年齢確認
18歳以上ですか?

 いいえ

枯れ花の首を折るように

 ハッさんの手が好きだ。
 自分の手と比べてずっと大きくて温かく、あの手に触れられていると、なんだか落ち着く。こうして二人で並んで戯れのように触れ合っていると、余計にそう思う。彼の手から与えられるものの大きさ、愛おしさそれが伝わってくる好きな箇所の一つだなと。
「コルさん」
 考えごとですかと上から声をかけてきた相手に、あなたのことを考えていたと返せば、それは嬉しいですねえと緩く口の端をあげて笑う。普段は穏やかな瞳にはギラリとした欲に溶けた光が灯り、まるで猛獣のようだと心の中だけで考える。
「なにを考えてたんですか?」
「ハッさんの手が、好きだなと」
 手だけですかと見下ろしてくる相手がたずねるので、もちろんあなたの全てが愛おしいとも、と素直に返せば小生も愛してますよ軽く微笑みキスを落としてくれる。
「コルさん、小生がシャワーに入ってる合間になにか食べました?」
 口の中が仄かに甘い気がすると言うので、なにも口にしてはいないと首を振る。思い当たるのは先日買ったのリップクリームだろうか、ハチミツから作られた物を買ったから匂いが残っているのかもしれない。
「そうでしたか、なんだか美味しそうな匂いがすると、思っていたんですよ」
 シャンプーやボディソープの香りとも違いましたからと、熱っぽく語る相手が舌を出してまた唇を舐めるので、ワタシがつけるには甘ったるい香りだったろうかと聞けば、そうですねえとしばし考えてから、でもコルさんからハチミツの香りがするのは好きですよと答えてくれる。
「あなたの入れてくれる、美味しいお茶を思い出します」
「そうか」
 どんなに舐めても味がするわけでもないだろうに、彼は気に入ってしまったのか、いつにも増して美味しいと唇を合わせる時間が長い。そんなことしていると、どんどんワタシが溶けてしまいそうになるんだけど、それもまたいいかと考えてしまう。
「この手で、なにをしてほしいですか?」
 キスの合間に頭を撫で髪を梳いていた指が離れ、頬を撫で首筋から肩までをなぞり胸まで落ちていく。大好きな左手の指先を見てもっと下と視線だけで促せば喉を軽く鳴らして笑い、彼よりもずっと細い腰のラインを掌でしっかりと形取りながら落ちて、足の付け根から太腿を撫でて体の裏側へ向けられ、ぎゅっと尻肉を軽く掴まれる。
「早急すぎないか?」
「おや、こちらではなかったですか」
 それは失礼しましたですよと言いながらも手は離れてくれない、硬いだろうと何度も言っているのだが、よく手に馴染むのだと彼は好んでそこに触れる。お世辞にも肉の薄い男の体の中では比較的に柔らかい部類でもあるだろうし、彼の大きな手にちょうど包まれる大きさでもある。
 それを言ってしまうと、彼の両手の指を使えば自分の腰回りはしっかり包みこまれてしまう、片手の内に両手首を掴みこまれ、足首を抑えるときの力の強さも、指先から与えられる快楽も身に染みて知っている。
 熱を持った彼の欲を自分の前に押しつけられて、あっと声をあげると同時に彼の右手の内に収められる、掴まれて一緒に擦られると背筋に走る快楽のスパークに、荒い息を吐けばこれお好きですよねと耳元で囁かれる。
「ああ、ハッさんの熱が伝わる」
「コルさんのも、熱っぽいですよ?」
 ほらと先端に爪を立てられる、そこは敏感だからやめろと喉を逸らして叫ぶも、でも可愛らしいものでと笑いながら爪先で擦りあげてくるので、容赦ない愛撫を与えてくる手の内で悶えるしかできない。
「ハッさん、そこばっかりはやめてくれ」
「ではどこに触れましょう」
 空いている右手がへその当たりを撫でていくのをもどかしく思う、どこに触れていても心地いいのに違いはない、割れ物を扱うよな手右手と荒々しく責め立てる左手に、流石は音楽を志していただけあって器用なものだなと思う。
「またよそ見されてますか?」
「あっ、違う」
 本当にあなたのことしか考えてないと口にするも、それでも関係ないことを考えてらっしゃったでしょうと、責め立てるように荒々しく触れられると、うっと声を詰まらせて彼に縋りつくしかできない。
「ハッさん、ハッさん」
「ええ、ここにいますよ」
 涙の滲む目尻を舐められる、彼の薄いけれども柔らかい唇と奥に潜む厚ぼったい舌は、意識も理性も良心も溶かされるほど熱くて、キスしたいと譫言のように唱えた願いもすぐに叶えられる。  大型の肉食獣、あるいはそう彼の連れているドラゴンのような凶暴さを思わせる、熱烈なキスによって己が貪り尽くされるのを、ワタシは非常に嬉しく感じている。このまま全部、頭ごと食べられても許せてしまうほどに彼を愛している。
「ハッさん」
 震える声で彼の頬に手を伸ばせば、そろそろ食べ頃だと判断したのか目を細めて笑う。
「後ろ、慣らしますね」
「もうした」
 待ってる間に準備は終わっていると答えると、少しだけムッとしたような顔をさせてしまったものの、お待たせして申しわけありませんですよと左手が再び後ろに伸びて、尻の合間から更に奥へと指が入る。
