咲かない花は嘘をつく
「話はわかったけど、ウチでは無理だな」
金額と内容が合わない、それとあんたのバックについてるモノはこっちの手に負えない、正規の店じゃ取り合ってくれると思わないほうがいい。そう淡々と語る相手の話を聞きながら、どうしても無理ですかと念の為に聞けばウチではなと返ってきた。
「そうですか」
「待て待て、正規の店じゃお断りだろうがそれ以外なら問題ない、ってことだ」
色んな理由で名前を伏せて活動したいって奴もいる、その中でも面倒ごとを引き受けてくれる奴、と相手はこちらを見返してあんたなら大丈夫かもしれないなとつぶやく。
「なにが?」
「お気に召すかもしれないって話だ」
オレからの紹介だって言えば少なくとも会ってはくれる、腕はいいんだがどうにも我儘でな、仕事も客も選ぶ問題児だと言う。
「もしかして危ない人ですか?」
「普通に仕事をしてくれるなら、ウチのスタジオに呼んでもいいって言ってる、指導したのはそもそもオレだしな」
連絡は入れておくから行ってみてくれ、そいつでも無理だったならこの件は諦めろ、これがそいつの住所だとオリーブ色の名刺を渡された。
「その人の名前は?」
確かに住所は書かれているものの、名前らしい文面が見当たらないのでたずねると、なんだよ書いてあるだろと名刺をのぞきこむ。
「クイーン・ビーって」
「そうさ、女王サマな」
気に入ってもらえるといいなと男は笑った。
記載された住所にあったのは煉瓦造りの古い工場のような建物だった、蔦の絡む壁と庭木と花に埋もれ特に表札が出ているわけでもなく、人がいるのかすら怪しいのだが、ここ以外にそれらしき建物もない。勇気を出して呼び鈴を押すと、古臭いブザーの音が鳴ってからしばらくして誰だと男の声が返ってくる。
「すみません、実は紹介されて来た者で」
クイーン・ビーというかたの家はここで合っているかと声の主にたずねれば、今開けるとぶっきら棒に返ってくる、玄関先で待っていればややあってから中から鍵を開ける音がして、ドアが開けられる。
迎え出た相手は思っていたよりもずっと若く小柄な男だった、身につけているツナギがオーバーサイズ気味のため余計に華奢な体格を際立たせて映る。インクで汚れた指先で顔に垂れ落ちてきた癖のある長い前髪をかきあげると、目つきの悪い瞳でこちらを一瞥するとへえとつぶやく。
「話は聞いてる、とりあえずあがれ」
「はい、失礼します」
無言のまま奥へと進む相手について行けば、天井の高いだだっ広い空間が現れる。おそらく元は工場かなにかだったのだろう、稼働していたであろう機械はなに一つ残っていないかわりに、列をなして並ぶ作業台には奇妙な形のオブジェが大量に飾られている。
「これは」
「ワタシの作品だ」
なにか文句でもあるのかと言いたげに睨みつけてくる相手に、どう答えるべきか困っていると、いいから座れと古びた革のソファーを勧められる。
示されたとおりに座るとしばし待っていろと奥へ消えて、しばらくしてからお茶の入ったポットを手に戻って来た、二人ぶんのカップに甘い香りのするお茶を注ぎながら、どうせなにも聞いてないんだろうとつぶやき、ハチミツの入った瓶の蓋を開ける。
指に吐いていたインクは落とされており、緩く結んだ長い髪が後ろから落ちてくるのをじっと見ていた。
「ワタシのところにやられたということは、表向きに受けたくない客だろう」
「そう言われました」
ちょっとした事情があって顧客リストに名前が乗ると厄介だとかなんとか、黙って続きを促してくる相手に、実は背中に入れたものを消してほしいのだと返す。
「それなら専門の病院へ行け」
「門前払いでしたよ、だから他の方法を考えた結果」
「別の絵で塗り潰してしまおうと?」
早い話がそういうことですと答えれば、カップの中身をスプーンで混ぜながら、なぜ自分で入れたものを消したいんだと聞かれる。
「いえ、自分で入れたものではなくて、なんていうんでしょう、通過儀礼というか一族の証というか」
望んで入れたわけじゃないのだ、もう死んでも帰らないと決めた家に、見えない部分で囲われているようで非常に好ましくない。だから断ち切るためにどうにかしたいのだと伝えると、ふうんと興味なさそうにつぶやく。
