あら、どうしたの?今?平気よ。
貴方からの電話は、いつだって大歓迎よ。
そんなに気に負わなくっていいの、あたしの事信じてちょうだいよ?
それで、今日は何の相談かしら?
誠凛のエース火神ちゃんの秘密
洛山高校:実淵玲央氏の証言
どうしてあたしと大我ちゃんが仲良いのか、気になってるって顔ね?
隠さなくっても分かるわよ、ちょっと長くなるから色々と割愛するけど……話してあげてもいいわよ。
あたしがまだ洛山に入学する前なんだけど、東京で大我ちゃんと出会ったのよ。どこで会ったのかは、聞かないでね?
いやねえ、別にやましい場所じゃないわよ。でもバスケ関係じゃなかったのは確か、これ以上は内緒よ。
とにかくね、彼と初めて会った時に気付いちゃったのよねえ。あっ、この子お仲間かも……って。
その時はあんまり時間が無かったんだけどね、でも結構仲良くなっちゃって。
というか、その時のあの子がどうも人に甘えたい時期だったのかしら?知らない人にフラフラ付いて行っちゃいそうな雰囲気があったからね、悪い男に引っ掛かっちゃいそうで、もう危なっかしくて見てらんなくてね。だから連れ出したっていうのが正しいかしら?
……だから、別にやましい場所じゃないって言ってるでしょ?
ちょっと、危ない場所だったのは確かだけどね。
とにかくそんな彼の事を叱ってね「悩み事があるなら相談に乗るから」って連絡先を交換して、それでお別れしたんだけど。三日後くらいだったかしら、本当に彼の方から連絡してきてね。色々と相談に乗ってあげたりして、それで仲良くなったの。
バスケしてるっていうのは、後で聞いたのよ。
彼、中学はバスケから離れてたんでしょ?日本のバスケについてなんてほとんど知らなかったから、あたしの事も知らなかったのね……。
だから、高校に入ったらもう一度バスケしてみなさいって勧めたのよ。彼がどこを選択するのかは賭けみたいなものだったし、できればコッチに来て欲しかったんだけど。あの子の場合は家の都合があるからね、残念だったけど仕方ないわ。
……なあに?誠凛を勧めたのがあたしなんじゃないかって?
さあ、どうかしらね。
とにかく、今は彼にとって良いお姉さんってところかしら。
ふふ、大我ちゃんはあたしよりもずっと純粋で可愛い子よ。
でもそうね……彼って心まで完全に女性ってタイプじゃないのよ。なんていうのかしら、純粋な乙女の心を持ってるんだけど、例えば話し方とか、仕草とか完全に女の子になりきりたいってタイプじゃないのよね……あたし達にも色々あるわけ。
でも、やっぱりこういうタイプって世間の中ではマイノリティーでしょ?あの子、ずっとそれで悩んでて、それは今もなんだけど、特にあの時は色々と身の回りで抱え込む物が多かったわけよ。
当時のあの子はね、好きだった人と上手くいかなくて、喧嘩別れっていうの?とにかく、あまり良い別れ方をしなかったみたいで。それで家族とは離れて日本に一人きりでしょ?言葉が通じるって言ったって、知り合いもほとんど居ないわけで。表向きは明るく振る舞ってたけど、実際は人付き合いに臆病になってて、かなりまいっちゃってたの。
だから言ったじゃない、ちょっと優しくされたらフラッと悪い男に引っ掛かっちゃいそうな状態だったの。それでなくても、あの子ってば簡単に男の事引っ掛けてきちゃうタイプなのに……。
ああ……彼自身は気付いてない事の方が多いんだけど、いつもそうなのよ。無意識に男を誑かしたり、気付いたら惚れられてたりするのよ。勿論、持ってる女の子だって面は隠してるのによ?無意識の内にどこかから滲み出てるのかもしれないわね、本質だもの仕方ないでしょ?
