“生まれて”初めて見たこの世界には、私が存在する“理由”があった


ゆっくりと瞼を上げ、目の前に広がる世界を認識する

そこには、私を心配そうに覗き込む、銀髪の青年の顔があった
目覚めた私を見て、喜びと安堵の表情が青年の顔一杯に広がる

その時、ほぼ私は確信した

この青年こそが、私をこの世界に“生み出した”者なのだ、と…
そして、彼こそが私の従うべき相手なのだと


フリオニールという名の、私の存在理由…


脱出



「俺の事、ちゃんと見えてる?」
そう尋ねる声が震える。
「勿論です」
すぐに返ってきた返事に、俺は安堵し、彼の体に繋がったままのコードを抜く。

「貴方が、私の製作者であるフリオニールですね?」
起き上がった彼が、俺の表情を伺ってそう尋ねる。
「そう、俺が君の製作者のフリオニール」
真っ直ぐに俺を見返す彼に、そう返事する。

その時、ドンっという作業室の壁を叩く音がした。
揺れる金属製の入り口が、赤く熱せられていく。
「伏せろ!!」
スコールの叫ぶ声がして、急いで作業台の下に伏せる。
次の瞬間、轟音を上げて扉が吹き飛ばされた。
「大丈夫か?」
「ああ、俺は大丈夫だけど…スコールは?」
「俺の心配はいい、それよりも……最悪だ」

焼けた金属の臭いと、敵兵の影。
「抵抗はやめ、大人しく我が軍に投降せよ」
ゆっくりと顔を上げた先に、感情のない顔で見下ろす共和軍の兵が映った。

「ウォーリア・オブ・ライト」
自分の愛用の銃を取り出して、相手へ向けて構えたスコールがウォーリアの名前を呼ぶ。
「何でしょう?」
「俺はスコールだ、そこに居る科学者の護衛をしてる、ここから脱出したいんだが、それは可能か?」
今、この状況にあっても、スコールは投降などしないと決めているようだ。
当たり前か、彼も雇われの身とはいえ、連合軍の人間だから。
捕まってしまえば自分の命はないと、そう確信しているのかもしれない。
俺と共和軍の兵の間に立ち塞がり、俺の身を庇う彼の背中から静かな闘志を感じた。

「私に、すべき事を教えて下さい、貴方の為に全力を尽くします」
俺の顔を伺って彼はそう尋ねる。
「ウォーリア…」

指令者は俺。
そう彼にプログラミングしたのは俺だ。
彼にとっては、俺が絶対。
そんな慣れない立場に、戸惑いを感じつつも、俺は言葉を捜す。
今、すべき事を彼に伝えなければいけない。

「俺達をここから無事に脱出させてほしい、そして、俺の事を守ってくれ」
「優先すべきはの貴方身の安全、そしてこの場からの脱出」
そう言いながら、彼は小銃に手を掛けた。
「それで、よろしいですか?」
命令の確認を行うウォーリアに、そっと俺はスコールの方を見る、彼は少し首を捻って俺の方を見るとゆっくりと頷いた。
「ああ、それでいい」
「了解しました」
彼はそう答えると、小銃を抜き、敵兵に向かって発砲した。
計ったように相手を打ち抜くのその腕前は、戦闘プログラムの完璧さを物語っている。

「捕らえろ!」

共和軍の兵の誰がそう叫んだのかは分からないが、共和軍の兵が削られていっているのは確かだ。
呆然とその様子を見詰める俺に、相手の銃口が向けられる。
急いで伏せようとする俺よりも先に、大きな腕の中に抱き寄せられた。
「私から決して離れないで下さい」
「あっうん…」
そう言うと、俺を抱き寄せた腕を離し、自分の背に庇う形で俺の前に立つ。

「俺達の仕事を増やすな」
俺を狙った相手よりも先に相手を撃つと、俺の側に立ってそう言うスコール。
「ウォーリア」
「何でしょう?」
「このままここで応戦し続ける事は不可能だ、この先に緊急脱出用のポットがある、そこまで行くぞ」
「了解しました」
「俺とフリオニールが先に行く、お前は後方で応戦してほしいんだが、大丈夫か?」
「お任せ下さい」
「よし、行くぞフリオニール」
「あっ!分かった」
スコールに腕を取られ、緊急脱出口へと向かって走り出す。

