30,000HIT記念企画!!

氾濫35カラーズ




1、虚勢レモン・イエロー

「ああ!!もう!何度同じ事言わせるんだよ!!」
今日という今日は許してなんてやるもんか!
そんな顔したって無駄だぞ、絶対!絶対!!許さない!!

「いつも無茶ばかりして、人の気も知らないで……」
溜息交じりに文句を言ってやれば、図星を突かれて視線を逸らす。
コラ、ちゃんと正面向いて事実を受け入れろ。
「付き合ってる俺の身にもなってみろ」
間を置かずに、そうやって責め立ててやる。
すると、それでも自分の事好きなんだろう?と、彼は俺の表情を伺いながら尋ねる。

「好き!?……誰が」
お前の事なんか好きじゃないよ!と、アイツから視線を逸らしてそう叫ぶ。
だが、相手にはそんな言葉は効果無し。
二ヤリと笑みを深めると「好きなんだな?」と再び俺に問う。
「別にお前の事なんて……」
好きなんだろう?という相手の声が、俺の言葉の後に紡がれる。
「誰が好きだなんて言ったんだよ?」と相手に問えば、顔に書いてあると相手は微笑んでそう言った。

ここで更に虚勢を張って「好きじゃない」なんて言った所で、相手にされないだけだ。
時々、凄く子供に戻る時がある…なんて相手は言うが。その子供だっていつまでも子供なわけじゃないし、今までの事柄から学ばないわけではない。
だけど、この場で相手の事を「好きだ」と認められるくらいに、甘い行動はとれないわけで……。

「そっちこそ、俺の事好きなクセに…」
相手から顔を背けてそう言うと、彼は微笑んで「勿論」と、俺の言葉を肯定した。


2、悪戯パンプキン

そっと狙いを定めて近寄る…。

「の・ば・ら!!」
「うわぁっ!ちょっ!ティーダ!!」
ガバッと彼の胸に飛び込んでいくと、驚いたような表情を見せオレを受け止める相手。

「大好きッスよ、のばら!!」
「それなら…今すぐ俺の上から退け!!」
勢い余って押し倒してしまった相手が、下からオレを見上げてそう叫ぶ。
怒っているのは分かる、でも、いい眺め。

「これもフリオニールへの愛ッスよ、愛!」
オレはアンタと触れ合いたい。
「こんな愛があるか!いいから早く退いてくれ、重いだろう…」
どこか疲れたようにそう言う相手。

「ティーダ、悪戯も程々にしておけ」
そんな声と共に、オレの体を引き剥がす誰か。
誰かなんて、声の時点で分かってるんだけどさ…。

「大丈夫か?」
「ありがとう、ウォーリア」
倒れた相手に手を貸して立たせると、衣服に付いた埃をはたき落とす、その人。

二人が並ぶと、様になるんッスよね……本当に妬ましい。
ああ、フリオもそうやって嬉しそうに顔綻ばせてさ…やっぱり、その人の事好きなんッスね。

「二人共、ラブラブッスね」
多少、嫌味を込めてそう言うと、再びフリオに背後から抱きつく。
「ちょっ!ティーダいい加減に…」
「フリオはウォーリアの事好きなんッスか?」
「えっ!ちょっ…何だよ急に!!」
ああ、そうやって顔赤く染めて隠そうとしたってただただ認めてるだけだって、気付かないんッスかね?この人は。
「仕方ないから、邪魔者は退散するッス」
そう言って相手から離れると、その場から立ち去る。
「いつまでも、アンタのものだと思わないでよ」
去り際に、オレの恋敵にだけ聞こえるように小さな声で、そう呟いて。

彼にあんな風に、親しく触れ合えるのは自分だけ。
そんな小さな自負で、自分を保たせ。
バカな威張り屋は、今日も彼の気を引こうと悪戯を仕掛ける。


3、突撃シグナル・レッド

赤色って凄く、目立つよな…。

「よう!お前さんこんなと所で何してんだ?」
「っ!!うわぁ!」
背中を急にバシッと叩かれて、前につんのめり、そのまま耐えられずに倒れこむ。
「おいおい、大丈夫か?」
そう言って、倒れた俺に手を貸す。
「ジェクトさん…何の用ですか?」
「何の用って、別に見かけたから挨拶しただけだっての」
そう言って笑う相手に、「はぁ」と気の抜けた返事をして、立たせて貰った俺は、服に付いた埃を払う。

敵方だというのに、この人はいつもこうだ。
どういうわけだか、俺にこうやって近付いてくる。

「そりゃ勿論、アンタの事が気に入ってるからさ」
以前、何故俺に近づくのか、その疑問を彼にぶつけた時に、笑顔と一緒にそんな返事が返って来た。
「分かってないねぇ…俺はアンタが好きだって、そう言ってるんだぜ」
ボケッとする俺に対し、そんな言葉まで付いてきた。

「なんてな、実は今日はアンタに用があって来たのさ」
そう言うと、俺の顔へ自分の顔を近づける。
ほとんど触れそうなその近さに、思わず後ずさりそうになるが、それは大きな彼の腕によって止められた。
動けない…そんな俺の困った思考の端で、彼のバンダナの赤色が揺れる。

赤は危険を表す色、本来ならばその色を見た瞬間に、逃げださねければいけなかったハズなのだ。
だけど、捕まってしまったが最後…どうにも、この赤色は逃がしてくれるつもりはなさそうだ。

「アンタの事、心から愛してるんだけどよ…俺はどうしたらいい?」
急にやって来て、真剣な声でそんな質問をするこの男に、俺は一体どんな返事をすればいいんだろう?


