神は何故、人間に両腕を与えたんだろうか?
平和を望み、この世界で人の為に何かを創造し、誰かを愛でる為に与えられたんだろうか?

だが、人はその腕で破壊を尽くし、闘いを幾度も繰り返してきた。
幾度も、幾度も…。

だが、闘う為にも守る為にも、その腕には力が必要だ。
力がなければ、何一つとして、我々はこの世界で大成する事ができない。
平和のためにも、争いのためにも…。


その腕に、力がある。
そして、その腕で何をする?



力を持つ腕



この腕で、創造を始めたのがいつなのか…そんなものは、遠い記憶の中に置いてきてしまった。

だが、おそらくは子供よりももっと幼い、幼児と呼ばれる時代からだ。
何か大きな事を望んだわけではない、ただ作るのが楽しかった。
自分の手で、自分の思い通りの物が出来上がるのが。

それから時間が進むにつれて、自分が作る物の完成度は上がっていく。
成長に伴って、自分の持つ技術が、知識が、何よりも経験が上がっていくから。

科学の進歩に比べれば、自分ひとりの成長なんて小さなものだ。
生物の進化に比べれば、自分の成した事なんて大したものではない。

ようは、俺でなくてもよかった。

いつかきっと、自分と同じレベルの技術者が世界に現れただろう。
もしそうでなかったとしても、きっと技術は進歩してこのレベルにいつかは到達する。
成長したものは、後に戻る事はできないのだ。
一度到達した技術のレベルは、時間が過ぎてしまえば一般化し、やがては錆付いた技術になる。
だからこれは、偶然。
俺がただ、一般よりも少し、力を有してしまっただけの事。


「では、完成はまだ先になるのだな?」
電子的な声がそう尋ねる。
「ああ、まだAIのプログラムが完成してないんだ」
目の前のディスプレイに向かってそう話す。
この会話は、そのまま連合軍のスーパーコンピュータを通じて軍部の上層部にも伝わるだろう。
その為の報告なのだが、別にこんなに頻繁に行う必要もないだろう、と俺は思ってる。
だって、制作を一から手がけ、一人でその制作を行っている以上、そこまでの進歩は求められない。

「完成の目処は何時ごろだ?」
「さあ?プログラミングをしてるのは他の奴だから、アイツに連絡を入れてみないと分からない」
「ボディの方はどうだ?」
「そっちはほぼ完成だけど、届いた部品に不備があったから少し手直しをしないといけなくなった」

どんなに技術を投入したところで、スピード化を図るのが難しい。
それが、機械人形の制作に関する今の所の全宇宙一致の見解だ。
使い捨てのものならば工場での量産も可能だろうが、しかし連合軍が求めるものはそれではない。

一個体で、一つの完成した軍事兵器として使用できる機械人形。

俺は今、その最新型の人形を軍の命令で制作している。


「では、まだ完成までにはまだ日数がかかるわけだな?」
「そうなる」
「できるだけ早急に完成させるようにしてもらいたい、最近、あまり戦況は良いとは言えない」
「分かってる、できるだけ早く完成させるよう努力するよ」
「そのように頼む」
そう言った後、ディスプレイの声は「報告は以上か?」と尋ねた。
これ以上、何も言う事なんてなかったので、俺は「そうだ」と言った。
「では、早急の完成を頼む」
と、念押しをした後、ディスプレイの声は切れた。
俺はそれを聞いて、小さく溜息を吐いた後、通信室を出た。


「報告は終わったのか?」
「ああ、わざわざ済まないな」
「お前の護衛が、俺の仕事だ」
それ以上は何も言わず、俺の隣を歩く物静かな男。

戦争請負会社「SeeD」のエース、スコール・レオンハートだ。
彼は今現在、この研究所で機械人形制作の責任者である俺の護衛を行っている。
この任務について、かなりの期間が経っているのだが、エースが抜けて会社の方は大丈夫なのか?
それとも、エースを長期に渡って派遣してでも、この機械人形の制作は重要だと思われているのか。
軍部の考えは俺には分からない。

「今日はもう休むのか?」
エレベーターを待つ間に、スコールが俺にそう尋ねる。
「いや、まだもう少し作業しないと」
「…無理、してないか?」
じっと、俺の事を見つめる無表情な彼。
青空のように澄んだ青い目と、作られたグレーの目が俺を見つめる。
声からも表情からも、彼の感情を感じ取るのは難しいが、スコールが俺の事を気遣ってくれているのは、よく分かった。

「大丈夫だ、後少し作業したらもう休むから」
少し微笑んで彼にそう言うも、信じているのか信じていないのか、彼の表情は変わらない。
「昨日もそう言って、徹夜で作業していたな」
確かにそうなので、いいわけはできない。
強い視線でそう言う彼は、俺に休養を取るように訴えかけている。
「心配するなよ、本当に無理はしてないからさ」
そんな彼に対して、苦笑いして俺はそう返答する。
「別に、心配したわけじゃない」
ふいっと、ようやく視線を逸らしたかと思ったら、ちょうどエレベーターが到着した。
狭い箱に乗り込み、目的の階のボタンを押すと、ゆっくりと重力に逆らって動き始める箱。
地下五階から、地下一階の俺の研究室兼作業室へと向けて、ゆっくりと登っていく。

「この戦争、いつまで続くかな?」
「さあな」
「俺は、早く終わってくれる事を願ってるんだけど」
「誰もが、そう思ってる」
確かにその通りだ。

戦いを望み続けるような者は、そうざらに居ない。
自分達が平和に、安全に暮らしていける事を、多くの者は願っている。
それなのに、戦争を行う理由は…人の欲望のため。
純粋な願いで、暴力は生まれない。
ただ、欲望に対して反発する思いの中では暴力が生まれる。

