死にいたる病-6
side:黒子
二人の様子がおかしい事に気が付いたのは、いつの事でしょうか。
異変というのなら、二人が付き合い始める前から始まったような気がします。でも、それはまだ誰かを想う事による変化でした。ああ、好きな人ができて変わったんだな、というくらいで。
付き合い始めた時も、なんというか、二人共とても初々しいというか……傍から見てお似合いだな、と思うくらいで。
正直、青峰君が僕や他のキセキの皆に向けて火神君は自分のものだ、という惚気のメールを送りつけてきた時は苦笑いしましたけど。それも彼らしいというか、自分のものだってアピールしたかったんだろうなって思っただけで。
火神君は隠してるつもりだったんでしょうけれど、どう見たって青峰君に向ける視線が他の人とあきらかに違いました。それはもう、愛おしいと訴えかけるような優しい顔してましたし。まあ無意識の事でしょうから、黙っていましたけれど。
だから順調なんだろう、そう思ってました。
何せ、あの直情型の二人が付き合っているにしては喧嘩したなんて話を全く聞かないんですから。よっぽど上手くいっているんだな、と呑気に考えていました。
よくよく思えば、そんなのおかしいですよね。
意見が衝突したら譲らないような二人なのに、ただの一度として喧嘩しているそぶりを見た事ないなんて。普通の恋人同士だって喧嘩くらいするでしょう、それが一カ月経っても二カ月過ぎても、二人の間にそんな気配は無かったんです。
いや、何か思い悩んでいるのではと感じた事はあります。でもそれとなく聞いてみても、火神君は「別に変わらないけど」なんて無理に笑って言いますし、まあそれは隠してるつもりだからだろうと青峰君の方に尋ねてみても「喧嘩なんてしてない」としか返ってきませんし、聞けば本当に何も揉めているわけではなさそうですし。
きっと男同士という普通とは違う付き合い方にそれとなく悩んでいるんだろう。同性同士だと恋人としてのお付き合いにも色々と問題が付き纏うだろうし、あまり外部が深く関わるのもまずいような話しかもしれない、だから相談してくれるまでそっとしておこうと決めたのですが。きっと、それがまずかったんですね。
喉に引っ掛かったような異変から目を背けている内に、それはどんどん進行していきました。
違和感に気が付いて手を伸ばした頃には、もう二人は届かないところに行ってしまった後でした。
目の前に来るはずのクラスメイトの席を見つめて溜息を吐きました。
普段は遅刻なんてしないのに、予鈴まであと十分を切ってもまだ彼は来ていない。
青峰君と一緒に過ごしていたから寝過ごしてしまったのか……それとも体を動かす事ができないのか。想像するもの億劫になっていると、ようやく教室のドアをくぐってギリギリ間に合った火神君が席に着きました。
「火神君おはようございます」
「あっ……ああ」
おはよう、とどこかぎこちなく返答する彼を見つめて、首を傾げました。
「あの、火神君」
声をかけたところで担任の先生がホームルームのために来たので、それ以上の会話はできませんでした。
でも何でしょうか、この違和感は。
どこか気だるそうな火神君の背中は、気の所為かいつもよりも小さく見えて、疲れているんだろうなというのは誰の目にもあきらかで。
でもそれだけではなくて……なんて言うんでしょうか。
どこか、壁があるようなそんな気がしました。
しかし、彼だって一人で何か考え込みたい事だってあるんでしょう。他人に下手に関わって欲しくない気分の時ってあるじゃないですか。IHが終わった時期にも似たような事がありましたし。きっと、しばらくしたら元に戻りますよね?
そう信じて、その日は過ごしました。
喉に刺さった小骨みたいな違和感は、きっと考え過ぎなんだと言い含めて。
でも、その違和感は時間が経つにつれて段々と確信に変わっていきました。
例えば、人と話をせずに一日を過ごす事は。性格や立場、生活環境次第では可能な事だと思います。自分の家に閉じこもって誰とも会わなければ、それで達成できますから。
でもここは学校で、火神君はクラスメイトともそれなりに仲が良くて、敬語などは苦手ではありますが、基本は明るく裏表なく誰とも分け隔てなく関わる、そんな人です。
青峰君と付き合うようになって騒がしくなくなったというか、落ち着いたというか、大人しくなったと言っても良いくらいでしたけれど、それでも誰とも会話を交わさないなんて事はありませんでしたた。
だというのに、最近の火神君はとても静かです。
静か過ぎるくらいです。
まるで人との接触を避けるみたいに、誰とも話そうとしませんし、下手すれば視線すら合わせようとしていません。
休み時間のたびに、振り返って話しかけてくれた笑顔は俯いたまま動こうとしません。
どうしてですか?