銃撃戦の音を背後に感じながら、緊急事態を知らせる赤いランプが点滅する廊下を走る。
避難訓練がない事もないのだが、その時よりもずっと距離が遠く感じられる。
脱出用のポットへ辿り着き、ハッチを開ける。
「ウォーリア、早く!」
叫ぶ俺に対し、無言でウォーリアは素早くこちらへと向かう。
壁に備え付けられてある緊急時用の防護シャッターを下ろし、相手の動きを一時的に防ぎ、その間になんとか脱出を図る。


「お前の護衛は疲れる」
ポットの中で、軽く息を吐きながらそう言うスコール。
「ごめん」
「まあいい、無事だったんだから」
愛銃を直し、そう言うとゆっくりと窓の外を眺める。
その様子だと、彼はどこも怪我してないようだ。

「ウォーリアは大丈夫か?」
「私は無事です」
「そうか…良かった」
俺ばっかり守られてるから、まあ護衛が彼等の仕事なんだけど、でも…やっぱり自分の責任を感じてしまう。
特に今回は、俺が無理に残って、危ない目に遭ったのだから。

その分、守れたものもあるんだけど。

ウォーリアの方を横目で見る。
「何か?」
「いや、無事で良かったな…って思って」
「そうですか」
「うん」
とりあえず、全員無事に脱出できたので、一応これで安心だ。

でも…軍部になんて報告しようかな…。
特に、ウォーリアの事とか…。
まあ、しょうがないか、緊急事態だったし。
起こった事をそのまま報告するしかないだろう。


「一足遅かったようですわね」
そう言って腕組みをしながら、遠くからある建物を見下ろす小柄な影があった。

「連合軍の研究施設で、新型の兵器の開発が行われているとか、いないとかいう噂があったので来て見れば、もうすでにこの有様。
まあ、そのような噂なんて、共和軍が放っておくわけがありませんものね」
ふぅっと彼女は溜息をついた、無駄足を踏んだ事に怒っているのかもしれない。
「私の出る幕は無かったようですわ」
やれやれっと言いたげなかんじで、彼女は軍事施設が破壊されていく様子を眺める。

「これで、連合軍はかなりのダメージを受けたのでしょうね、まあ私には痛くも痒くもありませんが。
しかし、よく分かりませんわ、こんな所で一体何の研究をしていたのでしょう?」
自分の疑問を解消する為に、今からでもあの施設の中に入って情報を引き出すかどうかをしばらく考え、ふるふると彼女は首を横に振った。
「好奇心だけで動きましてはいけませんわね、それに今調査に向かっても、大した情報は得られない事でしょう」
そんなものは、きっと連合軍が破壊するか、共和軍が持ち去るかどっちかしているだろう。
そう判断し、彼女は傍観を続ける。

「新しい兵器が完成していたのかどうかは不明ですか、この分では破壊されてしまったのでしょうね。
もし完成していたのでしたら、それを使わない手はありませんもの…少しどんなものなのか興味がありましたのに、残念ですわ。
まあ、どうせ縁がなかったのでしょう」
そう言うと、彼女はその場から立ち去る事にした。
これ以上ここに居ても、何も得る情報がないと判断したからだ。


彼女の存在を、まだ両軍は知らない。
彼女こそが、両軍を破滅に導くであろう存在であるというのに。




3へ



後書き
ウォーリアがフリオニールとスコールに敬語なのが慣れません。
いや、機械って人に忠実になるよう作られているんで、WOLの普段の話し方で二人に接するのはどうなんだ?と思った結果なんですが、なんか駄目ですね、その内、普段の彼と同じように話すようになります、っていうかします。

色々思わせぶりな事書いておいて何なんですが、淑女様の次の出番は今のところ未定です。
実は私、まだ今一つ淑女様のキャラが掴めてません。
今まで自分の書いてきた作品の中で彼女のようなタイプの人がいなかったもので…なので、別人とか言われる日が必ずくるだろうと思ってます。

前回の後書きでも書きましたが、バトル等激しい動きのある描写は苦手なのです、絵じゃないのに。
今も現在進行形で研究中です、もっとまともなものが書けるようになりたい。
2006/4/26


BACK