「グズマさん、つかぬことをおうかがいしますが」
「なんだよ改まって」
「グズマさんとクチナシさんとのお付き合いは、どうやって始まったんですか?」
飲みかけたサイコソーダを思いっきり噴き出した。
Do you ... me ?
マンタインサーフの大会に出ようと、師匠の孫とその友達で現アローラチャンピオンの少女に連れられてやって来た、晴天のアーカラビーチ。
現在、競技中のハウはここにはいない。
ませたことを聞いたのは、チャンピオンのミヅキの方だ。
「なに、言ってんだおまえ」
背筋に冷や汗が伝うのを感じつつ、恐々とたずねる。
俺とクチナシさんの仲は公にしていない、同性同士という偏見は勿論だが、現島キング並びに警察官である相手と、元とはいえスカル団のボスである自分が恋仲というのは、どう考えてもつり合いが取れない。
んなこと気にするなとクチナシさんは言うが、俺は気にする。自分の汚名のせいで、彼まで軽蔑されるのは嫌だった。
だから、このことは俺とあの人しか知らない。そのはずなのだ。
「この間、ポータウンに行ったんですよ」
彼女が言うには、ウラウラの花園へ行くついでに島キングへ挨拶でもしようと寄ったらしい。
そのたずね人はソファに座り、書類の山を前に腕を組んだ状態でうたた寝していたそうだ。
確かに、ここ最近はUB関係で忙しいと言っていた。騒動を受けて昔のツテから仕事がきて面倒だと愚痴を言いながら、それでも断らずに責務は果たしていたわけだけど。
「一瞬、なにか病気かなって思ったんですけど。ただ疲れて寝てるだけみたいだったんで、首を痛めないようにって横にしようとしたんですよ」
起こさないように気を付けつつ横にして、ブランケットを探そうとしたら腕を掴まれこう言われたと。
「おいおい、グズマよ……人のこと、押し倒しておいて、どっか行こうってのは、ないんじゃねえの?」
ニヤッと人の悪い笑みを浮かべて、そう言うミヅキに、手にしていたサイコソーダの瓶を取り落す。
「ちっくしょー!なにやってんだあ、おっさん!」
両手で頭抱えて崩れ落ちる俺を見て、ミヅキは完全に笑っている。
笑い事じゃない、むしろ健全な少女の前で言ってはいけないであろう、ヤバめなボーダーラインを完全にぶっ超えている。
いや待て、いくら寝ぼけているとはいえ女の子の腕を掴んでるって、本当に完全にヤバいんじゃねえの、と思い至りその後どうしたと慌てて聞く。
「わたしとグズマさんだと腕の太さが違うんで、すぐに変だなって思ったみたいで。それで完全に目が覚めたクチナシさんと目が合って、すごく謝られました」
「そうか、良かった。まあ、おまえ女の子なんだから、無闇に男の部屋とか入るなよ」
前々から思っていたが、こいつは少々向こう見ずなところがある。いかがわしき屋敷に一人で乗りこんで来たり、ウルトラホールを越えて来たり。正義感と溢れんばかりの好奇心で、危険な場所に足を踏み入れるのもためらわない。
しかし、危険のベクトルがはるかに違うが、男の部屋というのはまずい。相手次第じゃ本当に冗談にもならないことになってしまう。
「それ、クチナシさんからも言われました。あと、悪いけどこのことは誰にも言わないでくれる?って」
「……誰にも言ってないだろうな?」
「はい、グズマさん以外は」
むしろ、なんで俺にバラした。あれか、恋人の不始末は連帯責任ってことなのか?
