キャンディーキスはまだ早い
「カイさん、目つぶって口を開けてみてください」
「なあに?」
これでいいと口を開けてみるとポンと中に丸いものが入ってきた、恐る恐る舌先で確かめてみると、ざらりとした舌触りと共に甘いモモンの実の味が口に広がる。
「これは、飴?」
「はい、コトブキムラの飴屋さんが最近売り出した新しいのです」
美味しいですかと聞いてくるショウさんに、美味しいと歓喜の声を返すと包みを外して自分の分を口に入れる。
「こういうのもあるのね」
「砂糖を煮詰めたものだけじゃ、やっぱり飽きてきますからね」
ポケモンだってきのみの味に好みがあるようだし、色々な味を開発しているらしい。そういう飽くなき探求が新しい商品になるんだと語る相手の話を聞きながら、今度ムラに行ったら買ってみようと検討していると、なんだおまえらも来てたのかと声をかけられた。
「なんでここに」
「イダイトウの様子見に来たんだよ、悪いか」
じゃあなと行こうとる相手を見て、カイさんと小声で引っ張られる。
「今、ススキさんの家にガラナさんいるんじゃ?」
「あっ」
そうだった、私はしまキングと二人の様子を見に群青の海岸まで来たわけだけど、あのせっかち男はまだ二人の仲は知らない、仮に知っても反対はしないとは思うが、とはいえこんなバレかたはあんまりだ。
「ちょっ、ちょっと待ちなさい!」
「ああ?」
なんだよこっちは忙しいんだよと不機嫌そうに返すセキに、呼び止めたはいいがその後のことは考えていなかったと内心慌てる。
「さっきススキさんのところ行ったんですけど、家にいらっしゃらなかったんですよ」
「そうなのか?」
そうなんですよ、私もイダイトウのお礼言いに行きたかったんですけどと続けるショウさんの言葉に疑いは持たなかったらしく、漁にでも行ってるのかもなと返すので、助け船を出してくれた相手にありがとうと目線だけで返す。
「しょうがねえ出直すか」
「そんな遠くに行ってないかもしれないですし、しばらく待ってから会いに行けばどうですか?」
私たちも休憩してたんでセキさんもという誘いには、こいつとかよと嫌そうな顔を向けられる。
「まあいい、行き違いになるのも時間の無駄だな、お言葉に甘えさせてもらうぜ」
じゃあお茶でも入れましょうかと提案するショウさんのため、近くで薪を探しましょうとせっかち男に声をかける。
「ガラナちゃんのとこ行って来るわ」
「あ、それならムックルに手紙を運んでもらいましょう」
ここからエイパム山までは遠いし、鳥ポケモンの力を借りたほうが早い、人にバレる心配もないしという相手に、なにからなにまでありがとうと礼を返す。
「なんの話してたんだ?」
「乙女の話に首を突っこむな、野暮だぞ」
「そうかよ」
さっさとみつけて来るぞと林の中で薪になる木材を探す相手に、当たり前でしょうと手際よくこちらも材料を集める。慌ただしい羽音が響き、手紙を持ったムックルが山の方へ飛び立って行くのを見つめ、多少は時間が稼げたかなと安心する。
思ったより多かった薪に火をつけ、三人分のコップを用意し、お茶の準備を進める相手に手慣れてるなと思ったものの、調査の途中でこうして休憩することもままあるのでと返されて、そういうものかと関心した。
「変わった香りのお茶ね」
「ムラで育てたハーブを使ってるんです、色々と調合があって香りや味が変わってきて」
医療班の人から効能を教えてもらったりして、楽しいんですよ。そう教えてくれる相手の話に耳を傾けつつ、熱い湯気の立つお茶で舌が痺れるので冷ますために軽く息を吹いてみる、焼石に水程度の効果だろうがないよりはマシだ。
「おまえ暑いのが苦手っていうのは、飲み物にも適応されるのか」
「湯に触れれば舌も火傷するだろう、おまえも我慢しているだけで口の中が爛れてるんじゃないか」
「猫舌と一緒にすんな、こんな程度、大したことねえよ」
べっと舌を出してみせる相手にムッとした顔を向けるものの、ゆっくり飲みましょうよと仲裁の声をかけられると黙って中身をすするのに戻る。