「名簿に載せたくないということは、よほど面倒な実家を持ってるらしい」
「やはり難しいですか?」
ものによるなと言いながら机に置いてあったスケッチブックを取ると、新しいページを開ける。
「とりあえず見せてみろ」
えっと疑問の声をあげると、どんな絵が入ってるのか見せろと淡々と返される。どうすべきか迷ったものの、指示に従って上の服を脱いで後ろに向けば、彼の冷たい視線が背中に刺さる。
「ああ、そういう」
自分では見えない場所に彫られたそれを見つめ、投げられた言葉はそれだけだった。相手がどんな顔をしているのか気にはなるものの、確認するから動くなと言われてしまい完全に身動きを封じられ、そのまましばらく静かな空間にペンを走らせる音だけが続く。
「もういいぞ、大体わかった」
とりあえずいいと許可を貰ったので、脱いでいた服を着直して正面を向けばスケッチブックにざっくりと、自分の背を映し取って描かれていた。ちょうど中央に陣取るように描かれた家を示す紋の図柄に、これほど巨大だったかと改めて縛るものの大きさに嫌気が差す、そんな自分とは対照的ににこれを塗りつぶすのは骨が折れるなと、ラフスケッチを見つめる。
「いい面を挙げるとすれば、比較的に塗り潰しが効く色合いだったことだ」
「では悪い面は?」
「中央に陣取っているから、下手な塗り潰しではバランスが悪い」
それなりに大きな絵を入れないといけない、本当に問題ないのかと聞かれて、願ってもないことですんで問題ないと返す。
「引き受けてくださるんですか?」
「断るのなら、とっくに追い返している」
思ったよりいいキャンバスだったし、そもそも金がないから仕事も選んでいられなかったと言うが、その顔に薄らと笑みが浮かんでいるのに気づく、ただ紹介された相手がつぶやいた下手に機嫌を損ねるなという忠告を思い出し、指摘するのはやめておく。
「どんな絵を入れてほしいんだ?」
「そうですね、好ましいのはやはりドラゴンなのですが」
「竜の一族から逃げるのに、それでいいのか?」
正面からぶつけられる質問に思わず相手を見返せば、これでも芸術の世界に生きる者だからな、有名な紋だから知っている好んで入れたがるバカも多いが、それをあえて消したいということは本家の人間だろうと聞かれる。
「手を加えたことで、あなたに迷惑をかけることもあるのでは?」
「破壊のない創造はない、これもまた芸術だ」
そもそも破壊衝動を持っているのはキサマだ、ワタシはただ望まれた絵を入れるにすぎない、竜を望むのならそのとおりにするだけ。
「いいんですか?」
「画題としてはちょうどいい、大きいからな」
どんな絵がいいんだとたずねる相手と会話を続ける、ドラゴンポケモンに種類があるように、一口にドラゴンと言ってもそのイメージは様々に変わる、ホウエンに伝わるような蛇のような胴体を持つ神龍と、イッシュに伝わる建国伝説を司るドラゴンとでは、大きくイメージは異なる。
彼の持っている知識は幅広く、イメージを描く手もかなり早い、羽を広げる中世から続くドラゴンのイメージ図を描きあげる相手の手元を見つめ、入れるのにどれくらい時間かかりますかとたずねると、少なく見積もっても三ヶ月弱だろうなと言う。
「そんなにですか」
「急げというなら多少はできる、仕上がりが雑になってもいいんなら」
「いえ、素人なのでそちらの都合に合わせます」
いい判断だと言う相手に、費用に関してはどうですかとたずねれば黙って料金表を渡される、最初に訪ねたスタジオよりは幾分か安いものの、背中に広範囲だから大体これくらいにはなると説明を続ける相手が、こちらをうかがい見る。
「あんまり金はないんだろう、そっちも聞いてる」
これは正規料金の場合に限ると、料金表を取りあげると交渉次第で多少の値引きはできると言う。
「その条件というのは」
「一つは絵柄をワタシに一任する」
リクエストは受けつけるが残りのスペースは好きに彫らせてもらう、今回の場合はキサマの望むドラゴンの周りだな。
「それでいいんですか?」
