死にいたる病-5
side:青峰
「大ちゃん、最近ちょっと外泊多すぎだよ」
学校の屋上で寝ていると、急に影になったかと思うと上から幼馴染の小言が降ってきた。
「おばさん心配してたよ。人様の家に迷惑かけてるって」
「別に関係ないだろ」
そんなつまらない事を聞きたくなくて、寝返りを打って視界からさつきの顔を消したら、背中を思いっきり蹴られた。
「イッテェ!何しやがるブス」
「もう!かがみんの事が大好きなのは分かるけど、そんなしょっちゅう入り浸ってたら迷惑でしょ!嫌われても知らないよ」
「うるせえ!何も知らない癖に口挟むんじゃねえよ」
テメエは知らないだけだ、アイツが抱えてるあの穴を。
誰も、本当のアイツを理解していない。
平気な顔して、寂しさを押し殺している火神を。
「アイツを一人にできるかよ……」
そう呟いた俺に、さつきは何を思ったのか小さく溜息を吐いて、呆れたのかと思ったらやけに軽い声で「大ちゃん、ちょっと変わったね」と言った。
「ぁあ?」
「本当に誰かの事、好きになったんだなって思って」
それはいいんだけど、と言って言葉を切る相手を少しだけ見ると、やけに真剣な顔で俺の事を見ていた。
そこから飛び出すのは、いつものお節介な小言なのか、それともアイツの持つ女の勘とかいう恐ろしい武器なのか。
「あのさ大ちゃん、恋に溺れると身を滅ぼすよ?」
「…………はあ?」
何を言うのかと思ったら、あまりにも滑稽な言葉をかけられて口をあんぐり開けたまま、相手を睨みつける。
「意味、分からない?」
「当たり前だろうが、つーかお前に言われたくねえ」
「本当に分からない?」
俺の傍にしゃがみ込んで、顔を覗きこんでくる相手に「しつこいぞ」と適当にあしらうと、「聞いてよ」と肩を掴む。
「私、心配してるんだよ?」
「何が?俺達が男同士なのが気持ち悪いって?」
「違う、そうじゃないの!あのね、毒だって使い方次第で薬になるんだよ。反対にね、どんなによく効く薬だって飲みすぎたら毒になるの。何でも程々にしておかないと、いつか体を壊しちゃうんだよ?」
そんな当たり前の話を必死に言う相手に「だから何だ?」と尋ねると、これまで以上に深刻な顔で「同じだから」と言った。
「何が?」
「人間も一緒だから」
長く一緒に居ちゃダメなんだよ、とさつきは言う。
意味、分かんねえよ。
「ねえ気をつけてよ、お願いだから。かがみんも、大ちゃんもお互いの事ばっかりじゃ駄目なの。それだけ、覚えておいてね?」
「はあ」
「何でそんな気の抜けた返事なの!もう、本当に気をつけなよ。あと、おばさんにもちゃんとかがみん紹介しなよ」
それだけと言うと、さつきは立ち上がって授業が始まる教室へと戻って行った。
今言われたばかりの事を頭の中で思い返して、俺は溜息を吐く。
「何て紹介しろってんだよ、バカ」
自分が恋人だと火神を紹介している姿を想像して、急いでその想像を掻き消した。
別に会わせるくらいはいい、でも恋人だと紹介する気は最初から無かった。
同性愛者だっていうレッテルを自分から貼るのが嫌なんじゃない、親にそれをカミングアウトするのが怖い、というわけじゃない。隠しようもなく本当の事だし。
俺が心配しているのは、この関係を親に話した時に受け入れられず、火神と別れろと迫られた場合のアイツの選択だ。
火神の話に時折出てくる父親がどんな人なのかは知らない。しかしアメリカという国で長く仕事をしている事を考えると、同性愛に対する考え方には寛容かもしれない。
俺は火神を我儘言って無理に貰ったようなもんだから、殴られてでもアイツの親には恋人として挨拶はしておきたいと考えている。
でも俺の両親は残念ながら、俺達みたいな関係が受け入れられるようなお国柄で育ってはいない。
日本で根を張って生きてる以上、自分の息子にはちゃんと女の嫁を貰って、子供作って生きろと怒鳴るに決まっている。どんなに俺が火神の事を愛していて、こんな自分を受け入れてくれるただ一人の人間だったとしても、そんなのは駄目だと言うんだろう。
きっと火神はそれを聞いたら迷うに違いない。
