弟の心兄知らず



 俺はアナザー。兄貴はフリオニール。
 俺たち双子は、生まれたときからずっと一緒。
 それはこれからも変わらない。

 いつだって俺たちは一緒で、
 そんな兄貴に恋してしまったかわいい弟の昔話を
 ちょっとだけ教えてあげるよ・・・。












 全国の健全男子女子なら、誰しも通らなくてはならない年頃ってやつがある。
 俺もその一人、現在中学二年生。
 男の場合、異性に興味を持ち出したり色々と自覚をするため、
 自分の姉妹たちと今までみたいに接することができなくなって、色んなことが気になってくるらしい。
 要するに、女に対して意識しだす時期みたいなんだと。
 だから姉妹の下着とか見ると、変に恥ずかしくなるらしいけど俺はそんな心配は無用だ。

 だいたい、何で自分の姉や妹を意識するのか理解できない。
 重症な奴らだとクラスの連中を鼻で笑っていた。気色悪りぃとも思っていた。

 そう、思っていたはずなんだ・・・・・。









 どうやら俺は、そいつら以上に重症らしい。
 何がって、そんなの死んでも言えるわけねーよ・・・・だって、

 自分の兄貴の下着見て興奮するなんて・・・・。



 まさに今の俺はその状態。
 洗って畳み終わった下着をとりにきたら兄貴のを見つけてしまい、
 赤面したままそれを手にとっている俺がいるわけだ。
 何やってんだ俺は・・・・。

 明らかにおかしい自分の反応に、ただただ自己嫌悪するしかない。
 何で兄貴のパンツ見て欲情してんだよ・・・。
「アナザー?」
「うをあっ!?な、何っ兄貴!!」
「なに驚いてるんだ?」
「なっなんでもないって!!」
 たかがこんなことでなにを慌ててんだ俺はっ!!

「ならいいけど・・・ってそれ、俺のだぞ?」
 今しがた俺を興奮させていたブツを指差されて、下着泥棒にでもなった心境だ。
 違うんだよ兄貴、俺は別にこれを被りたいとか、これを見て興奮してたとかそんなんじゃないよ?
 そういう趣味なんかないんだよ俺。
「いつも間違えないお前がめずらしいな?」
 くすっと笑っただけの兄貴に、一安心した。
 兄貴が鈍くて助かった・・。







 午前の授業が終わった昼休み。屋上に上って空を眺めながら自分の異変について考えてみる。
 一体、俺はどうしてしまったんだ・・。
 
 最近、兄貴のことばかり考えていて、顔を思い浮かべるだけでドキドキして、
 必要以上に兄貴のことを意識しちまう。
 同じクラスや学校の女ではなく、よりにもよって何で兄貴なんだよ。
 そりゃ俺の兄貴は性格良いし、弟の俺が言うのもなんだけど、
 男にしちゃ可愛い顔してるし・・・。
 兄貴は誰からでも好かれるタイプだと思う。
 
 だからって兄貴だよ兄貴。
 自分と瓜二つの双子の兄貴で男だよ、オトコ!!
 なに、俺は自分の顔が好みなの?自分ながらなんて悪趣味なんだろう・・・。

 兄貴とはガキの頃から仲良くて、俺の自慢の兄貴だよ。
 だから好きだけど、それは兄弟としての気持ちに決まっていて・・・。

 ふと、自分の気持ちを整理した。

 相手のことの考えると妙に恥ずかしくなる。
 相手の顔ばかり想像して、そばにいるとドキドキしてしまう。

 これってもしかして・・・・・・・恋?





「何考えてんだ俺は!!変態じゃねぇかーーーーーーーーっ!!!!」


 屋上から発せられた俺の断末魔はやまびこの要領で何十にもなって俺の耳に返ってきた。
 これが叫ばずにいられるかっ。

 恋?俺が兄貴に恋?!
 いやいや俺は信じない。俺にそんな趣味ないって!!
 ホモ、ホモなの俺?いやこの場合近親相姦?