「そうだセキさん、飴もあるんですけど食べます?」
「おう、ありがとうな」
手のひらに転がる薄桃色の飴玉を指で摘んで、綺麗な色してるなとつぶやいた後一口で飲みこみ、美味いなコレと感想を述べる。
「でしょう、ムラで最近売り出してて」
ガリッという硬い物が割れる音が響く、えっと思ったものの続けて噛み砕く音が鳴るので間違いではない。
「おまえ飴だぞ?」
そんなすぐに噛むものではないと指摘したら、食べ物には変わらねえだろとジト目で返してくる、こいつ悪いとも思ってないな。
「信じられない、味わって楽しむっていう感覚がないのか」
おまえの持てる時間をたまには有意義に使ったらどうだと叫び返すと、大して変わらないだろうがと呆れた口調で返してくるが、これは私の間違いではないだろう。
「飴はすぐ噛んでいいものじゃない!」
「いいだろうが人の勝手だろ!」
こんなことで言い合いをするのも馬鹿らしい、それはわかっているものの、強気に張り合ってくる相手を前に引くのはこちらが負けた気分になっていやだ。
「ショウさんだって思うでしょ、初っ端から飴を噛む奴はいやだって」
「歯に悪そうだなあとは」
「ああ?」
なんだよカイの肩持つのかよと苛立った牙を向ける男に、子供でもわかるような行動を取っているおまえが悪いと返す。
「ああいや、私の友達にも飴をすぐ噛んじゃう人いたんで、悪いとは思いませんけど」
癖みたいなものなんで、他人がどうこうできるものでもなさそうですし。
「ああでも、飴をすぐ噛む人は欲求不満だとか言われて」
この子なんでこういう失言するんだろという冷めた感想より先に、女子二人の前でそれはないわと冷えた視線を向ければ、いや関係ねえだろと苦い顔をしている。
「自覚がないから無意識に出るんだろう」
「友達もそう言ってからかわれてました」
「からかわれてるんじゃねえか」
根拠のない話だから人を揶揄できんだろ、そうやって必死に取り繕うということは思うところがあるからではないか、私とショウに近づくなケダモノが、と更に低次元の言い合いが続く。
「あっ、あのお二人とも」
苛立ちが混じる声の応酬で周囲のなにも聞こえなくなる直前、あのうと消え入りそうな新しい声が呼びかけられる。
「ススキさん!」
よかったと安堵するショウさんに対し、なんでここにと首を傾げるセキに、戻って来る途中セキさんの声が聞こえたものでと困った顔でつぶやく。
「ここまでいらしたということは、自分にご用かと」
「そうそう、ショウの話だといなかったって聞いたからな」
ちょうどよかった、早いとこ行こうぜと声をかけてお茶ありがとうなと最低限のお礼だけは言えるらしい相手は、そのまま海岸のほうへ歩いて行った。
「ああもう、相変わらずイヤな奴だ」
「そういうことを正面切って言うものではありません」
仮にも長たる者がなんですか今の体たらくはとたしなめる声に、思わず背が伸びる。
「ガラナちゃんいつの間に」
「ススキさまにお送りいただきました、あとこの子をショウさまにお返ししなければいけませんし」
ガラナちゃんの腕の中にいたムックルが自慢そうに翼を広げてみせた、お礼にこれどうぞときのみをあげると、嬉しそうに啄んでいく。
「まったく、手紙を送って知らせるとは機転が効くと感心したのですが、どうやらショウさまの案だったのですね」
「鳥のポケモンを使って、離れた人たちと伝達する方法はないかって話をしていたので」
海岸線ならできそうだねと呼び出したムックルの頭を撫でてあげるショウさんに、より遠くの人とやり取りができれば便利になりそうですねとガラナちゃんも同意する。
「この分では、コンゴウ団のみなさまと交流するのは、依然として難しそうですね」
「うっ、ごめんなさい」
しゅんとする私たちの前で、わかりきっていたことですよとガラナちゃんは笑ってみせる。
「それぞれに遺恨があるのは間違いありません、そもそも、わたくしはセキさまにご挨拶するのはやぶさかではございませんが、まだ時期尚早でもありますし」
