始まったものは、終わる。
それは変えることのできない運命。
それを超える事ができるのは終わる事の出来ない存在、既に運命から外れてしまったものだけ。
私に逆らう事はできない。
しかし、何も恐れる理由も、またそれを喜ぶ理由もないだろう。
私は全てに平等だ。
そうでなければ、運命を司れない。

〜Thanatos〜・4



夜、最近通っているターゲットの居る屋敷を訪れた。
今日もまた、この中には入れない。
私を避ける為の様々な結界が張られている。
この労力、もっと他の事に使えばよいものを・・・何時までもこんな事を続けて、何になるというのだ?
今夜もまた、私は屋敷の外の公園の中から様子を伺っている。
「最近、仕事が邪魔されてるらしいですね」
立ち尽くす私の背後からそんな声が掛けられた。 久々に会った秀麗な悪魔は、薄い青い髪を夜風に靡かせ空中に浮いたまま私を見下ろしていた。

「あれは、貴方の御友人?」
あれ、というのは勿論この結界を張っている人間の事だ。
「まさか、あんな低級な人間となんか関係を持ちたくないですよ。
僕は今日来た二人組みに興味があるだけです」
彼はそう言いつつ私の元へ降りてきた、口元には何時もの微笑みを称えている。
「二人組み?」

私が生きている人間には興味がないのを彼は知っているというのに、そんな話しをする。
「ええ、貴方の嫌いな堕ちた人間と、その友人ですよ」
そう言って、更に笑みを深くする。
思い出したくもない、思い描きたくもないあの人間が話題に上がった事で、私が不機嫌になるのを彼は気にしない。
気にしないのではなく、それを楽しんでいる。

「アレには関わらない方がいいです、関わったモノは酷い目に合う」
「分かってますよ、僕が興味あるのは彼の友人の方でね・・・彼は中々面白い魂を持ってるんです。
血も肉も美味しそうな匂いがするんですよ・・・」
フフフ・・・っと彼は笑った。

「分かりません、貴方のように何かを食さなければいけないモノの気持ちも、
何かに引かれる気持ちも」
「君はそうでないと困るんでしょう?運命を司る者ですからね。
本当に君に感情がないかどうかは、知りませんけれども・・・」
ニヤニヤと笑う彼。

「必要ないでしょう?感情なんてモノ」
「この前、そう言う人間の子供に会いましたよ」
「私と人間を、一緒にしないで頂きたいですね」
「それもそうです・・・これは失礼しました。
でも・・・この件は大丈夫ですよ、彼等が何とかするでしょう」
「他人任せにはできません」
「でも君は手を出せないんでしょう?ならばいいじゃないですか、彼は人外を超えた存在ですよ。
それに、彼はあのような人間を許せない、力の無い、いかさま師をね」
だから方っておけばいい、と彼はそう話した。
私は再び屋敷を見る。
禍々しい黒い霧によって包まれた屋敷、おそらくこれは私の気配を感じ取ってここまで膨大なモノとなっているのだろう。

「全く、僕もほとほと呆れますよ。
そこまでして自分の名声を失いたくはないんでしょうか?
彼も、あの老人も・・・」
「人は終わりを見たくはないのです、名声も人生も、燃え尽きた時が自分の最後だと思っています」
「だから、終わりたくはないのですか・・・永久の時間を許された僕達には、理解しかねますね」
「当たり前でしょう」
「そうですね・・・おや、もう行くんですか?」
立ち去ろうとする私に、彼はそう声を掛けた。
「ここで立ち往生していても何にもなりませんので、私には他にも仕事があるのです」
「ここでこうやって話しをしている君の他にも、沢山の君が死を与え続けているというのに。
それでも、君の仕事は尽きないのですね」
「失礼します」
「相変わらず、つれないですね・・・」

