あまりにも一途で狂った愛世界は崩壊した。 それは、コスモスが消滅し、カオスがこの闘いに勝利したからではない。 私の手で、全てを破壊したのだ。 この世の全ては、破壊し尽された。 破壊の後に、望んだ世界を構築する為に。 全てを無に帰し、作り直す為に。 全て、彼の為に。 始まりは、自分の中で芽生えたある感情。 嫉妬と独占欲。 それは小さく、初めの内は胸の内で小さく燻っているだけだった。 仲間と共に楽しそうに談笑している彼に、感じたのは不安。 彼は、人に好かれている。 そして、彼は人を好いている。 誰にでも等しく接し、笑いかける。 自分へ向けられる愛情が、彼にとって最上のものだとは思う。 だが、彼が自分以外の誰かをその目に映しているのが、気に喰わない。 「フリオニール、愛している」 「俺も、ウォーリアの事…あの、愛してる、よ…」 恥ずかしそうに頬を染めてそう答える彼を強く抱きしめると、そっと背中に手を回して抱きしめ返す、彼の温もり。 それで、酷く安心する。 彼は私を望んでくれているのだ、と…そう。 だが、ある日気付いたのだ。 コスモスに召還された我々は、元々この世界の者ではない。 この闘いが終われば、元の世界へと帰らなければいけない。 私が元の世界でどんな人間として生きてきていたのか、それは分からない。 だから、この世界での事こそが私の全てだ。 だが、彼は違う。 彼には帰るべき世界があり、果たすべき目標があり、叶えたいという願いがある。 この闘いが終われば、彼はこことは違う世界に帰り、私の知らない彼の仲間達と共に、その夢を叶える為に闘いの中へ再び身を投じるのだろう。 そして、平和を取り戻した暁には、仲間達と笑い合いながら暮らしていくのだろう。 私の知らない世界、知らない彼の顔。 何より、分かれてしまえば彼とは二度と会えなくなるだろう。 そうすれば、彼は彼の世界で新たな恋人を見つけ、幸せな家族を持ち、やがては、私の事なんて忘れ去ってしまうのではないか…。 そう思った瞬間に、何かが外れた。 それからの行動は早かった。 全てを破壊し、この世の神すらも超えて。 邪魔をする者は全て滅却する為に、容赦無く剣を振るった。 「哀れだな、光の戦士」 「ガーランド」 私の目の前に一番最初に現れたのは、宿敵であるガーランドだった。 「ついに、狂気に目覚めおったか」 「“狂気”、だと?」 私の何が狂っているというのだ? ただ、私は彼と一緒に居たいだけだというのに。 「ただ己の私欲の為に、狂気に触れて全てを破壊するか」 「私はただ彼との世界を望むだけだ、誰であろうとも邪魔はさせん」 「フン、それを人は“狂気”と呼ぶのだ」 「お前と一緒にするな」 「同じように道を踏み外したからこそ言えるのだ」 「私は私の道を歩んでいる」 「自分の欲の為に周りも見えなくなったか、愚か者め」 「誰が何と称そうが、私は決して止まりはしない」 剣を構え、相手との死闘に立ち向かった。 勝利を手にしたのは、勿論、私だ。 完全に相手を消し去った後、相手の血で汚れた刀を手に、カオスの軍勢の中へと、私は単身で乗り込んでいった。 全てを滅ぼす、ガーランドが“狂気”と称した力を手に。 そして、その破壊の標的は、コスモスの軍勢へも容赦なく伸びた。 「ウォーリア…ウォーリア!!もう、止めてくれよ…こんな酷い事止めてくれ!!」 何度も何度も泣いて、フリオニールは私に縋り付く。 特に、仲間の血を見た時には、強く私に縋り付いて離れない。 君は優しいから、彼等にも情をかける。 だけど、分かっていないようだ。 そうやって君が誰かを庇う度に、その瞳には必ずその相手が映っている。 私以外の誰かが。 それだけで、私は許せなくなる。 君の瞳に、私が居ないというだけで…もう駄目だ。 怒り狂って、君の目に映る全てを奪い去ってしまう。 大地が血を吸って、黒く禍々しい色に染まる。 最近は、彼を外に出しておくのが不安になって、偶然見つけた石造りの家に彼を繋ぎとめている。 