テツ君の話を聞いて、大ちゃんは何か難しい顔して考えてた。
それから「可愛い物って、何だよ?」とか机に突っ伏して深い溜息を吐いてた。
もう!何のために私やテツ君がいると思ってるの?
「大ちゃん諦めないで!私達が必ず、大ちゃんの恋を実らせてみせるから!」
そのためにはね、大ちゃんがやる気だしてくれなくちゃ意味ないの!

アスパラベーコン男子・青峰君の奮闘記

海条高校:黄瀬涼太氏の証言

火神っちと青峰っちのために、俺と黒子っちと桃っちでのグループ交流が始まったんスけど。
なんというか、青峰っちはヘタレというか臆病というか、いざ二人っきりにしてみても本当に話を全くしないんスよね。
まあ自分からちゃんとアピールできるなら、こんな事にはならなかったわけなんだけど。

バスケしてる時は普通なのに、それ以外じゃ全然大した話が続かなくて。趣味でも何でも話す事くらいありそうなのに……全く、何でマジバのボックス席に二人並んで座ってるか分かってるんスか?
「本当にお前達二人って、本当に黒子の事好きなんだな」
とか、俺達三人がくっつきたいからこの席順なんだって火神っちは思い込んでるわけで。
違うんスよ、いや違わなくないけど違うんスよ。俺達は君達二人にできれば仲良くして欲しいな、とか思ってるんスよ。だから頼むから、青峰っちに興味持ってあげて火神っち!

「なあその新作美味い?」
「ああ?まあまあじゃねえ」
なんて青峰っちが飲んでるシェイクに興味持った火神っち。バナナ味って甘ったるくないか?と更に青峰っちに聞いてて……これはチャンスじゃないッスか、今は自然な流れで「一口いるか?」とか言えるシーンでしょ?
「気になんなら今度買えば」
って、何でそれが言えないんスか青峰っち!後で落ち込むの自分なんスよ!
まさか間接ちゅーが恥ずかしいから言えないとか、そんな小学生レベルな話じゃないっしょ!
「いえ、きっと間接キスが恥ずかしいんだと思います」
「マジっすか?」
黒子っちの指摘に驚愕している傍らで、桃っちが深い溜息を吐いている。そうだった、相手はメアドすら聞けないくらいのヘタレ峰だった。コイツにそんな高等技術できるわけがなかったね!

ちなみに、あれから青峰っちはまだ火神っちのメアドを聞けてないッス。

今日、俺達が集まった一つ目の目標、それは二人にメル友になってもらう事。
もう一つは、この二人に強制的に共通点を持たせる事ッス。

「そうだ、かがみんにお願いがあるんだ」
頃合いを見て桃っちがそう言うと、火神っちは「どうした?」とちょっと首を傾げる。
「ねえかがみんって、大ちゃんの趣味しってる?」
「……いや、知らねえけど」
「おい!さつき」
本人の口からは絶対に言っちゃ駄目って話してた最大の武器を、まさかその禁止した人物から振られて、青峰っちはかなり焦ってたッス。でも、これも俺達の作戦だった。
そう、青峰っちのあのどうしようもない趣味を、逆手に取る事にしたんス。

「それがね!大ちゃん、この年になってセミ取りとかザリガニ釣りとか、そういうのが好きなんだよね……あと好きなものって言ったらグラビア見る事くらい?」
「ちょっ!黙れって……」
おお、やっぱりいざ人の口から言われると恥ずかしいんスかね、かなり赤くなってるッス。まあ口調的に「ウチの駄目な息子が……」みたいな諦め半分のお母さんみたいなだから、かもしれないッスけど。
「それでね、かがみんって確か趣味でサーフィンするんでしょ?」
「ああ……そうだけど?」
それがどうした?と不思議そうに首を傾げる火神っちに、桃っちは両手を合わせてお願いのポーズをして。

「ねえ、大ちゃんにサーフィン教えてあげて?」

そう、これが俺達の作戦ッス。
ようは興味を持ってくれそうなカッコいい趣味や特技がないなら、いっそ相手と同じ趣味を始めればいい!……って結論になったんス。
黒子っちみたいに読書が趣味だったら、このアホ峰には絶望的だったかもしんないけど。火神っちの趣味はサーフィン、体を動かす事に関してはこのヘタレの得意とするところッス。
しかも、海なんてデートスポットの定番だし、最適なシュチュエーションじゃないスか。

