孤高である、という事は…人が思うより良い事ではない 孤独である事と同義だからだ 月の影〜月は一つ〜 夜、何かの気配を感じ取り目が覚めた。 視線と言った方がいいかもしれない、じっとまるで視姦されているような、絡みついて離れない、気味の悪い視線。 隣りで寝ているクロミヤ達は、その存在に気付いていないようだ…という事は、やはり、この視線は俺個人を狙っているもの。 2・3秒程考えて、俺は皆に気付かれない様にそっと寝床から抜け出す。 元より、盗賊を生業としている身の為、気配を殺して動く事等は雑作もない。 手元にあったナイフと剣を手に、視線の主の方を向けば、それに気付いたのだろう視線の主の気配が少し遠ざかる。 だが、それは消え去ったという訳ではない。 少し遠のいただけで、俺の方へ向けられている視線はまだ感じられる。 扉だとか、壁だとか…そういうものを擦りぬけてまで感じられるそれ、よっぽど相手は俺の事が気になるらしい。 ストーカーとかの類ではなさそうだが、こういうのは…流石に気分が悪い。 軋むドアの音が鳴らない様に気を付けて、そっと部屋を抜け出して、誰にも気付かれぬ様に室内を歩く。 視線の主の気配を追って……。 白い月の照らし出す屋外、俺が追尾する相手は紛れる事のできない黒い姿を光の下に曝け出しつつも、それを気にも留めずに走り続ける。 自分の気配を殺さず、そして、姿を隠す事もせずに堂々と走り続ける相手。 それは、俺に「追って来い」と、そう言ってるんだろう。 「たく!ふざけてるっしょ!!」 足の速い相手の背後を追いながら、俺はそう悪態を吐く。 相手が立ち止まったのを受け、俺も少し後ろで立ち止まる。 周囲は人気の無い荒野。 そこに立つ黒衣の人物を見て、俺は溜息。 「アンタさ、俺に何の用なワケ?」 振り返った男の赤い髪が風になびき、金属の様な瞳が薄められる。 その笑顔と一緒に投げられたナイフを避け、俺は相手から距離を取る。 剣を抜き、相手へ向けて構えると慣れた手つきで取り出されるナイフ。 ニヤリと笑いかける相手に、俺はふと違和感を覚える。 「ヴァイパー?」 相手に向けて、そう尋ねると相手は更に笑みを深める。 アイツは……こんな風に笑っただろうか? 再び構えられるナイフを手に、相手は地面を蹴って俺へと向かい来る。 その攻撃を避けて相手を見つめると、視線の合った相手の目に、見た事のない光を見た。 アイツの目に宿った事のない、それは好奇の光だ。 手にした剣を振るい、相手のナイフを払い落させる。 再び懐からナイフと取り出す彼を見て、俺は少し距離を取る。 「とりあえず、アンタが誰でもいいけどさ…そうやって知り合いの真似するのは、止めてくれないかな?」 そう言うと、相手はふと首を傾げるものの…しばらくすると、「フフフ」という笑い声が漏れた。 「へぇ……君も簡単に見破っちゃうかぁ…いや、本当にこの世界の人達は面白いね」 見破られる事は予想済みだったのだろう、そう言うと、男の姿が蜃気楼の様に揺れて変わる。 赤い髪は薄茶に変わり、長さもずっと短くなる、金色の瞳は同じ色だが、こちらは金属というよりも輝く光の色。 見た事の無い民族衣装に身を包んだ男は、俺に向けてニヤリと笑いかける。 「それで、アンタは誰で俺に何の用なのさ?」 「ボクの名前は葛水月(カズラ スイゲツ)……ああ、ファーストネームが…とか、もう別にいいか、さしてどちらが先だって変わりはないわけだし」 「いや、それは変わりあるっしょ!」 自分の親から貰った名前だろう、そういうのなら、どちらが先かとか、そういうのは問題になるんじゃないのか? しかし、そう思った俺に対し、男は首を右に傾ける。 「君がボクをどちらの名前で呼ぼうと、ボクである事に変わりはないからね、さして問題にならないでしょ?」 ……それは、確かにその通りかもしれない。 「で、スイゲツは俺に何の用なんだよ?」 「おいおい、人に名乗らせておいて自分は名乗らないとか酷いだろ?」 