4、痛快ショッキング・ピンク

「っぁ……皇帝陛下」
頬を赤く染めて、熱の籠った潤んだ瞳で私を見つめる義士の姿に、私の中の支配欲が育っていく。
膝の上に座らせ、猫のように頭を撫でてやれば擽ったそうに身を捩る。
首に回した腕が震え、甘えたような声を上げる義士に気をよくし、その顎に手を掛けて僅かに上を向かせると、その唇に口付ける。
「……ん…ぅん……」
はぁっと熱い吐息をついて離れると、うっとりとした瞳が私を見つめる。
「愛しております…皇帝陛下」
頬を染め、愛を囁く義士をそっと抱え上げ…そして……。

「何をしているのです?」
急に私の居城にやってきた魔女が、そう声をかけた事で私の幸せな未来予想図は崩壊した。
「未来予想図?妄想絵巻の間違いではなくて?」
「フン、何とでも好きに言えばいい」
他の何者が何と言おうが、私は必ず彼との幸せな未来を創造してみせよう。
「ああ…こんな男が一国の主だとは、国民は不幸ね」

フン、お前が何を言おうとも私の誓いは破れん。
さあ、今日も向かうか…私の未来の妃の元へ!!

「馬鹿は死ぬまで治らぬのだ」
「あら、死んでも治っていないようだけど」
白い目で見る魔女と妖魔を残して、私は今日も愛する義士の姿を見る為に奴等の野営地へと向かった。

「ほう…今日はアナザー衣装か……項が見えるのもいいな」
フフフと満足な笑みを浮かべて、いざ、彼の元へ。

「フリオニール!!」
語尾にハートを飛ばすような勢いで彼へと向かって行く私の前に彼はすっと私を避けて、その体勢から素早く武器を構えると、容赦なくマスターオブアームズが叩きこまれる。
バタリと倒れこむ私の側に、コツコツという足音がし…その側にしゃがみ込みそして……私の髪を鷲掴んで掴みあげる。
「で、何の用なんだ?皇帝サマ」
その男、確かに私の愛する義士の表情をしているが…その姿から立ち昇るのは、彼とは違う酷く不良的な雰囲気。
「貴様…フリオニールではないな」
「俺もフリオニールだぞ、お前の愛する、な」
そう言ってニィっと人の悪い笑みを浮かべる最愛の人の姿に、私は眩暈がした……。

「フリオニール…フリオニール……」
「皇帝は一体どうしたのです?」
「夢破れたようだ」
「へぇ……まあ、直ぐに立ち直るでしょう」
「馬鹿は死んでも治らんからな」


5、決断チャコール・グレイ

深い黒から、透明さに溢れた白へ。
東の空は暖かみのある黄色、そして、段々と見慣れた青へ。

夜明け前の空の色は、注意して見なくとも、その変化が感じられる。
見張りの任務はそろそろ終わり、仲間が起き出す頃に、一度軽く仮眠でも取ってそれから出立になるだろう。
目の前の無用になりつつある、一晩守ってきた火に目を落とす。
一晩かけて炊いていた火も、もう燃え尽きて、黒い炭に近い状態だ。

「おはよう、スコール」

急に背後からかけられた声に、一瞬ビックリするが、そんな事が顔に表れない自分の事、平素の落ち着いた声で、その挨拶に返事する。

そろそろだと、思っていた。

「見張り番、ご苦労様」
「ああ」
そうやって声をかけてくれた義士は、何時も通り朝食の準備に取りかかる。

毎日よくやるなと思う。
元々世話好きな性格なのだろうが、それでも、自分達の身の回りの家事、そのほとんとを取り仕切っている彼は、凄いと思う。
将来、いい嫁になるだろうなと思って、そこで考えるのを止める。

嫁って、アイツは男だろう。

それでも、彼の事が頭から離れない。
こんな状態になって、もう久しい。

自分のこの性格を、これ程恨んだ事はない。
他の仲間のように、気さくに話しかける事もできないし、相談に乗れるくらい、頼りがいのある人間でもないだろう。
せいぜい仲間の一人、そう思われているのが関の山。

このままで、果たしていいのか?

