[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
孤独というものに慣れてしまった。
誰かの温もりに触れる事もなく、オレはずっと一人で生きてきた。
その時、オレは何時死んだっていいと思っていた。
一時、差し伸べられた温もり。
その温かさはオレの心を作った。
温かさをしって、オレは生きていく決意を決めた。
温かく燃えていた炎。
だけど・・・。
一度失った温もりはもう二度と燃える事はない、という冷たい現実を知った。
だから、オレはこれからも一人でいいと思った。
寂しさは、一人の時に飛来するんじゃない。
寂しさは、大切な人と別れた後に訪れる。
~9mm口径銃の叫び~
目覚めは何時も気分が悪い。
低血圧とかそういう関係なのかもしれないし、ただ単に自分の変調気味な生活リズムのせいかもしれない。
しかし、どちらも改善する策をオレは持ち合わせていないので、オレの目覚めは何時も悪い。
寝起きのシャキっとしない頭を手っ取り早く覚醒させる為に、風呂場に行きシャワーの栓を捻る。
鼻歌を歌うほど上機嫌でもない、寝起きは普段以上にテンションが低い。
これも、やっぱり目覚めが悪いせいか。
・・・よくよく考えると、オレは鼻歌をまず歌う事がなかったんだ。
頭の回転が通常に近くなったので、水を止めて風呂場から出る。
仕事着に着替えるのはまだいいので、さっきまで来ていたジャージを着て歯を磨く。
洗面台に写る自分の顔の中で、左耳につけた三つのピアスが光った。
風呂上りの湿った髪をガシガシと拭きながら、今度は冷蔵庫の戸を開けてみる。
そういえば・・・昨日仕事帰りに買い物に行こうと思って、結局忘れてそのまま帰ったんだった。
だから、冷蔵庫の中身は壊滅的な状況にあった、普段自炊なんてしないので余計に食材の少なさが目に付くのかもしれない。
これを見た料理好きの同業者は何て言うだろう?
きっと怒鳴られるだろうな・・・「料理もできずにどうやって生きていくんだっ!」って。
別に料理ができなくても飢え死にする事はない。
っていうか、オレ場合仕事先の雇い主が食事の面倒を見てくれるので、大したものができなくても充分食っていけるのだ。
とりあえず、残っていたバランス栄養食のゼリー飲料を取り出す。
新聞は取ってないので、とりあえずテレビを付けて世間のニュースを聞き流す。
ニュースはこの世界の事を克明に伝えているから、何よりも現実感のある番組のはずだが・・・。
しかし、どうもオレにはニュースの世界の事はリアルに感じられない。
だって、世界の果てで今何が起こっているなんて言われても、今オレはその事態をこの目で見ていないし、体で感じていない。
政界で今何が起こってるとか、経済が悪いからどうしたとか・・・難しい話も分からない。
っていうか、皆分かってるんだろうか?
知った被っているだけで、本当は皆、何も分かってないんじゃないだろうか?
ニュースキャスターが感情の無さそうな声で、悲惨な事件を読み上げる。
彼等の話す言葉は、何時も少し肝心な所が抜けている。
完全な答ではない、そう思えてしまう。
それは、ただのヒントであって本当の答えはもっと別に用意されているんだろう。
世界は人に判断材料は与える、だけど答えだけは教えない。
それはオレ達で見つけろっていう事なんだろう。
本当の意味での真実を知る為には、記録者の元にでも行くしかない。
・・・なんて、無駄な考えは断ち切って今日の仕事は何か確認しなければ・・・。
充電器に差したまんまだった携帯を取り、メールの確認をする。
やっぱり来ていた、雇い主からのメール。
『今日の十七時までに、集会所に顔を出すように。
十七時半に、本日のターゲットの討伐に向かっていただきます』
毎日、仕事仲間全員に送られる集合時間のメール。
この時間の変動はあまりないが、重要な事が書かれている事も多いのでチェックしておかなければいけない。
そして、緊急時には個人に特別な連絡が入っていたりもする。
今日のメールには二件目があった。
説明するまでもなく、緊急の仕事だ。
ゼリー飲料の容器をゴミ箱に入れ、テレビを消すと着替えをしに向かう。
黒のパンツにロングTシャツと、黒いロングコートを羽織り、最後に自分の相棒の確認をする。
『M9』の名称で知られる、ベレッタM92F。
黒光りする銃を入念にチェックして、手入れに不備がない事を確認した上でホルスター付きのベルトに直す。
携帯と家の鍵、財布を持ってオレは帰ってきても誰もいない家を出た。
ハンターと聞くと、何か動物でも狩る仕事だと普通の人間なら思うだろう。
だが、この世界で狩られるのは何も動物だけじゃない。
妖怪や魔物、人に害を与える存在で討伐令が下ったモノを狩りに行くハンターがいる。
人に害を与える人で、討伐令の下ったモノを狩りに行くハンターがいる。
そして、その二つの職はある認められた者にだけ与えられる職業だ。
その認められた者は、大抵の場合その職に就くしかないような奴等ばかりだ。
かく言うオレもその一人なわけなんだが・・・。
さて、この討伐令は一体どこから降りてくるものなのか・・・。
実は神的存在が協議して決めているらしい。
らしいというのは、オレは神を見たことがないからそれが本当か知らないだけ。