どうして君から、笑顔が消えたんですか?
「あの火神君、最近どうかしたんですか?」
「別に、何もねえよ」
こちらを少しだけ見やって答えてくれた声は、小さくて。やっぱり君らしくないと思って、何としてもこちらを見て話をしてもらおうと肩を叩こうと手を伸ばした時、彼の両腕にリストバンドが巻かれているのに気がつきました。
別に僕達がそれを付けている事はおかしくないです、火神君だっていくつかリストバンドくらい持ってますから。でも、バスケをしている最中以外で付けている事なんて普段はないのに、どうして今日は?
いいえ、気が付いたのは今ですが、よく考えれば最近の火神君はずっとそれを付けていたような気がします。
伸ばしかけた手を不自然な形のまま止めて、考えてしまいました。
もしも腕を隠さなければいけないような理由があるんだとするならば……。
いや、それは無い絶対に無い。そんな、火神君に限って、そんなバカな真似をするわけがないです、そうですよね?
何度も首を横に振って、自分が考えてしまった馬鹿げた想像を追い払って。でも、踏み込めないようなその雰囲気の前に結局、中途半端に伸ばされた手を引っ込めました。
部活の時間になっても火神君の雰囲気は相変わらずで。一日、二日であればこういう日もあるのかと考えるんですけれど、流石にそれが長く続くと変に思うのは当たり前で。
特に監督は、僕が不安を掻き立てられたその腕を見咎めました。
「ねえ火神君、前から気になってたんだけど、その腕どうしたの?」
「えつ……別に何もねえ、です」
「嘘つかないでよ、怪我でもした?」
「怪我ってほどでもない、です。昨日、荷物運んでたらぶつけちまって……痣、気持ち悪いんで隠してるだけで」
そう話す彼の横顔を見つめ、すぐにそれが嘘だと気付きました。君って正直者なんですよ、後ろめたい事があればすぐに顔に出るんですから。だから、できれば本当の事を話してほしいんですけど。
そう思っていても口に出して言えないような雰囲気が、今の彼の周りに張りめぐらされた壁から感じられて。監督や他の先輩でさえ、なんとなく踏み込む事を躊躇ったようでした。練習は見学にして、早めに帰るようにとだけ言うと「分かりました」と彼にしてはやけに物分かりの良い返事をした事にも驚きでした。
「あっ、そうだ火神君。一応だけど、保健室にでも行って湿布貼ってもらいなさい」
「別に放っておいても平気だと思うけど」
「いいから、行ってきなさい」
有無を言わせぬ監督の圧力に負けて、大人しく頷くと出て行く火神君の大きな背中を見送った後で、すぐに全員に向けて集合がかけられました。
「ねえ最近の火神君、おかしくない?」
「うーん、まあ全体的に元気がないってかんじだよな」
木吉先輩の言葉に全員が頷くのを見つめ、監督はとても深刻な顔で「よく聞いて」と言いました。
「火神君の腕にある痣。損傷具合から考えて、何かにぶつかって出来たものじゃないわ」
震える監督の背を支えて、キャプテンが「どういう事だよ?」と先を促し、一息吐くと「確信はないけど」と監督はとっても辛そうな顔で言いました。
「何か強い力で掴まれたり、拘束されたりしないとあんな痣、できるわけないわ。それに……気のせいじゃなければ、日に日に酷くなってる気がする」
彼女の言葉に全員が黙り込んでしまいました。
監督の見たてが外れる事なんて、早々ありません。いえ皆無です。
なら火神君の腕にある痣はきっと、日が経つにつれて悪化しているんでしょう。どうしてなのか、その原因に心当たりがあるのは、おそらく僕だけでしょうけれども。
「あのダァホ。何かあんなら、相談しろっつーの」
そう呟くキャプテンの声を聞いて、何が原因なのかと話し合いをしている皆さんを置いて、僕はこっそりとその場から抜け出しました。
確認でしたかったんです。
本当にそれがただの痣なら、何でできたものなのか。どういう理由でつけられたものなのか、確かめたかったんです。
ねえ火神君。
君は、何を隠してるんですか?