「違いますよ、なれそめが聞きたいなって」
「生憎と女の子が喜ぶような、恋愛話じゃないぞ」
そういや年頃的にはそういう話を好む年だったなこいつも。ただ、生憎とこっちは自分のなれそめを嬉し恥ずかしと語り合うような趣味は持ち合わせていない。
そんな体であしらおうとしたが、そうでもないんです!と口調を荒げて言う。
「なにが違うんだよ?」
「えっとですね、クチナシさんって別の島から来た人でしょ?アローラの人と恋愛って、どうだったのかなって」
周りで反対する人もいたんじゃないかと、言われて、ああと思い至る。
観光客も増えたし移民も多いので、昔ほどではないけれども。古くからの習慣が残っているところじゃ、今もアローラの人間と外から来た人間との恋愛を御法度にすべきだと言う人は少なくない。俺とクチナシさんが仲を公にしてないのは別の理由だが。
だが彼女は外から来た側だ。アローラに受け入れられているように見えるが、相変わらずよそ者扱いされる場面もあるんだろう。
そこまできてふと気づく、そんなことを聞くということは……。
「おまえ、好きな奴いんのか?」
その口ぶりじゃアローラの奴だなと言うと、火を付いたように顔が真っ赤になる。
あっ、完全に黒だ。
「へー、ふーん、なるほどなあ」
チャンピオンとはいえ年頃の女の子ってわけだ。
相手はどこの誰だ。年が近いっていや、グラジオか?いや、アローラの人間ってことじゃ違うよな、あいつも代表に付いて移住してきたんだし。
ってなると、試練で出会ったキャプテンとかか?今のでいくと、イリマとか、カキとか。タイプは違うがどちらもいい男だよな。
「わっ、わたしのことはいいんですよ!」
「よくねえだろ、いいか、恋愛相談は相手ありきだぜ?」
意地の悪い笑みを浮かべているのはわかるが、そりゃお互い様。さっき散々、人のことで笑ってた少女に意趣返しってやつだ。
「本当に、興味で!ちょっとだけ、どうなのかなーって気になるだけですから!」
そう早口で騒ぐ相手を無視し他に誰がいるかなと考える。
チャンピオン様は、ポケモンバトルをしている時の目の輝きが違う。ならそれなりのトレーナーか、ポケモンに詳しい人間かだろう。
ん?そういえば、いつも一緒に行動してる奴がいるじゃねえか。あいつだって名だたるアローラのトレーナーだ。
「もしかして、ハウか?」
言った瞬間、これ以上は無理だろうと思っていた顔が更に赤くなり、手に持ってたサイコソーダの瓶を取り落した。
「あ、ああ……あの、あの!あの!」
あ、あ、と落ち着きなくその場でじたばたしてる辺り、図星なのは確定。
「なんだよ当たりか?別にいいじゃねえか、本人には黙っててやるよ」
だから、俺様達のことも黙っておけよ絶対にと言うと、無言のまま何度も頷く。
からかうのはこの辺でよそう、もう半泣きだし、これ以上はガチでいじめられてると勘違いされる。
とりあえず頭からタオルをかけてやり、ちょっと飲み物買ってくると言ってその場から離れた。
ダメになちまった二人分のサイコソーダを手に戻れば、多少は落ち着いたらしいミヅキが、ごめんなさいと小声で謝った。
「そりゃ俺様の台詞だろうがよ。つか、偏見とかそんなもん気にしてんじゃねえよ。らしくねえ」
とは言っても、相手がハウとなると話は別か。
島生まれ、島育ちの根っからのアローラの少年。しかもここの太陽と海を閉じ込めたかのように、底抜けに明るくて能天気。
加えて、現島キングの孫。将来的には師匠よろしく島キングを継ぐことになるだろう。
好きになるのは自由だろうが、それが実るかは別問題。
師匠は昔気質なところがあるが、移民を拒否するタイプじゃない。だが男女の付き合いとなればな、婚前交際とか自由恋愛とか、どっちかつーと厳しい人だもんな。そりゃ気にもなる。
「でも、それならククイさんにでも聞いた方がいいだろ」
「それもそうなんですけど。ククイ博士ってどっちかというと、なんか革新派の人じゃないですか?研究で他の地方へ行ったり、リーグ作ったり、純粋なアローラの人よりも考え方が広くて」
確かにそうだ、言った俺がバカだった。
「でも俺様たちは違うだろ」
「アローラの人と他の地方から来た人、しかも片方は島キングでしょ?すごく似てるなって思って」
