風邪引きさんに5のお題




昨日から体が少しダルイな、とは思っていたが、案の定…。
「風邪、引いた…」
体調管理を怠った事を恥ずかしく、また仲間に迷惑をかける事を思うと申し訳なさで一杯だ。
「そんな、気にしないでくれよ」
「そうそう、ゆっくり休養しろよ」
仲間がそう声を掛けてくれる。
「あの、あんまり一緒に居ると…移るから、出て、くれないかな?」
引いてしまったものは仕方ない。
今、自分が勤めるべきは早期に風邪を感知させる事と、仲間に風邪を移さない事。
この二つだ。

「じゃあ、大人しくゆっくり寝ろよ」
「ああ…」
皆が天幕から出て行き、これでゆっくり眠れると思ったんだけど…。
「あの…」
どうして貴方はここに居るんですか?
光の戦士さん。

「大丈夫か?」
いや、大丈夫じゃないよ、風邪引いてるからさ。
それは見れば分かると思うんだけど。
そんな事を心で思うが、喉が痛いので声にするのが面倒だ。
だから、必要最低限な事だけダイレクトに伝えよう。
「今すぐ、ここから出て」



1.立ち入り禁止のその理由




この際、この人が出て行かないのはもう問題にしない事にしよう。
だが、問題がある。

俺の目の前には、湯気の立つお粥がある。
ティナ達が病気の時には胃に負担の少ないものを…と気を使って、作ってくれたそうだ。
それはいい。
問題は、そのスプーンを持つ手だ。
「俺、自分で食べる」
「病人は大人しくしてろ」
いや、それ違う。

問題はこれ。

俺の目の前には、お粥の器と粥を掬ったスプーンを持ったウォーリア。
今日は完全に俺の看病に徹するつもりらしい、光の戦士。
だからって、ね…。
アーン…というのをやりたいのか?
やりたいんですか?
いや、その体勢ですけど。

「口を開けろ」
何で、命令形なんだろう?病人には優しくしてほしいんだけど。
じゃなくて。
「いや、俺…本当に、自分で食べるかr…」
最後まで俺の台詞を聞かずに、手にしていたスプーンを突っ込まれた。

「美味いか?」
いや、味は確かに美味しいんだよ。
美味しいけど…。
「アッツイ!!」
せめて…冷ましてほしかった。



2.奪い取れない銀のスプーン


舌を軽く火傷しながらも、お粥は食べた。
恥ずかしながらも、彼が最後までスプーンを離さなかった為に食べさせてもらった。
「もういいのか?」
「あんまり、食欲無い」
多少残す事になるが、それは申し訳ない。
もう、多分喉を通らない。

「そうだ、バッツからこれを預かっている」
そう言ってウォーリアが取り出したのは、白い紙に包まれた何か。
「それは?」
「薬…だ、そうだ」
ちょっと待て、今の間は何だ?
いぶかしく思いながらも、水の入ったグラスと共に受け取る。
中を開いてみると…風邪薬とは思えないような蛍光色の、粉っぽいものが包まれていた。

「…………」
「飲まないのか?」
いや、本気でこれ飲ませる気なのか!?
「あの、ウォーリア…これ、本当に風邪薬なのか?」
「そうだと聞いたが」
いや、薬ってこう、もっとそれらしい色があるだろう?
どう考えても、体には良くない色だぞ、コレ。
「昔から言うだろう、良薬は口に苦しと…嫌がっていては治るものも治らない」
そう言いながら、俺の手からグラスと白い包みを取り上げるウォーリア。
あっ、何か嫌な予感がする。

「ウォーリア…何する気?」
「嫌でも、飲んでもらおう」
そう言うと、彼は蛍光色の薬らしいものと水を口に含み。
そのまま、俺に口付けた。
口の中に入ってきた液体に混ざったソレは、嫌な後味を残したまま喉の奥へと消える…。
「これは…予想以上に不味いな」
君が嫌がる理由も分かる、と一人で勝手に納得しているが、俺はそれどころじゃない。
薬のせいで、熱が上がってしまった。


3.良薬は口に苦すぎる



再び上がってきた熱にうなされながら、静かに横になる。
そっと額に置かれている布が外され、隣で水の音がしたかと思うと、ひんやりとした布がまた額に戻された。
弱っている時には、普段以上に人の優しさが身に染みる。
ただ心配なのは、貴方の事。
ずっと付きっきりなのは、感謝しているが…無理していないんだろうか?

「ウォーリア…」
「ん?どうした?」
そっと目を開けて呼びかけると、彼は俺の顔を覗き込み、何の用かと尋ねる。
「無理、してないか?」
「私は何も無理はしていない、それより君の方が無理してるだろう?」
そう言って俺の額に触れる。
「まだ熱いな、しばらく寝た方がいい」
そんな声と共に、そっと額にかかる髪を掻き揚げられる。

俺の横に貴方がいるのは嬉しい、でも…あまり体にはよくないと俺は思う。
貴方、分かってる?
今、俺が感じている動悸は体が弱っているせいじゃない、貴方のせいなんだ。
熱が上がったのだって、きっと貴方のせいなんだ。
こんな状態で、大人しく寝ていろなんて無理に決まってる。
だけど…風邪の時は、人恋しくなるもので…。

「ウォーリア」
「どうした?」
「側に、居てくれるか?」
「勿論だ」
そう言って、額に落とされる貴方の唇が気持ちいい。
眠れなくても、貴方が側に居てくれる方が嬉しい、かもしれない。



4.この状態で眠れると?



どんな屈強な人間も、病には勝てないものだ。
それは、調和の戦士にも通じる事。

風邪を引き熱を出した俺は、それから三日で完治する事ができた。
気遣ってくれた仲間のお陰か、あの怪しい薬のお陰なのか、自分の自然治癒力のお陰なのか、それは分からないが。
ただ一人、どうしても礼をしなければならないとしたら、間違いなく彼だろう。

ウォーリア・オブ・ライト。

何せ、三日間付きっきりで看病してくれたんだから。
だから、それだけのお礼を…やっぱり、しないといけないだろう?

「だから、体で返してやるよ」
そっと、相手の頭を撫でながらそう言う。
周りには勿論誰も居ない、しばらくここには近寄るなと、既に皆には言ってある。
酷く熱に浮かされた目で、俺を見つめ返すウォーリア。
二人っきりの空間に響く、荒い息。


「その台詞…私の体が正常ならば、物凄く嬉しいんだがな……」
「だから言ったんだ、移るから出て行ってくれって」
そう、三日間付きっきりで看病してくれたのはいいが、結局、俺の風邪はウォーリアに移ってしまった。
そして、俺が完治したのと入れ替わりに、今度はウォーリアが倒れてしまった。
仲間には完全に呆れられている。
しかし、病人は病人だ。
「今度は俺が、お前を看病してやるから」
そう言って微笑むと、弱々しくも笑い返す。

こんな勇者の姿なんて、もう二度と見られないかもしれない。



5. 「たっぷりお返ししてやるよ」


お題提供元
蝶の籠




後書き
お題サイト様で見てて、書きたくなったんです。
ただそれだけの理由で、拍手を入れ替えた人間です。
WOLは看病の仕方とかよく分かってなさそう、でも真面目にやってるんです。
この後WOLはフリオにお返しという形で看病してもらいました。
フリオに「あーん」ってしてもらったんです、きっと。


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