仕事が減ったわけでもないのにと聞けば、この仕事は金のためだけにやっているが、自分の糧になると思った内容ならその分は差し引くさ、完全に好きな絵を入れさせてくれるのなら、機材の費用程度でもいいくらいだと返される。
「まあ自分が背負うものだから、他人任せにはできないって奴が大半だが」
残りの条件はもっと簡単だと体を寄せられ、値踏みするようにこちらを見つめるとややあって頬へ向けて手を伸ばされる。
「キサマの体」
「えっ?」
聞き間違いかと思ったが、妖しく微笑む相手がすぐそばにあって、たぶん勘違いではないんだろうと判断する。
「見ず知らずの男を?」
「だから都合がいい」
愛だの恋だの安っぽい幻想で繋がる必要がない、制作期間だけ限定の関係だ、完成すればそこでお別れ。そういう短期間の触れ合いでちょうどいいのだと彼はつぶやく。笑みこそ浮かんでいるものの、瞳の奥は暗い色が沈んでいるように映る。
美しいけれど、あまりに棘で覆われた近づけないほど高嶺の花のような。
「寂しい人ですね」
思わず漏れた本音が気に食わなかったのか瞬時に顔色が曇り、なんとでも言えと冷たく突き放すようにつぶやき、すっと手が離された。
「その気がないんなら無理には言わない、代わりにここの手伝いをしろ」
さっき見せてもらったがしっかり鍛えているだろう、デッサンモデルとして申し分ないし、制作をしているとアトリエの片づけが面倒でな、掃除でも力仕事でもいいように使ってやると言い切る。
「どうだ?」
「それであなたがよろしいのなら」
そんなわけで、女王さまと呼ばれる男にしばらく自分は使われることが決まった。
手が空いてるときに手伝いに来いと言われてはいたものの、事前の連絡なしに訪ねるのははばかられたので、行っても大丈夫ですかと事前に連絡を入れると、明日の昼からはいるから来たらいいとぶっきらぼうな返事だけ貰った。
とりあえず約束の時間にたずねれば、前に会ったときと同じくインクの汚れがついたツナギ姿で出迎えられ、律儀な奴だと笑う相手に奥へと招き入れられる。
「それで今日はなにをすれば」
「アトリエの掃除」
制作中で片づけまで手が回らない、この辺の物を倉庫へ運び入れてくれと作業台に居並ぶ作品郡を指差し、倉庫はこの奥だと右手に繋がるドアを開けると、広めの通路の先に横開きのドアがあった、施錠は頼むぞと少し錆のついた古めかしい鍵を渡される。
「埃避けにビニールや布を用意している、運び終わったらそれをかけておいてくれ」
「了解しましたです」
他になにか必要なことはと聞けば、別にない制作に戻らせてもらうとパッと背を向けて、制作中らしい白い塊へと再び向き合い始める。気難しい青年の横顔から渡された鍵へ視線を戻し、任された以上はやるかと袖をまくりあげる。
ノミを振るう音を背景に、倉庫だという部屋のドアを開けっ放しで固定すると、中にあった台車を引いてアトリエへ戻る。流石に壊れ物だというのはわかるので、扱いには細心の注意を払いつつ、動かないように固定してゆっくりと運び出して行く。
倉庫の中には彼の作品らしき物が並んでいる、注意を受けたように白い布がかけられている謎の物体、壁にかけられた様々な大きさのキャンバスと、これだけの物を一人で作ったのかと唖然としてしまうほど、鎮座する物量から発せられる熱が高い。
とはいえ観察している時間もない、頼まれた仕事はしっかりこなさければ、じぶんは客としては中途半端なのはわかっているのだ。
大きさと安定する場所を考えて格納して布をかける、何度か往復を繰り返している間も彼は顔をあげることはなく、一心に目の前の塊に向き合い続けている、側から見ていて圧倒される集中力だと、再び驚かされる。
ある程度の作品を倉庫に運び入れて、空いた台の上に積もった埃を雑巾がけして綺麗にしている間に、すでに日は傾き出す時間となっている。天井の高い位置にある窓からアトリエ全体に光が差しているものの、暗くなり出すと危ないと思って、明かり点けましょうかとようやく声をかけると、スイッチはそこにあると入口を指差すだけで、視線の一つも寄越さない。