中学時代だって、どんだけ男から告白されてる事か……今も?もしかしたらあるかもしれないわね。
全く、大変だったのよあの子に迫る男に対して、あたしが出張って引き剥がしたりしたんだから。
更に困るのは、彼も恋愛対象は男の子だって事ね。
ああ、大丈夫よ。彼、男の事を無意識に引っ掛けてくるわりに、男を見る目はあるわ。本気で好きになった人の事はちゃんとよく見てるもの。その他の悪意ある男に向けても、その観察眼を使ってほしいくらいなんだけど……。
ああでも、その当時好きだった人とはその後ちゃんと仲直りできたみたいよ。今は仲良くやってるんだって。といっても、彼の片思いだったから復縁したとかそういうわけじゃないようなんだけど。でも、この間もデートしてきたって楽しそうに話してたわ。デートって言っても恋人同士じゃないんだから、普通に二人で遊びに行ったようなものだそうだけどね。
でもあの子も偉いわね。
勇気を出して、その人に自分の事を打ち明けてみたんですって。
心の問題とか、そういうの告白して。昔は好きだったんだって、そういう目で見て来た事について謝ったんだそうなの。そしたら、その人も良い人ね。そんな事で謝らなくてもいいって笑って彼の事、受け入れてくれたそうよ。これからも変わらずに傍に居るからって。
大我ちゃんは一端離れて落ち着いたから、そういう熱が冷めたって言ってたけど、あたしはその人の事、まだ諦めなくっても良い気がするんだけど……。
だってそうじゃない?
彼、常に自分の体と心についてをコンプレックスに思ってるんだもの。見た目が可愛いならまだしも、こんな顔で体格で、絶対に気味悪がられるって、口癖のように言ってるのよ。やっぱり、世間の目が気になるのもそうだし、親に対してまだ打ち明ける勇気が持てないみたいだし。それに彼の中にはね日本とアメリカって二つの国の格差っていうのもあるわけなのよ。
強がって人に見せないけど、彼って本当は弱々しくて不安定な一面があるの。
そんな彼を包み込んでくれるような、包容力のある男性ってなると……やっぱり年上の方が良いと思うのよね。
でも、あの子はあの子で今、好きな人がいるみたいだし……。
あら?誰なのか気になるって顔してるわね。
流石にこれは秘密よ、秘密。
陽泉高校:氷室辰也氏の証言
やあ、君と一対一で話をするのは初めてだね。
聞きたい事っていうのは、もしかしてタイガの事かな?やっぱり、そうか。
タイガの性格、というのか……心の問題っていうのには、実は前から気付いていたんだ。
小さい頃からさ、普通の男の子とは違うとろがあるというか、心にズレがあったのは間違いないんだ。一定の年齢になるとそれが大きな悩みになってきてたみたいで、それを見せないように必死になってたんだろうけどね。でも俺達の仲間内だとタイガはゲイなんじゃないかって、噂になってたんだよ。どうも本気で悩んでるみたいだから、無駄に尋ねるような無粋な奴はいなかったんだけどね。
あと、俺がそういう話題を振らないでやってくれってお願いしてたからね。もし違ったら、彼の事を気付付けるし。本当だったとしても、悩んでいるって事は不安だったし強いコンプレックスがあるって事なんだろうし、そういうのを無駄に刺激して、傷つけたくなかったんだよ。
あと……そうでなくてもタイガは男にモテたからね。これで意識的になってごらんよ、もう牽制がききそうになくて。
タイガが俺になんとなくそういう気を持ってるんじゃないか、って気が付いたのはティーンになってからでね。
気持ち悪いなんて俺は思わなかったよ?戸惑いはあったけどね、俺にとってタイガはやっぱりどこまでも兄弟だったわけだし、急にそういう情を持つ事はできないんだよね。
そうこうしてる内に、タイガとは仲違いしてそのままになってね。そう気持ちがあったんだっていうのも、一時の気の迷いというか……そういう勘違いなんだって思うようになったんだ。何せ、俺達の知り合いにもタイガに惚れてる奴は何人も覚えがあるからね、自分はそいつ等に巻き込まれるように気が当てられたんだろうって、そう考えて忘れようってしたんだよ。