力に勝つには、力を持つしかない。
それがどんな力なのかは、対する敵によるだろうが…。
連合軍が求めるのは、兵器という暴力としての“力”だ。
その得た力で恨みと憎しみを生んだ後。
全てを力で押さえ込み勝利した後で、その先に求める平和な未来があるわけでも、ないというのに。

それが分かってて、俺はこの腕に持った力を使わなければいけない。


チンという軽い音と共に、エレベーターのドアが開く。
ドアの開いた先に、また巨大な電子ロックのドアが立ち塞がる。
白衣のポケットから職員カードを取り出し、認証確認の後、今度は網膜認証を行う。
部屋に入るのに手間だな、と毎回思うが…そこまでしなければいけない理由もあるのだ。
登録している網膜と確認が取れたのか、ピッと軽い音がしてドアが開いた。

重い電子ロックのドアの先に広がるのは、殺風景な廊下。
今この階を使用しているのは俺だけだ。
一人で使うには広すぎる気がするのだが、折角なので有効利用させてもらっている。
どうせ、使っても使わなくてもタダだし。

「あんまり根を詰め過ぎるな、今はお前に倒れられた方が、連合軍には痛手だ」
「ああ、分かってる。スコールは先に休んでてくれ、それじゃまた明日」
「…ああ」
作業室の前でそう会話を交わした後、俺は作業室の中へと入った。


入って部屋の明かりを灯すと、すぐにコンピュータのメールのチェックを行う。
ここに連絡を入れるには、軍部のチェックがかかる。
そのため、軍に関わりのない者からの連絡は、全て遮断されてしまう。
勿論、こちらからも連絡できない。
唯一の家族である弟へも、しばらく連絡が途絶えたままだ、心配…してるだろうな。
「ゴメンな、ティーダ…」
小さく弟に謝り、メールのチェックを行う。

報告に向かっている間に入っていたメールは三件。
内二件は、機械人形の制作に関しての関連部署からの報告。
ポケットに入れたままだった眼鏡を取り出し、報告書にざっと目を通す。
最後の一つは、古い知人からのものであり、俺がここしばらくずっと待っていた連絡だ。

『From:バッツ
 Sub:例のAIの件で…

よう、元気にしてるか?
前に依頼された機械人形のAIだけど、ほぼプログラミングも終わって、もうすぐ完成だ。
明後日くらいには、完成すると思うから楽しみに待っとけよ!

戦況はあんまり芳しくないらしいな、そっちは安全か?
俺はなんとか、のらりくらりとやってるよ。
相棒のボコも元気だぞ!!

例の人形の完成も近いんだろ?完成した暁には、弟君になんとか連絡入れてやれよ。

じゃあ、AIが完成したらまたすぐに連絡する、またな!!』

噂をすれば…という奴なのだろうか?
「楽しみに待っとけ、か…良かったな」
俺は作業台の上に寝かされたままの製作途中の機械人形に、そう話しかける。
銀髪で肌の色の白い、整った顔立ちの青年。
目は閉じたまま、今はまだ動かないが…もうすぐ、その目を開ける事になるだろう。


…本当は、俺だって戦争の兵器となる運命を背負った人形を作るのなんて、嫌なんだ。
人間の都合によって作られた彼等には、感情というものは存在しない。
人の思うがまま、命じられた通りに働く。
例え、どんなに非道な事であろうとも、迷わずに行える。
例え、どんな辛い戦況でも、逃げ出さずに闘う。
彼等にとっては、扱う主である人間こそが全てだ。
だから、俺は今まで作ってきた人形の多くも、またこれから作る人形にも、できるのなら人の役に立つ仕事をしてほしいと思ってる。

彼にしても、そうだ。

本当なら、戦争で闘うのではなく、できるのなら誰かを守るために存在してほしい。
識別番号ではなく、一体一体に名前を付ける理由も、誰かにとって彼等が特別であってほしいからだ。
その願いが、達成されているのかは…分からないけれど。

作業用のライトを付け、まだ完成のしていない腕の制作に取り掛かる。
彼のこの腕には、制作する俺とは違い、何かと闘う“力”を有する事になる。
それで何かを破壊するのか、それとも…何かを守るのかは、分からないけれど、でも…。
こんな事望むのは悪いと思うが、それでも思う。
できるなら、彼はその腕で何かを守ってほしいと、そう…。


そう願う俺が彼に付けた名前は、『ウォーリア・オブ・ライト』。
“光の戦士”という意味のこの名は、ある物語の主人公から名付けた。
彼のように、世界を守る存在になってほしいとそう願って。


叶わぬ願いだろうと、諦めていた俺の願いが、思いも寄らぬ形で叶う事になるなんて…。
この時点では、誰も、俺自身も思っていなかった。




1へ



後書き
(´ー`)様の作られたSF設定にもの凄く萌えを感じてしまい、勢い余って書いてしまいました。
だって!科学者とか、ロボットとか、天才少年とか…こういう設定大好きなんですよ!!
ガンダムとかは見てないんですが、攻殻機動隊が好きなんです、メッチャカッコいい!!

因みに、白衣には眼鏡がなくてはならないアイテム…っていうか、あれは二つでセットだと思ってます。
なので、このシリーズでは私の個人的な趣味により、フリオニールは勝手に眼鏡装備です。

これから先、このシリーズかなり長くなりそうですね…。
まあ、それも覚悟の上ですが。
途中放棄だけはしないように、全力を尽くして頑張ります。
2009/4/23


BACK