もしも俺の両親から「お前のせいで、息子の人生は狂わせた」なんて最低な事を言われたら、それこそ傷付いて自殺しかねない。
火神はいつだって、黙って俺の幸せを祈ってくれるようなそんな奴だ。だから、きっとこちらから別れ話を切り出したところで、渋ったりせずに素直に別れを受け入れてくれるんだろう。勿論、そんな事は絶対にしない、けど……。
俺の親がこの関係に反対してると知ったら、黙ってどこかに消えてしまったりするんじゃないだろうか。
それが俺にとって、一番の幸せなんだって勘違いして。
祝福されない関係を続けていくのは辛い、そうアイツに思わせたくない。自分と居る事で俺は不幸になったなんて、勘違いしてほしくない。
そんな些細な事で、俺から離れていったりしてほしくない。
「お前がいないと、生きていけないんだよ。火神」
誰も居ない屋上の空に向けて呟く。ざわついて治まらない心を癒すように、そんな日は絶対に来ないと何度も言い聞かせながら、自分の想像だけでも傷付いてボロボロになりかけてる心を慰める。
傍に居ないと息をする事も苦しい、空いている腕が軽すぎる、安心する体温から離れると自分の体がどんどん冷えて、重くなっていってる気がする。
もう駄目だと思う。
お前がいないと死にそうなんだ。どこかに行ってしまうくらいなら、俺の手の届くところに置いておきたい。
永久に傍に居てくれるためなら、死んだっていい。
でも、どうせ死ぬのならお前の声をもっと聞いていたい。お前の笑顔をもっと見ておきたい。ずっとずっと傍に居て、体が弱り始めて朝が毎日来るのが嫌になるくらいにまいってしまって、もう生きる事が苦しいと思った時、その時は一緒に死のう。
火神も、そう思ってくれるだろうか?
誰に反対されたって、二人で生きていこうって考えてくれるか火神?
全く心を打った事がない「例え世界の全部を敵に回しても、君を愛してる」なんて安っぽいドラマの台詞だって、お前相手になら本気で言える。
誰に嫌われたって、お前が俺を好きで居てくれるならそれでいいんだ。
そのためなら、俺は何だってするぞ?
「なあ、俺はどうしたらいい?」
そう問いかけてくる相手に、俺は何て返答したらいいんだろう。
優しく微笑み俺の両手を握り締めるその手で、さっきまでコイツは自分の首を絞めようとした。俺の手を導いて、自分の首にかけさせて。
さっきまで拘束されていた手首は、必死に解こうとしたのか擦れて赤くなっている。目元は涙の痕が残って赤く腫れている。これは全部、カッとなった俺が火神にした事のせいで付けられた傷だ。
きっとこうやって表面に出ているよりもずっと、目を塞がれていた時についた心の中の傷の方が強いんだろう……想像するだけで、自分の事を殺したくなる。
一人にしないって、決めていたのに。
普段、簡単には泣いたりしない火神が、必死になって俺に縋りついて泣きわめくくらい、怖がらせてしまったというのに。
なのに、火神は俺になら何をされてもいいとそう言う。
何をしてもいいのか?どんな事をしてもいいのか?
また俺の我儘でお前を傷つけるかもしれないのに?
心の中にある迷いを、しかし相手は分かりきってるみたいで優しい微笑みのままで、結んでいた手を解いて俺の頬を包み込んだ。
「前からずっと言ってるよな?俺は、青峰の好きにされたいんだ」
「でも……」
「俺は青峰の事、嫌いにならないぞ?」
「だけど……」
逃げようとする俺の視線を捉えて、そしてふわりと笑った火神は俺にキスした。
初めてキスした時みたいな、優しく触れるだけですぐに離れていく、子供の遊びみたいなキスだけど。でも、どんなに恋人らしい深く甘いキスを交わしても、この一瞬だけ触れるキスの力は強い。俺の言い訳も、我儘も、弱気な考えも全て吸い取られてしまって。そんな真っ白になった心に、火神の与えてくれる優しさが染み込んでくる。
「青峰」
ふわりと口が緩く孤を描き、目は見た事ないくらい優しさでいっぱいで。
だというのに、そんな火神に喰われそうだなんて思ってる俺は、どこか変なんだろうか?