「というか、ススキさんとってなると絶対にあいつに挨拶行かなきゃいけないの、最悪」
ですから、そういうことを口にするものではありません、セキさまも悪いおかたではありませんよと言うガラナちゃんに、欲求不満男の肩なんて持たないでよと異を唱えれば、そんな言葉遣いはおやめなさいと再びたしなめられる。
「なぜセキさま相手には当たりが強いんですか」
「だって、なんか気が合わないのよ」
飴の食べかた一つでも癪に触る人なんて早々いるとは思えないんだけど、その真砂の砂一粒を引き当てた奇跡的な相手なのだ、とことん反目してやろうと思う。
「まったく、仕方ない子ですね」
コトブキムラで流行っているという飴を渡してみたところ、口に入れて楽しそうに転がす者は多くとも、ある程度の時間が経って小さくなるまで噛む奴はいなかった。
何人か試してみて同じ癖がないとなれば、いよいよもって自分がおかしいらしいと気づく。
「アニキ眉間にしわ寄せてどうしたんだよう」
声をかけてきた相手に手出せと言うと、わかったとなんの疑いもなく差し出してきたので、やるよと飴玉を乗っけてやる。
「ありがとう」
大事にするねと仕舞おうとするツバキに、今食えよと促せばええと文句をつけながらも、いただきますと口を開けて飴を食す。
大多数と同じく軽い音を立てて舐めていくだけで、噛む気配は特にない。
「あれアニキ、なんかますます怒ってない?」
「いや別に、おまえも噛んだりしねえんだなって」
「そりゃあねアニキから貰った物だし、大事に食べたいよ」
舐め続けるのはダルいだろと指摘したらそんなに気にならないなあと、呑気に返してくれるもんで、いよいよ自分がせっかちであるという証明を受けた気分になる。
「どうして?」
「いや飴をすぐ噛むのはよくねえって、この間ちょっと注意されてな」
そんなにおかしなことだったかと他の奴がどう食べるか観察していたんだが、こりゃオレが間違ってるのかもしれないなとつぶやくと、アニキが間違ってることなんてあるわけないだろうと、自信たっぷりに返すツバキにおまえは相変わらずだなと溜息で返す。
「食べ物なんだから、好きに食べればいいんだよ」
「オレだってそう思うけどな」
欲求不満だとか言われたのを根に持っている。カイが言ったんならバカにすんなって取り合わなかったんだが、発言元がショウであれば話は変わる。あのギンガ団の少女にケダモノと思われるのは心象に悪い。オレ自身はそんな欲深いつもりはねえんだがなあ。
「そんな理由で?」
「教育に悪いって言われたら、流石に気にするだろ」
ウチの団にだって幼い子供はいるんだから、大人がしっかりしてやらねえと後で恥に思われるのはよくない。特にオレなんかはいい見本であったほうがいいだろう、頭はさほど回るほうではないが、態度やら礼儀くらいはしっかり指導できる立場であれと思う。
「どうやって治すの?」
「あー、根気?」
そんな難しいことじゃないはずだ、要は噛むのを我慢すりゃいいだけなんだから、一回できてしまえば問題ない。
まだ持っている飴を一つ口に放りこみ舌先で転がしてみる、ほら簡単だこうして小さくなるのを待てばいいだけ。
コロコロと軽い音と甘い味が口内を満たしている、歯の先が疼くのを抑えて忙しなく舌先で飴を転がしていくものの、何度目かわからない往復の最中で奥歯に挟まった大きな塊に、味わうという行為より苛立ちが勝った。
「だあ、まどろっこしい!」
まだ形がハッキリしている飴を奥歯で噛んで半分に割る、派手な音を立ててひび割れた飴玉を前に、アニキの顎もたくましいよねと的外れな言葉を投げられる。
「なんでおまえは我慢できるんだよ」
こんな小さな塊を口の中で延々と溶かすなんて、やっぱり性に合わない。大人しく待つこともできないのかと、カイがせせら笑う声が聞こえたようなきがするが、幻聴だと首を横に振る。
