夏の風物詩と夏男
真夏の太陽の日差しは、とても暑く地表へと降り注ぐ。
だが、この花と少年の下では…暑さなんて、何てものでもないらしい。
「フリオ!!早く来るッスよ!!」
金色の背の高い花の海。
埋もれるように走っていく少年の後を、俺は苦労しながら追いかける。
真夏の太陽に負けない明るさを持つ少年は、太陽の花に囲まれて楽しそうだ。
「あんまり遠くまで行くなよ」
後を追いかけながらそう声を掛けると、「分かってるよ」という声が返ってきた。
どこまで続く金色の花畑の先、晴れ渡った空の下、楽しそうに笑う笑い声。
今が闘いの最中だなんて信じられないくらいに…とても長閑な風景。
「遅いッスよ、フリオ!」
痺れを切らして俺の元まで戻ってくると、俺の手を取って走り出す。
目的地なんて無い。
ただ、その日差しの向こうへ向かって走り出す彼。
その腕に引っ張られ、俺も走り出す。
そんな少年に、俺も笑い返した。
1.向日葵
透明な器に盛られた、細かく削られた氷。
「こんな氷どうしたんだよ?」
「へへ…ティナがブリザドで作ってくれたんッス」
氷にかけられたシロップはバッツのお手製らしい。
「フリオニールも食べる?」
「ああ、じゃあ貰おうかな」
今日は何時もよりずっと暑い、こんな風にして涼を取らないと茹だってしまいそうだ。
赤いシロップをかけて、器に盛った氷にスプーンを入れて口へと運ぶ。
途端、口内に広がる甘さと冷たさに、ちょっと驚きつつも嬉しさを覚える。
そんな俺を見て、側に居たティーダがそっと近寄る。
「ねえフリオ、フリオの一口欲しいな…」
ニコニコと笑ってそうおねだりするティーダ。
彼の手には俺のとは違う色のシロップがかかった氷の器。
「しょうがないなぁ…ほら、あげるからお前のも一口くれよ」
「いいっすよ…はい!」
そう答えると、笑顔で俺にスプーンを差し出すティーダ。
彼自身もニッコリ笑って口を開けて待っている…。
えっと……これは、彼の誘いに乗った方がいいのか?
めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど…。
「…ほら!」
仕方なく、俺も彼の前にスプーンを差し出すと、嬉しそうに彼は口を開けてパクリと食べた。
差し出されたまま止まっている相手のスプーンを見て、俺は溜息を吐きつつも彼に習う。
「おいしいッスか?」
俺のとは違った味の氷の味を味わうつもりが。
気恥ずかしさが勝って味なんて分からなかった。
2.カキ氷
「海だぁあ!!」
真っ青な海へと向かって、白い砂浜を駆ける少年。
そうえいば、ブリッツボールは水中で行うんだったっけ。
楽しそうに海に向かって飛び込む少年に、俺は苦笑い。
「やっほぉう!!」
ちょっと小高い岩の上に立つと、そのまま海の中へと飛び込むティーダ。
「ティーダ、服のまま飛び込むなよ!!」
「いいじゃないッスか、アナザー衣装あるんだし」
いや、それは確かにそうだけど。
「目的忘れてないか?」
海に来た目的は、今日の夕飯になりそうな魚を捕る為だ。
それを忘れられては困る。
「いいじゃないッスか、どうせ獲物は水の中なんだし」
浜の方へと歩いてきながらそう言うティーダに、俺は本気で溜息を吐く。
泳ぎが得意だというのは知っているが、本当に泳いで魚を捕る気だったのか。
「フリオ、手貸してくれないッスか?」
岩の上に座る俺にそう言うティーダに、俺はそっと手を差し伸べる。
その口角が、ニッと上がったのに気付いた瞬間…。
「隙あり」
「えっ!うわぁ!!」
引っ張り上げるつもりが逆に引っ張られ、そのまま俺も海の中へと落ちる。
水の温度は思っていたよりも冷たく、膝晋いよって暖められていた体が冷える。
「ティーダ!!何するんだよ!?」
「へへへ、いいじゃないッスか、ちょとくらい遊んでくれたって。
それに、水に濡れたフリオ、色っぽいッスよ」
「……何だよ、ソレ」
そうやって呆れる俺と、悪戯少年を受け止めてくれた海は。
恨めしいくらいに、青く綺麗だった。
3.海
夏の天気は変わり易い。
遠くに大きく見えていた入道雲。
それはにわか雨を連れて俺達の元へとやって来た。
「あーあ、ツイてないッスね」
「そうだな」
木の下で雨を凌ぎながら、そっと空を青いで見るも結果は同じ。
「まあ、通り雨だろう」
そんな俺の言葉通り、急に激しく降り始めた雨はしばらくすると段々と弱くなってきた。
濡れた服を乾かしてる間に、すっかり小ぶりになり止んでしまった雨。
降られてしまったのは、本当にツイてなかったのかもしれない。
だが、嫌な事というのは連続して起こりはしないのだ。
雨上がり、雲が晴れて青空が覗き始めたその空の先…。
「あっ!!ティーダ、見てみろよ虹だ」
「えっ……本当だ」
雨上がりの青い空に、すっと浮かび上がる七色の大きな架け橋。
「うっわぁ…ツイてるッスね」
そんな少年の一言に、俺はクスリと笑う。
さっきはツイてないって言ってたのに、ほんの少し天気が変わっただけで運気が上がった。
「どうしたんッスか?」
「いや……綺麗だな」
そっと笑ってそう言うと、彼も頷いた。
二人で虹を眺めながら、帰る。
ほんの少しだけ、幸せを運んでくれた雨上がり。
4.虹
「フリオ、ちょっと来てほしいッス」
日が沈み、夜闇が濃くなり始めた頃、急にティーダがそう言った。
「来てほしいって、何処に?」
「へへへ、それは秘密」
楽しそうに笑ってそう言うティーダ。
別に何か悪い事をしようとするつもりではないだろう。
でも一体どこへ行くんだろうか?
「着いたッスよ」
そう言って彼が連れてきたのは、森の中にぽっかりと開いた草原。
「蛍……」
ふわりふわりと、夜闇の中に浮かび上が小さな光達。
無数の蛍の群れが、周囲を飛び交っている。
目を輝かせてその光景を眺める俺に、ティーダは自慢気に「スゴイだろ?」と俺に言う。
「フリオをビックリさせようと思ってさ」
「確かに、凄く驚いたよ」
「へへへ」
嬉しそうに笑うティーダ。
周囲を見回していた俺の手に、ティーダのものが重なる。
「どうした?」
「…うん、いや……その」
照れたように口ごもりながら、そっぽを向くティーダ。
恥ずかしい、と思うのは俺も同じ…だけど。
偶には、いいかな…。
夜闇の中に輝く星と蛍。
そっと、握る手に力を込めた。
5.蛍
後書き
夏を満喫したいが為に書いた、と言っても過言ではない小説。
タイトルの“夏男”は、勿論ティーダの事です。
彼はなんとなく夏が似合うイメージがあります。
それにしても、ティフリっていいですね、とことん青春してほしいよこの二人には。
甘酸っぱい恋愛って、書いてて恥ずかしいんですけどね。
自分の青春は、部活とオタクとその他の趣味で終わったので、恋愛はさしてしてないです。
まあ、傍観はしてましたが…。
そんな自分の代理で、こんな生活も悪くないよね…シリーズ第一弾。
次の拍手お礼がその第二弾です。
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