でもコイツに喰われるのはいいかもしれない、食いしん坊な火神の事だから、骨の先まで残さず綺麗に食べてくれるんだろう。なんて馬鹿らしい事がふっと頭を過った一瞬の間に、見つめていた火神の顔が俺のすぐ横に近づいてきて、耳元で囁きかけられた。
「青峰の好きにしてくれ」
落された声は頭に直接届いて、ビリビリと痺れさせて麻薬みたいに俺の意識を一色に塗り替えていく。
俺の好きにしていいのか?
俺だけのための火神になって、なんてそう言ってもいいのか?なあ……。
「いいのか?」
すっかり泣きやんだものの、貼り着いたように上手く動かない喉の奥から声を絞り出して尋ねる。
最後まで確認しないと、俺は安心できないんだ。
なあ火神、これはお前を傷付けないんだよな?
お前はそうされると……。
「なあ、俺がこうなって欲しいってお前を縛って、お前は幸せになれるのか?」
「ああ。なれるよ」
だって青峰の傍にずっと居れるんだろ?
どうしてそれが幸せじゃないんだと、むしろ火神は不思議そうに首を傾げた。
握りしめていた手を解いて、その体を抱き締める。
そうだよな、その通りだよな。
俺達が二人で居て幸せになれないなんてありえないよな、邪魔をする奴等なんて無視すればいいんだ、俺達の間を引き離すものなんて必要ない。
いらないものなんて消えてしまえばいい。
俺だけじゃなく、コイツの中からも追い出してしまえばいい。
心の穴を埋めるだけじゃなくて、中身そのものを埋めてしまえばいいんだ。
何で、もっと早くに気付かなかったんだろうな。
こんな簡単な事なのに。
「火神、俺だけのものになってくれよ」
俺だけを見て。
俺の事だけ考えて。
俺のためだけにその声を使って。
俺だけのために、生きて。
一つたりとも、他の誰にも渡さない。
この世の誰が何を言おうとも、関係ない。
「お前の全部、俺のものだ」
「うん」
とっくに青峰のものだけどな、と笑う相手に俺も微笑み返す。
そんなんじゃ足りないんだよ。
もっともっと、俺だけを見ろよ。
他の誰かなんて、必要ないんだ。
『何でも程々にしておかないと、いつか体を壊しちゃうんだよ?』
酷く深刻な顔でそう告げた幼馴染をふと思い出して、ふっと溜息を吐いた。
与え過ぎるなって、そんなの無理だ。
火神はお前が考えるよりもずっと大食いだ、少しの愛情なんかじゃすぐに喰い尽してしまって、すぐにまた飢えてしまう。
俺も、それに関しては一緒だ。
お前には分かんねえんだよ、さつき。
俺の事も、コイツの事も。
side:火神
青峰に言われた通り、青峰のためだけに生きるって決めた。
他の誰かと話をする事も、目を合わせる事もできるだけ避けて過ごすように心がけた。
けれど、それは思ったよりも難しくて。できるだけ約束を守りたいのに、結果として思うようにはいかなくて。
「火神、さっきはテツと何、話してた?」
帰って来て最初に尋ねられる質問に、申し訳なくてうつむいて「ごめん、青峰」と先に謝る。
すると、呆れたように溜息を吐きつつもソファに座った青峰は俺を手招きして呼ぶ。恐る恐る近づくと「早くこっち来いよ」とできるだけ穏やかな声が呼んだ。
相手に誘導されるまま、膝の上に向かい合う形で腰を落とすと、そっと背中に腕が回り抱き締められた。
黒子は俺の後ろの席だから、朝来たら必ず挨拶はする。
部活に行くから先輩やフリ達とも会うし、そしたら声をかけられるのは当たり前で。
その度に、心の底がジクジクと痛み出すのだ。
今日も俺は約束、守れないんだなって。
それでも、特に今日は酷くて……。
どうしても大事な話をしたいからと黒子が言うので、二人でマジバに寄った。勿論、俺だって青峰に連絡しようかと思った、けれど黒子が「青峰君には秘密にしておいてくれませんか、彼についての話なので」と言うものだから、仕方なく連絡するのも止めたのだ。
