はまかせません。
それだけ言うと、ペンギンは先に戻りますと船に戻っていった。
なんだか泣きたいと思った、誰のために泣きたいのか、よくわからなかった。
海賊達は泣いているのだろうか、沖を見つめるあの大きな体を眺めながらそんなことを考えていた。
金にならないことだってわかっていながらも、あの人はどうして俺を助けようとしてくれたのか。この体で、必死で生きろと叫び続けたあの人を夢で見るたびに手を伸ばして、問いかける。
どうして、ねえどうして俺を助けてくれたんだ。
あなたはどうして、なにもかも犠牲にして、生き残る力をくれたんだ。
「バイバイ、ロー」
笑って手を振るのをやめてくれ、必死で手を伸ばす。
金ならいくらだって用意しよう。あなたを生き返らせてあげられるなら、ほんの一瞬でも一言でも言葉をかけられるというのなら。俺はなんだってしてもいい。
それができないのだから、せめてあの人がしたかったことを達成しようと今日も追いかける手を、ふいに拳に変える。
もらった命を必ず、引き継いで使い切ってみせるからと返す。
そうしたら、彼はなんだか寂しそうな顔をしてみせた。
どうして?あなたのために、俺は生きるよ。
そう言おうとしたら、彼は黙って笑いかけて首を横に振った。
「ロー、お前は……」
俺はなに?そう問いかけようとした瞬間に目が覚めた。
全て夢だってわかってる、そう全部は俺が望んだ幻なんだ。本当にあの人がなにかを言いたいわけじゃない、そうなんども言い聞かせているのに振り切れない。
どうしてなんだ。
寝覚めに昨晩淹れてそのまま置いてあったコーヒーを飲み干すと、ゆっくり息を吐いた。無償に気分が悪くて、シャワーを浴びたい気分だった。
今日か明日にでも金を受け取って、ここから離れた方がいいだろうと思った。
「これが約束の報酬だ」
キャプテン・ジャンバールが俺の前に差し出したのは、宝物庫の半分にあたる宝だった。遺灰を焼いた分の上乗せもしっかり請求し、まあまあの支払いをしていただいた。
「確かに、きっちりいただいた」
「できりゃ、二度とテメエの顔は見たくねえなあ」
手痛い出費だとぼやく海賊に、俺はまた会いたいけどなあと返す。
「海賊みたいな傷ばっか作ってる奴は、いい商売相手なんだよ」
「お前に世話になってたら、支払いに困って仕方ねえ」
「そうだな、じゃあ次に会った時はあんたの首をお代に貰おうか」
右頬だけ釣り上げて笑うと、相手は少しイラっとした顔をしてから、溜息を吐いた。
「若造のくせに、本当に肝の据わった野郎だ」
二度と世話にはならない、と改めて言うと。彼は俺を見下ろしてふと顔を綻ばせた。
「お前、変なところでくたばるなよ」
「医者が簡単にくたばってたまるか」
「その細腕でよく言うぜ」
「見た目で決めつけるなよ、俺はこれでも化物だし?」
そう言うとそうかもしれねえなと、キャプテン・ジャンバールは笑った。
「次の支払いは俺の首でいいのか?」
「ああ、それまでにしっかり賞金あげといてくれよ」
それじゃ、毎度ありと宝をいただいて彼等の船を後にした。
「俺はあんたに、二つも恩がある」
そう言うと、彼はグラスに入った酒をあおった。
「すまなかった、あんたに助けてもらった仲間達は、あの後、結局は助けられないまま人攫いにやられて、俺自身も天竜人の奴隷で売り飛ばされた」
死んでやろうかと思った。
そう言って一呼吸置いて、でも死ねなかったと呟いた。
「あいつらのことを考えると、死んでどうになると思った。守れなかったくせになにを言ってんだと思われるかもしれねえが、俺が死ぬわけにはいかないんだよ」
忘れられたら、あいつらに立つ瀬がねえとジャンバールは言った。
「あんたには感謝してもしきれねえ」
次に会った時には、俺の首をやるって言ったのになあと残念そうに呟く相手の背中を叩いた。
「ちゃんとあんたの首、俺は貰ったぞ?」
毎度ありと言って立ちあがり、騒ぐ船員達の真ん中に躍り出た。
「お前ら!今日のは前祝いだ、今日の手土産を海軍に送りつけて、俺は……王下七武海の椅子を取る!」
付いて来るか?と問いかければ、全員が声をあげてアイアイ・キャプテン!と拳を上げた。
それに笑いかけて、俺は瓶から直接ワインを喉に流しこんだ。舌を通りすぎて遅れて感じる味に、脳内にアルコールの痺れが回っていくのを感じていた。
ローがジャンバールを迎え入れた理由について、あれこれ考えてた結果、昔実は助けたことあって知ってたからだといいなーと、いうそんな妄想でした。
ちなみに、次回からはハートの船員ではない人達いきます。
次は個人的にとっても書きたかった、海軍のスモーカーさんです!
2015年1月22日 pixivより再掲