いやぁ、恋すると人は変わるって言うけどさ。
どこかの偉い人の名言より、やっぱ実際に目にした方が実感湧くもんだね。
つまりはさ、人の心って、難しいもんなんだよ。
緑間真太郎の憂鬱
秀徳高校:高尾和成氏の証言
真ちゃんと火神のデートは俺のサポートのお陰か、成功の内に終わってさ。真ちゃんも結構、手ごたえ感じてたっぽいんだよね。
でも二週間後くらいに、なんか真ちゃんが浮かない顔してて。その日の占いの結果は三位だったし、今日のラッキーアイテムもしっかり入手してるし、機嫌の悪い理由が思い浮かばないわけ。
だから理由聞いてみたら、青峰が火神の家にお泊りしたって言うじゃん。
「何でそんな事知ってんの?」
「火神から聞いたのだよ……どうやら、一緒に遊びに行った帰りに雨に降られたらしい」
それで良かったら泊まって行かないか、とお誘いをかけられたみたいなんだよね。
「それくらいなら友達同士でもする事じゃん、気にしなくてもいいんじゃねえの?」
「そうだろうか?」
なんでそんなに疑いかけてんの真ちゃん、とか思ってたらその日のおは朝占いの結果が気になるらしいんだよね。
それで、その日の火神の占い結果を調べてみたわけ。
最近じゃさ、おは朝占いの結果をネットで調べられたりもするんだよね。まとめサイトってやつ?主にラッキーアイテムの鬼畜さが話題になってるんだけどね……。
『今日の十二位はおとめ座の貴方、思わぬトラブルの連続で疲れが出ちゃうかも。水難の相が出てるから特にデートする人は気をつけて!』
「それが青峰なのだよ」
成程、デートで雨降ったってこういう事なのね……とか思った直後、その日の一位の結果が目に入って、真ちゃんの心配事が思い当たったわけ。
『今日の一位はしし座の貴方、恋愛運が絶好調!気付かない内に運命の人と急接近してるかも?ラッキーアイテムはビニール傘』
ははーん、成程ねえ。
一位と十二位の結果が合わさって、最終的には青峰にとってプラスの効果をもたらしてるわけだ。うーん、単純に個人の結果だけじゃ予測できない出来事だよねコレ。
っていうか、本気でおは朝ヤバくね?
「火神の運命の人は、青峰なのか?」
「いやいや、別にそうと決まったわけじゃないっしょ!偶然って事も充分考えられるわけだしさ、大体、運命なんてそう簡単に決まらないって俺は思うけど。
この人と結婚する運命なんだとか、勝手に決められてるの嫌じゃん!それよりも俺は、誰にでも平等にチャンスがあってさ、最終的に自分や相手が何を選ぶのか、その選択が運命なんじゃないかって思うけどね」
「結果ではなく、選択肢の一つか」
「そういう事!だからさ、努力次第では誰だって運命の人になりえるんじゃないの?」
そう言ったら真ちゃん、ちょっと元気出たみたいでふっと笑って「高尾にしては、たまには良い事を言うな」っていつもの調子で言ってくれちゃってさ。
「ちょっ!俺にしてはって酷くね?」
なんて、笑って返したんだけど。
でも、やっぱり何だかんだで真ちゃんの恋は上手くいって欲しいんだよね。
人は恋すると変わるって言うじゃん、だからさ。
真ちゃんもこの恋で、なんか変わるんじゃないかなって思って。
いいや、確かに変わって来てるんだもん。
ツンデレなのもおは朝信者なのも相変わらずだけどさ、でもなんていうか、前よりも近づきがたくなくなったっていうかさ……。
火神と過ごして、丸くなったかんじ?
だから、真ちゃんにとって火神はきっと必要な人なんじゃないかな、なんて思ったりするんだよね。
勿論、俺だって真ちゃんにとって必要な存在でありたいな……とは思うよ?
でもさ、俺と火神は役割が違うっていうか、立場が違うていうか。違う意味の特別なのは間違いないでしょ?