まあ、それを知ったからといって、仕事に何か変化が生じるわけではないから知らなくても別に構わない。
通いなれた足取りで、今日も例の洋館へと足を運ぶ。
37地区、ハンター集会所。
それがオレの雇い主が居を構えている洋館の名前だ。
木製のドアがちょっと軋んだ音を立てて中に開く。
「思ったより、早いご到着でしたね」
扉を開けて中から姿を現したのは、常時シックな服装に身を包んだ黒髪の女性。
年齢不詳、そもそも人間ではないという噂も聞くオレ達ハンターの雇い主。
それが彼女、上代楓(カミシロ カエデ)。 「緊急の仕事なんでしょう?だから早く来たんです」
「貴方のその仕事に熱心な姿勢は好感が持てますよ、さあ早く中へ」
手招いてそう言うので、その後に付いて行く。
通されたのは普段使っている集会用の大広間ではなく、彼女の書斎だった。
「緊急の仕事って何です?」
「まずお掛け下さい、詳しい事情はこれから説明します」
彼女が指したソファに座り向かい合う、緊急の仕事だと言っていたけれど、彼女の物腰は普段と変わらない。
「まずはこの資料に目を通して下さい」
机の上に用意されていた紙の束を渡され、追ってその資料を読み進めていく。
思ったよりも量はなく、数分で全てを読み終わった。
「ここに書かれている人物が、今回のターゲットですか?」
「はい、緊急に排除して頂きたいのです」
「どうしてまた?今見た限りでは、普段の仕事と大して変わりありませんけど」
「ええ、それは今日の仕事で出そうと思っていた分の資料ですから・・・しかし、二時間程前に最新された情報が入ったんですよ」
つまり、そっちに問題があって緊急の仕事に変更になったわけだ。
罪人が緊急に処罰されるべき時というのは、大抵悪い者が悪いモノと通じていた時だ。
「彼等は悪魔と通じているそうです」
やはりそうか・・・。
「親の居ない孤児の魂を悪魔に捧げる事で彼等から感情を取り除き、“生きている兵器”として売買にかけているそうです」
人身売買、普通に暮らしている人間には縁遠い話しに思われるけど、こんなに側に転がっていたりするのだ。
ただ、気付いていないだけで・・・。
世界はヒントを与えているのに、その答えを導けなくて・・・何も見えていないのだ。
「今回の討伐依頼は、この業者の中心人物と幹部、合計十七人です」
「了解」
「相手が見方に付けているのは低位悪魔ですけれど、中には高位悪魔に通じている者もいるかもしれません。
充分に注意して、仕事に向かって下さい」
「分かっています、オレも素人じゃないですから」
「そうですね」
資料を片手に立ち上がり、早速仕事に向かおうとするオレの背中に待ったの声が掛けられる。
「・・・まだ何か?」
「この仕事に向かってもらうのは、貴方だけではないんですよ」
「チームで討伐に向かえ、って事ですか?」
「チームというよりも・・・コンビですね」
コンビという言葉で、もう相手が誰なのか分かってしまった。
「・・・・・・アイツですか?」
「ええ、彼は説明を聞き終えて隣室で待っていますので」
彼女は笑顔でそう言い、オレは逆に苦笑いでその部屋を退室する
。 オレ・・・アイツとコンビなんて組んだ記憶はないのに、どうして何時も何時も仕事になるとこうもアイツと組まされるんだろう?
ノックをする前に溜息を一つ吐き、部屋の戸をノックする。
「はいはーい、よう!おはようさん睦月(ムツキ)」
ガチャっという音と共にハイテンションな関西弁の青年がはちきれんばかりの笑顔で現れた。
「・・・・・・・・・」
「おうおう、また今日も何時もと同じシケたツラしてんなぁ、たまには笑って挨拶しろや。
・・・・・・っていうか、挨拶くらいしてくれや」
いや、挨拶させないくらいに一人で勝手に話してるのはお前の方だろ。
しかし、まあコイツもオレの挨拶を待っているようなので、必要な台詞は言ってみようか。
「・・・よう」
「・・・・・・・・・」
「何?」
「えっ、それだけ!相棒に対する挨拶それだけっ!!」
「他に何か言ってほしい事があるなら言うけど」
「もうええよ!何かせがむのも子供っぽいし、それに虚しいわ!!」
何でコイツはこんなにも人の応対に敏感なんだろう?別に気にしなくても構わないのに。
「それで、鶲(ヒタキ)仕事なんだけど・・・」
「分かってるって、早く行って済ませてくるか」
部屋の隅に置いてあった彼の大きな黒い鞄を肩に掛けると、関西弁の青年はさっさと行ってしまう。
「一人で行かせてくれって・・・言おうと思ったのに・・・」
オレの望みは遂に誰にも聞かれぬまま、今日の仕事へ向かう事になってしまった。
2へ
後書き
『9mm Parabellum Bullet』というパンク系ロックバンドを知ってますか?
私は結構好きなんですが、以前地元のカラオケで歌おうと思ったら入ってなかった、という悲劇が起きました。
一体何故?
タイトルはこの『9mm Parabellum Bullet』さんから取りました。
でも、彼等の歌の曲とこの話の内容はあんまり関係ない・・・。
『9mm Parabellum Bullet』を和訳すると『9㎜口径の弾丸』になると知り、その言葉をただ使ってみたかっただけです。
途中できる所を見誤ってしまったせいで、無駄に長くなってすみません。
2008/12/23
BACK