保健室ではなくて部室に行ったのは、彼が監督の言葉に従ってそこへ行くと思えなかったからです。
僕達に隠しているという事は、学校の教員にだって隠すだろうなと思ったんです。
その考えはやはり当たっていて、音を立てないように気を配ってドアを開けると、彼は制服に着替えている最中でした。なんだかいけない事をしているような気分になりましたが、同性のしかもクラスメイトに覗きも何もないですよねと自分に向けて言い訳をして、中に入りました。
影が薄いという自分の特性を、本当にこういう時ばかりは感謝しますよ。
僕が近づいても火神君は気が付いていませんでした、最近よく見かける俯きがちな不安な横顔がやけに痛々しくて、声をかけたくて仕方がなかったんですが、そこは堪えました。
彼が隠しているものは、声をかけて聞けるものではないだろうと、もう分かりきっていましたから。
ふぅっと長く息を吐いて、火神君は携帯電話を取り出しました。おそらく青峰君に電話かメールでもするんだろうなと思っていたのですが、ふいに彼がゆっくりと腕に付けていたリストバンドを外しました。
その下にあったのは、確かに痣でした。
腕をぐるっと取り囲むように付いた、監督が言うように何かに拘束されていた痕にしか見えない、痛々しい色をした皮膚がそこにはありました。下手したら腫れているんじゃないのかと思うくらいに、赤くなっていたり、紫色に変色していたりと場所によって様々なんですけれど。よくもまあそんな状態で生活できていたなと不思議に思うくらい、それは酷くて。
でも、そんな腕を見つめる火神君の顔が、笑っていたんです。
それはもう愛おしそうに、無理に拘束されたとしか思えないその痣を見つめて、笑っているんです。
どうしてこんな優しい笑顔を見て、僕はこんなに恐怖を感じているんでしょう。
足元が覚束ない程の不安に、吐きそうになっているんでしょう。
ただ、君のことが怖い。
彼の事が、怖くなりました。
「もしもし、青峰?今日な、監督から先に帰れって言われたんだ。えっ?別に風邪とかじゃないから。本当だって。腕の痣がな、酷いから痛めないように先に帰れって言われた」
電話の向こうで青峰君は何を話しているんでしょうか?部屋が静かとはいえ、電話の向こうの声まで聞こえるほど近づけば気付かれてしまいますから、物陰から様子を伺うだけですが。それでも充分に分かりました。
彼等の愛情の行きつく果てが何なのか、予想できてしまいました。
「今日もウチ、来るか?うん、分かった。じゃあ校門の所で待ってるから」
そう言って通話を切ると、再びリストバンドを付けて荷物をまとめる彼を見つめ、気付かれないようにまたそっと部屋から抜け出しました。
目を背けるべきでは無かったんです。
部活終りや休日の誘いを、火神君がよく断るようになった頃から。
青峰君から届くメールに、牽制の言葉が続くようになった頃から。
ハッキリとは形を掴めなくとも、二人の行動が気がかりになっていたのなら踏み込んでしまえば良かったんです。
あの二人と周囲の人の間に、目に見えない壁があるみたいで。別に大げさに言う程のものではないんですけれど、例えば、ふとした時に前は感じなかったような心の距離が感じられて。最初こそ付き合いが悪くなったなと感じましたけれど、火神君が一人暮らしなのは知ってますし、もしかしたら今までが無理させてたのかと思ったくらいで。
彼にしか分からない悩みがあるんだろうと思ってました。
でも少しずつ、少しずつ、二人の距離は近くなっていく、それが危ういもののように感じてきて、何だか怖くなってしまったんです。
二人が、もうどこか遠くに居るような気がして、怖くなってしまったんです。
あの時、マジバで話していた僕達の中で青峰君から呼び出しがあって先に抜けた火神君を、どうしてもっと引き止めておかなかったんでしょうか。
そう後悔しても、遅かったんです。
「火神君、青峰君」
君達の愛情は、異常です。
「すみません、こんなに近くに居るのに二人のことちゃんんと分かってなくて」
「いいや、君が悪いんじゃないよ。でも、そうか……タイガは青峰君と付き合ってるのか」
初めて知ったよと、電話の向こうで少し寂しそうな氷室さんの声がそう言いました。
僕は少し期待していました、僕のように一年程しかない付き合いの人間に話せない事も、もっと長く親しい付き合いの人にならば話しているんじゃないか、って。
