「フリオは好きな人とかいるんッスか?」
食事中、急にそんな事を尋ねられ飲んでいた水が器官に入ってむせる。

「大丈夫かい?フリオニール?」
「・・・ああ、もう平気だ」
咳き込む俺の背を摩ってくれて、なんとか落ち着きを取り戻した。

「いきなり何だよ?ティーダ・・・」
「いやぁ、何だって言われても・・・ほら、あの人」

その名前を伏せられた人間が誰なのか、それはこの場に居る誰もがほとんど分かっている事だろう・・・。

「フリオは、一体どう思ってるんっすか?」

どう思ってるのかって、ティーダ・・・俺は別に相手の事なんて何も思ってない。
相手、分かってるか?

恋は盲目

恋は盲目だという。
恋をしている人間には、周りなんて一切見えなくなるんだそうだ。
そりゃ、本人はいいだろうけど・・・。
それに巻き込まれる人間は、堪ったもんじゃない。

「ティーダ、相手は敵で、しかも男だぞ・・・」
「知ってるッスよ、でも・・・あの人はそういうの乗り越えてきそうじゃないッスか」
実際、そうやって乗り越えてきてているのだから恐ろしいのだ。
「フリオ自身は、相手の事は何とも思ってないんッスか?」
「・・・・・・当たり前だろう」

溜息混じりにそう答える。
もし心惹かれていたとしたら、問題だろう。
そうでなくとも、問題があるんだから・・・。

「フリオニール・・・何故お前は私の愛を理解しない」
現れた・・・。

「今すぐ帰れ!!」
俺の側に現れた例のアノ人の腹に、ローキックを叩き込む。
ズザザザザ・・・という効果音が鳴りそうなくらい後方に吹っ飛び、背中から岩に叩きつけられた皇帝。

「もう、ストーカーの領域ッスよね」
「迷惑レベルは、カオス側でも軍を抜いて高いだろうな」
既に日常風景となりつつある皇帝の来訪に、仲間はもう驚く事もない。
だからって、助ける事まで放棄しないでくれ。
「このままだとフリオ、体術の方もマスターできるんじゃないっすか?」
「そうだね」
普通に食事を続ける仲間に、軽く溜息が出てきた。

なぁ、分かてるか?
奴はカオスの仲間で、コスモスの戦士達である俺達の敵なんだぞ・・・。

「フリオニール、もう諦めたらどうだ?」
「・・・何を?」
「皇帝サマはフリオに首っ丈ッスから、もういっその事付き合っちゃえばいいんじゃないッスか?」

スミマセン、今、何て言いました?

「ちょっ!・・・何で俺が皇帝と付き合わないといけないんだよ!!」
食卓を叩いてそう仲間に問いかける。 すると・・・。

「いいじゃないッスか、皇帝を手玉に取っちゃえば」
と、屈託のない笑顔で、恐ろしい事を言うティーダ。

「カオス側の動向も、掴める様になるかもしれない」
そのティーダの提案に、何故か乗っているクラウド。

「人の好意には、誠意を持って答えるべきだと思うよ」
と、上二人とは違い、至極真っ当な意見を言うセシル。

ティーダ、手玉に取れ、なんて簡単に言うもんじゃないぞ。
クラウドも、何でも利用できると思わないでくれ。
セシル、誠意の通用しない相手に対しては、どう接したらいいんだ?

「フリオニール、私の支配を受け入れてくれるのか?」
何時の間にか俺の側にやって来ていた皇帝が、しっかりと俺の手を取る。
「いや、誰もそんな事言ってないし・・・」
「お前が私のものになってくれるというのなら、私はお前に何でも捧げよう」
両手を取り、真剣な表情でそう言われる。

あの・・・ちょっと聞いてます?
なあ、皆も・・・変に空気読んで二人だけにしようと立ち去って行かないでくれよ。
そんな空気読まなくていいから。

「さあ、フリオニール・・・私と共に」
「誰が、受け入れるか!!」
そこでマスターオブジアームを発動させ、相手をマップに激突させる。
マップが破壊され、そのまま、どこかへ遠のいて行く皇帝を見つめる。
うん、今日も調子は良さそうだ。

「結局おっぱらっちゃたんッスか?」
出発の準備を進める仲間の元へ戻ると、ティーダが寄って来てそう尋ねた。
「ああ、でないと邪魔だろう?」
毎日毎日、よく飽きもせずにやって来るなあと思う。
っていうか、拒否しているのに一向にめげないその精神には感服するよ。
「でも・・・さっきも言ったッスけど、利用できるものは利用した方がいいッスよ。
タダなんだし」

タダだからって、何でも利用していいもんじゃないと思う。
それが人の心に関わる事といえば、尚更だ。
流石に、俺だってその辺は理解してるさ。

「誰かに愛されてる方が、人は幸せだっていうな」
「いや、クラウド・・・それは相手によるだろう」
「フリオニール、そうやって人の事差別するのよくないよ。
自分の事を思ってくれてるなら、もっとね」

そうは言ってもなぁ・・・。

「相手は皇帝だぞ」
「分かってるッスよ」
「アイツ・・・もう分かってると思うけど、かなり独占欲強そうだろ?」
「だろうね」

今ですらあの状態なのだ、これで受け入れてみろ。

「付き合ったら、四六時中付き纏われそうで嫌だ」

「・・・・・・・・・・・・っあ」
「それは・・・・・・」
「嫌だな」

ようやく思い至ってくれたか・・・。
だって相手は皇帝だ、これで相手を受け入れてしまえば、もう最後だろう。
しかし、だからといって・・・。

「フリオニール・・・私が愛していると行っているのに、まだ分かってはくれないのか・・・」
毎日来る、この男の求愛が止まるわけでもないんだけど・・・。

宮沢賢治作 「銀河鉄道の夜」より

あとがき
というわけで第二段です。
仲間達が以外と普通に受け入れてくれてます、そのせいで余計にフリオのストレスは溜まっていってます。
一切の甘い要素も、シリアスな要素もありませんね・・・あるのはギャグだけか。
だけど、作者が一番驚いてるのは、ティーダが腹黒い子になってる事です。
彼のあの屈託のない笑顔で「手玉に取れ」なんて言われたら、笑うしかないと思うのですね。
まあフリオには、そんな度胸ないでしょうけれども。
2009/2/20
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