早く切り上げて帰れば、バレないかもしれないと思ってた。どうして分かったのかは分からない、心配したんだぞと頭を撫でてくる相手の額にそっとキスする。
「ごめん、青峰」
「しょうがねえのかもな。お前、俺よりも人に好かれてるみたいだし」
そう言いながら青峰は俺の頭を優しく撫でていく。その温かさに甘えようと、摺り寄せるとふっと鼻で柔らかく笑う相手に、思わず安堵の息が漏れた。
「でも、お仕置きな?」
耳の中に落とされた、潜められた声にぞくりと背筋を何かが這い上がって行くのを感じて震える。
背中や頭を優しく撫でていた手が制服を脱がせ、それから下着に伸ばされてゆっくりと引き剥がされていく。明るいリビングで自分の裸を見られる、という事に恥ずかしさを覚えつつも、目の前にある青い瞳からは目が逸らせない。
「手、出して」
言われた通り両腕を差し出すと、青峰はポケットから取り出した手錠を使って俺の腕を拘束する。
手錠を使われるのは二回目だ、青峰の制服のネクタイだとかテーピングなんかで固定される事もあった。その痕はくっきりと腕に残り、擦れて赤く腫れたり青紫色の痣みたいになっている。
心配されたくないから、学校ではリストバンドで隠しているそれも青峰の前では外す。
青峰の言う「お仕置き」というのは、この痣の見た目ほどに酷いものではない。むしろむず痒くなるくらいに優しく触れてくる。
何でこれがお仕置きなのか、と聞いてみたら相手はゆるく笑って「俺の気持ち知ってもらおうかと思って」と言った。
俺がするように、与えられるだけの愛情を受けてどんな気持ちになるのか、知ってほしいんだって言った。
そうして、青峰しか求められないようになればいいんだって言う。
だからこの痕は、俺が青峰のものである事の証拠なんだ。
触れた時に感じる痛みも、青峰が施す甘い愛撫に感じるくらいに愛おしく感じる。
おかしいかな?
俺の体は、青峰の望むままに作り変えられていくんだ。
「青峰、俺まだシャワー浴びてない」
「そっか、じゃあ後で一緒に入ろうぜ」
そういう意味じゃないけれど、青峰の手が俺の皮膚を直に触れればもう嫌だとは言えない。
優しくでも喰らいつくみたいな深いキスをされて、もう青峰の好きにしてもらおうと体を預ける。
キスを続けながら俺の体を撫でていた手は胸を撫で、既に尖っている乳首を摘みあげる。青峰のせいですっかり敏感になったそこが、もっと触ってほしくてじわじわと疼き出して、でも青峰の指はそこから離れて脇腹や首筋をくすぐるように滑っていく。
でもゆっくりと立ち上がりかけてる性器には、触れてくれない。
とても優しいけれど、気持ちを全て流されてしまうほど強くはない刺激に全身が震える。感じてしまう所に強い刺激を与えてすぐに他に移動するなんて事を繰り返している内に、体の奥にはすっかり熱が籠って、ただただ貪るように犯してほしくなる。
青峰が欲しくなる。
「ぁっ、あおみね……青峰」
じれったくて声をあげても、それだけでは青峰は答えてくれない。
「なあ、青峰……お願い」
そう言うと、ちょっと触れるキスをして「なんだ?」と優しい声で聞いてくる。
「なあお願い、触って?」
「ん?触ってるだろ?」
そう言いながらグリッと乳首を押しつぶされるように強く刺激され、思わず甲高い声が上がる。
それだそれ、もっと。
「もっとそれ、して?」
強い刺激を求めてそう言うと、青峰はちょっと笑って俺の頬にキスしてくる。
「じゃあ、今日はここだけでイケよ?」
優しい笑顔とは反対に、言われた言葉の意味が理解できなくて、思わず瞬きする。どういう事だって尋ねると、青峰は優しく笑いかけて今度は両方の手で俺の乳首を強く引っ張った。