でも、火神君はどこまでも頑なに自分の秘密として閉じ込めてあったようでした。
この人にまで、青峰君とのお付き合いについては話していなかったんですね。
「何だか、ちょっと寂しいなあ」
「娘に彼氏ができた気分、ですか?」
「ああ、確かにそれに近いかもしれない」
そう言って笑っている氷室さんの声を聞いて、無理しなくてもいいのにと思いつつ、口にはできませんでした。
紫原君から珍しく連絡があったのは、今朝の事でした。
「なんかねー室ちんが、黒ちんに聞きたい事あるって、言ってるんだけど」
「僕にですか?」
その時点で、なんとなく何について聞かれるのか予想はしていました。
あんなに捨てる事を渋っていた「兄弟の証」を、最近めっきり身につけなくなった彼の事についてだろう、と。
「分かりました、変わってもらっていいですか?」
「んー?ちょっと待ってね…………あのね、なんか長話になりそうだから、今夜にでも室ちんから電話かけてもいいか?って」
別に構わないと返答し、相手の連絡先を送ってもらったのですが……まさかこれを夕方に、自分で使う事になるとは思いもしませんでした。
練習中だったみたいで、中々繋がりませんでしたが、三十分ほどで電話の相手は出てくれました。僕からの連絡に氷室さんは驚いていましたが、内容が何なのか分かるとすぐに練習から抜けてくれました。
悪い事をしてしまったとは思います、でも話をしなければいけないんです。
今ここに居る先輩達を始めとした僕達も含めて、話をしなければいけないのです。
「タイガは、昔から人に甘えるのが苦手だったんだ」
ゆっくりと思い出しながら言葉を選んで氷室さんはそう話し始めました。
「ご両親が忙しい人だからね、小さい頃からあまり一緒にでかけたりとかできなかったみたいで。一人で過ごす事も多いから、アメリカに居た頃はよく俺の家や一緒にアレックスの家に泊まったりもしたんだけど、その時からずっとそうなんだ。人への甘え方をタイガはよく分かってない」
「明るくて人見知りもあまりしないので、そういう風には見えませんけれど……」
「確かにそうだ、だけど言い返すとそれはタイガの仮面の一つでもある。元気があって直情的に見えるけれど、両親の言葉には素直に従う、とても聞き分けの良い子だ。ああ見えて同世代の子供と比べるとずっとタイガは大人だったよ」
確かにそうかもしれない。
今だって一人で暮らしているというのに、それに対する不安を彼から見た事はありませんでした。慣れたら平気だと言うものの、それはもしかしたら親の言う事に反抗できない彼の、大人しい一面が隠されていたのかもしれません。
「貴方から見たら、そうではなかったんですか?」
そう尋ねると氷室さんは、ちょっと溜息を吐いてから「最初はそう思わなかったよ」と言いました。
「言葉の通じない国にやって来て、一人で不安だったっていうのはあるんだろうね。だから俺に心を開いてくれる事も嬉しかったし、何より頼られて嫌だとは思わなかった。あれくらいの年だと、自分の弟分なんてできたら嬉しいだろう?」
今も変わらないかもしれないけどね、なんて茶化して言う相手の傍に居る相手を思い浮かべて、きっと性分なんだろうなと思いました。
「だけどね、段々とそれが違うんじゃないかって疑い出したんだ。なんていうか、好かれている事は分かっていたんだけどね、それが行き過ぎているというか……俺の頼みだったらタイガは何でもするんじゃないか、なんて疑うような事があってね」
例えば、火神君と約束していた日に氷室さんが熱を出してそこへ行けなくなってしまった時。連絡を取る手段を持っていなかった火神君は、ずっと一人で日が暮れるまでバスケコートで待っていたんだとか。
日本よりも治安の悪いアメリカで日が暮れてから一人で外に居るなんて、危ない事だって教えられていても彼は、そこから離れなかったらしい。
「結局、その時はアレックスがタイガを見つけて家まで送り届けてくれてね。タイガも親父さんからかなり怒られて、もうしないって約束して治まったんだ。まあ電話をかけられなかった俺も悪いんだけど、声が出なくてね。でも約束の時間が過ぎたら様子を見に来るか、そうでなくても暗くなれば家に帰るんだと思ってたよ。
だというのに、タイガはそうしなかった。
どうしてなのか問い詰めたら、タイガは言ったんだ。『タツヤが待ってて、って言ったから』って」
そこでいったん言葉を切ると、氷室さんは溜息を吐きました。