一人で居させるのは、少し寂しい思いをさせるかもしれないが、その分、後でゆっくりと相手をする事に決めている。 「フリオニール、君を愛してるよ」 破壊を繰り返した後、石造りの本拠地に戻り、まずは彼にそう告げて抱き締める。 彼の好きな穏やかな声と笑顔も忘れない。 「なら……もう止めてくれよ…」 しゃくり上げながら、私の胸を押し返す。 震えるその体を強く抱き締め、落ち着けさせる。 「フリオニール、私はただ君と一緒に居たいだけだ」 「なら!どうしてこんな事をするんだ!!今までだって、ずっと…ずっと貴方の側に居ただろう!!」 最近はずっと、これの繰り返しだ。 私の側に居たって?決してそんな事はないだろう? 君は、私を大切にするのと同じように、他の仲間にも接していたじゃないか。 愛しているのが私だけなら、全てを私に捧げてくれ 君はただ、私の為に生きていればいい その呼吸一つも、私の為のものであればいい その思考の全てが、辿り着く先は私だけでいい その目に、ただ私だけを映してくれればいい 「君の全てが欲しい、何一つ残らずに全てを」 「ウォーリア…」 ただ、私は君を愛している、それだけだ。 それが、そんなに罪な事だろうか? 「こんなの、おかしい…絶対におかしいよ」 腕の中で、ただ小さく震え続けるフリオニール。 優しくその頭を撫でてやると、ビクッと体を震わせる。 やっぱり、彼は相変わらず慣れないな…。 「ウォーリア…一体どうして、どうしてこんな風に変わったんだ? まるで…狂ったみたいに」 「狂ってる?」 その一言で思い出すのは、いつかのガーランドの言葉。 「そうだよ、その通りだよウォーリア!今のウォーリアは狂ってる!!」 正気に戻ってくれ!と泣いて訴える彼を、酷く冷めた心で見下ろす。 「もし、私が本当に狂っているとするのなら、それは全て君への愛の為だ」 「俺への…愛?」 「私が狂っているというのなら、狂わせたのは、君じゃないのか?フリオニール」 私の言葉に、フリオニールは絶句した。 涙に潤んだ琥珀の瞳が、大きく見開かれる 「俺…の、所為?」 「そうさ、君の為に私は狂った、全ての元凶は君じゃないか」 「俺の…」 涙で濡れた瞳が、不安や恐怖で一杯に満ちる。 拒絶するように横に振られる首。 「違う…違う」と何度も小さく繰り返す、彼の小さな声。 「何が違うていうんだ?フリオニール?」 「違うんだ、違う…」 「何も違わない、今の私が狂っているならその原因は君にある。 私が破壊を始めたのも、私がこの手を汚して仲間を殺したのも、全て君の為だ。 私が狂っているというのなら、フリオニール…君も、同罪だ。」 冷たく言い放つ、抱き締めた腕は緩めないまま。 「そ、んな…」 遂にポロポロと大粒の涙を流しながら、恐怖に引きつった表情のまま私を見返す。 そんな彼の頬に手を掛け、そっとその涙を拭ってやる。 私とした事が、少しやり過ぎてしまった。 「すまない、言い過ぎた」 「…ウォー、リ…ア……」 「安心しろ、君の罪は全て私が受け持つ」 落ち着かせるように頭を撫で、耳元で優しくそう呟く。 流れる涙を舐め取っり、顔中に優しくキスの雨を降らせる。 「落ち着いたか?」 小さくコクリと頷くのを確認して、今度はその唇にキスする。 ほら、彼は私を望んでいる。 私を受け入れている。 私を、愛している。 さあ、後もう少しだ。 もう少しで、二人だけの世界が完成する。 だけど、今も確かに胸の底で君を欲する自分がいる。 際限なく望む、君という存在を。 「フリオニール、君が欲しい」 君に溺れて、何も無くなってしまったっていい。 私は、ただ君一人を愛し抜く。 後書き つのばら祭り用に書いた小説第三弾、で、Wol様が狂気に目覚めました。 甘いのばかり書いてるので、たまには暗い作品を書こうと思い立ちまして。 作品傾向は自由って書いてあるので、拒絶はされない、ハズですよね…? 救いようのない話しですが、多分まだ続きます。 続きは、増設した地下室送りになる可能性が高いです…。 2009/4/5 |