面倒に巻きこまれるのは御免なんで

 最近アニキはよくコトブキムラに行っている。確かに色んな商店は揃っているし、ポケモンバトルの道場は最近特に人が集まる場所になってきた、集落の外で色んな人と交流をするようになって、なんだか楽しそうだ。
「あれくらい普通だと思うがね」
 元より社交的かつ人懐っこい性分のお人だったんだろう、シンジュ団と諍いの芽がくすぶっていたころと違って、今は各団とは和解と交流の道が進み始めている、生来の人好きする部分も発揮され人の中心にいるのが楽しいというところじゃないか。
「アニキのことわかったような口をきかないでくれたまえ」
「そもそもツバキが言い出したんだろう、おまえのところの長にはさほど興味はないんだがね!」
「アニキの素晴らしさがわからないって言うのかい!」
「いや話してみたところ面倒見のいい人だとは思うよ、よく慕われているのもね、ただオレからの所感はそれ以上でも以下でもない」
 なにせ親しみをこめて話をするようになったのは最近なんだ、まだ相手のことはわかりかねるよと言う相手に、仕方ないから素晴らしさについて教えてやろうと言うと、結構だと両断される。
 なんでだようと噛みつけば、採掘現場まで乗りこんできて無駄な話をするのはやめてくれないかね、といつもどおりの可愛くない言葉で返してくるキクイに、寂しがらないよう会いに来てやったんだぞと胸を張って返すと、オレは仕事中なんだがねと顔をしかめられる。
「仕事中って、岩肌から小石を取り出してるだけだろう」
「鉱石の調査中なんだよ、邪魔しないでほしいね」
 なんだようツバキが邪魔だって言うのかいと反論すれば、そうだと言っているだろうと呆れたようにつぶやく。
「大好きなアニキに相手にされなくて、拗ねているのかもしれないがね」
「そんな子供っぽい理由なわけがないだろう!」
「どの口が言うんだい。ともかくね、セキさんが相手してくれないからって、オレのところに来ても構ってはやれないからね」
 きみが手にしているそれも調査対象なんだから、勝手に触らないでほしいんだけどねと、近寄って来た相手に石の塊を奪い取られる。なんだよツバキより石のほうが大事なのかようと返すと、今この瞬間においてはそうに決まってるだろうと溜息混じりに返される。
「そんなに会いたいなら本人のところへ行ったらいいだろう」 「キャプテンがリーダーにつきまとうなって怒られたんだよう」
 酷いと思わないかと言うと、至極真っ当な言い分だと思うがねと呆れた口調でつぶやく。
「そんなに独占したいのか?」
「当たり前だろう、ツバキのアニキだよう」
「いや違うと思うが」
 少なくともおまえのものではないと言われ、ムッとしてそんなことないと否定するも、大の大人がそんな我儘を言うのはどうかと思うぞとげんなりした顔で返される。
「里の子供だってもうちょっと親離れできているというのに、なんでそんなにセキさんに引っついて回るのかね」
「アニキはボクの大切な人だからね」
「なにも説明になってないぞ」
 どういう感情なんだそれはと渋い顔をする相手に、きみの考えが及ばないほどにボクはアニキを愛しているというわけだと返すと、早々に兄離れをさせるように今度ヨネさんに進言しておくよと、採掘用のノミを手にまた岩場に向き合う。
「なんだよ、ツバキに言えばいいだろう」
「こんなに言葉が通じない相手も初めてだね、信頼できる人に申告するのがいいとみた」
 そもそもオレに言われて態度を改める奴ではないだろうと言われて、やめる道理がないからねと返すと、なんでそう胸を張って言えるんだとげんなりした顔で返される。
 なんだよおまえまでボクを邪険にするのかようと口を尖らせると、邪魔されているのに優しくされると思うかと首を振る。
「これをやるから、今日は帰ってくれないか」
 投げて寄越されたのは山麓で取れたのであろうケムリイモの入った袋だった、なんだよこれと聞くとここに来る途中で採取して来た物だ、お裾分けというやつだねと言う。