「なんか、このままだと一生夏休みの小学生になっちゃうでしょ?たまには違うスポーツしてみるのも、刺激になっていい気がするのよね」
「そっか……お前はどうなんだよ青峰?」
「えっ?」
「マリンスポーツとか、興味あんの?」
「や、別に興味ねえ…………わけじゃ、ないけど」
ここまでお膳立てしておいて、何を拒否しようとしてんだよこのアホが。
……ってかんじのオーラを、前の席から感じたらしい青峰っちは引きつった顔しながらも、そう答えてくれたッス。
「なん、つーか……いきなりしたいって出来る趣味じゃねえだろ?」
「そうでもねえよ、ウェアとか貸してくれるとこあるし。俺の知り合いがやってる所だったら安くしてもらえるぞ」
「そっか……」
なんて視線惑わせて言う青峰っち、ちらちらこっち見てるのはやっぱり気になるからッスか?言っとくけど、絶対に俺は行かないッスよ。モデルに日焼けは大敵なんで!
「そうなんだ、ねえ折角だし行ってみなよ大ちゃん」
「まあその見た目だと完全に君の方がサーファーですけどね」
「うっせぇ」
地黒で悪かったなとむくれる青峰っちを見て、火神っちは楽しそうに笑ってたッス。
「じゃあいつがいい?今週末とか空いてるか?」
「あっ……ああ、大丈夫だったと思う」
「じゃあ土曜に行こうぜ、俺も久々に行きたかったし」
凄く嬉しそうに話をする火神っちに向けて、桃っちがとどめの一言を付け足した。
「そうだかがみん、私ね土曜は用があって朝から出かけるんだ」
「へえ……じゃあ一緒に来ないのか?」
「うん、ごめんね?それでさあ……悪いんだけど大ちゃんの事、起こしてあげてくれない?」
「はっ……はぁ?」
これには流石の火神っちもビックリしてたッス。でもそれよりも驚いてたのは、その隣に座ってた青峰っちの方ッス。
もうね、声もなくただポカーンとしてた。
「大ちゃんってさ、朝誰かに起こされないと絶対に起きないのよね。だからさ、悪いんだけど遅刻しないようにモーニングコールかけてあげてくれない?」
「そっか……あっ!でも俺、青峰の連絡先知らないんだけど」
それを聞いて桃っちが俺に目配せしてきた、分かってるッスよ事前の打ち合わせ通り抜かりなくしてみせるッス。
「ええっ!青峰っちと火神っち、まだアドレス交換してなかったんスか?こんなに会ってんのに?」
「青峰君はあまり携帯とか見ませんからね……でもいい加減に連絡係するのも面倒なので、この機会に交換したらどうです?」
それを聞いて、そうだなと制服のポケットから携帯を取り出す火神っちは、別に何も疑ってないみたいだった。けど、流れについていけてないのか俺達の方をおっかなびっくりといったように見つめる青峰っち。
いいから早く携帯出せよ。

「どうする?何時くらいに待ち合わせする?」
交換しながら、当日の予定を確認していく火神っち。それに何とかかんとか答えている青峰っち。
よし、これは青峰っちにとっては大きな前進ッスね!

「じゃあ土曜の九時に集合な?」
ニッコリ笑って言う火神っちを見つめて、青峰っちは一瞬、呆然としてから「あっ、ああ」って焦って答えてた。
後で聞いたら、火神っちの笑顔に見惚れてたらしいんスよね。

まったく、その笑顔を独り占めするためにも、このデート成功させるんスよ!

桐皇学園:桃井さつき氏の証言

土曜日の九時、私はテツ君と一緒に待ち合わせ場所に居た。
勿論、大ちゃんとかがみんのデートを遠くから見守るためにだよ!