一回でもできれば二回でも三回でもできるはずなんだ、まずはその一を引き出さないことには話にならない。だというのに無惨にも噛み砕かれる飴が奥歯にくっついて、眉根を寄せるはめにってしまった。
「オレには無理かもしれない」
「諦めるなんてアニキらしくないよう」
頑張ってようと声をかけてくれるツバキに、そうは言ってもなと力なく返す。ここまで来たらいっそ条件反射に近い、飴はもう食うのやめたほうがいいかもなと溜息混じりに返すと、ツバキにいい考えがあるようと目を輝かせて提案してくるので、なんだと話を聞いてみる。
「要は噛むのをやめればいいんだよね?」
「まあそうだけど、そんな簡単じゃねえぞ」
何度となく試して見て無理だったのは目撃してるだろうに、噛むことができない状態にすればいいんだよと、自信満々に口にする。
「どうすんだよ?」
「こうすればいいんだって」
オレの手の中から飴を一個取ると、なぜかそれを自分の口の中へ放り投げてしまう、中の出来事なんて外からじゃ見えないんだぞと指摘するより先に、ツバキの菫色の長い髪が目の前にあった。
はっと声をあげるより先に、口の中に熱く濡れた舌が入りこみついでとばかりに甘い飴玉が転がり落ちる、びくりと震える体を押さえつけられ決して閉じたりしないよう、割りこんだ舌で歯の上に陣取って動く気配はない。
「んっ、ぐぅ……ふっ」
侵入を果たした相手を押し出そうと動かすたびに、口の中でたっぷりの唾液が混じり合う音が鳴る、しかも想像より長い舌の持ち主はこの程度ではびくとも動かず、口の中を行き来する飴を舌先で押しつけてくる。
毒のように甘い香りにむせ返りそうになりながら、こんな凌辱を許した相手から逃れようと胸を押し返そうとするものの、どこにこんな力があるのか思ったより強い力で腕を抑えこまれ、左手はあごの下で顔を固定されてしまった。
そうこうしてる間にも噛まないようにと差し入れられた舌が中で縦横に動き、歯列をなぞってさっき噛んで奥歯に張りついていた飴の残りを舐め溶かし、飲み干せない唾液の中へ落ちていく。
ダメだろなんでこんなこと、そう思いながらも中を転がる飴を舌に乗せられて転がされれれば、無理に溢れる唾液で口の中から溺れていきそうで、丘にあがった魚のごとく呼吸を求めている。
頭に熱が登って視界が揺れている、なにを求めているのかわかりきっているので、押さえつけてくる腕や背を叩き開放しろと主張すると、ややあって残念そうに離れてくれた。
「なんだようアニキ、まだ半分くらいにしかなってないぜ?」
口の中から舌を引き出すと共に、押しこんだ飴玉を器用に持っていった相手が続きをしようぜと言ってくるが、待て馬鹿野郎と頭を思いっきりぶん殴る。
「酸欠で、オレを殺す気か!」
「鼻で息したらいいだろう」
そんな問題じゃねえ、急に口を塞がれてそこまで頭回るか。そもそも口の中を無理矢理に犯されてんだぞ、開放を求めても受け入れる選択肢はない。
「でも飴を噛むのはちゃんと我慢できたじゃないか」
「だから、そんな問題じゃねえ。っていうかこんな、男同士ですることでもないだろ」
「なんで?」
純粋にわからないと首を傾げてくるので、そもそも口をつけた行為に関してはなんの疑問も抱いてはいなかったらしい。
「こんな、好いた相手とする行為だ、これは」
「なら問題ないよ、ツバキはアニキのこと愛してるからね」
アニキとなら口吸いでもなんでもしたいよと満面の笑みで返されるので、おまえがそうでもオレは違うんだよと熱い頬を押さえながら返す。まさか好きだからなんて一方通行の感情だけで突っ走っていい、なんて思っていなかろうな。
「兄貴への想いは誰にも負けないよ?」
「そういう問題じゃねえっていうか、おまえなんで」
「だってアニキ、欲求不満だって」
噛まないように癖をつけられたうえに、欲求を解消してしまえば全て解決でしょう、ほら完璧な方法じゃないかと胸を張って言う相手に、どこかだよと痛み出す頭を抱えるしかない。
「別に、オレは欲求不満で、飴を噛んでるわけじゃねえ!」
「そうなの?」