「これは、まだキッカケに過ぎないんだ。それから後もこういう事が何度かあった、例え俺が冗談で言った無茶なお願いでも、タイガはそれを叶えようとする。それが何度も続く内に、俺は一つの疑いを持ち始めた。
タイガは本当に好きな人間には、依存するんじゃないかってね」
依存、その言葉は確かに今の彼等を的確に表している言葉であると思いました。
火神君に依存する青峰君。
そして、そんな青峰君を受け入れ、同時に依存している火神君。
もしかしたら二人は苦しいとも、辛いとも思っていないのかもしれません。お互いがお互いのためにだけ存在する、それだけが彼等の望みなのならば。
お互いのみを必要とし、お互いを食い潰していく。
そんな姿を、用意に想像できて……。
「少し前にタイガとの電話が突然切れた時があってね。後でメールで「友達と喧嘩してて」ってきて、その時はそんな事もあるのかって思ったんだけど。
でもやっぱり心配になって、あれから何度も連絡を取ったんだけど……最近、特にこの一週間くらいは電話に出てすらくれなくなってね。それで、心配してたんだ」
やっぱり、一週間前ですか。
きっと、そこで何かあったんでしょう。
君達にとって、何か特別な出来事が。
「今度の土曜から日曜にかけて、そっちに行こうかと思うんだ」
「来られるんですか?」
「ああ、嫌がってるけどアツシも連れて行こうと思う。アツシは青峰君と知り合いだしね、それでタイガの所に行ってみようと思う。話を聞いてくれるかは分からないけれどね。でも、できる事はしてみるよ」
そう言う氷室さんは、本当に心配してくれているみたいで。
「分かりました、僕も一緒に行っていいですか?」
「ああ、そうしてくれると助かるよ。青峰君とは君の方が付き合いが長いだろう?」
確かにそうですが、それでも止められなかった。
僕は、あの二人にとって何だったんでしょうか。
認められていると、頼りにしてくれると、信じていたのに。
火神君も青峰君も。
君達は、一人ぼっちなんですか?
こんな風に、心に穴が開きそうな虚しさは久しぶりでした。
できればもう、二度と思い出したくなかった。
でも、まだ間に合いますよね?
二人共まだ、届きますよね?
「じゃあ、週末にお願いします」
「ああ、また何かあったら連絡してくれ。俺も、タイガと話ができないか試してみるから」
そう言って切れた電話を見つめて、しばらく皆、無言で佇んでました。
「あの馬鹿、何一人で抱え込んでんだダァホが」
「まあ怒るなよ日向、でも……そうだな、俺も火神のこと可愛がってるつもりだったんだけどな」
寂しいよなと呟く木吉先輩に、キャプテンは「そういう問題じゃない」と怒鳴り返して。
「分かってねえんだろうが、自分が大事にされてるとかそういうの全部。自分が一人ぼっちだとか考えてんだろうが、有り得ねえっつうの分からせてやろうぜ」
そう話す皆を見て、ああ大丈夫だって思いました。
火神君、君は一人ぼっちじゃないです。
これからどうしようか、皆さんと話をしようと一度部室に戻ろうとした時でした。
「テツ君!」
バタバタと騒がしい足音と共に体育館のドアが開けられて、ビックリした僕達の前に現れたのは、泣き顔の桃井さんで。
「どうしました?」
「ねえかがみんは?かがみん居ないの?」
「すみません、今日は体調が優れないみたいで、先に帰りましたけれど……あのもしかして、青峰君に何か?」
そう尋ねると、桃井さんはボロボロと大粒の涙を流して、僕に抱きついてきて。
「大ちゃんが!学校止める言いだしたの!誰もそんなの認めないけど、でもそしたら無視して出て行っちゃって。家にも帰って来ないし!もうね、かがみんに頼むしかないって思って」
ああほら、青峰君だって同じじゃないですか。
「今から僕達も、同じ事を話し合うつもりでした」
こんなにも、君達は一人じゃない。
「僕達は青峰君と火神君を、助け出さないといけません」
実はこのシリーズを書いている途中に、ヤンデレ・ドSの真っ黒子様が、火神君を誘拐した上に監禁・拘束・調教する話なんて書いてました。
青峰君だと上手くいかなかった監禁・調教を、黒子様はいとも簡単に成し遂げられて。正直、私が一番ビックリしました。
青峰君、もうちょっと頑張ろうぜ。
そんな事してるから、今まで書いてたものが疎かになってたんじゃないのか……と言われればその通りです。
次回、救済編(?)いきます。
2013年9月4日 pixivより再掲