 グチュリと鳴るはずのない水音が立つ、これは本当に準備をしっかりなさっていたようでと声に出されると、少しだけ羞恥心が戻ってくるもののそれもまた、容赦なく押しこめられた指によって拭い去られる。
「あっ」
「柔らかいですね」
 今すぐにでも入りたいですと熱っぽく語る相手に、そうしてもらっても構わないと首を縦に振るけれども、でも多少は慣らさないと痛いのではとじっくりと奥をくすぐるように指で弄ってくる。
「いやだ、いやだもう欲しい」
 お願いだと続けると、早急すぎると止めたのはあなたでしょうと拗ねた口調で続けるので、そうだけど欲しくなってしまったのだと目の前の男にねだる。
「ハッサクさんお願いだ、あなたが欲しい」
「そこまで言われると、お預けもできませんね」
 仕方ない人だと指を引き抜いて、ゴムの封を切って身につけていく時間すらも惜しく感じつつも、じっと身を伏せて待っていれば焦がれた熱が当てられる。
「ああハッさん、早く、うぁっ!」
「いきますよ」
 ゆっくりと押し入ってくる愛おしい熱、ワタシを支配せんとする征服者の証とも取れるものの、それを望んでいる身であれば話は別だ。
 全てを収めて、蕩けた体で彼を閉じこめて溶け合ってしまいたい。その牙で食い破られようとかまわない、でもできるならすぐに終わってしまわないように、たくさん愛してほしい。そんな思いばかり溢れ出す、ただただ好きだと訴えかけてくる。この人にならなにをされても許してしまうだろうって。
「コルサさん」
「うん?」
 とろんとした瞳で彼を見上げれば、満足そうに笑う彼の顔が目の前にある。ああ溶けてしまうとこの顔が見れなくなってしまう、それは惜しいな、どうにか繋ぎ止めてほしいと彷徨っていた彼の手を取って自分の腰を掴んでもらう、これで形が少しだけ安定した。
 彼の親指が腹の内側をぐっと押しこんできて、内側にいっぱいいっぱいになった熱を、外からも強く意識してしまう。
「気持ちいいですか?」
 腰を抱かれながらするのお好きですよねと聞かれて、好きだとぐずぐずの頭で答えると、わかりましたとお腹を押しながら中に入ったモノをゆっくり出し入れされる。
 空いている右手が首筋を撫でてくる、彼の手であれば簡単にこの首くらいへし折ってくれそうだ。太い親指が喉仏を押し潰し残りの指が頚椎を締めあげる、気道を潰して息を奪って、そうして全てが真っ黒に溶ける。最後の瞬間がこの手に与えられるなら、それはきっといいことだろうなあ、なんて。
 そんなことを考えているなんて知らないだろう相手は、こちらを見下ろして勝ち気に笑う、あんまり人前では見せない支配欲に尖った牙を光らせて、大好きな手に頬擦りするワタシにキスをくれる。
「もっと奥まで入っていいですか?」
「ん、好きにしてくれ」
 快感の波が体全体に押し寄せては引いてまた戻って、何度も何度もそうしていると、本当にワタシの輪郭が溶けて彼に触れられている場所を除いて、とっぷりと浸かった幸せで体ごと浮かんでいるような気分だ。
「んっ、はぁっあぁ」
 追い立てられている、彼の欲望と支配欲によって蕩けた自分は全てこの男のもの、それもいい、全部を投げ出してこの人の糧になるのもきっと幸せだろう。
「ああっ! ハッさんもう」
「ええ、イッていいですよ」
 一緒がいいと彼の背に縋りついて言えば、そうですかと少し困ったようにつぶやくものの、少しだけ我慢してくれますかと耳元で囁かれるので、うんと小さく頷くといい子ですよと子供にするように頭を撫でてくれる。
 右手の優しさと左手の力強さ、両方ともクラクラしそうなほど好きだと思う、もっと愛されたくてそばに居たくて、弱々しくも首に腕を絡ませて引き寄せる。
「ハッさん」
 どうしましたと声をかけてくれる相手に、息があがったまま唇を合わせると、ふっと口元を緩めて笑った。

 人肌の温かさと緩い倦怠感に包まれた眠りから、ゆっくりと意識が覚めてきた。
「お目覚めですか?」
「ああ」
 少し無理をさせたので休んでいてくださいと頭を撫でてくれる、その手を見つめていると、本当にお好きですねと苦笑混じりにこぼす相手に、そうだなと擦り寄っていけばやっぱりお疲れなのではと声をかけられる。
「なにか温かい飲み物でも入れましょうか?」
「いい、ここに居てくれ」
 わかりましたと優しい声で答えてくれる、その声につい先刻まであったギラギラした欲はすっかり鳴りを潜めており、いつものハッさんだなあと思う。
 頭から離れて背を撫ですぎて腰のあたりまで落ちていく、大きな掌から伝わる体温にすっと目を細める。
 やっぱりハッさんの手が好きだ、大きくて触れられると全てを許してしまいそう。
 だからこの世が終わる日には、この手に折られて終わりたい、そんなふうに思うのだ。

あとがき
体調がグログロに悪くて長編を書く気力がなかったものの、
なんかエロいものというか、耽美っぽいものが書きたかったようです。
2022-12-28 Twitterより再掲
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