「ヤッ!あお、青峰!何すんだ」
「ここ、して欲しいんだろ?気持ちイイんだろ?」
そう言いながらさっきとは打って変わって、今度は優しく指の腹で撫でられたり突かれながら優しい声で尋ねられれば、その通りだと何度も首を縦に振ってしまって。
「じゃあこれでイケるよな?火神、すっごい感じやすいし」
ほら、と胸への愛撫を開始した青峰に思わず本気かと聞き返しそうになった。
いくら俺が感じ易いって言っても、性器への刺激無しにイケるわけがない、そう思った。
「でも、ナカ突かれたらイクだろ?」
「それは、前立腺が……ひゃん!」
「ごちゃごちゃ考えんなよ火神、お前は何も考えんな。ただ俺で感じてればいいんだ」
それから、胸だけの愛撫が開始された。
ボールを掴む大きな掌で全体を揉みしだいたり、尖った乳首を指先で摘まんだり擦り上げたりと、それ以外の場所にはほとんど触れずにただ青峰の上で、俺は胸だけを弄られ続ける。
「ひっ、ぅう……あおみね、も、やめて」
「まだイケてないだろ?」
だから駄目だ、と言う相手にもう一度「やめて」とお願いする。
確かに射精はできていない、けれど胸を刺激されて性器からは透明な先走りがずっと溢れていて、しかしイケる程に快楽を極めないので竿は腫れあがってパンパンで。あと少し、刺激を貰えればイケるというのに、繋がれた腕は自分でそういう事をするのを許してくれない。
「あおみね、も……イテェよ」
指で弄られ過ぎて腫れているんじゃないか、というくらい熱をもった乳首の先を差して言うと、相手は「ん?」と首を傾げて俺の胸を虐めていた手を引っ込めた。
これで許してくれるのかと思った瞬間、左の胸に青峰の唇が落ちる。チュウッと湿った音を上げて吸い付かれて、緩く歯を立てられる。
心臓の上、青峰の犬歯がゆっくりと肉に食い込んでいく。
「青峰、青峰」
食べたいのならば、あげてもいい。それでお前が満足するなら、満たされるなら、どんな無残に喰い殺されたって構わない。
ピリッと痛んで皮膚が切れたんだなと気付くと同時に、言い知れない愛おしさが湧きあがってくる。
「青峰」
呼びかけると、そっと俺の方を見上げて青峰は微笑んだ。つられて俺も笑いかけると、相手はそっと唇に付いた俺の血を舐めて傷口を舌でなぞり上げていく、その感覚にも背筋が震える。
「大我」
急の名前呼びにビックリすると青峰はニッと口の端を持ち上げて笑いかけると、薄く開けてさっきまで弄って腫れている乳首に吸い付いた。
「ひゃぁ!あ、ぁあ……あおみねぇ!」
腫れて熱を持っている乳首を音を立てて吸い上げ、舌先で捏ね回してくる。
「やぁ!痛いって、言って」
「んー、だから舐めてやってるだろ?ほら」
そうは言うが、ちゅうちゅうと強い力で吸い上げてくる青峰に耐えきれなくて、思わず身を捩る。
「ふぁあう、ぅう……も、駄目だって青峰!青峰!」
熱を孕み過ぎて、敏感になった体にもうおかしくなりそうだ。
ぎゅっと抱きしめてくる青峰の腕の力も熱も、俺を乱す。
「も、駄目だって俺、イッちゃ……」
「大我、イケよ?」
「ひっぁ、あああああん!」
体中の熱が一気に中心に集まって、破裂した。
襲ってきた長い射精で、一気に体から力が抜けて倒れ込みそうになった俺を支えた青峰は、さっきまで虐め続けていた手が優しく頭を撫でていく。
「ほら、ちゃんとイケたじゃねえか。大我は良い子だもんな?」
自分のシャツに飛んだ俺の精液を指先で掬い取って、青峰はニッコリと笑うとそれを舐め取った。まだ服をきっちり着ている青峰は汚れたシャツを脱ぎ捨てて、力が抜けてぐったりしている俺をぎゅっと抱きしめてくれる。
「ぁ、おみねぇ」
「大輝って呼べよ、大我」
唇を人差し指でなぞられて、口の中へと押し込まれる。何も言われなくてもしっかりと舌を絡ませると、褒めるように大輝の手が優しく体を撫でる。