 頭はもう完全にイカれてしまって、正常に機能するなんて無理だ。
 自問自答を脳内で繰り返すしかない。

 俺って女好きなんじゃないの?
 そう考えてみたら、俺は今まで女に対して全然興味なかった。
 普通の男なら、女の裸見たりしたら喜ぶけど、俺はまったく興味が持てなかった。
 だからって男の裸なんてもっと嫌だけど、兄貴のは別に平気。
 兄弟だからってのもあるけど、俺普通に兄貴とキスしろって言われたらできる勢いだ。

 でも、何で突然こんな気持ちになったんだ?
 今までずっと一緒に暮らして何でもなかったのに、
 ああ、こんなに恋って唐突に訪れるんですか?
 

「あ!ここにいたのか!!」
「あっ兄貴!!?」
 俺の兄貴は神出鬼没か・・。
「お前昼どうするんだ?一緒に食べるとか言っておいて・・」
「あー・・ごめん。今日はここで一人で食うから」
 こんな状態でまともに兄貴と飯食える自信が無いです。
「そうか?なら俺は教室戻ってるよ。あ、これ!一口しか飲んでないからやるよ」
 飲みかけのジュースを俺に渡して兄貴が戻って行ったあと、大きく息を吐いた。
 さっき考えていただけに、余計に意識してしまう。
 気のせいだよな、平常心平常心・・。

 自分に言い聞かせ、缶ジュースを飲む。そこであることに気づいた、
 これって、・・・間接キス?

 そんなの今までだってあることなのに、顔が熱くなって本日二度目の断末魔を叫んでしまった・・・。












 これが恋だとしたら、マジでやばい気がする。
 まさかの初恋が自分の兄貴?
 そう思ってしまうと、今まで以上に兄貴と接するのが困難になってきてしまった。
 今まで、俺はどうやって兄貴と接してきたんだっけ・・。

「アナザー、次いいぞ?」
「あ、うん・・!!!??」
 風呂からあがった兄貴を見て、俺は爆発するかと思った。
 
 タオル一枚を腰に巻いただけの兄貴。
 もちろん腰から上は裸で、兄貴の胸が露になっていた。
「ちょっ・・!!兄貴、そのカッコ・・ッ」
「ああ、ごめん!着るもの用意するの忘れててさ・・」
 顔を赤く染めて微笑まれて、もう俺は鼻血が飛び出すんじゃないかと本気で思った。
 なにその顔、可愛すぎるってッ!!!


 濡れた肌と髪。へたりと力をなくしているネコッ毛の髪の毛。
 火照って赤く染まった顔と体。
 こんなの中学生には刺激が強すぎる。
 そこらへんの女なんかより、よっぽど色っぽい・・・。

「どうした?」
「なッ、何でもない何でもない!!早く服着ないと風邪引くよ!」
 もう顔はマグマみたいに煮えたぎって、熱い・・・。


 心臓が、これでもかというくらい激しく鳴っていて、
 改めて、自分の気持ちを決定付けた。

 俺・・・マジで兄貴のこと・・・・・。


 







 ある日のことだった。
 学校の帰り、気晴らしにゲーセンに寄ったらすっかり遅くなって、
 他校の生徒に絡まれてやりあった。
 相手は三人だったけど、軽いもんだ。無傷ってわけにはいかないけど。
 顔と体を数箇所殴られて、赤く腫れ上がっいる。
 他にもあちこち傷があるみたいだ。
「いっ・・・・てぇ・・」
 
 全然スッキリしない。
 その原因は兄貴に対する気持ち。

 兄貴を好きだと思った自分への戸惑い。


 
 何で、兄貴を好きになってしまったんだろう・・・。




 こんなの許されるわけ無い。
 たとえ許されたとしても、俺の恋は一生叶うわけ無いじゃん。
 だって、俺と兄貴は兄弟で男同士だよ。
 こんなの普通なら有り得ない。

 そう思っていても、気持ちは傾いていくばかりでますます兄貴を好きだと実感させられていく。
 
 
 困惑する気持ちと痛みで重い足取りのまま、家に帰って来ると案の定、親の雷が飛んできた。
 俺は見た目がこんなだし、兄貴と違って性格も正反対。
 だから回りの奴らから怖がられたり、冷たい目で見られる。
 今回のことだって、今日が初めてじゃない。いつもの良くあること。さすがにもう慣れた。

