改めて聞かれると困る

「おまえさ、かつてアストルフォの女装で正気に戻った、とかいう話あるじゃん?」
「なんか色々と間違ってるような気がするが」
 違うのかと言われると、そうでもないから困るんだけど。それがどうしたんだ聞き返せば、ああいうのが好みなのかと視線を逸らしたまんま問いかけられた。
「ああいうのっていうと」
「ミニスカとニーハイの元気系少女?」
 いやアストルフォに関しては本人が気に入っちゃっただけだし、あれは別に俺の趣味ってわけじゃないぞとつけ加えると、ふうんと信じてなさそうな気のない返事がされる。
「待ってくれ、別にアストルフォとそんな、疑われるような関係じゃないぞ」
 それは疑ってねえけどさとつぶやくので、本当だぞ嘘じゃないからなと念押しして言えば、ちゃんと話を聞けと溜息混じりに返される。
「俺が聞いてるのは、おまえの好みの話」
「好みって?」
「あーその、好きな格好というか、フェチというか」
 なんかそういう好きなもんとかねえのと、小声になりながら告げられ、しばし意味を考えてから、心配しなくてもきみは魅力的だぞと返すと、だからそうじゃないと赤い顔で叫ばれる。
「やっぱいいっす、変なこと聞いて悪かったな」
 今日はもう帰ると言うと、引き止める声をかけるより前に足早に出て行かれてしまった、なにがどういいのか変なこととはなにを指すのか、残された自分としては、今のなにが悪かったんだろうと首を傾げることになったわけなんだが。

「そりゃお兄さんが悪いよ」
 なんでと聞けば相席していた相手は蕎麦をすすりながら、情緒がないって言ってんのよ、可哀想にと溜息混じりにつぶやく。
 シュミレーターでの訓練が終わって、今日あんた珍しく上の空だったよねと気にかけてくれたので、いやちょっと悩みごとがと言えば、話くらいは聞いてもいいよと昼食も兼ねて食堂に移動してきた。
 珍しい組み合わせだなと指摘されたものの、セイバー同士ってことでたまにはねえと言う斎藤さん連れられて席に着き、昨日のことを切り出してみたところ、あっさりこちらに非があると断言されてしまったわけだけど。
「俺の返答って、そんなダメか?」
 あいつは充分に魅力的だし、俺はきみだから好きなんだ心配するなって言いたかったんだけど、浮気を疑われてるわけじゃないんだって、本人もそう言ってたでしょ、きみ女心がわからないって言われない、と笑顔で痛いところを突いてくる。
「いや、マンドリカルドは男だぞ」
「なら余計にわかってやれよ、って話」
 仮にでもなく恋人からそんな話を振られたってことは、あんたの好みに近づきたいってことじゃない。しかも恥を忍んで自分から聞いたわけでしょ、あの子の性格からして勇気を振り絞ったと思うんだよね、と呆れた口調で続けられるので。好みもなにも恋人に魅力がないわけないだろと堂々と返すと、そうじゃなくってさと溜息を吐く。
「いやあんたは知らないか」
「なにを?」
 そこで十月のイベント、ハロウィンのことを要点を掻い摘んで教えてくれたのだが、なんか俺の知ってる祭りとイメージが違うというか。
「ここじゃわけわかんないことは、日常茶飯事だけどね」
「それは否定しない」
 これだけの数の英霊を召喚していることが、まず異常事態ではあるんだけど、それを差し引いても季節の出来事なんて、大抵は正気の沙汰じゃないと苦笑気味に言う。
「だからこそ、普段できないこともできるってわけ」
 たとえば聖人君子が服着てそうな恋人の前で、ちょっと浮かれた格好してもいいかなと考えたりさ。
「そういう、ことか」
 理由を聞けば納得できる、そうであれば俺の解答は確かに間違ってたわけだ。
「今回はあんたが知らなかった点と、相手の説明不足も込みで許してもらえるんじゃない?」
「だといいんだが」
「心配するほどのことじゃないでしょ、痴話喧嘩にも満たない類だし」
 そうとわかれば謝って来ると立ちあがると、いってらっしゃいと笑顔で見送られた。

あとがき
ハロウィンネタの前段階、ローランの好みってどんなのという話。
2022-10-05 Twitterより再掲

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