「なあ、俺達の能力に副作用ってあると思うか?」 その質問に、正直に答えれば良かったんだろうか。 下手に答えて、お前の中で引っ掛かっている何かよく分からないものを刺激したくなかった。 お前が悲しむのを見たくない。 それは言い訳であり、同時に現実逃避の言葉でもある。 結局、これは俺の言い分でしかないのだ。 「今日は、調子が悪いのか?」 ある日、早めにトレーニングを切り上げた仲間を見てそう言うと、相手はちょっと疲れた様に笑った。 「アラ、気付かれちゃった?」 軽口の様にそう言うものの、本調子ではないらしく、無理に作っているのを感じる。 ネイサンは、トレーニングを続ける俺の傍に来ると、溜息を吐いて空いてるベンチに座った。 「ちょっと熱っぽいだけよ」 「風邪か?」 「いいえ、偶にあるのよ。ちょっと熱っぽく感じる日がね」 今日はマシだとそう言うものの、あまり顔色が優れない様に見える。 カリーナが居れば氷を作ってもらう所だが、生憎と姿が見えない。仕方なく、常備されている自販機でボトル入りのスポーツドリンクを買う。 「ほらよ、水分を取ってゆっくり休め。あと、体を冷やすのにでも使ってくれ」 「あら、優しいじゃない。惚れ直しちゃうわ」 伸びた腕から逃げて、溜息を吐く。 「止めてくれ、俺まで風邪引いたら問題だろうが」 「熱っぽいだけで風邪だとは一言も言ってないじゃない。体温調整が苦手なのかしらね、熱っぽくなる日があるのよ」 それだけで問題はない、ちょっとぼーとするだけだと本人は言う。 しかし、俺は本当の所どうなのか分からないので「そうか」としか言いようがない。 「それでよく車運転して来たな」 「ああ、それは会社の子に運転してもらったのよ。朝は酷くなかったんだけどね、激しい運動はやっぱり駄目みたい。まあ平気よ、一時間も休めば大体良くなるから」 ありがとうね、とボトルを振って礼を言うと、トレーニングルームを出て行った。 本当に大丈夫だろうか、俺が心配した所で何か解決する訳ではないんだが。 炎を操るネイサンは、もしかしたら熱を体に貯め易いのかもしれない。 それが虎徹の言う『副作用』なら、俺にも心当たりがない訳ではない。 硬質な皮膚、つまりは体の耐久性が常人よりも遥かに優れている訳なんだが。 鉱物でも何でもそうだ、固い物は動きがその分の動きが鈍くなる。 人だってそうだ、間接が動くからこそ体が動く。 固いだけではいけない、衝撃から身を守るには一定の柔らかさが必要だ。 自分の手を見つめる。 グラスを持つ指、持ち上げる腕、体を動かしている節々。 その動きに違和感を覚えたのはいつだったか。 動かす時に引っ掛かると言ったらいいのか、前は上がった位置でも知らない内に動かなくなっていたりする。 人の体は年を経るにつれて固くなっていくそうだが、何週間、何日といった単位での変化は流石にないだろう。 ただ、進行を止める方法は分かっている。 念入りに柔軟体操を行って体の間接の動きを確かめる事、たったそれだけでいい。 しかし、これも多少は気休めが入っている。 例えば指の関節の様に良く使う部分なら構わない、だが、人体の関節というのはかなりの数に上る。 その全てを確認するのは一度では不可能だ、念入りに少しずつ日を置いて体を解していく。 昔に比べて、確認する頻度が増えた気がする。 年の所為だと言い訳して逃げるのは、仕事の都合上許されない。 恐怖心が増してきたのかもしれない。 中年に差し掛かろうという年齢、自分の体の内側について、見えない部分に恐怖を感じ始めたのかもしれない。 我ながら情けない。 だけど、もし……もしもだ。 俺が自慢する、硬質な体が…本当に固まって動かなくなってしまったら。 そんな恐怖が脳裏を掠める。 体の筋肉が動かなくなる病。 筋肉が骨へと変貌する奇病。 そんなものが、実際に存在するんだから…あながち、有り得ない話ではないはずだ。 俺の体が動かなくなってしまったら、そんな事が起こったら、死にたくなるだろうな。 「何か、心配事でもあるのか?」 「いやいや、別にそういうんじゃないんだけどさ。俺達の能力って、どういうものなんだろうな……って考えてただけなんだ。分かってない事とか多いだろ」 確かにその通りだ、NEXTが地上に生まれてから40年、半世紀程しか経ってない訳だ。 便利な能力だと言われる反面、この体質の人間についてはまだまだ研究段階ではある。 健康診断という名前の身体検査は、かなり頻繁に行われている。 特に、ヒーローと呼ばれるくらい能力の扱いに長けた者程、いいデータが取れるらしい。 研究者の言葉なんて、俺にはよく分からないけどな。 もしかして、検査結果が良くなかったのか? コイツの健康管理はなってないからな、俺も人の事は言えないんだが。 だけど、コイツの能力に副作用……そんなものあるのか? 全く想像がつかない。 身体能力を5分間だけ100倍にする、体力の消耗が激しいとか、それくらいしか思いつかないんだが。 コイツは能力が切れても無茶するのは良く知ってる。 だからいつも見てられないんだが。 「どうでもいいが、無茶だけはするなよ」 「分かってるってアントニオ、お前のそれは口癖だよな」 そう言って笑う相手に、溜息を吐く。 口癖になる程に心配をかけているのは、お前だ。 お節介だと言われようとも、止める気はないぞ。 ようやく、年の所為だと言い訳できるくらい大人になった。 少しずつでいい、俺の恐怖も分かってくれ。 だけどそうだな。 もし、俺の体が本当に動かなくなってしまった時には、盾にでもなってやるよ。 体は頑丈だからな、お前を守れる自信はある。 そうやって死ぬ事が出来たなら、それはそれでいいかもしれない。 ああ、これはもう大分酔ってるな。 この馬鹿の為に死んでもいいなんて、そんな事を考えるとは……笑える。 そう思うのも、ただの虚勢でしかないんだが。 正直なところ、俺はただこの唯一無二の親友を失くすのが怖いだけだ。 答えの分からない、考えるのも怖い問題を見て見ぬふりする事で、それから目を逸らした。 馬鹿だって事は自分自身が良く知ってる。 だが、正直こんなに後悔するなんて思わなかったんだ。 to be continude … 後書き という事で、二回目ですアントニオ視点で話す能力の副作用について。 作者の個人的な思いつきで書いてます、こんな事が裏であったらどうなんだろう、って話なんですが。 今までの副作用についてまとめると……。 ブルーローズ→氷を操る→体温が奪われる、低体温症 ファイヤーエンブレム→炎を操る→体温が上がりやすい ロックバイソン→硬質な皮膚→体の関節が固まっていく、体が硬くなる という様な設定になってます、とっても単純な図式で決まっていますが、これくらいしか思い浮かばなかったんです。 関節が固まるって、実は全然笑えないくらいの大事なんですけれどもね……牛さんは、そこまで深刻な状況ではないです。ただちょっと違和感を覚えるから、心配になって柔軟体操を頑張ってるんです。 ちなみに、次回はバーナビーを書きたいな、と思ってます。 2011/7/11 |