この学校には、三つの名物がある。 一つは、魔法と戦闘技術という、この学校独自の授業。 もう一つは、全国大会で優勝何度も優勝経験のあるバスケ部。 そして、最後の一つは3年A組に在籍する一人の生徒。 名前は、ウォーリア・オブ・ライト。 この学校に入学してからずっと生徒会長を勤め続ける、容姿端麗の模範生であり。 実は、俺の恋人でもある。 恋人は生徒会長「フリオニール」 「何だ?」 名前が呼ばれてその声の主の方を向けば、彼、ウォーリアはファイルを片手にそこに立っていた。 「今日の放課後、生徒議会を開くので集まってくれ」 「ああ、分かった」 そう返事すると、それ以上は何も言わず無言で頷くと、彼は自分の席へと戻っていった。 生徒会副会長、というのがこの学校での俺の役職である。 もう一つ、園芸部部長という役職もあるのだが、何故かコチラはあまり知られていない。 他の部によく助っ人として呼ばれているからだろうが、しかし園芸部の認知度そのもの自体が知られていないのかもしれない。 もう少し、活動を活発にした方がいいかもしれないな…。 そういえば花壇の花をそろそろ植え替えないといけないな…なんて、そんな事を考えていたら、廊下から騒がしい足音が近付いて来た。 バンっと、教室が揺れるんじゃないかという位に大きな音を立ててドアを開けられる。 「フリオ先輩!!」 昼休みの教室中に響き渡る、後輩の声。 「ティーダ、どうしたんだ?」 俺の姿を見て後輩は俺の元へ走り寄る。 そして、俺の目の前までくると物凄い勢いで頭を下げ…。 「お願いします!勉強教えて下さいッス」 普段の姿からは想像もできないくらい、綺麗な角度の礼だな。 つまり、それだけ切羽詰ってるって事なんだろう。 「……お前、またテスト危ないのか?」 「だって!分からないものは分からないッス!!」 毎度毎度、本当に飽きないなと思う。 しかし、必死で頭を下げる可愛い後輩を見殺しにするわけにはいかないだろう。 「分かったよ、見てやるから」 「本当ッスか!!」 嬉しそうな満面の笑顔で顔を上げるティーダ。 感情の変化が激しい奴だな。 「いやぁ助かったッス!先輩、愛してるッス!!」 「分かった分かった。分かったから離れろ!」 ガバッ、と抱きついてくる満面の笑顔のティーダを引き離しながら、呆れて溜息を吐く。 「土曜に俺の家に来てもらっていいッスか?」 「ああ、予定もないしそれでいいよ」 「分かったッス。じゃあオレ、先生に呼ばれてるんで、失礼しまッス!!」 そう言うと、まるで嵐のように後輩は去っていった。 「好かれているな」 前の席のクラウドが、どこか苦労人を見るような目で俺を見た。 何でそんな目で見ているんだろう。 「毎度アイツも飽きないな」 「そうだな、まったくしょうがない奴だよ」 その時、俺は自分の背中に注がれている視線に気付いていなかった。 「…という事で、今年の予算については以上で異存はないでしょうか?」 資料に書かれた内容を一通り説明し、会議に出席している人達の顔を見渡す。 誰も異議を申し立てなかったので、これで生徒議会はこれで解散となったのだが。 「フリオニール」 「何だ?」 「悪いんだが、資料の片付けしたいんだが…手伝ってくれないか?」 「ああ、構わないぞ」 椅子から立ち上がりかけたが、もう一度座り直し、外しかけた眼鏡をもう一度元の位置に戻す。 ファイルから出てきた大量の資料の山を見て、確かに一人では無理だな…と思った。 しばらく黙々と資料の山を片付ける、二人だけになった部屋の中には、ペンを動かす音とプリントを捲る音だけが響く。 物静かな室内は落ち着かない、とティーダはよく言うが…真剣に作業している時は一切気にならない。 プリントの量もほとんどなくなった、後三十分もあれば帰れそうだな…。 