時間に追われていた。 いや、人はいつだって時間に追われてる、どんなに科学が進歩しようとも、人の力ではどうしようもない力というのが存在する。 その一つが時間だ。 ただ、今はそんな事どうだって良かった。 今の俺には、とにかく時間がない。 一刻の猶予も許されていない状況。 それが今だ。 AIが完成し、必要な情報をプログラミングすれば、今日にも彼は完成するはずだった。 ただ、一つ問題が起こったのだ。 順調に作業を進めていた時に、室内にけたたましい警報機の音が鳴り響いた。 次いで繰り返される放送。 『敵襲』だとか、『避難』だとか、『迎撃システム作動』だとか…様々な言葉が、感情のない機械的な声で繰り返される。 現実感がないまま、俺は目の前にあるディスプレイに視線を戻す。 大きく表示されている、『緊急事態』という文句に、背筋に冷たい汗が流れた。 まずい…このままじゃ……。 「フリオニール!!」 いつもの落ち着いた雰囲気などない、切羽詰ったような様子のスコールが作業室に飛び込んできた。 「敵襲だ、防護壁があるとはいえここも危ない、逃げるぞ」 「待ってくれ」 俺の台詞に、スコールは訳が分からないというような顔で俺の方を見た。 だが、俺はそんな彼に構っている余裕等ない。 急がなければ、全てが水泡に消える。 「敵襲の際には、プログラミング途中の兵器に緊急プログラムが発動されるんだ」 スコールに説明しながらも、俺は画面からは一切視線を逸らさず、また作業を続ける手も止めない。 「緊急プログラム?」 「ああ、十分以内に全てのプログラミングが終了しなければ、破壊措置が取られる」 これは、敵兵によってプログラミングの途中で介入され、相手方に兵器を取られないようにするためで、軍部の開発事業部ではどこにでも必ず存在する。 それはここだって例外ではないのだ。 「ちょっと待て、じゃあ」 その通り、このままでは“彼”が破壊されてしまう。 「彼を壊されるわけにはいかないんだ!」 そんな事言ってる場合か、と怒られても仕方がないだろう。 だが、ここまで来て諦めるわけにはいかないんだ。 だって…折角ここまで辿り着いたというのに、一度もこの世界を見ないままに破壊されるなんて、耐えられない。 「…十分で、完成させられるのか?」 「分からない、けど…出来る事は全てやる」 そう言いつつも、作業しながら流れていく文字の羅列。 後、残り五分。 「…分かった、お前がそこまで言うなら、俺も待つ」 「ありがとう」 護衛であるスコールに礼を言う、受け流しているような言い方になってしまったが、内心もの凄く感謝している。 だが、プログラミングでも一つ問題がある。 それは、指令者の設定だ。 本来なら、この指令者の部分には軍事命令プログラムが適応されるのだが…このプログラムは複雑すぎて残り時間三分半の今の状況では、設定する事は確実に不可能だ。 残された道は、一つ。 今この場で迷っているわけにはいかない、俺の選択が最良の結果だと、そう信じるしかない。 指令者を俺に設定するのだ。 個人への設定ならば、複雑化した軍事プログラムよりも安易に設定する事ができる。 ただ、これは永久的な設定だ。 一度組み込んだプログラムは書き換えがきかない。 これも軍の兵器を敵によって改造されないようにした、防護策の所為だ。 だから恨むのなら、軍部を恨んでもらうしかない。 今まで築き上げてきた全てを、この一瞬で崩されてしまうのなら、どんな形であってもこの世界に残したい。 俺の決断に、間違いはないはずだ。 残り一分を切った。 「頼む、間に合ってくれ!!」 全てのプログラミングを終え、間違いがない事を祈って、彼を起動させた。 目覚めてくれ、ウォーリア・オブ・ライト。 ‐‐‐ 起動された体内に、必要な動力が巡る 回路が廻り始める 私が存在する理由 誰の為に存在するのか 何の為に存在するのか 必要な情報を、組み込まれた大量の情報の海の中から選び出す 私にとって大切な、その答えを… フリオニール その答えが私の中ですぐに見つかった 私の製作者 私という存在に理由を与える者 フリオニール その名をもう一度繰り返す そして、私は… ‐‐‐ 早鐘を打つ心臓。 やるべき事は全てした、手は打った…はずだ。 失敗していたら、という不安の中、台の上に横たわる彼を見下ろす。 無音のまま、時間が過ぎる。 「…どうして?」 俺の疑問に答えてくれる声はない。 何も、間違いはなかったはず。 なのにどうして? その時、無音の部屋に警報機の音が鳴り響く。 『第一防護壁突破』 「まずい…」 愛用の銃を取り出し、中の銃弾を確認するスコール。 「残念だが、フリオニール…脱出するぞ」 俺の腕を掴み、静かにそう告げるスコール。 「待ってくれスコール、まだ」 「これ以上ここに居るのはまずい!」 「でも!」 「俺の仕事はお前を守る事だ、お前の身を危険に晒すわけにはいかない」 真剣な目でそう訴えるスコールに、俺は言葉を無くした。 「分かったなら、行くぞ」 「あっ!ちょっとスコール!!」 力で彼に勝てるわけもなく、無理矢理に俺を立たせると、緊急脱出口へ向かうスコール。 『第二防護壁突破』 警報機が、ここへと向かう敵が着実に近付いてきている事を告げる。 その時、俺の目は確かに見た。 彼の手が、僅かに動くのを。 「待って!待ってくれよスコール!!」 「諦めてくれフリオニール、言っただろお前を危険に晒すわけには…」 「いいから、離してくれ!!」 腕をしっかりと掴む彼の腕を渾身の力で振り切って、作業台の元へ向かう。 台の端をしっかりと掴み、彼の顔を覗き込む。 『第三防護壁突破』 そう叫ぶ警報機の音が、どこかに遠のく。 緊張する俺が見守る中、彼は目を覚ました。 後書き WOLが完成しました、次回は研究施設からの脱出になります。 バトル系の話を書くの好きなんですけどね、バトルの描写を書くのは苦手なんですよ。 …凄く矛盾してるのは分かってます。 でも、自分の書いたバトルものを読み返す度に何か足りないな…と感じてしまうんです。 つまりは下手なんです……。 なので、あんまり期待はしないで下さい。 前回、自分が犯したミスに誰か気付いた方いますか? フリオニール自身は「識別番号を付けない」ってカンジのこと言ってますが、実際には、WOLの腕には型番がちゃんと入ってるんですね…。 それは、アレです…WOLが軍事兵器として作られたからです、軍部の方式に従ったまでなんです…。 すみません、完全に言い訳です、気付いたので謝っておきます。 自分への戒めの為にあえて訂正はしません。 2009/4/25 BACK |