a swordmaker




昔、じいちゃんが何回も繰り返し言ってた。
「お前がどうしても助けてほしい時はお願いするんだよ」と。

それは一体誰に?
そう尋ねれば、普通は神様とかなんとか、そういう人じゃない者が返ってくるものだろうけど、じいちゃんはそう言わなかった。

「どうしても助けてほしい時は、自分にお願いするんだ」

どうして、それが自分なのか?オレは全く分からなかった。
その理由を尋ねると、じいちゃんはにっこりと笑ってこう言うんだ。

「お前が助けてほしい時、その助けになってくれる力はお前自身の中にあるんだよ。
望むモノはお前自身が持ってる。
誰かに頼ってもしょうがない、道は自分で開拓するべきなんだよ。
お前が望めば、それを手にする事ができる。
分かったか?鍔揮(ツバキ)」

オレは何時も分かったと言って頷いた。
本当は、全然分かってなかった。

そして、じいちゃんが亡くなって三年、この言葉もすっかり忘れてしまっていた。
それを急に思い出したのには、勿論ワケがある。

オレは今、窮地に陥ってる。

つい数分前、部活が終わり学校から帰宅する途中の事だ。
急に背後に何かの気配を感じた。
別に霊感が強いわけではないんだけど、でも確かに何かに追われている、そう感じる。
もしかして・・・通り魔か何かか?
そう思って、歩調を速めるも相手もオレに合わせて歩調を速める。
ぴったりと、一定の距離を置いて付けられているのが嫌でも分かる。

まさか、こんな事ってあるかよ・・・。

しかし、背後に迫る不穏な気配は一向にどこかに去ることもない。 人通りの多い道に出て、何とか巻く事はできないだろうか、と思っていく道を変えようとしたところで、相手に動きがあった。
急にオレとの距離を詰めたのだ。
それを感じ取って急いで後ろを振り返ると、そこに居たのは・・・。

真っ黒な何かだった。

わざわざ何かと称したのにはワケがある、オレはその追跡者をどう呼んでいいのか分からなかったのだ。
追跡者は人ではなかった、動物や虫でもない。
この世界に存在するわけがないような、“何か”だったのだ。

追跡者の招待を確認して以降は、オレはもう無我夢中で走った、これが授業中の居眠りが原因の悪夢である事を祈って。
その祈りは、残念ながら現実にはならないのは分かってた。
走ってる風や、体を酷使する事で悲鳴を上げる肺の痛さはリアルだ、足の下に感じる地面も硬い。
間違いなく、夢見たいな緊急事態に陥ってる。

そこで思い出したのだ、じいちゃんの言葉を。

しかし・・・こんな状況をどうやって打破しろって言うんだよ?
オレはただの人間、向こうは四足歩行で鋭い爪と牙のある猛獣(っぽく見える何か)だぞ、武器もないオレに勝ち目はない。

「望むモノはお前自身が持っている」

じいちゃんの言葉が脳内に蘇る。

オレが一体何を持っているっていうんだろう?
「お前が望めば、それを手にする事ができる」

オレは何を必要としてる?
この状況を打破できるだけのモノ。
逃げ切れる道なのか?それとも、相手の力に対抗する何かなのか?
力に対抗する・・・なんて、無茶だよな?

本当ニ ソウカ?

自分のどこかで疑問が生まれる、絶対に敵うワケないと分かっているはずなのに。

諦メルナ オ前ニハ力ガアル筈ダ

一体どうしてそう思うのか?オレに一体何の力があるというんだ?

闘ウンダ

オレの中で生まれた疑問は、段々と命令に変わっていく。
それに合わせて、段々と自分の走るスピードも落ちていく。
やがて、足が止まった。

必要としているおもは何だ?
闘うのに、必要なものは何だ?

相手と向かい合ったオレの中にはそんな考えしか生まれなかった。

今オレに必要なモノ・・・それは・・・

相手の爪や、牙に対抗できる・・・刀

相手の駆ける足音が、だんだんと大きくなる、オレの心拍数もそれに合わせるように早くなる。
大丈夫だと、不思議にそう思えた。
相手が一際大きく踏み出して、オレの方に襲い来る、その一瞬。
オレは自分の手に握った何かを大きく振り回した。

襲撃者は、着地に失敗し後ろに落ちた、振り返ってその姿を確認する。
ライオンでもないし、トラや狼でもない、異様な形の猛獣は黒い毛並みを逆立てたままその場に崩れ落ちていた。
一刀両断にしたその傷口からは、不思議と一滴の血も流れていない。
そして襲撃者の亡骸も、影のように消え去ってしまった。
その一通りの場面を目にしてから、今度は自分の手の中に握られている刀を見る。

RPGにでも出てきそうなデザインのその刀は、どこにもなかったはずだ。
ここは日本であり、銃刀法違反に値するこんな代物が路上の片隅に放置されているはずがない。
なら、この刀は一体どこから現れた?
答は一つしかない。

オレが作りだしたのだ・・・。

しかし、一体どうやって?