「大我、俺のこと好き?」
目の前でそう尋ねる青い目に、指の愛撫を続けながら小さく頷く。
俺の答えに満足してくれたのか、口の中から指を引き抜くと俺の唾液で濡れたそれを、疼いて仕方なかった場所へと伸ばす。クニクニと入口を触られて俺の中にある期待がどんどん膨らんでいく。
シャワーを浴びてないから、なんとなく後ろめたい気持ちがあったのに。いざそこに指を突き入れられたらそんなのどうでもよくなって、もっとして欲しくなる。中にある大輝の指をしっかりと喰い締めて、奥へ奥へと導いていく。
大輝の指は優しく俺の体を解していく、手錠なんて付けられて身動きは取れないけれど、与えられる愛撫はとっても甘くて、凄く優しくて……それ故に辛い。
もっともっとして欲しいと思う、その反面、少しでも離れると不安になる。考える時間も与えないくらい滅茶苦茶にしてくれたなら気も紛れるのに、決してそうはならない。じっくりと俺の意識を引き剥がしていく。全部、全部、自分のものにするように。
それがたまらなく嬉しくて、でも苦しい。
ごめん大輝、お前の思う通りの俺には中々なれないみたいで。でも俺は大輝が欲しい。
大輝が欲しいよ。
「だいき……」
「大我、欲しい?」
そう尋ねられて、トロリと解けそうな頭で「欲しい」と答える。すると大輝は笑いかけて膝の上から俺を退けると、フローリングの上に座らされてまだ履いたままだったズボンに手をかけたところで、大輝の動きが止まった。
どうしたのかと首を傾げていると、青峰が俺に微笑みかけて「脱がして」と言った。
「……えっ?」
「脱がしてくれよ大我」
「どう、やって?」
俺の手首はまだしっかりと手錠で繋がれている、今のままでどうやって動けと言うんだろうか?そう思っていると大輝は笑いかけて「口でしろよ」と言った。
「口で?」
「そう、ボタンさえ取ってやったら後は口で外せるだろ?」
ズボンのボタンを外した大輝が俺の前に立つ。少し戸惑いはしたけれど、でもそっと近づいてジッパーの金具を歯で挟んでゆっくりと下ろす。次に腰でゆるく止まったままのズボンを噛んで引き下げると、簡単に床に落ちたそれを大輝は器用に足だけで横に避ける。
「大我、下着も」
「ん」
分かったと答えつつも、目の前にある大輝の下着に覆われた大輝の股間を見つめ、ごくりと生唾を飲み込んだ。黒いボクサーの下で大輝の性器はすっかり起ち上がっているんだろう、その形がしっかりと分かる。
早く触れたい、挿入してほしい。
「そんなに見るなら、早く脱がせろよ?」
頭の上から大輝の楽しそうな声が落ちてくる、それに従ってさっとボクサーの上部を口で挟んで下にずり下げた。途端に中から勢いよく飛び出してきたそそり立った性器を見つめ、ほうっと息を吐く。
そんな俺を見つめて微笑むと、引っ掛かっていた下着もズボンと一緒に押しやって、俺の方に一歩近づく。
すぐ目の前に晒された性器の先端を、大輝は俺の唇へと押し当てた。言われなくても何を求められているのか分かった俺は、ゆっくりと口を開けて先を中へと含んで舌での愛撫を始める。
風呂に入っていないからかいつもよりも雄としての臭いが強く、美味しいとは言い難いものなんだが、それでももっと欲しくて喉の奥まで迎え入れるように咥えこむ。
俺の口の中でドクンと脈打つ大輝の熱、自分がしてもらって気持ちヨくなる通りに舌を動かせば、俺の頭を撫でる相手の掌がきつく髪を掴んだ。ああ、感じてくれているんだと思うと、嬉しくて仕方なくて、もっともっと奥まで含んで。手が使えないかわりに頭をグラインドさせて、刺激を与える。
「大我もういいぞ、離して」
「ぅん……ん、でも青峰、イッてな」