「アンタは俺の事知ってるんじゃないの?まあいいけどさ…俺はムーンサルト、盗賊団・月の涙〈ルーナ・ラルモ〉の頭やってるんだけど」 「へぇ……盗賊団の頭ね、好感持てるなぁ」 俺の言葉にそう嬉しそうに言う男に対し、今度は俺が首を傾ける。 「好感って…アンタ同業者?」 「そうだよ、一応は泥棒稼業してるもんでね…そう思うと、ボクの変装は中々便利な能力だろ?」 そう言って笑う男の本心が、どこまで正確なのかは不明だ。 だが、その言葉には頷ける。 「それで、俺に何の用なんだよ?」 「うん、君を恨んでる人間に心当たりは?」 その言葉に当て嵌まるのは、一人しか心当たりがない。 「アンタ、ヴァイパーと何か関係あるの?」 そう尋ねつつ、俺は自分の懐に仕舞っているナイフに手を伸ばす。 「いや、この前仕事で出会ってね…彼はかなり面白かったよ、物騒な人物だったけどね…それで、君の話が出たのさ」 「俺の?」 「そう、ボクの幻想で見たのが…君の姿だったらしくてね、それで…彼の反応が余りにも面白かったから、本物を見に来たのさ」 そうやってニヤリと笑う男の底の知れない笑顔に、俺は寒気がする。 人を騙して楽しんでいる、そういう人間の目だ。 何の目的で来たのか、それを聞きだす為に追って来た…だが、この男。 なんだか、底が見えない。 「彼は君の事、大嫌いみたいだね」 「そう、みたいだな…まあ、そこは色々あるんだよ」 人の事だから、あんまり首を突っ込んで欲しく無かった為にそう適当に答える。 「そう、ボクが見た感じでは好敵手かと思ったんだけど、色々あるのかな?……まあ、人っていうのはよく分からないからね…君は対人関係で苦労してるんじゃない?」 「なっ……なんで、そんな事を?」 心当たりがめちゃくちゃある為に、ついそう尋ね返す。 「ん?いや、さ……なんか君は苦労してそうなオーラがあるから」 ニッコリと笑顔でそう返される。 「どんなオーラだよソレ!!」 「苦労人というか?弄られ役というか…そうだね、決して自分は悪くはないけど、人に八つ当たりされるタイプ?」 「初対面で人にそんな事は言うもんじゃないっしょ!!」 「アハハハハ、そういう反応するから、からかわれるんでしょ?」 本気で人をからかって楽しんでいるのだろう、その笑顔に、俺は気疲れがどっと溢れてくる。 どうやら、俺という人間はトコトン対人関係に見捨てられているらしい…。 段々と殺伐とした雰囲気が削がれてきた為に、俺はその場に座り込む。 それを見た相手が、すっと荷物の中から何かを取り出す。 「君は酒はたしなむ方かい?」 白い陶器と思われる、丸い形の瓶を振りながら相手は俺に尋ねる。 「飲めないワケじゃないけど…なんていうか、知り合いというか、恩人というか、師匠というか…まあ人を思い出すワケなんで」 俺の脳内に、かつてのお頭の姿が思い浮かび、ふと背中に寒気が……。 あの人が豪快に酒を飲む姿は、確かによく目にしたものの…色々と恐ろしい思い出も、そこに付属して蘇って来る。 「つまり、飲むんだね」 「今の雰囲気でどこからそれ導き出した!?飲まないの!飲まないの!!大体、知りもしない人間から貰う飲食物なんて怪しいっしょ!」 「そう?昔、盗賊は同じ酒を酌み交わす事で仲間になれる…とか、そういう話聞いたんだけどなぁ……」 そう言いつつ、丸い瓶の中から一口中身を飲むと、一度栓を閉め俺の方へとその瓶を放る。 孤を描いて飛ぶ瓶を受け取ると、男の顔色を一瞬伺うものの、ニヤニヤとした笑顔しか返さない相手に、俺は一度溜息を吐き、瓶の中身を一口飲む。 ワインとは違う、飲んだ事のない辛みのある液体。 「これ、何て酒?」 栓を戻して相手に向かって投げ返すと、それを受け取った相手が再びその酒を飲む。 「ん?中身は日本酒なんだけど……ああ、この世界には無いのか!初めて飲んだ味だった?」 面白そうに尋ね返す相手に、俺は首を傾げる。 「この世界?」 「うん…まあ、この話は君達にしたところで関係ないんだけどさ、ボクは別の世界から来たわけ」 「はぁ?」 