そういうのに嫉妬したってしょうがないじゃん。
そう、ポジションが違う奴の行動に嫉妬してもしょうがないの。
でもさ、真ちゃんの事を大事に思う事だったら誰にも負ける気しないから。
だから真ちゃんの決意とか、思いとか、今の希望を壊されたりしないように、絶対に成功させるように頑張ろうかな……なんて固く決意しちゃったりしてるわけ。なんてね?
洛山高校:赤司征十郎氏の証言
やあ真太郎、君から連絡してくるなんて珍しいじゃないか。
昔の上司に電話ねえ……それで僕か。
折角なんだし、何か相談でもしてみるかい?
いや、何も無いなんて事はないだろう?そう、例えば……お前がアプローチをかけてる誠凛のエースの話とか。
何で知ってるのか、って?まあ、多くは明かさないでおくが、コッチに彼の知り合いが居るのさ。それで、噂はかねがね聞いているよ。
火神大我は真太郎の事を良い友達だと思っているらしいからね、どこへ遊びに行ったとか、何をしたとか。たまにお前を喜ばせるのに何したら良いかと、相談してくるそうだよ。
お前の人に対する反応は、よく知っているからな……彼との話を聞く内に、そこに抱いている感情の違いくらい、予測するのは容易いよ。
だから真太郎、お前の悩みも想像する事は容易い。
火神大我から恋愛対象として見られていない、どんな風にアプローチをかけようとも、大した反応が見られない事。
それに焦りを覚えているんじゃないか?
確かに同性同士という障害はある、友達止まりでも仕方がないのかもしれない。だが迷いがあるのは間違いないだろう?火神のあの性格から、恋愛に対してどこまで踏み込んで良いか、判断しかねているんじゃないか?
まあ、大輝と違って真太郎は何事にも慎重だからな。先に心構えがあれば、それだけ何事にも適応できる。
人事を尽くしているのは間違いない、ただ。
お前はまだ、火神とそういう話をした事はないんじゃないか?
昔の恋愛について、話をした事はないんじゃないか?
いいや、僕が言うわけにはいかないんだ。生憎と人から聞いた話でね、本来この情報は僕の知るところではない。それを僕からお前に伝えるのは火神の望むところじゃないし、お前だって不満だろう?
必要なものは自分で手に入れるものだよ、真太郎。
可能なら今度二人きりの時に聞いてみればいい。火神大我が素直に話してくれるなら、それだけお前に心を許してくれているという事だ。
ああ、別に心配しなくても彼のあの性質は素だよ。一時しのぎに純粋さを装う事は簡単ではあるが、それを続ける事は難しい。長い目で見れば、それが本物かどうかはすぐに判断できる。そうだろう?
それ故に、惹かれる人間が居て、守りたいと思う人間が居て、反対に傷つけて壊したいと考える人間も居るんだろう。
安心しなよ、僕は別にそんな気はない。
ああ、傷つけるつもりなんてないさ。あれはなんというか、試してみたかっただけだよ、彼をね。
甘やかす事が人のためにならない事は、お前だって分かっているだろう?だから、時には厳しくあたる人間が居てもいいはずだろう。まあ、それで嫌われているなら仕方ないだろうけれど。
そうかい、火神が僕をねえ……いや、今度会いに行ってもいいかと思って。ああ、
別に、感謝されるいわれはないよ真太郎。僕は君の味方だけど、同時に敵にもなりうるんだ。
僕は自ら手を差し伸べる事はしないよ、その代わり、助けを求める者には分け隔てなく手を差し伸べる。
それは真太郎だけではなくて、大輝にも同じという事だ。
まあ、彼からこんな話をしてくる事はあまり考えられないけれどもね。
有意義な話は聞けたかい?