「凄い一撃ね」
拍手と一緒にそんな声がした。
驚いて振り返ると、今度はそこに制服を着た少女が立っていた。
黒髪でボブの色白な少女だ、深い緑色をしたブレザーと同系色のチェックのスカートと白いシャツにアクセントになる赤いリボン。
胸ポケットのエンブレムには見覚えがあった、確か桂木高校の制服だ。
「初めまして、私は如月椿(キサラギ ツバキ)です」
彼女は笑顔でそう言うとオレの方へ近寄って来た、街灯の光から出てしまったせいで彼女の姿が影に染まる。
「あの・・・一体何の用です?」
オレは控えめな声でそう尋ねたが、内心この謎の少女に驚いていた。
さっきの台詞から、一部始終を目撃しているのは分かった。
しかし普通こういう状況を目撃したら驚くことはあっても、相手に近づこうとはしないはずだ。
だとすると、彼女は一体どうしてオレに平気で近づくんだ?
一体、何が目的なんだ?
「君の質問に答える前に、名前、教えてくれる?」
「あっはい、オレは撓鍔揮(シオリ ツバキ)です」
「あっ、同じ名前なんだ」
彼女は嬉しそうにそう言った。

しかし、彼女の名前はきっと花の方のツバキだ、オレは読みは同じだが全く意味が違う。
鍔を揮うでツバキ、剣道をやっていたじいちゃんが付けた名前だ。

しかし、今はそんな話をしなくてもいい、オレは彼女の目的が知りたい。

「今起こった事、撓君は分かる?」
「いえ、全然」
「そっか・・・じゃあ私が一から説明するよ、いい?」
「・・・はい」
そうしてもらえると、酷く助かる。
とにかく、この状況を上手く説明してほしかった。

「どこから話していいのか分からないから、世界の事から始めるよ。
地球っていうのはさ、例えるなら集合住宅なんだ、一つの建物にたくさんの家、たくさんの人達が住んでる」
「つまりはどういう事ですか?」
「多重世界は存在する、って事よ」

彼女は出会ってそうそうそんな現実離れした事を口にした。

「あの・・・そんな事ありえるんですか?」
「ありえるの、実際私はこの世界の生まれじゃない、もう一つの別の世界から来たの。
それに、今撓君が持っているその刀、その刀の説明もできる」
「これの?」

一体どういう事だろうか?
とりあえず、目の前で現実離れした事が起こり始めている事だけは確かだ。

「世界には色々な世界がある、超能力者とか居るでしょ?ああいう人達は、自分の祖先が違う世界の人間だった可能性が高いの」
「他の世界には、この世界ではありえない能力を持った人達が居るって事?」
「そう」
「じゃあ、オレのこの刀はそういう能力で作り出したモノだって、そう言うつもり?」
「話が早いわね、その通りだよ」
「・・・信じられないんだけど」
「どうして?」

どうしてって、当たり前だろう。
いきなり多重世界だとか、超能力だとか言われて、信じろと言う方がおかしい。
そう言うと、彼女は不思議そうな顔でオレを見た。

「でも、撓君は今実際こうして自分の力を使ったでしょ?それを使って、式神を倒したでしょ?」
式神というのが、さっきの襲撃者の正体を指すのは分かった、そして彼女の言う通りだ。
確かに、自分で使っておきながら、その存在を信じないのは話が違うかもしれない・・・って、待てよ。
「オレは、別に異世界の住人じゃないんだけど・・・」
「さっきも言ったでしょ?集合住宅みたいなモノだって。
誰かに招待されたり鍵を持っていたりすれば部屋同士は行き来ができるでしょ?
世界もそう、他の世界との繋がりは、君が思っているよりもずっと盛んなんだよ」
「でも、じゃあオレ達はなんでその事を知らないんだよ?」
「それはこの世界の創世に関わる事だからまた今度、その話はすっごくややこしいの」
「はぁ・・・」

世界の創世って、一体この世界に何が起こったんだろうか?

「そろそろ、話の本題に入っていいかな?」
オレの顔を覗きこみ彼女はそう尋ねた。
本題とは一体何なんだろうか?
異世界から来たという彼女は、一体、オレに何を求めているのだろうか?

「私はね、君を探してたんだ」

「はい?」
彼女はオレの目を真っ直ぐに見つめて続ける、その目の力強さに、オレは視線を逸らす事ができない。

「世界の均衡を守るために、私に力を貸してくれないかな?撓君」

彼女の台詞を理解するまでに、オレはしばらく時間がかかった。

「あの・・・どういう事です?」
「どうもこうも、その通りだよ。
私は君を探してた、私の反対になる能力を持った人を、私とは正反対に位置する人間を。
自由自在に刃を生み出す能力を持った『ソードメーカー』
君はそんなそう創造系能力を持った人なの」
彼女の台詞に、オレは困惑するばかりだ。
彼女と正反対って、一体どういう事なんだ?
創造系能力って、一体何だ?
それ以前に世界の均衡っていうのは何だ?
放っておけば、疑問はどんどん生まれてくる。
「力を貸すって・・・オレに何をしろって言うのさ?」
「闘ってほしいの、一緒に。
そうしないと、世界が終わるの」

緊迫した彼女の声は現実のモノだ。
しかしオレはまだ心のどこかで、これが夢ならいいと思っていた。


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後書き
主人公が登場しました、weltの主人公は撓鍔揮です。
原作で彼が名乗った時に「名前が読めない!」というクレームがありました、そして予想通り名前の変換に苦労しました・・・。
まだ彼の他にも変換に苦労しそうな奴を出そうと目論んでるので、この先が思いやられます・・・。
どうして自分はこうも変な名前をキャラに付けるのが好きなんだろう?
まあ、自分で決めた事なんで文句は言えませんが・・・。
先に言っておきますが、これから長くなります。
2008/12/20


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