「大好きなアニキに調理してもらえばいい」
「ふーん、どうしてもと言うのなら受け取ってあげなくもない」
「いいからもう帰ってくれないかね」

 天冠の山麓にある採掘場で静かな金属音が響いている、事前にノボリから話は聞いていたものの居てくれて安心し、音のするほうへ足を向ける。
「よう精が出るな」
「コンゴウ団は時間を大事にする人たちじゃないのかね」
 ノミをふるっていた少年が手を止めて振り返るので、邪魔する気はないんだけどなと言うと、ついさっきまでツバキが来てたんだよといやそうにつぶやく。
「ずいぶんと無駄話につき合わされてね、調査の時間が押しているんだよ」
「そりゃ悪かったな、そのツバキはどうした?」
「入れ替わりだね、コトブキムラに行ったんじゃないかな」
 約束してたわけでもないし、そもそも用があったのはキクイだったので問題はないのだが、そう言ったらなんの用ですと怪訝そうに首を傾げる。
「最近、ツバキと仲良くしてくれてるってヨネに聞いてな、一方的に絡まれているだけかもしれないが、あいつも悪気があってしてるわけじゃねえんだ」
「悪気がないほうが始末におえないんだがね」
「そう言うなよ。ちょっと問題児なところはあるが本当に悪い奴ではないんだ、頼むから今後もよろしくしてやってくれ」
 これ簡単な物だが手土産だ、よかったら調査の合間にでも食ってくれとイモモチの入った器を渡すと、わざわざありがとうございますと頭をさげる。ただ長自らが弟分のことよろしくって挨拶しに来るなんて、ちょっと過保護すぎるんじゃないかねと指摘されるので、返す言葉はねえよと苦笑するしかない。
「このためにわざわざ来たんですか?」
「それもあるが、今度コンゴウ団の集落のみんなにポケモンバトルがどんなものか、実践的に訓練できるような機会を設けないかって話していて、腕が立つ奴を探してるんだよ」
 ヒスイ地方ではまだバトルに慣れていない人のほうが多い、日頃から鍛えている者となれば白羽の矢が立つのは理解してほしい。
「わざわざオレを頼りに来たのか?」
「ノボリさんにはもう声かけてるんだがな、せっかくなら様々なタイプを使う者がいたほうがいいだろ」
 ツバキはもちろん出るぜ、あれと手合わせしてやってくれよと言うと、直接的に勝負するのは悪くないと少しご機嫌になるので、もちろん手加減は不要だぞと返す。
「だがツバキはどくタイプのポケモンが相棒だろう、オレの相棒は」
「構わねえよ、タイプ相性っていうのを知ってもらういい機会だ」
 実際にバトルをする場面でもそうだが、対面したポケモンにどう接すればいいのかを考える場にしたい、ヌメラたちは紅蓮の湿地にも生息しているから、コンゴウ団のみんなにとっては馴染みのあるポケモンでもあるしな。
「あんたならどう育てればいいのかも答えられるだろ」
「もちろん、このヒスイでオレ以上にヌメラたちに詳しい者もそう居るまいよ」
 しかし随分と挑戦的なことをするもんだと言う相手に、コトブキムラの人たちはどんどんバトルの腕をあげてきているからな、実践的な道場には敵わなくとも代わりになるようにしていきたいだろ。
「確かにそういう試みは大事だ、うまくいきそうならシンジュの集落でも開いてみるのもいいかもな」
「いいんじゃねえか、オレでよけりゃ協力するからよ」
 それじゃ当日は楽しみにしてるからなと言い置き、帰ろうとしたところでああそうだと呼び止められる。
「他人の家に口出すことじゃないかもしれないがね、ツバキをあんまり甘やかすのはよくないと思う」
「甘やかしてるわけじゃないんだが」
「そうかね、側から見てるとずいぶんと図に乗っているように映るがね」
 元凶はあなたでしょう、ちゃんと手綱を掴んでおくべきだと思うねと言う相手に、おまえも大概だと思うがなと返すと、どういう意味かなとムッとした表情で返される。
「やっぱりヨネさんにしっかり聞かせてもらったほうがいいか」