今日のために、昨日の夜の内にきーちゃんと一緒に大ちゃんのコーディネイト考えてあげたし、何度も注意した。
まず、絶対にかがみんと喧嘩しない。今日一日、かがみんは大ちゃんのコーチなわけだし、できるだけ反抗したりしないで、一歩引いて聞き入れなきゃ。
次に、絶対に自分からかがみんに話かける。何でも受け身じゃ駄目だもんね、きーちゃんに前も言われたみたいだけど、洋服の事でも何でもいいから、今日のかがみんから気になる話題を見つけなきゃ駄目。
最後に、絶対に次の約束をする事。大ちゃん自身も言ってたけど、サーフィンってやろうと思ってすぐ始められるイメージがないから、きっと私達の周りでしてる人はいないはず。なら別れた後に「今日は楽しかった」って一言だけでもメールがあれば、また行こうって誘い易くなるしそれだけ一緒にいる時の特別感が生まれる。

「そんな、簡単にいくもんかよ?」
「勿論、上手くいくかどうかは大ちゃん次第だよ?でもね、何もしないよりは失敗した方がずっといい、そうじゃない?」
「でも……」
「でも、だっても無いの!とにかく、土曜はかがみんと二人で過ごすんだから!かがみんに悲しい顔させたくないなら、頑張るしかないでしょ!」
と、まくし立てたら大ちゃんもようやく納得したみたいで「そうだな……」って言ってくれた、けど。

「大丈夫かな?」
「確かに、不安ではありますね」
そう言うテツ君の視線の先には、十分以上前から待ってるかがみんの姿がある。偉いよね、こうやってちゃんと来てくれてるんだから。
「青峰君はちゃんと起きれたんですか?」
「それは大丈夫だと思う、大ちゃんの部屋のカーテンちゃんと空いてたし、朝からドタバタしてる音聞こえてたから」
きっと約束通りかがみんからのモーニングコールかかってきたんだろうなあ、なんか本当にデートっぽくていいかんじかも。

「ワリィ、遅れたか?」
そう言って現れた大ちゃんは、ちゃんと決めてた通りのコーディネイトで来てくれた。行先は海だし、あんまり凝った服は止めた方がいいよねって事で、カジュアルで動き易そうだけどところどころアクセント付けてみたんだけど、かがみん気がついてくれるかな?
「いいや、時間前だぞ。ちゃんと起きれたんだな」
「そりゃ、あんだけけたたましく携帯鳴ったら誰でも起きるっつーの」
「何だよ人がわざわざ起こしてやったっていうのに」
もう!喧嘩しないでって言ったのに。
歯がゆい気持ちで見守ってると、それでも私達の言ってた事を思いだしてくれたのかしばらくして大ちゃんが「別に……本当に電話かけてこなくても、起きれたっつーの」ってワントーン落して返答した。
「だって桃井が、お前は起きれないって」
「んなわけねーだろうが、ちゃんと約束してたら起きるっつーの。さつきの奴が、なんつーか俺の事、未だに小学生扱いしてくるだけなんだよ」
ぷいっとそっぽ向いて言う大ちゃんに、かがみんはクスクス笑って「いいじゃねえか、気にかけてもらえてるんだろ?」って優しい声で返してくれた。
「ほら、とにかく行こうぜ」
「あっ、ああ」
良かった、いきなり険悪ムードでスタートしなくて。

「なあ青峰、その服さ」
「……何だよ?」
「いや、どこで買ったんだよ?俺そういうの結構好きなんだけど」
「えっ…………」
あれ、大ちゃんってば今、好きって言われて言葉に詰まった?どこまで初心なのよ。
でもこれはチャンスよね。
「あー、前に黄瀬と出かけた時に買ったんだよ。アイツのオススメなんだと」
「へえやっぱりモデルって、服の趣味とかいいんだな」
ちょっとちょっと大ちゃん、確かに間違ってないけど何でそこできーちゃんの株上げちゃうの?しかもそこだけで止めちゃ意味ないでしょ?紹介するから、今度一緒に行くか?って誘いかけないと!
「……お前のそのパーカーも、俺好きだけど」
「ああコレか?俺が使ってるサーフウェアと同じブランドなんだよ」
良かったら後で見に行くか?なんて言ってるかがみんに、大ちゃんはなんとか頷いて話を進めてる。
ああもう!かがみんのお陰で助かったけど、大ちゃんもっとしっかりして!