「多重世界ってヤツだよ、訳あってボクはこの世界に来て、ある物を手に入れる必要があった…だから来た、それだけの事なんだ。だからそう、君に会いに来たのはちょっとした寄り道ってわけ」 まあ……この男の今までの言動から考えると、どうも、それが的を射た返答であるようには思えない。 何か適当な事を言って、コチラに自分の行動の意図を読み取らせない様にしているのか? 話半分に聞いておいた方が妥当か……とにかく、何か別の国の人間だろう事は推測できるし、この行動に意味がないんだろう事もなんとなく感じられる。 「そんな悠長な事してる暇あるワケ?」 「あるワケだから、こうやって君の元に寄り道して、酒なんて飲んでるんじゃないか」 ニッコリ笑いつつ酒を呷る彼の姿が、ユラリと揺れて、金髪のお頭の姿へと変わる。 その姿にゾッと背筋が震えて、俺は後ろへと後ずさった。 「アハハハハハハハ!!偽物だと分かっていても、君はこの人が苦手なのか」 お頭の姿で豪快に笑い飛ばすスイゲツを見て、俺は盛大に溜息を吐く。 「その笑い方は、カッシーナのお頭にそっくりだよ……」 「お頭?君の盗賊団は君が頭なんだろう?……となると、この人は先代かな?」 「まあ、そうだけど」 面白がる様にお頭の体を眺める相手は、ニッと笑うと今度は別の姿へと変わった。 「今度は誰かな?」 黒髪短髪の勇者へと姿を変えた相手は、その姿のままで酒を一口飲む。 「アンタのその能力って、どうなってんの?」 「これも説明したって分からない事だよ…まあ、ちょっとだけタネ明かしするならさ…ボクは夜の間だけ“誰かの記憶の中の誰か”に、姿を変えられるんだよ」 「誰かの記憶の中の、誰か?…それって、どういう……」 酷く曖昧な説明だ。 それを受けて、クロミヤの姿の相手は俺にニンマリと笑いかける。 「ボクが適当に選んだ人物の“こういう相手を見せたい”と、ボクが思った人物の姿に、ボクは姿を変えられるのさ…その人の記憶の中での相手の姿を写し取ってね」 今は君の“仲間”って事にしてるんだけど、どうかな?と彼は尋ねる。 確かに、仲間の勇者の姿は俺の記憶にある映像と寸分たがわずに同じ姿だ。 ただ一つ言うのならば、俺の知ってる勇者はそんなフレンドリーに話かけたりはしない、もっと高圧的というか俺様的というか…そういう態度だ。 「まあ、ボクはこの彼の事なんて知らないからね……しかし、君は随分と師匠には苦労させられたみたいだね…“君の思う恐ろしい人”が、さっきの金髪の人だよ」 「マ…マジで?」 それを聞いて、納得してしまえる辺り…確かに自分はあの人を恐れているらしい。 「そして…………どうかな?」 酒瓶を荷物の中に仕舞うと、相手は俺の方へと近付く。 蜃気楼の様に揺れて再び変わるその姿。 月明かりに輝く青い髪、高い身長…何より、瞳に映ったその姿は間違いようもない。 「これが“君”だ」 口角を上げて少し真面目に、男は俺を見て笑う。 それを見つめ返す俺の表情が、男の瞳に映し出される。 鏡の様に同じなのに、正反対に見える。 「ボクはさ……昔から月が好きなんだよね」 「月?」 空で白い光を放つ天体を、俺は少し見つめるものの…彼はそちらには視線を寄越さない。 ただ、俺を見つめる。 真っ直ぐに、真剣に…。 その視線で見つめられるのは、なんだか居心地が悪い。 なんだか……そう、自分が狙われている様な感じがするのだ。 「君の体、良いよね……凄く使い易かったよ。 この前、ヴァイパー君と戦った時に思った」 「そうか」 見つめてくる相手から、視線が逸らせない。 外した瞬間に、呑まれそうそうな気がするのだ。 俺の全てが、この目の前の鏡の中へ…。 これは幻想だろうか? だが、それにしては随分と威圧感や圧迫感があり、尚且つ…酷くリアルだ。 夢ならば、覚めた瞬間に全て消え去ってくれるだろうが…目の前の男は、覚めても消えないだろう事は予測できる。 そもそも、今は夢の中だっただろうか? 