髪を掴んで引き剥がされ、そう訴えかけたところ青峰はニッと笑って「ナカでイカせて?」と言う。
待ち望んでいた言葉を受けて小さく頷けば、青峰は笑って俺の体をまた抱え上げて自分の膝の上に座らせる。
二人分の性器が触れ合って、青峰の熱が、俺のものに擦り付けられて、それだけでなんだか体温が上がって舞い上がってしまう。
「俺の欲しいか?」
「欲しい……欲しいよ、大輝」
「じゃあ教えてくれよ大我、お前は俺にどうされたい?」
そう尋ねられて、俺は「うん」と小さく頷いてから大輝の目を見て答える。
「大輝でいっぱいにされたい俺、全部、大輝のものになりたい」
欲しい欲しいと求めるのではなくて、何もかも全部、彼に分け与えてしまえればいいのに。
そう思いながらも、俺達は二つの別々の体を持っていて。一つにはなれない。
もどかしい、でも……。
「大我は俺のものだ」
腰を持ち上げられ、欲しかった場所へ大輝を埋め込まれる。
「ふぁっ!あ、ああん。ぁあ」
この満足感は、二人でしか感じられないものだって知ってる。
だから媚びる大輝のために、俺の体が大輝のされたいように作り変えられていく。
「ああ、大輝……だいきぃ」
もっとだ、もっと……。
何も考えられなくなるくらい、もっと俺をお前のものにしてくれ。
side:青峰
三回ほどしたところで、完全に俺に体を預けて気を失ってしまった。ぎゅっと締め付けられる感覚は嬉しいけれど、処理をしなければ困るのは火神だ。
手錠を外してソファに優しく寝かせ、飛び散った精液を拭き取るタオルを持って戻って来ると、ふとテーブルの上にある俺の携帯電話がチカチカと光っているのに気づいた。どうやら、誰かから着信が入っているらしい。
おそらくさつきから、また何か小言でも書いたメールが来ているんだろう、そう思って開けてみるとそこにあったのは見た事ない件数のメールと着信で。
「さつきに、テツ、黄瀬……何で緑間とか赤司からまであんだよ?」
サイレントにしていたため、音もなくずっと着信が鳴っていたという事なんだろう。
というか何だコレは、お前等は俺のストーカーなのか?
嫌がらせにも程があるだろうと思っていると、再び携帯が鳴り出した。
どうしようかと思ったものの、事情を聞いてみない事にはこの状況が掴めない。仕方なく俺は通話ボタンを押して電話に出た。
「おい、さっきから何の用だよ、テツ」
「こんばんは青峰君、ようやく出てくれましたね。皆さん、君が電話に出ないと心配していましたよ」
「皆さんって事は、他の奴等からの着信も全部か?」
「はい、僕が頼みました。できれば火神君とも話がしたいんですが、とにかく君にも話しておかなければいけないと思いまして」
平然とそう答えるテツに、聞こえるように舌打ちをすると「そう怒らないで下さい」と普段と変わらない、何を考えているのか分からない声が俺をなだめるように言った。
「で、何の用だ?」
「単刀直入に言います。青峰君、しばらく火神君と距離を置いて下さい」
携帯を握っていた手に思わず力が入る。
「何でだよ?」
ドスの利いた声で聞き返す、気の弱い奴ならばこの縮むかもしれない声にも、相手は全く動じていない。流石に、俺の扱いには慣れているようだ。
「よく聞いて下さい青峰君、君達は絶望の中に居ます。このまま火神君の傍に居続ける事で、君達に待っているのは破滅か破綻のどちらかしかない……と僕や桃井さんを始めとして、他の多くの方は考えています」
だから一度、火神から距離を置くのが良いとテツはそう言った。
意味が分からなかった。
どうしてそんな事を言われなければいけないのか。
俺達が絶望している?
「お前達が何を馬鹿な心配してんのか知らねえけどな、俺と火神には何の問題もねえよ。つーか関わってくんじゃねえ!」
お前に何が分かるっていうんだ?