「何だか順調そうですね」
「そう……?見てるコッチがヒヤヒヤさせられっぱなしだけど」
でも、普段の話が上手くできない大ちゃんとは違って、一応は話かけられてはいるもんね。
流石にあれだけ口すっぱくして言えば、少しは耳に残ってたのかも。なんて舞い上がってた。
見守るという名目で、テツ君と一日一緒にいられるっていうのもあったしね……。
でもね、みどりんの言葉を借りるなら何事にも万全の体勢を持って臨まなければいけないのよね。
占いを信じるわけじゃないけど、おは朝は見ておけば良かったのかも……なんて後悔しても遅いんだけど……。

二人で電車に乗って海まで行って、今度は徒歩でかがみんの知り合いだっていう人のお店まで行った。勿論、私もテツ君も遠くからその様子を見守ってるだけで、中には入らなかった。
流石にそこまで追いかけると目立っちゃうもんね。

それから、かがみん指導の下、大ちゃんの初サーフィンが始まったわけなんだけど。いくら大ちゃんでも、初めてのサーフィンは上手くいかないみたいで、教えてもらっておきながら何度も海に投げ出されてた。
やっぱり、想像してたより難しかったか……。
でも、かがみんは終始明るい顔で大ちゃんの事、励ましてくれるし。声までは聞こえてこないけど、覚えるの早いぞみたいな事、言ってるんじゃないかな?
あっ、趣味だって言うだけあってかがみんはサーフィン上手だったよ!本当に、凄くカッコ良かったんだから。あんなかがみん見たら、誠凛の女の子とか放っておかないんじゃないかな?って感じるくらい……まあ、今彼に言い寄ってるのは両方とも男子なんだけど……。
流石に遠くから見つめてるだけじゃ、二人が何話してたのか細かいところまでは分からなかったんだけど、でも思ったよりも会話は弾んでるみたいだし、大丈夫そうかもなんて思ってた。

「そろそろお昼の時間かな?二人共どうするんだろ?」
「ああ、それでしたら僕から火神君にお願いしておきました」
何を?って聞いたらね、なんとテツ君ったらかがみんにお弁当作って持って行ってあげたら?ってアドバイスしてたんだって。
「桐皇の桜井君と火神君はどうやら知り合いらしいので、どっちが美味しいか判断してもらったらどうですか?って、彼の闘争心を煽ってみました」
「なるほど」
って事は、それに関しても何か手を打っておくべきだったかな……って思ったらテツ君が。 「僕の方から、青峰君にも言い含めておきました。火神君がお弁当を作ってくれるそうなので、できるだけ褒めてあげて下さいと」
テツ君ナイス!
でも大ちゃん、幸せで頭沸騰しないといいけど……。

なんてかんじで、二人の事を見守ってたんだけど……まあ、心配するほど問題も起きそうにないし。ここら辺で引き上げようかって事で、私はテツ君はお昼で帰って来たんだけど……。

そしたらお昼過ぎくらいにきーちゃんからメールが入って。
「桃っち黒子っち、今日のおは朝占い確認したッスか?」
って、きーちゃんにしては絵文字も顔文字も全くなく、それだけ書いてあって。
「見てないよ」って返したらすぐに結果を返信してくれたの。

それがね……。

「今日の十二位はおとめ座の貴方、思わぬトラブルの連続で疲れが出ちゃうかも。水難の相が出てるから特にデートする人は気をつけて!」
水難って……大ちゃん、海に居るんだけど。
「どうしようテツ君、大ちゃんが溺れちゃったりしたら私」
「落ち着いて下さい桃井さん、あの二人は頭まで筋肉なんじゃないかと疑う程の馬鹿ではありますが、身体能力だけは常人以上です。それに、もしもの事があっても人目の多い場所ですからきっと大事には至らないはずです」
そう言われてね、確かに変に心配してもしょうがないよねって思い直したの。水難って言っても、溺れるとは限らないし。
しかもね、その時のラッキーアイテムが……。
「ラッキーアイテムは、サーフボード?」
「こんな偶然、あるんですね」
もう運が悪いんだか、運が良いんだかどっちかにしてよ!