現実は、どこへ消えたんだろうか? 「でも…本物はもっと違うんだろうね……やっぱり、月は本物を見ないと」 「はぁ……」 「ムーンサルト、良い名前だよ…ボクと同じ月の名前だ、だけど…君の方はどうやら本物だね」 「本物?」 「影じゃない、本物のただ一つの月だ…誰かにとっては掛け替えの無い孤高の存在」 孤高という言葉に違和感を感じる。 それが似合うのは自分ではない、俺の先代の方だ。 自分が孤高の存在だ…と称せば、あの人に何と言われるか……。 「いいや、本物は一つさ…ボクみたいな影じゃなくって……ただ一つ。 そういうものに、なってみたい」 気が付けば、俺の目の前にある相手の顔。 ほとんど触れそうな位置にあるそれが、ニヤリと俺へ向けて笑いかける……その手に、ナイフを持って。 俺の首に、その刃を突きつけて。 「何のつもりだ?」 「ボクはこの世にある何にでもなり変われる、それが影を持つものならば全て…太陽だけさ、アイツには影がない。 だけどボクは、いつだって何かの影のままだ……なら、一度でいいから本物になってみたい…自分の憧れる月の存在なら、猶更ね……」 つまりは君だ…と、男は言う。 俺の姿のままで、ニヤリと笑いかけて。 「俺になって、何の意味があるんだ?」 「意味なんて無いよ、ただ、誰かの大切な何かがすり変わるだけ…一つしかない何かが、変わるだけだ」 意味も無く、この男は人を殺せるのだろうか? 首筋のナイフの温度が気になりつつも、俺は相手から視線を逸らさない。 殺そうという意思は、そこからは感じられない。 こういう相手は…二つに一つ。 元々、殺す気が無いので殺気がない。 または…何も感じずに、何も思わずに、相手の事を簡単に殺せる様な…気狂い。 男の瞳が、ニヤリと細められる。 その黄金の、三日月の様な色彩。 気が付けば、元の姿に戻っているスイゲツが俺へ向けてニヤリと笑いかけている。 だが、不思議と鏡を見返しているような感覚はまだ続いている。 現実的じゃないんだ、この男自体が。 世界の外から来たなんて言われても、信じてしまえる様な雰囲気。 本物になり変わりたいと言った、その真偽は不明だ…だが、相手は分かっているに違いない。 「アンタ…本当は、誰かになり変わるなんてできないって、分かってるんっしょ?」 「だとしたら?」 「アンタは、俺を殺したりしない」 そう俺が自信を持って答えると、俺の目の前でパチリと音がしそうなくらい大きく、黄金の瞳が瞬きする…そして。 「アハハハハハハハハ!!本当に、この世界の人達は愉快だ!愉快で愉快で、本当に憎たらしいくらいに面白い!!」 目の前にした俺が驚くくらい、大声で笑う。 本当におかしなモノを見ているかのように、全然、おかしくもない事で、男はこの場に似合わない大笑いをする。 そして、一しきり笑った後、急に真剣な表情へと変わる。 「ボクが殺さないね…本当は、ボク如きに殺されるつもりなんてないんだろ?」 「この状況で…反撃のチャンスがあるなら、勿論そう言うっしょ」 アレば…だけど。 「違うさ、君は殺されてもいいと思える相手が他に居るんだ…だから、ボクの手に落ちる気は無い」 「どーだか?俺はまだ、死にたいなんて思ってないけど」 「どうだろうね?」 再び、ユラリと幻影の様に揺れた男の体。 その姿が、再び赤い髪の男へ変わる。 「お前は俺に殺されていいと、思ってるんじゃないのか?」 俺へ金属の様な瞳を向けて、相手はそう言う。 記憶にある通りの声で、記憶にある通りの俺を憎々しげに眺める表情で。 「ヴァイパー……」 違う。 今、目の前に映っている相手は本物じゃない。 本物の獣じゃない。 俺が見せられている、ただの幻想でしかない。 ……そういえば、俺はこの獣の事をどう思っているのだろうか? 幻想を見せるには、俺が心でこの相手をどう思っているかが反映されているハズなのだ。 俺は、この相手をどう思っている? まさか、本当に殺されてもいい…なんて、思って…………。 