結局、俺のこの勘は当たってたんだけどね。
WCの後、タイガと二人きりで会ってね。その時に今までの事を謝られたんだよ。
俺と離れたくはなかったと、自分に結び付けられる理由がどうしても欲しかったんだって、涙ながらに語ってくれてね。それはやっぱり、恋人としての憧れが転じてそう思うようになったみたいなんだ。
どうして、こういう面に関しては自信がないんだろうねタイガは。あんなに人に好かれてたっていうのに、自分はそうだって気付いてないんだ。
もっとちゃんと話をしたら良かったんだね、彼が悩んでいるのを知ってたのに、踏み込まないでいてあげる方がタイガを傷つけないだろうって、そう思って。結局は俺は自分に降りかかるかもしれない問題から逃げたんだよ。
「俺さ、昔は恋愛っていうか……そういう意味でタツヤの事、好きだったよ」
泣きそうな顔でそう言うもんだ、しかも無理に笑いながらさ。
「ごめんな、迷惑かもしんねえってずっと思ってて、だから言わないでおこうって決めてたんだけどさ。もしかしたら、今言わなかったらもう言う機会無い気がして」
迷惑はかけないから、どうこうなりたいってもう思ってないから、兄弟の証だけはできれば捨てないで欲しいんだって、そう言って笑うんだよ。
「何でタイガが謝るんだい?何もかも、俺の我儘で決めて事なのに……兄弟の証だって、お前の約束だって、お前の意思なんて聞かずに俺が勝手に結んで捨てようとしてきたのに」
謝らないといけないのは、俺の方だと思ったよ。
でもタイガは止めてくれって言うんだ、自分にとっては凄く幸せだったんだって言って聞かなくてさ。
「俺の我儘をずっと聞いてくれたんだ、これからはタイガのお願いもちゃんと聞かないといけないね」
「タツヤ……」
「お前がそれ望んでくれるなら、頼む。これからも変わらずに兄で居させてくれ」
そう言った瞬間に泣き出した癖に、やけにタイガが嬉しそうで、安心したよ。
ああ、こんな俺でも許してくれるんだって。そう思ってね。
だからタイガとは昔通りとはいかないかもしれないけど、やっぱり可愛い弟として接してあげたいなと今は思っているよ。
タイガ本人も言っていたけど、俺への熱っていうのかな……それは落ち着いてしまったみたいんだよね。
「憧れとか、そういう気持ちが強かったんだと思うんだよな。タツヤ格好良かったし」
なんて照れたように言うもんだよ?
いやあ本当に可愛くてしょうがないよ。
いや、可愛いのは昔からなんだよ?
俺としては、憧れでもいいからまだ好きだって言ってくれるなら、直ぐにOKしたいくらいなんだけどね。
昔は逃げた癖にって思ったかい?
仕方ないだろう、俺だってタイガの魅力に当てられてる男の一人なのさ。それは間違いないよ。君の身の回りにだって、何人かそういう心辺りがある人間がいるんじゃないかい?お父さんに甘えられない時期が長かったからなのか知らないけど、タイガはどうも年上で、自分を甘やかしてくれる人間に簡単になびく癖があってね、その危なっかしさもあってなのか知らないけど、彼を好く人間もどうも年上が多いんだよ。
でもビックリしたなあ、可愛かったタイガが。いや今も充分に可愛いんだけど、そのタイガがあんなにも色気を振りまくようになるなんてね。見てるこっちが心配になるくらい、最近のタイガは色気がおかしいだろう?君も当てられたりしていないかい?
悔しいんだけど、タイガが色っぽく感じる原因を作ってる相手が、どうやら俺以外でいるみたいなんだよ。誰なのかって、何度か聞いてるんだけどね。どうしても答えてくれないんだ。
ちょっと顔を赤らめて「秘密」なんて言うんだぞ?so cute!だろう!
でも、ちゃんとその内、俺に紹介するように言ってあるからさ……兄として、彼に見合う男なのかどうか判断させてもらおうかなって思ってるよ。
駄目だって思った時かい?
そうだねえ……。
とりあえず、タイガを泣かせた場合は、その罪を血であがなってもらおうかな?
ちなみに、私は火神君総受け派です。
どこまでも火神君至上主義者です、彼が幸せになるのであればどんな結末だって受け入れます。
2013年4月19日 pixivより再掲