「残念だが全然似てねえよ。まず、あいつはまだ島キングになってない。おまえはアローラリーグチャンピオン、島の人間だって認めるさ」
爪弾き者の俺とは違って、とは言わなかった。そう言うとなんか、こいつが更に気を使う気がした。
だが本当のところ、こいつと俺じゃ立場は雲泥の差なのだ。
外の人間とはいえ、このアローラを救って、アローラリーグでチャンピオンになり、確固たる地位をこの歳で築き上げた少女と、島キングの孫。加えて同じ年の男女だ。
釣り合いなら充分に取れる。
「というかさっきも言ったけど、変に遠慮してんじゃねえよ。おまえはそういう時だって、憶せず飛び込んでく奴だろうが」
「それとこれとは話が違いますよ!だって、そういうんじゃないって言われたら、次の日からどうやって顔合わせたらいいんですか?同じ島なんですよ!めっちゃご近所ですよ!」
「当って砕けろって気持ちでぶつかれよ。何回当たっても別にいいだろうが」
「……その辺、グズマさんどうしたんですか?」
ご近所って言ったらご近所さんだったでしょと言われて、だから参考にはならないからと釘を刺す。
「もしかして、告白は相手から?」
「ちげーよ」
とはいえ、付き合ってもらおうと思って言ったわけじゃないのだ。単純に、自分の中で抱えてるものに耐えきれなくなった、それだけ。
言うだけ言ってすっきりしたら、それで満足だった。その後どうなりたいかとか、そんなもん全く考えてない。
向こうは島キング並びに警察官で、俺は元スカル団のボス。男同士で、年齢は相手の方がずっと年上。俺はアローラの島育ちで、向こうは流れ者。どこをどう切り取っても、ちぐはぐで考え方もなにもかも合うわけがない。
ただ一方的に俺が好きなだけ。それで良かったんだ、別に。
「なんか、意外です」
「なにが?」
「グズマさんのことなんで、ぶっ壊れてもいいから俺様のものにする!的な感じかと」
「んな命令口調で、はいそうですかって受け入れてくれる人じゃねえだろ。つか、そんなん言われたら誰でも引く」
とにかく、OKを貰えると思ってぶつかってったわけではない。本当にただの自己満足で告白したのだ。そういう意味じゃ、俺らしくないと言われりゃその通りかもしれないが。
「じゃあグズマさんからのアドバイスは、とにかく当たって砕けろってことですか?」
「そうだな、それ以外にない」
つーか、あいつに変なアプローチはむしろ不要だろう。全力で、真っ直ぐに想いをぶつけに行った方が通じると思う。
「いや、そんな全力でぶつかれと言われましても」
「今すぐやれとは言ってねえよ。心の準備が整ったら、全力でぶつかってこい」
ただの根性論じゃないですか!とむくれて言う相手に、それしかアドバイスないんだからしょうがないだろうがと返す。
最初からそう言ってる。つか俺じゃなくて、せめて誰か女の子にでも聞けって話なのだ。
その時、浜辺に近づいて来ていたマンタインとライダーが最後の大技を決めて着水を決めたのが見えた。観客から歓声が上がる。
現在トップの得点を上げて、こちらへ大きく手を振るのはついさきほどまで話題に上がっていた少年だ。
「おーいミヅキー!グズマー!見てたー?」
一番だってと満面の笑顔で走り寄る相手に、少女も満面の笑みですごいねと返す。
「もうすぐミヅキの番だよー、準備してきたら?」
「そっか、ありがとう!行って来るね」
わたしが優勝するから!と負けん気の強い声で言い残すが、優勝は俺だよーと負けずにハウも返す。
人嫌いはしない性格なんだから、ぶつかっていったところで、完全に拒絶はしないだろう。
それが逆に辛くもなるか、とすぐに思い直す。
自分も同じことで悩んだものなので、気持ちはわからないでもない。
「そういえばミヅキとなに話してたの?」
「別に、ちょっとした世間話だよ」
こちらの約束を守ってもらう以上、向こうの知られたくないことは言わないくらいの礼儀はある。
「ふーん、なんか楽しそうだったな」
「そうか?つか、ライドしながらなんて見えてないだろ?」
「サーフ大会の会場カメラで、こっちの浜辺の映像映ってたんだよー。なんかミヅキ、すごく楽しそうな顔で話してたよねー」
ねえなんの話してたの?