手を抜く気はないんだろう?まあ、言われなくてもお前はこれからも人事を尽くす事だ。
何かあったら、また電話してくれ。
ではまた。
秀徳高校:高尾和成氏の証言
「という事があったのだよ」
ある日の昼休み、なんか難しそうに考え込んでる真ちゃんに「火神の事考えてる?」って声かけたら、ちょっと俺の方を見て溜息を吐いて「お前に隠し事は通用しないな」とか言って、赤司の事を聞かせてくれたんだけどさ。
「昔の恋愛?」
「そうだ」
それって何なんだろうな、色々と解釈しようがあるし。
火神がかつて好きだった人についてなのか、もしかして付き合ってた人についてなのか。
どっちにしろ、あんまり良い事があったわけではないんだろう。
「どう思う?」
「うーん、そこまで言われるって事はよっぽどの事があったんじゃない?恋愛に臆病になるくらいの出来事が」
でもどうしても想像できないんだよね。
そりゃ火神だって人だしさ。俺達と同じ思春期まっただ中なわけですし、好きな人の一人や二人、過去にいたっておかしくはないとは思うんだけど。
でもどうしても想像できない。
なんていうか、火神って馬鹿がつくくらい自分の感情に真っ直ぐな奴っぽいからさ、難しいような変な恋愛をするように思えないんだよね。
まさかの不倫とか、そういう問題に巻き込まれたとは思えないしさ。
「同性恋愛の可能性は考えられないか?」
「えっ……」
「火神はアメリカに居た、という事は、そういう人間から言い寄られた事がないとは言い切れないだろう」
ああ、成程。確かにそうかもしれない。
で、それが今の火神にとって恋愛に対してあまり良い影響を与えてない……つーかマイナス面なんだとしたら。
「それってさ、真ちゃんにとって不利な話なんじゃない?」
「かもしれないな」
そう言って、真ちゃんは深い溜息を吐いた。
本当、一難去ってまた一難ってやつ?
やっぱり同性で恋愛って、障害多いよな……。
まあ仕方ない事なのかもしれないけど。
「どうすんの真ちゃん?」
もしかして、これで諦めちゃうのかなってちょっと思った。
だってさ、最初からかなり無理がある恋愛ではあったわけだもん。それを真ちゃんだってきっと自覚してたはず、可能性がゼロではないならってきっと一生懸命やってきたんだと思うけど。
でも、もし火神にそういうトラウマがあったら?
そりゃ相手に嫌われないように、嫌な思い出を思い返さないように友達のままでいちゃうのかな?とか思って。
「諦めるつもりはないぞ」
でも俺達のエース様は、俺の目を見てハッキリとそう言った。
「そうなの?」
「理由も聞かずに諦める奴がいると思うか?アイツが何を抱えていようと、それから助けてやりたいと、支えてやりたいとも思う。できる事は、全てしてやりたいのだよ」
「どんな事でも?」
そう簡単に言うけどさ、実際に何を抱えてるのかなんて人それぞれじゃん?
助けるとか、そう簡単にできるわけがないじゃん。
「それ踏み込んだ時点で、火神に嫌われたりしない?」
人の心なんてさ、簡単に傷つくもんなんだよ。
思い出させるだけでも、聞き出すだけでも充分に、傷つけちゃうかもしんないでしょ?
「注意は払うつもりだ、それでも踏み込まなければ分からない事はある。
嫌われたとしたら、それまでの存在だという事だろうが……それでも知りたいのだよ、興味本位でも自分のためでもなく、アイツのために」
そう言う真ちゃんがさ、なんかめちゃくちゃ格好良くって。
やっぱ、人は恋すると変わるんだなって思って。
「じゃあ、俺も一緒に悩んでやるよ」
「結構なのだよ」
「ちょっ酷くね!折角、何かあった時に相談乗ってあげようって思ってるのに」
「お前はもう充分、相談に乗ってくれているのだよ」
そう言って真ちゃんは、ふっと微笑んで。
「感謝しているぞ、高尾」
なんて言ってくれちゃってさ。
はは、まさかあのエース様からんな事言われるなんて思ってもみなくって。
不意打ちのデレ、しかも強烈すぎるデレに正直固まったっていうか。
ちょっと、真ちゃん大丈夫かな?って心配になってきたっていうか……。
うん、本当に恋すると人って変わるもんなんだね。
元々、ただの思いつきで始めた話なのでネタなんてあってないようなものですけれど。
ただ話の展開に行き詰ると、放置して違う話をやろうとしだすんで……そうなる前に終わらせたいですね。
2013年3月25日