 別に他人からどう思われようが関係ない。
 別に理解されたくないし、されようとも思ってない。

 

 自分の部屋に戻って、そのままベッドに寝そべった。
 ふう・・、とため息交じりの息を吐いていたらコンコンと控えめに扉をノックする音が聞こえた。
「入るぞ?」
「兄貴・・・」
 優しく笑う兄貴、手には救急箱を持っていた。
「ケガの手当てもしないで・・・、ほら、見せてみろ」
 兄貴の言うことを素直に聞いて、服を脱いで傷を見せる。
 沁みるぞ。そう言われて、傷口に消毒液が付けられた布を当てられ激痛が走った。
「いっっっってぇッ・・!!」
「これくらい我慢しろよ。ばい菌が入ったらどうするんだ?」
 傷は痛むけど、兄貴に手当てしてもらうのは嫌な気分はしない。

 てきぱきと手当てをする兄貴を、俺は黙って見つめた。
 俺の視線が気になったのか、兄貴と目が合った。

「どうした?」
「別に・・・・怒ってないわけ?」
「何で怒らなきゃいけないんだ?」
「何でって・・」

「お前が悪いわけじゃないんだろ?だったらお前に怒ることなんてないじゃないか」
 兄貴の言葉に俺は嬉しい反面驚いて、再び兄貴を見つめた。

「お前が悪くないことぐらい、ちゃんとわかってる。
 他のみんながお前の事をわかってなくても、俺はちゃんと知ってるよ。
 アナザーのことは、俺がわかってるから・・・・だから大丈夫だ、心配しなくてもいいからな?」



 昔から、兄貴はそうだった。

 兄貴だけは俺を理解してくれていた


 いつだって兄貴だけは俺の味方で、俺を信じてくれて、



 俺の特別だったんだ・・・。



 



 
 
 何だ




 全然突然なんかじゃない

 
 いきなりなんかじゃないよ



 俺は、


 ずっと前から兄貴のこと






 好きだったんだ・・。








 

 あんなにモヤモヤしてた気持ちが嘘みたいで、
 兄弟とか男同士だとか、
 そんなことはもうどこかに吹っ飛んでいた。

 
 好きなんだ


 俺は兄貴が好き

 それだけで充分じゃねぇかよ・・。







「よし、これでいいぞ」
「ありがと・・兄貴」

 
 ねぇ兄貴、
 今兄貴に俺の気持ちを伝えたら、兄貴はどんな顔する?

 

「・・・あのさ、兄貴」


「ん?」






「・・・ううん、何でもない・・」
「何だよ?言えよ、気になるだろ」
「兄貴には、まだ早いかな?」
「なっ、なんだよそれ〜!!」
 ムキになる兄貴が可愛くて、笑ってしまった。



 今はまだ、このままでいたい。

 この関係を壊したくないから・・。



 いつか、自信を持って兄貴を好きだと言える日まで、
 伝えなければならなくなる日まで、待っててね?兄貴・・・。













 絶対に叶わないって思っていたのに、
 俺の初恋は見事に叶ったわけ。

 
 
 今なら、はっきりと自信を持って言える



 俺は、兄貴が大好きだよ



 世界で一番大切で、特別な人だ



 だから俺たちはこれからもずっと一緒
 離せって言っても、絶対離してあげない




 これが、俺と兄貴のはじまり。

 俺が兄貴を好きだと自覚した、最初の出来事。


 
 さっきの話は、兄貴には内緒。
 これを読んでる俺とアンタだけの秘密だぜ・・?
 

                  END



2010.5.1.忍冬葵様へ、お誕生日プレゼント小説。
      お誕生日、おめでとうございます。 2010.4.30.笑い袋


エデンの華の笑い袋様に誕生日プレゼントとして頂きました!アナノマ小説!!
アナザー君の葛藤が本気で可愛いです!!

いや、誕生日をこうやって人に祝って貰えるというのは、幾つになっても嬉しいですね。
笑い袋様!本当にありがとうございます!!


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