「試してみるか?ムーンサルト」 「えっ……」 そう言うが早い、体に感じる衝撃。 首へと落ちた冷たい衝動…その後、体の奥から沸き上がって来る熱さ。 何だコレ?何だよ……。 「ヴァイパー?」 そう口にしたものの、思う通りに上手く声にはならない。 首に落とされたんだから、声が出ないのは当たり前か…。 「ようやく…俺の手に落ちたな」 そうやって満足そうに笑う、赤い髪の男……。 痛みだとか、そういう体の感覚が消える。 ただ問い返したい、その男の声に。 『お前はこれで満足なのか?』 『何で俺を憎んでた?』 『俺はお前に何をしたんだ?』 本当に、俺の事が嫌いだったのか? 声にならないもどかしさが、一筋熱い雫になって落ちて行く。 熱さと冷たさを頬に感じて、自分は泣いているのか…なんて冷静に思う。 その意識は、いつまで続くだろう? 「一度でいいから見てみたかったんだ、月が涙を流す所を」 そんな声がどこか遠くから聞こえたかと思うと、ふいに自分の見ていた光景が一気に消え去る。 キョロキョロと周囲を見回せば、少し離れた位置で、白い瓶から酒を呷っている男の姿が目に付いた。 自分は、完全に騙されていたらしい。 「全く……悪い冗談は止めろっての。アンタ相当趣味悪いっしょ?」 流した涙を拭うと、俺は相手を睨みつける。 「そうだよ、知らないんだろうけどね、ボクは相当に趣味が悪いから、凄い嫌われ者なのさ!」 笑い転げて、地面に寝転んでいた男はニヤニヤ笑いのままで俺の方を向くと、まるでそれが自慢であるかの様に語った。 そんな事、自慢になんてならないだろうに…男は全然気にしてもいない。 相手の行動を理解できそうも無いと悟った俺は、溜息を一つ吐くと、未だに酒を飲み続けている男の側へと近寄る。 「それで、結局は俺に何の用だったのさ?」 「うーん…?それはさ、君を恨んでいた赤い獣君に関する事なんだけどさ…今の君を見て、気が変わったかな」 「えっ?」 「教えてあげない事にした、ボクが知った彼の心は…君が直接確かめなよ」 そう言うと、酒瓶に栓をするとそれを荷物の中へと仕舞い、ゆっくりと立ち上がった。 「じゃ、ボクはこれから帰らせてもらうよ…そろそろ、待たせている相手に怒られそうだ」 「ちょっと待てよ!アンタが知った、ヴァイパーの心って何だよ?」 「うん?ヴァイパー君が君の事をどう思っているのか、教えてあげようかと思ったんだよ、ボクはさっきも言った通り、自分では自分の姿を決定できない…便利だけど不便な能力を使っているわけだからね、予期せずして他人の感情を知ってしまう時もあるわけ…でも、それは言わなくて良い事だって……今気付いた」 そう言うと、俺が何かを言う前にニッコリと大きく笑うと、そのまま地面を蹴った。 飛び上がった先で、彼の姿が消える。 捕らえそこなった姿を空中に探す俺の耳へ、男の笑い声と一緒に、別れの一言が流れてくる。 「精々、孤高の一つの月で居てあげなよ…それが、月の役目だろう?」 何も無い青い闇の先から、響く声。 これも、相手の見せている幻想だろうか? それとも……元々、これは俺の夢なのだろうか? よく分からないまま、俺は夜空の月を眺める。 ただ一つ、輝く光。 「ヴァイパー……」 様々に問いたい事はあるものの…存在しない相手へ向けて、俺はただその名前を呟いた。 from 忍冬葵 後書き 祐喜様に捧げます誕生日小説後編です。 分裂しました、オリキャラコラボ小説のム―サ編でした、いかがでしょうか…? ただ単純に、私が二部構成で書きたくなってしまったが為に二作書きました、どちらかを放置して下さっても構いませんよ……。 雰囲気暗いとか以前に、私の勝手な想像が色々と入っているので…違うんだけどね、見たいな所があったら……まあ創作だから、と見逃してやって下さい。 全然、雰囲気祝ってないですけど、祝う気持ちはありますので喜んでいただければ、これ幸いです。 では祐喜様、誕生日おめでとうございます(2回目!!)。 BACK |