でもね、後で聞いてビックリしちゃった。

お昼から突然雨が降って来て、それもかなり酷い雨だからサーフィンなんて続けられないって事になって、それで結局お弁当食べて二人も帰ろうかって事になって。
で、途中コンビニで傘を買って。暇なら近くの店でも見ていくか?って、今日かがみんが着てたブランドのショップもあるらしいから、二人で見に行ったんだって。
そしたら、帰りに近く通ったトラックのせいで水被っちゃったらしくて……二人してびしょ濡れになったって。

なんてガタガタ震える大ちゃんから電話がかかって来たんだよね。

……うん、後で天気予報を調べたんだけど。
晴れのち曇りだけど、沿岸部ではところにより強いにわか雨が降るでしょう……ってなってたんだよね。水難って聞いて溺れるんじゃないかって心配したから、まだ濡れただけなら良かったんだけど、二人にしたら大問題で。
だって流石に全身びしょ濡れで電車とかバスとか乗れないし、そうなったら帰るのに歩くしかないわけで。
それでかがみんが「ここからなら、ウチの方が近いだろ?」って。迷惑じゃなかったら、着てる服を洗濯してあげるから泊まっていかないかって、言ってくれたらしくて。

そこで大ちゃんテンパって「家に連絡する」って言って、私に電話かけてきたみたいなの!

勿論、行きなさいって言ったよ!
っていうか、そんなの聞くまでもなく行くべきでしょ!初デートでお泊りの許可まで相手から貰っちゃったのよ、行く以外の選択肢なんてあるわけないじゃない。
「でもよさつき、こんなん予定外なんだけど」
「当たり前でしょ!突然のラッキーなんだもん」
そう、トラブルって厄介ごとって意味だけど、それが必ず悪い事だけとは限らないじゃない。何だって逆手に取れば最大のチャンスにだって変わるかもしれない。
なら、正面から受け止めなくちゃ。
「今日は二人っきりなんでしょ?とにかくかがみんの家にお邪魔して!
それで、何でもいいから二人で話してみて。今日の事でもいいし、かがみんの料理の事でもいいから!
それから、普段は絶対にしないけど家の事とか何か手伝えないか言ってみて。断られても絶対に落ち込んじゃ駄目!何かする事ないか?って聞くだけで、意外と優しいんだって印象付けられるんだから!」
それからそれから、って大ちゃんに言ってると「分かった、分かったから!」って困ったように大ちゃんが叫んで「とにかく、火神のところ泊まるから。ばばあにはそう言っといてくれ」って普段と同じ大ちゃんの口調でそう言って電話は切れたんだけど……。

もう!本当に上手くいくのかな、今更になって心配になってきた。
私の忠告だけで本当にちゃんと聞いてくれるか不安になって、とりあえずテツ君なら何か別のアドバイスできるかも、って思って早速電話をかけたの。

「テツ君どうしよう、大ちゃんがかがみんの家にお泊りするって!」
「えっ?……ええ!」

誠凛高校:火神大我氏の証言

なあ聞いてくれよ、土曜に青峰とサーフィンしに行ったんだけど。

やっぱアイツは運動神経とか凄いんだな、飲み込み早くてさ!基本的な事はすぐに覚えたぞ、あとは感覚がちゃんと掴めればすぐに上手く乗れるようになると思う。
だから午後にはちゃんと乗れるんじゃないかって思ってたんだけどさ、急に雨が降ってきて。ちょっとくらいならまだいいけど、海は天気次第で凄く荒れるからな……流石に止められたから、弁当食べてそれから買い物にでも行くかって、周り歩いたんだけど。

ああ、アイツ俺の弁当気に入ってくれたみたいだぞ!
「桜井のとどっちが好きだ?」って聞いたら、なんかそっぽ向いてしばらく黙りこんでから「……俺、照り焼きが好物だからな……今日はお前の勝ちにしといてやる」って小さな声で言ってた。
マジバでよくテリヤキバーガー食ってるから、好きなんだろうなって思って、鳥の照り焼きを入れてみたんだ。黒子が言うように肉料理を多めにして、でも野菜も食べられるようにって色々考えて、牛肉と野菜の炒め物とか、ベーコン巻のアスパラとか入れてみたんだ。
嫌いな物あるか?って聞いたけど、別にないって言って全部食ってくれた。
素直じゃないけど、アイツって悪い奴じゃないんだな。早起きして作って良かった。