「すまんがそれは勘弁してくれ」

「ウチのが二人して、随分と迷惑かけたみたいだねえ」
「セキさんには特に迷惑かけられてないがね」
 差し入れは美味しくいただきましたし、実際とても美味しかった。お礼は今度のバトルの約束の日でいいだろうと思うものの、解決できてない問題が一つ。
 仲良きことはよいことかなとは言うが、それも限度ってものがあるんじゃないのかいと指摘すれば、痛いところを突かれるけどなんていうのかね、どうしても身内には甘くなってしまうんだよと返される。
「よく生き延びて来られたね」
「あんたは知らないだろうけど、ツバキはね子供のころは昔は今よりずっと大人しい子でね。この厳しい大地で立派に生き延びられるかセキは特に心配してたんだよ、一番年の近い子だったから」
 あの子に自信をつけさせて、色んな意味でたくましく育てた、そういう過去があるからしょうがない奴だって言いながらもセキはツバキに甘く出る、誰が見てもはっきりとわかるほどに。
「ああもちろん、キャプテンとしての任命には欲目はないよ。セキが先代から次代の長として見出されたように、セキはツバキに団を支えるべき存在としての特訓を行った」
 あたしも加わってそれはもう激しく切磋琢磨して鍛えあげたもんだ、なにせ練習相手になれる人は限られる、弱かったあの子を奮い立たせて自信をつけさせるのにどれだけ時間がかかったか。
「ツバキはコンゴウ団の中でもポケモンを戦わせる才能を持ち合わせている、セキにとっては手を焼く弟分だけど、やはり自慢でもあるんだよ」
 だからあれになにを言っても暖簾に腕押しってところだろ、あたしですら自信はあまりない、でも確かに依存しすぎだとは前々から思ってた。
「本当の意味で独り立ちが必要なんだろうね」
「できると思います?」
「やれるだけのことはやるさ、これ以上よそさまにご迷惑かけるわけにはいかないし」
 でもよければ今後とも仲良くやってくんな、あたしやセキの他にも自分の話を聞いてくれる相手がいるっていうのを知るのは、独り立ちの足がかりになるかも。
 そう話してくれるヨネさんに、つまり体よく押しつけてませんと指摘すれば他にあの子のトンチキにつき合えるような稀有な子がいないもんでねと困ったように言われる。
「ツバキとうまくつき合う方法はね、あの子にできることをめいいっぱいに褒めることだよ、上手くいけば早く仕事を終わらせられるかもしれないよ」
「そんな都合よくいくもんかね」
 大体それって相手を利用しろってことだろう、人間関係として健全なものだろうか。
「キクイはあたしたちの身内じゃないんだ、お互いの足りないところを補い合うか、なにか利害が一致してる関係のほうがずっとやりやすいんじゃないかい?」
 それは否定しないけれど、あれを使うっていうのがね気が進まないというかね。
「利害関係ありきとはいえども、なんか友達って認めたみたいで非常にイヤだね」
「あんたたち真逆のようで意外と気が合うと思うよ」
 そんなこと言われたくないですと言うと、同じことツバキも言ってたよあんたと同じ顔してさとヨネさんはおかしそうに笑う。
「ああそうだ、この間のケムリイモありがとうね。いい物だってセキは喜んでたし、ツバキは色々と御宅を並べてたが、要約すると今度はなにかお礼を用意するってさ」
 つまりあいつとまた顔を合わせる機会があるということ、今度はどんな話しにつき合わされるのだろうか。それはともかく、一つだけ約束しておいてほしい。
「採掘現場に来るのは邪魔だから、他のときに頼みます」
「伝えておくよ、しっかりとね」

あとがき
ヒスイの夜明けのキクイくんとツバキくんの関係が、めっちゃ好きだなって。
ああいう追加ストーリーとか有料でもいいんで、また来てくれないかなあ。
2022年3月17日 pixivより再掲
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