少し寂しいと思いつつも彼の心はどこか遠くにあるらしく、無理にこじ開けるのはよくないかと、溜息を吐いてから電灯のスイッチを探す。
一気に明るくなる場内でまだ作業を続けるらしい相手に、少しは休んでもいいのではと問いかければ、そんな時間はないとキッパリ言い切られるので、無理は禁物ですよと掃除道具を片づけながら返す。
明日はキサマの絵に取りかかるから、その分だけ先に進めておかないと気が済まないのだと言われては、無理をしないようにお願いしますよとしか言い返せない。
「今夜はそろそろ帰りますが、よろしいですか?」
「好きにしろ」
明日の遅刻は厳禁だぞと言い添えられる声にわかっていますよと答え、作業を続ける相手のそばに近づけば、ビクッと肩を揺らして数時間ぶりに相手と目が合う。
「なんだ?」
「いえ、こちらお返しします」
預かっていた倉庫の鍵を差し出す、すでに施錠は完了していると告げればああ、そうだったかと手を出して鍵を受け取る。
「それではまた明日」
「ああ」
約束より少し早めの時間に着くと、昨日とは違う暗い色のシャツを着た相手が顔を出し、こちらだと昨日通されたアトリエとは別の、施術用の機材が置いてある部屋へ案内される。
「服を脱いで横になれ」
わかってると思うが上だけでいいとつけ加えられる、彼は手元の機材を黙々と用意してこちらには目もくれないので、とりあえず言われた通りに上の服を脱いで作業台にうつ伏せの姿勢になる。
「とりあえず今日は線彫を進めていくが、痛いのは平気だろうな?」
「人よりも我慢強いほうだと、思っていますですよ」
なら遠慮なしに進めさせてもらうと機械に電源を入れる、歯医者で聞くような少し甲高いモーター音が響く中、一応言っておくが動くなよと上から声が降ってくる。
「いや一回は受けた身だったな、心配はないか」
では始めるぞと言うとジリッと刺すような痛みが背に走る、耐えられないほどではないけれど、無視できるほど微かなものでもなく確かに皮膚を割く痛みに、なんとか声を飲み干す。
「我慢強いのは本当らしい」
面白そうに喉を鳴らして笑い耐えろよ手元が狂うと困ると、淡々と彫りを進めていく。痛みを堪えるこちらの声に反応することもなく、たまに声をあげるキャンバス程度にしか見ていないらしい。
昨日の彫刻をする横顔、あんな表情で作業を進めているのかもしれない、流石に確認しようとは思わない、邪魔をされると機嫌が悪くなるらしいのはなんとなく想像がつく。
描き進める相手の細い指先が背に触れられている、今そこに絵を入れていのだなというのを自覚させられ、針先よりもゆっくりと動く指先のほうが、触れられている分だけそこに意識が集中してしまい、じわりと熱が集まってくるような不思議な感覚に包まれる。
「ダメだな」
背に降る視線と指の感触が遠のいて長く息を吐き、作業中に浮いてきた汗を拭ってくれるので、すみませんと小声で返せばまだ施術の合間だからなと、引き出しからなにかの容器を取り出すと、熱を持っている一帯へ向けて中身を塗り広げてガーゼを覆ってくれる。
「汗が引かないなら、シャワーでも使っていけ」
今日からシャワー浴びていいんですねと聞けば、汗を流す程度なら問題ないが、下手に触るなと注意を受ける。
「ダメだというのは」
「肌の状態があまりよくない、これ以上は続けるのは仕上がりに問題が出る」
アレルギーテストはしてあるものの、あんまり日常の負担になるような腫れは困るだろうと言われて、そういうことですかと身を起こして置いてあったシャツに袖を通すと、背に引き攣ったような痛みが走る。
作業中は刺される痛みを気にかける程度だったが、墨の入った部分を中心に身を焼くようにじわりとした痛みが鈍く続いている。
「確かにこれは、なかなかに厳しいですね」
「まだ全体の三分の一以下だがな」
そんなに広い範囲をいきますかとたずねると、それだけキサマの背負うものは大きいということだと、手袋をつけて機械の片づけを始めている。
「そういうところ、気にかけてくださるんですね」
「人の体を削る行為だ、下手なことをして事故を起こしたくはないだろう」
