花と共にある貴方の姿 5題
1、飾って
月光を反射する美しい銀の髪をそっと梳いてやると、くすぐったそうに身をよじる。
愛しいヒト。
その髪に、彼の愛する花を挿す。
「何するんだよ?」
腕の中に居る彼が、そっと視線を上げてそう尋ねる。
「愛しいモノを飾って、悪い事はないだろう?」
「・・・そういう台詞は、女性に言った方が喜ばれるんじゃないか?」
「私が愛しているのは、お前だけだが」
「それも、俺よりずっと似合う人が居ると思う」
そう言って、私の腕から逃れようとする。
逃げられるわけがないだろう、私から。
「お前以外に、似合う者なんていない」
そっと、深紅の花をもう一輪挿す。
「よく似合っているぞ、フリオニール」
「男の髪に、花を飾ってもしょうがないだろう」
「いや、綺麗だ」
夜闇の中、月光と燭台の灯りが私達を照らす。
「お前には、赤い花がよく似合う」
もう一輪、手に取り愛しい人に差し出す。
飾り立てよう、その髪に、その体に・・・。
愛しい華を・・・。
2、触れて
触れられた場所から幽かに伝わってくる、自分のものとは違う体温。
「愛しているぞ」
背後から抱きすくめられ、耳元でそう囁かれる。
その言葉に、背筋がぞくぞくとする。
「お前を、愛している」
止めてくれ。
お願いだから・・・そんな事を囁かないで。
「どうした?今日は抵抗しないのか?」
抱き締められたまま、そう言われる。
相手の顔は見えない、俺の顔も相手には見えない。
「逃げたって、どうせ捕まえるつもりなんだろ?」
「その通りだ」
逃げられないというのなら、逃げてもしょうがない。
「狂おしい程、お前が愛しい・・・フリオニール」
首筋に掛かる相手の息遣い。
腕に込められた力。
甘い言葉に、心臓が跳ねる。
触れないで、その腕で。
触れないで、その気持ちを持って、俺に。
囁かないで、愛の言葉なんて。
狂い咲いてしまうそうだから。
俺の中の恋心が。
触れられたいと望んだ時、花は開く・・・。
3、咥えて
「ちょっ・・・離せよ」
「断る」
しっかりと逃げられない様に、相手を抱き締める。
膝の上に座らせ、間近にあるその顔を真正面から見つめ、優しく微笑む。
さっと、その顔に朱が走る。
「お前が好きだ」
そう囁いてやれば、更にその頬に赤みが増す。
気付いているんだろう?自分の中に生まれた気持ちを。
私の言葉に、揺れているのだろう?
「愛してやるぞ、永劫に」
「・・・・・・俺は、お前の事なんて、別に」
「別に、何だ?」
その顎に指を掛け、コチラを向かせる。
どう答えるべきなのか迷うその唇が、赤い頬が、潤む瞳が私を狂わせる。
手に入れてしまいたい。
その全てを・・・。
咲きかけた花の蕾のような、美しいお前。
花弁に口付ける。
美しい色の蕾に。
驚き、見開かれた瞳も・・・震えるその体も。
咥えた唇から伝わる、熱も。
素直になれない、その心も。
きっとすぐ、私の為に花開く。
4、 抱いて
「もう、そろそろ、戻らなければならないな」
ちゅっ、と軽く水音をたてて離れた唇。
熱い吐息と、同じくらい熱い相手の視線。
名残惜しそうに、俺を抱き締めていた腕が離れる。
「・・・どうした?」
「あっ・・・」
意識せずに、相手の腕を掴んでしまった自分に驚く。
どうしたのか、自分でも分からない・・・ただ。
離れた腕が、寂しいと思った。
離れないでほしい。
離れてしまうと、枯れてしまう。
花咲く開く前に、心の中で。
「もう少し・・・抱いてほしい」
そう言った瞬間に、再び相手の熱を直ぐ側に感じる。
その熱に、安心してしまう自分が、居る・・・。
どうして?
こんなにも、相手を愛しいと想ってしまった。
5、 埋もれて
花の敷き詰められた寝台に押し倒され。
自分の体温も、相手の体温も急上昇している。
「皇帝・・・」
「何だ?」
「俺・・・どうしたらいいんだ?」
「どうもしなくていい、私の手で咲かせてやる」
首筋に顔を埋めて、少し強めに吸い上げられる。
ピリっという痛み。
首筋に付けられた、赤い華。
埋もれてしまう。
相手の腕に、心に、自分の中に生まれた、気持ちに。
だけど、それは決して嫌じゃなくて・・・。
自分の変化に、驚く。
埋もれてしまえばいい。
貴方の全てに。
お題提供元
蝶の籠
拍手お礼に書いた小説、皇帝×フリオ。
実は、全5話トータルで二時間半くらいで書き上げました。
なので、色々とおかしい所があるかもしれないです。
『恋は…』と同時期に書いていたので、アレの続編っぽいかんじです。
皇帝が別人だ、というのは誰に言われるまでもなく承知しております。
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