むっとした声でたずねる相手を見ると、その顏は完全に「嫉妬してます」と書いてある。
へー、ふーん、なるほどなあ。
「好きな人いるか、って話をしてた」
「好きな……ええー!」
かなりビックリしたらしく、はっと手を当てる相手はミヅキなんて言ってたーと慌ただしく聞く。
「そんなもん秘密に決まってるだろ。俺様も秘密にしてもらってんだ」
「えー!ズルイー、グズマだけズルイー!教えてくれてもいいじゃん」
「知るか、自分で聞け」
「そんなの恐くて聞けないよー」
ねえお願いだから教えてーと言う相手に、ダメに決まってんだろと即答する。
なんでなんでと子供のようにまくしたてる相手に、ニヤリと意地悪く笑う。
「さてはおまえ、ミヅキのこと好きだな?」
「ううー……そうだよ、好きだよ!それってだめ?」
誰もダメとは言ってないだろ、だからって教えてやるつもりは更々ないわけだが。
「なんで教えてくれないのー」
「あのなあ、俺様に向かって言う暇があんなら、当って砕けろで本人にぶつかって行け。アローラチャンピオン様は結構人気だぞ?黙って見てたら、別の奴に取られるかもな」
「そんなのやだー!」
すげえ駄々っ子だ、ミヅキとは大違いだな。もっと他に悩むこととかないのか、こいつは。
アローラの習慣とか自分の立場とか、そんなもん関係ないんだな。
まあ輝く太陽みたいな明るさと、海みたいな大らかさが取り柄みたいな奴だし、それこそ広い心で受け止めてくれるだろ。
どっちが先にぶつかっていくかは、知らねえけど。
なんにせよ、てめえらはさっさと互いにぶつかって来い。外野から何かいう余地はない。
「好きなら好きだって言って来いよ、男らしくな」
それが、俺からできる最大のアドバイスだとだけ言って、相手の頭を乱暴に撫でた。
「で、健全な子供の前でなにを不健全なこと吹き込んでくれてんだ、この不良警官」
「別にわざとじゃないんだけどね、本当。おじさんだって疲れのあまり、うたた寝するくらい忙しかったのよ」
だからといってしていいことと悪いことくらいあんだろ。つか、ミヅキに知られるとかねえわ、マジでねえ。
「いいじゃないの、ミヅキのねえちゃんは秘密を守ってくれてんだろ?」
「最初にあんたが変なことしなきゃ、んなことにはならなかったんだよ!つーか、あと一歩遅かったら間違いなく淫行罪で逮捕されただろ」
「面目次第もない」
でもそれくらいおじさん寂しかったのよ、忙しいって言うとあんまり会いに来てくれなくなるしさと、まだいくらか残っている書類を片付けながらクチナシさんは言う。
仕事の邪魔しないようにって、こっちは気を使ってやってんだよ。それくらいわかった上で、それでも文句を言いたいんだろう。
「っていうか、珍しいよな。人前でうたた寝とかそうそうしないのに」
したとしても近づけばすぐに起きるのだ。クチナシさんが言うには昔からの癖で人の気配に敏感だからだそうだが。
「それだけ疲れてたわけ。ミヅキのねえちゃんが来たの、徹夜明けで資料片付けた日だったからさ。流石に、この年で徹夜なんかするもんじゃないね、体への負担がでかすぎる」
とにかく、完全に疲れ切ってたあまり、普段は敏感に働く感覚も鈍っていたそうだ。
そして交番に現れた人の気配について、普段と比べて違和感があったのは気づきながらも疲れでおかしくなってたから、然程気にも止めなかったらしい。
こんな場所にある交番で、アポなしでわざわざ自分に会いに来るような変わり者は一人しかいない。
だから甲斐甲斐しくもソファに横にされた時、なにもしてこないのが寂しかった。
その言葉は素直に嬉しいが、だからってミヅキに手をかけそうになったのは許されないだろう。
「まあ俺も誤魔化したのよ。恋人が疲れてんのに、ねぎらいにおやすみのキスもしてくれないのかってことだって」
「やめろ気持ち悪い」
それをミヅキの奴まさか本気で信じてるわけじゃないだろうな、教育上よろしくなさすぎる意味で理解されるよりはいいが、そっちはまた恥ずかしすぎるだろ。
その言葉通り信じてるなら、俺はこの人におやすみのキスなんて恥ずかしい行為を普段からしてる、と思われていることになる。
掘り返したくはないが、また聞いて誤解を解いてこよう。
「にしても、あの二人がねえ」
「結構、お似合いだと思うけど」
「子供の言うことだろ?たまたま、相手に惹かれるところがあったとして、本気の本物の恋愛かはまた違うさ」
大人になればわかる。いい思い出で終わるならそれも良しってとこでしょと彼は言う。
「なんだよ、冷たいんだな」
「生憎とそこまでロマンチストじゃないんだわ、酸いも甘いも色々と経験してきたからな。それでいくと、子供の言うことなんてまともに取り合うもんじゃない」
恋愛ごっこが始まる年頃だからさと、相手は苦笑いして言う。
「しかしアローラの風習、いや因習ってのはそんな子供まで影響すんのかね」
「あいつが気にしてんだから、影響はあんだろ」
嫌なものだねえと言う相手の顔を見つめて、もしもとたずねる。
「もしだぜ?俺が女で生まれてたとしたら、あんた今みたいに、付き合ってくれたのか?」
「なに急に?」
「なんとなく、気になって」
因習の残る島で生まれ育った札付きの男と、今どういうわけか付き合ってくれているこの人は、形が違っていたらどうだったのか?