それに作品は美しいほうがいい、そう言う相手が薄らと微笑んでいるのに気づき、それだけ芸術を愛しているわけですかと返せば、お世辞ならいらんぞと凍土に包まれたような声が戻ってくる。
「いや昨日、作品を見せてもらったので」
「それでなにがわかるというんだ?」
黙々と片づけを続ける相手に向けて、昨日の作業風景や倉庫に眠っていた数ある作品を見ていたら、あなたが作品作りに真摯な姿勢を貫いているのはわかりますよ、並の人ではなし得ないものだろうとも。
「だからなんだというんだ」
「いえだから、素敵だなと思って」
タトゥーマシンから外した機材を取り落とし、キサマなにが言いたいと苦々しい顔で問い返されるも、仕事にそれだけの熱意をかけられる人はすごいと思っただけなんですが。
「あっちは仕事ではない」
「違うんですか?」
「芸術家としては一切売れてないからな」
そうなんですかと聞けば、副業なしに生活が成り立たない程度には困っていると言い、落とした針を拾いあげると液体の張った容器に入れる。
「評価も評判もない、もっと人の心を打つものを作れ、大衆が望むような美しいものをと言われ続けて、それでも自分を曲げられない偏屈者だ」
問題児とかはぐれ者とか、そんな類の言葉で片づけられる、誰にも見向きもされてこなかったのだから仕方ないと半分くらい諦めた口調で話すので、それでも諦めるという選択はまだされてないのでしょうと返す。
「だからなんだ?」
「それでも続けられるのは、あなたが強いからだと思いますですよ」
そうでもないと視線を外して首を軽く横に振ると、キサマといると調子が狂うと溜息を吐く。
「作業中は声をかけないでくれ、手元が狂ったらまずい」
「そうですか、すみません」
茶くらいは出すからアトリエで待っててくれと追い出されてしまったので、荷物を手に提げて奥の部屋へ向かう、前に座ったソファの端に座って三十分ほど経ったころ、片づけを終えたらしい主がお茶を手にやって来た。
前回と同じくハチミツの瓶を開けて、中身を自分のカップへ少し入れてかき混ぜる。
「聞いていなかったが、キサマはどんな仕事をしているんだ?」
「ああ、一応はミュージシャンですかね」
売れてませんけれどもと続けると、そうかと呆れたようにつぶやく。
「厳しいですが、生活自体は意外となんとかなるものですね」
とはいえバイトを掛け持ちしてどうにかしている状況なわけで、自分のやりたいことに一心に打ちこめるのは羨ましくもあり、純粋にすごいことだなと思ったわけですと言えば、これしかできることがないだと目を逸らして小さくつぶやく。
「実家に帰ったほうがいいとは、考えないんだな」
「それはないですね、あんな家には二度と帰らないと決めたもので」
ドラゴン使いなんて憧れの的だろう、しかも直系の家柄なんて望んでなれるものでもない、その立場を投げ捨てられる精神も並みのものではないだろう。
「もしかして、褒められてます?」
「バカだと言ってる」
そんなあと返せば、それが常識的に考えて正しい選択であるかは置いておいて、覚悟を決めているのはなんとなく理解した、相応しい仕上がりになるようにこちらも全力で仕事はさせてもらうと言う。
「そうですか、お願いしますです」
「ああ」
「あの、ところで小生って名乗りませんでしたっけ?」
聞いたと思うが覚えてないとキッパリ返されるので、ハッサクですよと改めて答える。
「ハッサム?」
「ハッサクです!」
なんで虫鋼ポケモンなんですかひどいですよと言えば、おかしそうに笑いながら冗談だ、もう覚えたよと返される。意外と子供っぽい一面を持っているらしい、年相応な笑顔を前に怒ることもできない。
「じゃあ次からは、ちゃんと名前で呼んでやろう」
「お願いしますですよ」
タトゥー入れる話は何回かしてますが全て受に入れる話だったので、ハッコルなら逆でいけるやんと気づいたとき、楽しいことができるのではないかと思いました。
これコルサさん視点もあってそこそこに長いので、他のを書きながら、ある程度まとまったら小出しにしていきたいなあと。
これ書いてるときに、レイドで捕まえたハッサムに「ハッサク」と名づけました。
2023-01-29 Twitterより再掲