「フリオニール」 「何だ?」 声を掛けられて視線を上げると、目の前にウォーリアの顔があった。 何時の間に立ち上がってここまで来たんだろうか?接近に気付かなかったのを不覚に思いつつ…一体、何があっての接近なのか分からない。 「…どうか、したのか?」 真っ直ぐに向けられた視線が、どこか強い力を持っている。 物静かな室内は落ち着かない事もないが…今は物凄く落ち着かない。 「あの後輩だが…」 ようやく口を開いたウォーリアがそう言う。 「後輩…?」 それが一体誰の事なのか分からず、俺は疑問形で尋ね返す。 「二年の、ティーダという生徒だ」 「ああ、ティーダか…そのティーダがどうしたんだ?」 「昼休み、お前の事を“愛してる”って言ってたな」 「…そうだな」 「抱きつかれてたな」 「ああ、まぁ」 昼休みにティーダがやって来て、勉強を見てやるって言ったら、確かにそんな事を言って全身で喜びを表現された。 「あの後輩は、お前の事を好いている、という事だろう?」 真剣な顔で、そんな事を言うウォーリア。 「はい?」 つい、聞き返しそうになる。 「お前は、拒絶しなかったが…どうなんだ?」 「何が?」 「恋人である私と、あの後輩、どちらの方を受け入れるつもりなんだ?」 真面目で几帳面、成績優秀な模範生。 そう呼ばれるウォーリアに、冗談は通じない。 昼休み、ティーダが取った行動はウォーリアには嫉妬の対象だったんだろう。 冗談が通じないウォーリアにしたら、余計に。 「どうなんだ?」 ずいっと、更に顔を近付けてそう尋ねるウォーリア。 「えっと…ウォーリア、落ち着け」 射殺されそうな視線に恐怖を覚える。 「落ち着いていられるものか、恋人の心が移ろうとしているなら…」 「大丈夫!大丈夫だから!!ティーダが言ったのは冗談とか、または先輩として慕ってる位の意味で!」 「しかし、“愛してる”と確かに…」 「お前の考えてる意味じゃないから!!だから、大丈夫」 必死で弁明するも、ウォーリアの眼光の鋭さは相変わらずだ。 「俺は……ウォーリアの事が、好きだぞ」 最後の方は小声になりかけながら、目の前の相手にそう訴えかける。 「…もし、私の取り越し苦労なのだというなら、それを証明する証拠が欲しいな」 机の上に置かれていた俺の手に、ウォーリアのものが重ねられ、更にその顔が近付けられる。 ほとんど触れそうな位置にある、相手の顔…。 「ちょっ!…ちょっと、ウォーリア!!…ここ、何処だか分かってるのか?」 「生徒会室だ」 しれっと答えられたが、それが分かってるなら止めてくれ。 「あの、俺にどうしろって…」 顔に熱が集まってくるのを感じる。 「分かってるだろう?」 ふっと、そこでようやくウォーリアの表情が緩む。 ああ、これはどうやら俺が行動に出てくれるまで、許してはくれなさそうだ…。 半ば諦め、小さく溜息を一つ吐くと、ぎゅっと目を瞑り相手に口付けた。 侵入を試みようとする相手の舌を、しぶしぶ迎え入れる。 熱い息が何度も漏れ、絡められる舌に何度も息苦しさを覚える。 こんな場所で、と思う反面…キスの味に思考を持っていかれそうになる自分の理性を、必死で繋ぎとめる。 手の中で、握っていたペンと書き途中の資料がグシャグシャになった頃、ウォーリアはちゅっと軽い音を立てて、ようやく開放してくれた。 「今日は、金曜だったな?」 そう尋ねながら、キスによってずれた俺の眼鏡をウォーリアがそっと元の位置に掛け直してくれた。 「ああ…そう、だけど…」 乱れた呼吸を整えながらそう返答する。 「週末の予定は?」 「ティーダに、勉強を教えに行く約束したくらい、だけど」 「行くな」 「…っえ……?」 急な命令形に疑問の声が漏れた。 「絶対に行くな」 有無を言わさぬ口調で、ウォーリアは再びそう言った。 