恋は惚れた方が負け。
貴方は既に負けてるんですよ。
「だが、それも悪くない」
貴方はそう言って、でも決して諦めていない。
この勝負に、勝つ為に。
降伏しなければいけないのは、どちら?
恋は曲者
二手に分かれて行動する事になった。「どっちに行く?」
「じゃあ・・・俺はコッチで」
そう言って左の道を指すティーダ、別に俺はどちらでもいいのでそっちの道を譲る。
「分かった、じゃあ、また後で合流しよう」
「オッケーッス、じゃあまた後で」
右の道を行く俺の前に、見覚えのある人影が現れた。
「今日も麗しい姿で何よりだ、フリオ二ール」
「気持ち悪いから、止めろ」
やっぱり、左の道に行けば良かった。
いや、どっちに行ってもどうせ現れるんだろうな・・・ならティーダと一緒に行けばよかった。
慣れとは恐ろしいもので、皇帝がこうやって尋ねて来る事が日常の風景の一部と化してきている。
それでも、彼が敵である事に変わりはない。
「今日は何の用だ?」
剣を抜いて相手に向けながらそう尋ねる。
「何を言う、お前に会いたくて来ただけだ」
その台詞に全身から力が抜ける。
もしかしたら、何か裏があるのではとも勘繰ってみた事も一度や二度じゃないが・・・。
「今日も変わらず、お前を愛しているぞ」
女性ならいざ知らず、男を本気で口説いてどうなるっていうんだ?
いや、コチラの動向を知るためとか、もしくは攪乱させる為とか、そんな事も考えた。
だが目の前で微笑むこの男なら、そんな手を使わずとも、もっと非道な手段を選びそうなものだ。
冷酷非道を絵に描いたような、あの頃の皇帝は一体どこへ行ったんだか・・・。
「なあ、いい加減に冗談も程々にしてくれ」
危険は無いと判断し、剣を鞘に戻しながら溜息混じりにそう言う。
「冗談等ではない」
そう言って俺の頬へと手を伸ばす皇帝。
驚いてそれを払い除けようとするも、その腕を掴まれた。
しっかりと合わせられた真剣な視線。
作り物なのではないか?と疑う程の整った顔が目の前にある。
こういう状況に慣れていない俺は、どうしたらいいのか戸惑う。
「お前は、まだ分かっていないようだな?」
「何を?」
「お前を奪うのならば、私は直ぐにでも無理やりお前を我が手中に収める事ができる。
それをしない、理由だ」
そんな事を言われたって、分かるわけがないだろう。
お前の行動の意図を知るのは、お前だけだろう?
掴まれたままの腕に、更に力が込められる。
「本当は、今すぐにでも力ずくで奪ってしまいたいさ、だが・・・
それでは本当の意味でお前を手にすることはできない」
「本当の、意味で?」
「私はお前の全てを手にしたい、お前の心すらも根こそぎ残らず
お前自ら、私に溺れさせたいのだ」
真剣な声でそう話す、やって来た時とはまた違う深い笑みを称えて。
「どうして、俺なんだ?」
それが疑問。
男であり、敵である俺に、一体どうしたら好意を寄せられるというんだ?
一体どんな理由があれば。
「闘いの中で、お前の姿を求める自分に気付いた。
恨んでいるのではない、憎んでいるのではない。
ただ追い求める、お前の姿を狂おしい程に。
そして、ある日気付いたのだ、私がお前を求める本当の理由がな」
それが、恋い慕っていたという事なのか?
「じゃあ、その理由は?」
「私にも分からない、しかし・・・既に理由なんてものを私は必要としない。
この胸の内に、既に深く根付いてしまっているこの気持ちに嘘偽りはない」
そうキッパリと言い切る皇帝に、俺はただただ閉口する。
恋、なんていうものは、本人の意図しないものだ。
理解の範疇を既に超えてしまっている、それは思っていた。
じゃあ、俺にどうしろっていうんだ?
「俺じゃあ、お前の気持ちは受けきれない」
前々からそう言っている。
「今はまだそうかもしれないが、私は諦めるつもりはない」
「しつこい」
「承知の上だ」
皇帝はそう言ってちょっと微笑む。
ぐいっと、掴んでいた腕を引き寄せられる。
「また来る」
耳元でそう囁かれ、そして・・・。
「・・・・・・っえ」
額に、やわらかい感触を感じ、接近していた顔が離れると再び優しく微笑み、踵を返して帰っていった。
呆然と、ただ立ち尽くす俺。
皇帝の取った行動の意味を理解するまでに、時間を要した。
「なっ何を・・・」
恥ずかしさのあまり、顔に血が上ってくるのを感じる。
今の表情を見たら、皇帝は何ていうだろうか?
きっと満足気に微笑むだろう。
いや、もしかしたら今もどこかで俺の事を見ているのかもしれない。
「はぁ・・・・・・」
否定していても、無下に扱えない。
どうして?
否定してもしょうがない。
少しずつとはいえ、貴方を嫌いじゃなくなっている自分が居る事を・・・。
恋は曲者、気が付いたら心の底を蝕んでいる。
降伏しなければいけないのは・・・俺?
あとがき
第三段です、ギャグ要素を抜いたらただ甘くなりましてどうしようかと迷走中です。
迷走って駄目じゃん!とか思った方、全くもってその通りでございます。
皇帝がただフリオを口説きに来ただけってね。
そして、今までの過程で皇帝のどの辺りに惚れられるんだか・・・。
まあ、一途ですけれども・・・。
次で最終です。
2009/2/23
第三段です、ギャグ要素を抜いたらただ甘くなりましてどうしようかと迷走中です。
迷走って駄目じゃん!とか思った方、全くもってその通りでございます。
皇帝がただフリオを口説きに来ただけってね。
そして、今までの過程で皇帝のどの辺りに惚れられるんだか・・・。
まあ、一途ですけれども・・・。
次で最終です。
2009/2/23