例えば女だったら、仲を公にして、その先を願うこともできたのか。
ミヅキを見ながら少しだけ、そんなことを考えてしまったのだ。
「女とか男とか関係なく、俺は嫁にもらう気でいるんだけど、おまえは違うのか?」
「よ、め、って!……はあ?」
素っ頓狂な声を上げる俺に、なに驚いてんのよと相手は面倒そうな顔をする。
「いや、驚くだろ。つかなんだよ嫁って、いつ誰が、嫁になんて!」
「いや正直な話、この歳まで独り身できてね。嫁はおろか恋人も、もう望めないだろうなって思ってた矢先に若い、しかも男に惚れるとかさ。自分でも、遂にイカれたかと思っちゃったんだけど。その相手が俺がいいって言ってきたんだぜ?ロマンチストじゃないけど、流石にこれは運命だと思うだろ」
周りが何を言おうが、どんなしがらみがあろうが、そんなものを振り切ってでも、絶対に離したくないと思った相手は今まで生きてきて一人だけ。
「なら性別とかそんな問題じゃなく、俺のものになってほしいなって思うわけ。おまえはまだ俺の倍は生きるだろうし、一人に縛られるのがごめんだっていうなら、無理にとは言わないけどさ」
「ずっと、傍にいていいのか?」
「もちろん、おまえさえ良ければだけど」
「良くないわけないだろ、できるならずっと一緒に居たいぜ」
居たいけど、これから先を考えるとため息が出る。
難しいことくらい、わかってる。多分、まだ互いの気持ちが通じてない二人が悩むより、ずっとこの関係は重くて苦しい。
クチナシさんが言うような、恋愛ごっこではない。少なくとも、この人自身は本気で恋愛をしてくれている。俺に付き合ってくれてる、遊びじゃない。
そうだと、思いたい。
「そんなに悩むなら、いっそ公にしちまうか?おまえにたかる悪い虫払うの、これでも苦労してんだからさ」
「やだよ、あんたに迷惑かけたくない」
「またそんなこと言う、迷惑でもなんでもないし。いい加減に腹括ってくれないかな?」
本気で俺のもんになりな。
そう言うと、目の前に綺麗な化粧箱を置かれた。中を開ければ、黒と緑の石をあしらったシルバーのリングが出てきた。
「は、え?」
驚いて固まる俺に、目の前の老獪な男はリングを取り出し俺の左手を取ると薬指へ通した。
測ったようにピッタリの大きさに、更に驚く。いつの間にこんなもんと言うと、前々から用意してたのよとなんでもないように言う。
「言う機会があれば、言おうと思ってたんだけど。雰囲気のある場所とか、わざわざ機会を作るとおまえ逃げそうだからな」
一応言うがもうNOは受け付けねえぞと、きっぱり言い渡される。なんだよ、さっきは無理に言わないとか言ったくせに。選択肢ねえとかそんなん、なしだろ。
「いや、ずっと傍に居たいって言ったのおまえの方だろうが」
確かにそうだった、そりゃ本心だ。本心だけど!
こんなぶっ飛んだことするとか、全然考えてなかったし、思ってもみないことすぎて正直、夢かと思うんだけど。指に触れる金属の硬さも、熱で冷たさを失っていく感覚も、現実で。
混乱もいいところだ、なんだこれ、なんだこれ。
「俺はおまえが傍にいてくれると幸せなんだ。これからもそうであってほしい」
だめか?と普段より優しい目で、愛しい目で見つめられるとダメだ。
「ズリい」
逃げようがないと暑い顔を右手で覆うと、答えはどうよと聞いてきた。
「いらねえって言ったら、死んでやるからな」
「そんなん言うかよ。老い先短いけどまあ、生涯かけて誓ってやる。
いついかなる時も、おまえのことを愛し続ける」
応えてくれるか?
その質問に、無言のまま首を縦に振った。
ハウとミヅキは、なんか自然とくっついてくれないかなって、微笑ましく見守っていきたい組み合わせだと思ってます。
ハウミヅだけでも書きたいんですが、長くなりそうなので追い追いやっていきます。
2018年1月6日 pixivより再掲