雨上がりの青空は、どこまでも清々しい


雨月草紙

〜五月晴れ〜



雨音が消えた、雨が止んだのだろう…。

目を覚ますと、既に明け方近くになっていた。
隣を見ると、私にもたれるように安らかに寝息を立てるフリオニールの姿。
ふっと微笑み、彼の頭を撫でてやると「うーん…」と唸った後に、薄っすらと目を開ける恋人。
「おはよう」
「…っあ、おはよう…ウォーリア……」
昨晩声を使い切ってしまった為だろうか、掠れた声で挨拶する恋人。
「体は大丈夫か?」
頭を撫でながらそう訪ねると、「腰と、喉が痛い…」と文句を言われた。

「無理するな、って言ったの…誰だよ?」
右手の掠り傷を見て、そう呟く恋人の嫌味に私は苦笑する。
確かに、そう言ったのは私だ。

「すまない、無理させた」
彼の額にキスを落とし、そう謝る。

「そんな事で…騙されないからな」
大変ご立腹な恋人に、どうご機嫌を取ったものか悩む。
「とりあえずフリオニール…服を着たらどうだ?」
「えっ?」
ようやく自分の姿を見た彼は、固まった。
私のマントをかけ、隠れてはいるが…まだその下は一糸纏わぬ姿なのだ。

「……ウォーリア、俺の服取って」
「着せてあげようか?」
「そこまでしなくていい」
脱がしてそのまま放っておいた彼の服を取って渡すと、私に背を向けて急いで着替え始める。
下半身だけ服を着ていた私は上の服を取って着ると、外の様子を伺いに向かう。

「よく晴れてる」
雨上がりの朝の空は、雲ひとつ見当たらないくらいの快晴だ。

「そろそろ野営地へ戻らないと、皆心配してるかもな」
「何、雨で足止めされていたと言えば、皆納得してくれるさ」
そう言うと、彼はそうだけど…と口ごもる。


乾かしていた装備品を身に付けて、二人揃って野営地へと帰る。
辛そうな彼に、肩を貸しながらゆっくりと歩いて行く。

昨日の雨が嘘のように、真っ青に晴れ渡った空を、彼は恨めしげに見上げている。
「雨なんて降らなければ、昨日の内に帰れたのに…」
あんな事も、しなかったのに…と続きそうな彼に、私は立ち止まって彼の顔を見る。
「そんなに嫌だったか?」
「……嫌っていうか、その…」
真っ赤になって私の視線から逃れるように、そっぽを向くフリオニール。

「嫌じゃなかった?」
「恥かしかった、のと…後が辛い」
今も腰を抑えたまま、そんな事を言う恋人。
「だから、悪かったと謝ってる」
再度、謝罪してみても彼はまだ許してくれない。
「謝って済む問題じゃないだろう?」
それもそうだ。

「君が好きなんだよ」
「だから、騙されないって言ってるだろ」
そう言う彼の頬を両手で挟み、私の方へ向かせる。

「君を愛してる」

そう言って、優しく触れるだけのキスをする。
「許してくれるかな?」
頬を赤く染めた彼にそう問いかける。

「……ウォーリアには負けるよ」
はぁ…と溜息混じりにそう言うと、私から視線を外す。
「君の事が好き、だからな」
くしゃり、と彼の頭を撫でてそう言うと、彼は疲れたようにまた溜息をついた。

「俺も、貴方が好きです」
そう小さな声で呟いた彼の告白に微笑み、「知っているさ」と返答する。


空はよく晴れている。
すっと透き通ったその空は、我々二人の心の中にどこまでもどこまでも染み込んでくる。




雨月草紙 終幕


後書き
雨月草紙、三部作完成しました!!

結局フリオはWOLに勝てません、昨夜どれだけ鳴かされて、体が辛くて、どんなに怒ってても結局許しちゃいます。

何故か先に完成している3話、これに合わせて今から2話を書きます。
ちゃんと、辻褄が合うように書かなければ…。

何故に自分は三部作の小説なんて書こうと思ったのか、書き始めた後で後悔しました。
何はともあれ、完成して良かったです。
2009/6/20


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