俺の事も火神の事も、一体、何が。
「分かりますよ」
まるで俺の心を見透かしていたかのように、テツは即時にそう答えた。
「分かる、って何が?」
「つまるところ君は自信が無いんでしょう?自分が火神君に愛されていると、信じきれていないんでしょう。無償で無尽蔵に君を愛してくれる存在を負担に感じているのではないですか?本当は怖いんでしょう、火神君が君に向けている愛情の計り知れない深さが」
「…………なにを」
「それでいながら、君はそれに縋りつくしかなかったんでしょう。一人きりだと信じて、信じきって。でもそんな自分を受け入れてくれる相手が欲しかった。救いの手を差し伸べてくれた相手に縋りつくしかなかった。自分を助けてくれるのであれば、もしかしたらその相手は火神君でなくても良かったのではないか、誰でも良かったのではないか、そう思ったりするのではないですか?」
「黙れよ、テツ!」
違う、そんな事はない。
こんな気持ちは初めてなんだ、これがもし本物じゃないんだとしたら……俺はもう二度と、他人なんて信じられなくなる。
「それが悪いとは言いませんし、君の感情が偽物だとも僕は思いません。君はきっと本当に心から火神君の事が好きなんでしょう。しかし青峰君、甘えるのも大概にして下さい。
君も火神君も一人ではありません。
君達にはご両親が居ますし、僕も桃井さんも他のキセキの皆も居ます。君は迷惑ばかりかけているかもしれませんが、桐皇バスケ部の皆さんは君を大事に思ってくれていますし、火神君は誠凛バスケ部にとってなくてはならない存在です。
そんな君達が、世界にたった二人だけだなんてありえませんから。君の事も火神君の事も、理解しようとしてくれる人は沢山います。互いの顔しか見えないようなくらい近くにいれば、それは分からないのかもしれません、見えないくらい遠くになると今度は、誰かに取られるんじゃないかと不安になるのかもしれません。でも誰も君から火神君を取り上げたりはしませんし、火神君だってそれを望んでいないのはよくご存知でしょう?何度確認すれば気がすむんですか?
僕が距離を取って欲しいと言っているのは、別に君達の仲を裂きたいからではありません。君達がお互いを喰い合って潰し合うのが怖いからです。
二人共を失うのが、怖いからです。
君達を失わないためには、まずは君達が自分の周りをもっと見つめ直すべきです」
静かな声で、でも強い意志を感じさせる力のある言葉で、テツは俺にそう話す。
耳に一つ言葉が落ちるたびに、震えが止まらなくなる。
わけが分からない。
信じられない。
何もかも、考えたくない。
本当の事だから……。
「テツ、俺は……」
どうしろって言うんだ、そう言いかけた時にすっと後ろから握りしめていた携帯を取り上げられた。
「火神?」
振り変えれば悲しそうな顔をした火神が俺を真っ直ぐ見つめていて、電話の向こうではテツの驚いているような声が薄らと聞こえている。それを火神は無視して通話を切り、静かに机に置いた。
「……青峰、行っちゃうのか?」
「火神?」
まだ震えの止まっていない俺の両手を、火神が優しく包み込んで握り締める。俺の視線から逃げるように伏せた目の端には、涙の粒が浮かんでいて。
「どうした?」
何でお前は、そんな泣きそうな顔してるんだよ。
「黒子から言われたんだろ?俺と離れた方がいい、って」
「ああ、言われたけど……何で知ってんだよ」
「俺も言われたから」
えっ、と固まっていると「今日、俺も言われたから」と火神は言う。
「なあ、青峰……行っちまうのか?」
「えっ……俺は、別に」
「俺、嫌だ青峰と離れるなんて、俺は」
ポロリと大粒の涙を零す火神を抱き締めて、落ち着かせるために背中を撫でる。
「離さねえよ!離れるわけないだろお前と、そんなん、できるわけねえだろ!」
落ち着けるために顔中にキスをしてやると、火神もそれに答えるように俺に触れるだけのキスを返す。
「君達に待っているのは、破滅か破綻です」
コイツと一緒に壊れていくなら、俺はそれもいい。
何も間違えてなんかいないし、間違っていたとしてもそのまま貫き通す。
そうするしかないんだ、俺達はもう、今のまま変えられない。
「なあ、火神」
抱き締めたまま火神の耳元に唇を寄せ、ゆっくりと床に押し倒す。俺を見上げてくる溶けそうな赤い瞳に、ほぅっと息を吐く。
なあ火神、俺と一緒に堕ちていかないか?
「なあ、一生俺の傍に居てくれよ」
という事で、青峰君はめでたく火神君を監禁しました。
よっしゃこれから青峰君の調教編スタートだぞ!とか心の中でガッツポーズしてたんですけど。でも冷静になって考えてみると、この火神君のどこを調教しろというのでしょうか?全てにおいて同意の上、精神だけなら最初っから青峰君に隷属しまくりなのでね……。
2013年3月7日 pixivより再掲