それで、途中で傘買って二人で買い物……つっても見て回るだけなんだけど、してたんだけど。
なんかトラックのせいで水被ってさ。このままだと帰れないよなってなって、しょうがないから青峰にウチに泊まりに来ないかって言ってみたんだ。
ああ、俺の家の方が近かったからな。濡れた服なら洗濯して乾燥機かければいいし、青峰と俺だと服のサイズも合うだろ?
でもやっぱり時間かかるしさ、迷惑じゃなかったら泊まって行くか?って言ったら、青峰の奴ビックリしてさ。なんか凄い慌てて「家に電話かけてみる」って連絡してたな。
だから何か大事な用でもあんのかと思ったんだけどな、ちょっと離れた所で電話かけてたけど色々ともめてたっぽいし、でも結局「行く」って言って、俺の家に泊まっていったんだよな。

えっ、帰ってから何したのかって?

まず二人揃ってびしょ濡れだし、体も冷えてるからタオルと着替え持ってきて、風呂の用意して。面倒だから二人で入るか?って聞いたら青峰がまたビックリしたみたいで「お前、馬鹿か!」ってかなり怒られたんだけど。
なあ、日本人って水着なしで温泉とか一緒に入るじゃん。裸の付き合いとか言うんだっけ?そういうの当たり前なんだろ?
いや、なんか青峰の奴に「お前、男と二人で風呂とか……そんなの駄目に決まってんだろ!」って滅茶苦茶怒られたんだよな。
っあ、家の風呂では入ったりしないのか?そうだよな、俺と青峰が一緒に入ったら狭いもんな。
だから青峰と俺で別々に入ったんだよ。なんかこういう時は客に先に風呂勧めるんだろ?だから青峰に先に入ってもらった。
っていうか、アイツいつもあんなに風呂出るの早いの?
なんか十分くらいですぐに出てきたからさ、今度は俺がビックリして。だってそんなんで体温まってるわけないだろ、だからもっとゆっくり入って来いって怒ったんだけど、もう大丈夫だからってアイツ聞かなくて。
結局、なんか急に家の電話が鳴ったから俺も十五分くらいでさっさと出たんだけど。

そう、親父から電話かかってきてさ。青峰が鳴ってるぞって教えてくれて、だから慌てて風呂出たんだよな。
……えっ、慌ててたから下着だけで出たんだけど。やっぱりまずかったか?
いや、アレックスもいないし。別に男同士だったら構わないかなって思って。
でも何かアイツ滅茶苦茶慌てて、着替えに出してたパーカー掴んで走って来て「服着ろ馬鹿!」って電話してんのに怒鳴られてさ。何だよって思ったけど、まあちょっと肌寒かったしな、風邪引くなって心配してくれたのかな……って。

で、親父に誰か来てんのか?って聞かれて「友達が泊まりに来てる」って答えたらさ「高校で、仲良い友達できたのか」って喜んでくれて。「良かったら変わってくれないか?」って言われて、じゃあ服着替える間変わってくれって青峰に電話渡したんだけどさ……。
なんか青峰の奴、ちょっと緊張してたっぽいんだよな。人の親に会う時ってそういうものなのか?普段あんまり聞かないけど、アイツ敬語もちゃんとしてたし。なんかやけにキョウシュクそう?に話してたんだけど。俺に変わってから親父が「日本に帰ったら、是非紹介してくれよ」って言ってたんだど、あんな短時間で親父に気に入られるなんんて何喋ってたんだろうな?
それからまだ十分くらい親父と喋って終ってみたら、なんか青峰の奴がソファでグッタリしててさ。どうした?って聞いたらなんか「一気に疲れた」とか言っててさ、まあ海で体力かなり削られてただろうからな、無理すんなよって言って夕飯の用意した。
折角だから何か好きなもん作ってやろうって思って、「何食べたい?」って聞いたら「肉」って言われた時は流石にビックリしたけどな。
なんか、桃井がアイツの事を「小学生みたい」って言うのちょっと分かった気がした。
んで、夕飯はハンバーグになった。デミグラスソース作るのは時間かかるし、前に水戸部先輩に教えてもらった大根おろしにネギとポン酢使ったソースにしてみたんだけど、青峰の奴「店のより美味い」って凄く喜んで食ってくれた。
それからコーヒーと、前の日に作って余ってたシフォンケーキも出してやった。これも俺が作ったって言ったらビックリしてたけど、なんつーか、おおげさだよな?
だってさアイツ、いつも桜井の作った弁当食べてるんだろ?アイツの料理ってかなり凝ってるんだぜ?それなのに俺の料理でここまで褒めてたら、きりないだろ?
食べたいなら今度作ってやろうか?別にいいぞ、いつでも泊まりに来いって!