またお会いしましょう、と言って彼がその場から消え去る気配を背中に感じ、私もその後その場を後にした。

今夜もきっと死神が現れるだろう、と居候が言ったので何が起こっているのか詳しく確認する為にこうやって潜んでいた。 時刻は深夜の二時、丑三つ時だったか? 屋敷の外にある公園の植え込みの中、息を潜め・・・っというか、コイツが回りに結界を張って気付かれないように見守っていたのだ。
「今のが死神か?」
「そう、あの銀髪の美女の方がね。青い方は悪魔だね、嫌な感じだったけど・・・誰だったかな?」
「・・・・・・忘れたのかよ」
「容姿を変えたのかもね・・・あの雰囲気的に最低でも何百年は生きてるだろうし・・・
知り合いだったかな・・・?まあいいか」
いいのか?あの話しだと俺の命狙ってる風だったんだが・・・。
「大丈夫だって、心配しなくともシノ君に何かあったら僕がなんとかするからさ」
コイツめ・・・また勝手に人の心中を読みやがった。
「そうだ、質問なんだが・・・沢山の君が仕事してるっていうのは?」
「死神は概念だって言っただろ?死っていう概念なんだから、ありとあらゆる所に存在してる。
その存在も一人じゃないのさ、彼等には決まった姿形もないし、性別も何もあってないようなモノなんだ。
今回見たのは偶然にも美女だからよかったけどね。
僕は昔から何度か彼女達に会ってるけど、形容するのも難しいくらい酷い姿の時もあったね」
形容するのも難しい姿じゃあコチラには何も伝わらないが、しかし、まあ人型で美しいにこした事はないか・・・。
自分はそういう意味ではツイていたのかもしれない。

「ところで、あの爺さんと誰だったか・・・あの術師の紛い物、俺達が何とかする事になってるみたいだけど」
「日高雅彦だよ・・・なんとかするっていうか、そのまま潰すつもりなんだけどね」
コイツはどうやら完全に名声を終わらせるつもりらしい。
アイツに名声があるのかどうか、俺自身は知らないんだけどな。
「アイツに憑いてるのは悪魔か?」
「悪魔でも魔物でもないよ、半端すぎる存在さ。
魔力を有するが存在が安定しない、人の悪意や何かを取り込んで自分の形を保ってる。
そういうふよふよした安定しない存在をアイツは沢山従えてるんだね。
本当は悪魔か何かを召還したかったんだけど、それだけの力がなかったんだろう、だから数で勝負した」
それを使って、あんなに真っ黒な結界(羅喉に言わせると紛い物らしい)を作っているのか。 「じゃあ一体だと何もできないんだな」
「蟻みたいな奴等だって集まれば何かを動かす程の力になるのさ。
事実、奴は死神を防いでる。
あれはああいう不確定な存在を使役してこそできる事なんだけどね」
「そうなのか?」
「対策が取れない相手なんだよ、元々不安定な存在だから。
消し飛ばしても塵になって再び集まってくる、何時までもなくならない」
「じゃあ、お前もどうしようもないんじゃないか?」
「いや、僕は何とかできる、でないと引き受けたりはしないさ。
さて、じゃあ吹き飛ばしに行こうか・・・黒い霧をね」
ニコっと笑うと、何て事もない事のように羅喉は立ち上がった。
俺はその後に付いて行く。

「ねえシノ君、人間はさ、自分の絶対だと思われている壁を壊されるのを酷く恐れるんだよね」
誰でもそうだ、自身のある事柄をようようと打ち破られる事を恐れる。
それが絶対だと信じるからこそ、打ち破られた時の衝撃は大きい。
「これはアイツの絶対を誇る壁なんだろうね」
そう言うと羅喉は手を屋敷の方に向け、一気に黒い霧を吹き飛ばした。
「さぁて・・・どうなるか見ものだね」
にこっと、人懐っこい笑顔を見せた羅喉だが・・・その顔はどう見ても、腹黒く映った。


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後書き
タナトス第四話。
もうそろそろ自分でも感じてるけど、私の小説は登場人物二人だけで進んでいく事がめっちゃくっちゃ多い。
何でだろう?そんなつもりはないんだけどな・・・。
会話文も多いな・・・どうしたものか。
精進します。
2009/1/7


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