「何で?」 「私が心配するだろう?」 視線を逸らさずにそんな事を言われてしまっては、身動きが取れなくなる。 でも、だとしたら約束はどうしたらいいんだ? そう言おうとした瞬間に、生徒会室のドアが開けられた。 「遅くまで、大変だな」 「クラウド!!」 開けられたドアの前に立っていたのは、俺達のクラスメイトだった。 さて、今の状態を説明すると。 椅子に座って顔を赤く染めたまま、ウォーリアに手を握られて硬直している、俺。 その俺の前の机に立ち、俺と視線が合わせるどころかもの凄い誓い距離にある顔も、握った手も未だ離さないウォーリア。 そして、その様子をクラウドは真横から目撃している…。 「あっ!!あっ、ああああの、クラウド!!これは…」 「気にするな、お前達の関係くらい、前から気付いてる」 「…………」 クラウドの台詞に絶句する。 誰にも、本当に誰にも一度も話した事なんてないし、学校では(人目に触れる危険がある場所では)絶対にそういう素振りは見せないできた、はずだった。 なのに、何で? 「お前達と何年の付き合いだと思ってるんだ?」 「っう…」 隠していたつもりだが、どうやら長年の付き合いになれば、そういうちょっとした変化に敏感に反応できるようだ。 「安心しろ、俺以外は誰も気付いて無い」 「そう…か……」 クラウドの一言に安堵していいのか悪いのか、どことなく複雑な感情を抱く。 「それで、一体何の用だ?」 握っていた俺の手を離し、クラウドの前まで歩み寄りながらウォーリアは、明らかに不機嫌な声でそう尋ねた。 「先生からだ」 そう言ってクラウドが差し出したのは一枚のプリント。 「予算案が通ったっていう、報告書だそうだ」 「そうか、わざわざ済まない」 「いや…そうだ。フリオニール、俺がお前の代わりにティーダの勉強見てやるよ」 「えっ!本当か!?」 「ああ、それくらい構わない」 クラウドからの思わぬ提案に驚くと同時に感謝する。 「それじゃあ、頼んでいいか?」 「ああ、ティーダには適当に理由を言っておいてくれ。だからその代わりお前は、お前にしか面倒の見れない、面倒な生徒会長の機嫌を元通りにしてくれ」 「……っえ?」 「じゃあ。ウォーリア、学校ではそれ以上は止めておけ」 それだけ言うと、クラウドは立ち去っていった。 「おそらく、聞かれてたんだな」 「……やっぱり、そうか?」 その途端、再び顔に熱が集まってくるのを感じた。 恥ずかしい、恥ずかしいことこの上ない。 「だから、学校では止めろって言ってるのに…」 「まだいいじゃないか、クラウドは別に白い目で見たりはしない」 「だけど!!」 そういう問題じゃないだろう。 「それよりフリオニール、これから私の家に来ないか?」 「今から!?」 「ああ、もうすぐテストだろう?なら、一緒に勉強しないか?」 なんだろう、この笑顔、背筋に感じるこの感覚。 ただ勉強しに行くだけで、済む気がしないんだけど…。 しかし、後輩の頼みを聞き入れて恋人のお願いを断るわけには、いかないだろう? それに、やっぱり…何を言ったって、俺はこの目の前に立つ生徒会長の事が好きなんだよな…。 「分かった、行くよ」 俺が了承すると、ウォーリアは満足そうに微笑んだ。 「そうか。なら、もうそろそろ切り上げて帰ろうか」 「ああ」 グシャグシャにしてしまったプリントの皺を伸ばしながら、そう返事する。 翌朝、予想通り、俺は起き上がれなかった。 後書き やってしまいました、学パロ。 ウォーリアは生徒会長でフリオが副会長というのが、ずっと頭の中にあったのです。 とりあえず、つのばら祭用に書いてたんですが…いいんですかね?パロでこれは…。 フリオが眼鏡なのは、私の趣味です。 自分では、色々とやりきって満足してます。 2009/3/8 |