つーか青峰ってさ、ああ見えてなんか優しい奴なんだな。
なんか不良っぽい奴かと思ってたけど、なんつーか礼儀正しいんだなって見直した。
えっ、だって家事とか何もしないのかと思ったけど、自分から手伝うって言ってくれたし。何かする事ないかって聞かれてはじめはビックリしたんだけど、人にお世話になる時は自分から何か手伝うのが礼儀なんだよ、とか言われてさ。
人の事とか全然気にかけない奴なのかと思ったけど、そんな事ないんだな。
でもさっきまでぐったりしてたのに、普段からしてないのに無理してんな事しなくてもいいのに……そりゃ分かるって、手つき危なっかしいからな。
だから料理はいいから、そのかわり皿洗いしてもらったりした。

それから?
ああNBAの試合のDVD一緒に見たぞ。
あと、木吉先輩から借りた「ハ●ルの動く城」も一緒に見た。
べっ、別に怖くなんてなかったって。いや、あれくらい平気だ。
寝る時?だから別に怖くなんてねえよ!あれくらいは平気だって!
……えっ?いや、一緒のベッドで寝たけど?
うっ、うるせえよ。別にいいだろ、突然だったから客人用の布団とか干してなかったし。それに男友達同士で一緒のベッドで寝るのって普通だろ?

…………えっ?変なのか?

なんか、アメリカに居た韓国人の友達は仲良い奴同士なら普通だって言ってたし、タツヤも一緒のベッドでよく寝てたから友達同士ならこれが普通なのかって思ってたんだけど。
木吉先輩は……なんつーか、やっぱり先輩は日本の縦社会的に違うのかって思ったから、一応聞いてみたんだけど。
えっ、違うのか?
だから青峰もビックリしてたのか、それだったらちゃんと言えばいいのにな。
うん、だから眠くなってきたから「もう寝ようぜ」って寝室行って、入口のとこで立ったままだった青峰に「どうしたんだ?」って聞いて「早く来いよ」ってベッドの上で手招きしたんだけど。やっぱスゲー顔して固まってたの、変だったからなんだな。別に何か変な事する気はなかったんだけど、やけに緊張してんのか俺の方に背中向けて丸まってたし。なんか勘違いされてたのか……謝っといた方がいいか?
俺?普通に寝たけど。

次の日に青峰、落ち着いて寝られなかったとか言って、結局十時くらいまで寝てたのはそのせいなのか。
俺?ロードワーク行ってから朝飯食って、シャワー浴びてから青峰起こして買い物に行ったけど。
それから、帰って来てから昼飯食って、二人で1on1しに行って、夕方にはアイツ帰ったけど。

なんか、雨降ったりとかそのせいで濡れて帰るとか、嫌な事のはずなんだけどさ……なんかすげえ楽しかったんだよな。
帰り「また来いよ」って言ったけど、アイツ本当に来てくれるかな?

……何すか先輩?
青峰に用って……アイツ最近は真面目に練習行ってるらしいし、来てくれるかは知らねえけど聞いてみる、です。

あとがき
青峰君は無事に生還して、再び火神君の家にお泊りしに行く事ができたのでしょうか?
少なくとも、誠凛のお兄さんお姉さん達の猛攻を耐え抜けたとしても、その後に待ち構えている火神父という最終ボスが登場した時に、彼は立ち向かえるんでしょうか?
2013年3月11日2013年3月8日
close
横書き 縦書き