でもノリノリだったじゃないか、まだ残ってるし全部食べちゃおうよと待てを言い渡す前に再び、長く熱い舌の襲撃を受け声が飲み干される。
いいように扱われるわけにはいかない、歯列の上に乗り出した相手に絡め取られないよう逃げるが、どう周りこんだのか引き出されて飴を差し出されてしまうので、いい加減にしろという意味をこめて思いっきり舌に噛みついてやった。
「いっ、痛いよアニキ!」
「おめえが悪いんだろうが、この大馬鹿」
ガリガリと怒りによって残りの飴を粉砕し、一思いに飲みこんでしまうとまた噛んじゃったと涙混じりに指摘してきやがるので、もう金輪際オレは飴を食べないと地の底から響くような声で返す。
「そんな我慢しなくていいじゃないか」
「我慢してるわけじゃねえ、いいから余計な気を回すな、このすっとこどっこい!」
「やあ兄ちゃん久しぶり」
飴ちゃん買ってくかい? と聞かれて、土産用にちょっと包んでくれるかいとお願いすると、はいよと笑顔で袋に飴を詰めてくれる。
「こんなにたくさん、ありがとうな」
「いや、集落で人気だったからよ」
子供が喜んでくれるからと言うと、それはよかったと飴屋の親父も笑い返す。オマケだ貰ってくれよと棒のついた飴玉を渡される。
「これは?」
「子供が喉に詰まらせたりしないようにって、今考えててな」
試作品なんだ、味は補償するからさと言うのでありがたくいただくことにする。包みを外して口に入れた飴は、以前に食べた物と同じ味で思わず眉を潜めてしまった。
「セキさんこんにちは」
「ああショウか、元気そうだな」
はいと笑顔で返してくれる相手に、今日は休みなのかとたずねるとテルくんと訓練場で待ち合わせしてるんですよと返ってきた。
「相変わらず勤勉だな」
「日々精進です」
セキさんはお買い物ですかと聞かれてそうだぜと返す。流石にここは発展している場所だけあって色々な品が集まってくる、銀杏商会の幌馬車が停留しているのも大きい。
「飴気に入ったんですか?」
なんでと聞き返すと、さっきたくさん買ってたし今もと指摘されるので、棒を指先でいじりながら、集落の子供たちへいい土産になるんだよと返す。
「いいお兄さんですね」
「そうだといいんだがなあ」
先日のことを思い出して苦笑する、できれば避けて通りたいところなんだが子供たちの笑顔に勝てるものはない。先日のことがあろうとも飴そのものに罪はない、多少の噛み癖も我慢はできる。
「そういえば、今日はツバキさんもいらっしゃるんですよ」
「はあ?」
なんでと思わず聞き返すと、ノボリさんが誘ったみたいで、今より強くなりたいからとなんか気合いが入ってて来るみたいです、という言葉の途中から後ろから近づいてきた相手にアニキだと抱きこまれる。
「ツバキの勇姿を見に来てくれたのかい、嬉しいよう」
「んなわけねえだろ買い出しだ、鬱陶しい離せ」
やけに長い腕から逃げ出すとひどいよう、と言うツバキを無視して、そろそろ行くなとショウに別れの挨拶をする。
せっかくなら見ていってくれよと言う相手にそんな時間はないと追い払い、約束してんだろノボリさんに迷惑かけんじゃねえぞとだけ言い置いて、さっさと帰ろうとするが応援してくれてもいいじゃないかとなおも食い下がるので、くどい奴だと諦めに似た言葉を投げて貰ったばかりの飴を突っこんでやる。
「なにするんだよう」
「それやるからガタガタ抜かすな、子供の手本になる程度にはしっかりしろ」
根性から鍛えて貰って来いと言い起き、逃げるように後にした。
「こんな美味しい物貰っていいのかい?」
「ツバキさん、とっても悪い顔してますよ」
セキさんはきっと飴をめちゃ噛む人だろうな、と思いました。
飴もですけど、もしファーストフードがあった場合には飲み物の氷もガリガリいきそうだなと。
ツバキさんは逆に最後まで食べ切れそうだし、時間をかけて溶かすことを苦に感じないタイプっぽい。
だからキスも無駄に長いし、ついでに舌も長いといいなあと思った次第です。
2022年2月13日 pixivより再掲