改めて聞かれると困る

 祭も終わってしまえば思い出だけが残るもの、楽しかったって記憶だけが。賑やかになったカルデアで、今年も人それぞれの思い出があったと思うんだけど。
「そういえば、マンドリカルドはハロウィン当日に見かけなかったね」
 レイシフト先で出会ったからなんか意識なかったけどと言うマスターに、向こうも色々とあったみたいですねと誤魔化してみるも、しばらく沈黙したあとなにか隠してると聞かれる。
「いや、なんもないっすよ」
 こう陽キャがウェーイしてるノリのお祭りはちょっと、あんまり得意とするところじゃないんで、日陰で大人しくしてましたよと答えると、そっかと納得してくれたか不明な返答をいただく。 「なんかね、子供系サーヴァントからの報告でさ、見たことない綺麗な人がいたって聞いたんだけど、その様子じゃ知らない?」
 誰も顔をはっきり覚えてないって言うからさ、どんな高位サーヴァントなんだろうなって探しててさ、カルデアにひょっこり流れて召喚されたわけもないし、敵襲とか色々と考えてしまったんだけど。
 心当たりがありすぎるものの、流石はメディアの施した礼装だ、本当に身バレしなかったようで安心したが、マスターにいらぬ心配をかけてしまったのは心苦しい。
「特に実害もないし、幻霊の類なのかなとか思ったり」
 ハロウィンって冥界と繋がるとかそういうお祭りだっていうし、そういう不可思議なことも起きたりするのかな。
「ああほら、現世に興味のある王さまがフラっと来たりしたんじゃねえっすか」
「なんで王さまって知ってるの?」
 見知らぬ人とは言ったけどさと指摘され、うっと思わず言葉に詰まるものの、いやほら高位サーヴァントってことだったんでと上擦った声で返せば、神霊かもしれないし幻霊かもしれないのに、わざわざ王さまだって知ってるのが変だなって。
「なにか知ってるでしょ?」
「いや」
「縫製室に引きこもってた割に、当日見なかったってアストルフォからも報告があってね」
「すみません」
 事の顛末を掻い摘んで伝えると、そこまでして誤魔化す必要あったと聞かれる。
「いくら見たいと言われたからといえど、王族の正装ってのは、この場ではあまりに恐れ多いっていうか」
 目立ちたくはないけど、格好が格好だけにどう足掻いてもそれは無理があるってもんで、結果的にああいうことになりまして。
「気にしなくてもいいのに」
「無理でしょ、流石に」
 本当はあいつの部屋だけにしようかと思ってたのに、色々とお力添えを頂きまして、目立つことなくカルデア内をあいつの言うデートができたわけです。
「そういうことなんで、危険性はないです」
「わかった、じゃあ新所長には古代王の気まぐれだったって報告しておくから」
 触らぬ神に祟りなしってやつで、本人が満足してるしオッケーってことにしておくからねと言われて、本当にご迷惑おかけしましたと頭をさげる。
「でもカルデア内を二人でブラブラしてただけ?」
「軽く散歩しただけっすね」
 自分には認識阻害があったものの、あいつは違うんで知り合いにみつかる前に早々に退散しましたので、まあ本当に些細なお出かけだったなあと。
「はじめちゃんから、ローランがお姫さま抱っこでどこぞの貴人を連れ去ったのを見た、って報告もあったんだけど」
「見てたんなら止めてほしかったっすね」
 というか不審者なのわかってるならその場で止めろよと思うんだけど、相手がなんとなく予想がついたから極秘でのタレコミだったんだよ。
「無理に連れ去られてるわけじゃなくって、同意のうえっぽいから見逃したって」
「いや同意したわけじゃ」
 別にラブラブでも怒らないよ、夫婦サーヴァントも恋するサーヴァントも多いんだからと言われても、そういう表立って目立つのはいやですよと首を振る。
「外野の声が怖い?」
「まあそういうやつです、普通に知り合いからイジられるのもちょっと苦手」
 ふうんと再び納得したのかどうか不明の返事を聞き、やっぱ浮ついてるとか言われたくねえんでと返せば、そう言うけど実際のとこ好きでしょと笑顔で告げられる。
「まあ、好きでもなければオッケーしてませんけど」
「周りが思ってるより、好きでしょ?」
「いや普通っすよ」
 普通ですたぶん、世の中のカップルの熱がどれほどのものか知りませんけど、一般人の許容範囲のはずですよ。あいつが恋に狂う男なだけで俺は別に、そこまで派手ではねえんで。
「でも恋人に褒められたいから、おめかししたんでしょ?」
「まあ、そうなんですけど」
「さてはお楽しみだった?」
「女の子がそういうこと言うもんじゃねえっす」
 やっぱりラブラブだよねと再び聞かれて、いやどうなんでしょう、本当に普通だと思いますよと返すしかない。
「やあマスター、マンドリカルドも一緒か」
 よかったらこれから昼食にでも行かないか、と快活な笑顔で誘いをかけてくる相手に、時間もいいですしそうしますかと腰をあげたところで、ねえローランはさマンドリカルドのどんなとこがいいな、と思うのと彼女から追撃の質問が投げられる。
「ええそうだな、信念を貫くところも、意志の強さも、高潔さも素晴らしいところだと思うけどな」
 恋人として、魅力的だなって思うところはと聞かれて、なんだ惚気話の類なのかとちょっと照れたように頬を染める。
「そうだな、こういうこと正面から聞かれると、ちょっと困るな」
「不満とかはない?」
「特にはない、な」
 それならよかった、恋に狂うローランが正気を保っているのは、やっぱりうまくいってる証拠だよね。
「改めてこういうこと聞かれると、困るな」
「まあでも、うまくいってる証拠かな」
 これからも上手いこと手綱を握っておいてね、と言ったマスターだけど、それは果たしてどちらに向けられた言葉だったんだろうか。まあどちらにしても、やっぱり聞かれると困る。

あとがき
年齢制限ものにするって言ってたんですけど、普通に間に合いませんで、ズルズルした結果このネタは後日談で締めくくることにしました。
なんにせよ、お付き合いくださいましてありがとうございました。
2022-11-07 Twitterより再掲

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