偶には、こちらから話しかけてみようか…。
誰かが起きる前に、二人だけで。

そう決意し、目の前の火に砂をかける。

恋焦がれる気持ちは、その身も焦がす。
消し炭になる前に決断しなければ、やがて…燃え尽きて灰になる。


6、宿罪セレスト・ブルー

人は積みを持って生まれてくるのか?罪を負ったから生まれてくるのか?

罪を償う為に生きるのか?それとも…罪を償う為に死ぬのか?

「お前は、死にたいと思った事はないか?」
「死ぬかもしれないと思った事はあるが、望んで死のうとした事はないな」
私の問い掛けに、彼はそう答えた。

彼は生まれながらの罪を認めない。
純粋なまでに真っ直ぐに生きる子供。

「アンタの言う罪というのが、俺にはどうも分からない…それは生きて償うものなのか?死んで償うものなのか?」
「さぁ…それが私にも分からない」
「分からないのならば……そんなものは無いと、そう考えたりしないのか?」
彼の問い掛けに、私は「そうかもしれないな」と答えた。

純粋さというのは、人が成長するにつれて失うハズの強さであり、手放さなければならないハズの、弱さでもある。
それをこの青年は今もなお持ち続けている。
私では導き出せないであろう答えを、この青年は持っているのかもしれない。
それを思うと、大変興味深い存在だ。

「人は皆…罪を持って生きる者だと……そう思うのだが」
しかし、彼の瞳に影はなく…ただただ、純粋な光を宿す。
ああ、どうしてだろう?

分からない、この男とは一体なんなのか?
分からないから、もっと近付いてみたくなる。
そんな存在。

「セフィロス…アンタは、生きたいのか?死にたいのか?」
「さぁ?どうだろうな?」
純粋な瞳を持つ青年の問い掛けに、私は言葉を濁してそう答える。

快晴の空のように、青年の心は澄み渡っている。
それが分かっていながら、一点の曇りを探して、私は彼の心を覗き込もうとする。

そこにもし、ほんの少しでも陰りが見られた時。
その時は…彼も私を理解してくれるのではないか、そう思って。


7、臆病パール・ホワイト

それは、固く合わさった二枚の殻のようだ…。

「スコール、大丈夫か?」
「……ああ」
コクリと頷けば、ほっと安心したように顔を綻ばせる相手。
「しかし、いきなり降って来るなんてなぁ…」
ツイてないと小さく零す男の隣り、自分は内心、喜んでいる事は秘密だ。

にわか雨によって、周囲は数メートル先も霞むような大雨に閉ざされてしまった。
「しばらく、止みそうにないな」
「ああ」
その言葉に同意して、彼と同じように外を眺める。

重くのしかかる沈黙。
いや、重いと感じているのは俺だけで、フリオニールは何とも感じていないのかもしれない。
「……はぁ」
何か話をして気を引こうと思うのだが……どんな事を言っていいのか分からない。
同じ年齢であるティーダのように…とまでは言わないが、もう少し彼のように人懐こい性格ならば、と思う。

「俺と一緒っていうのは、やっぱり気まずかったか?」
重い沈黙を破って、フリオニールは俺にそう尋ねた。
「…いや、そんな事はない」
むしろ、アンタの方が俺と一緒で気まずかったんじゃないのか?
そう尋ねたいが、彼がその質問に頷く事がないと分かっていても…どうしても口にできない。

「いや、さっきから難しい顔して溜息なんて吐くからさ…バッツやジタンと一緒の方が良かったのかな、って」
「誰もそんな事は言ってない」
アンタの方こそ、何時も一緒に行動しているあの三人と一緒じゃなくて良かったのか?
俺はアンタと一緒で、むしろ嬉しいと…そう言えたら、どんなに良いだろう。

「俺はただ…人と話をするのが、苦手なだけだ」
そう思うのに、俺の口から付いて出たのは沈黙に対する言い訳で。
「そうか…ティーダとは正反対だな。アイツ、ずっと話しっぱなしだし」
同じ年齢の仲間と比べられて、少しショックを受けたのだが、それが表に出る事もなく…。
「…………」
結局、自分は黙り込んでしまう。

自分の中に、どんな輝きがあろうとも、貝は開けられなければそれを表に出す事はできない。
(はぁ……)
心配かけないように、心の中で溜息を吐く俺は、嫌われる事を恐れる臆病者なんだろうと、そう思った。

8、禁域バーミリオン

“それ”がある事は知ってるんだ。
赤く色付いて見えるから。

「フリオニール、大丈夫か?」
負傷した仲間の元へ駆け寄って、そう声をかける。
「ああ…別に大した事ないから……」
そう彼は返答するも、その手に滲んだ血の色は鮮明で痛々しい。

「貸してみろ」
多分、そのまま放置しておけばまた我慢するんだろう事が目に見えて、俺は相手の腕を取る。
「っあ、クラウド、俺…大丈夫だか、ら…」
頬を赤らめて、そうもごもご言う相手に、俺は苦笑い。

…そんな反応されて、気付くなという方が無理だ。

人より器用な彼も、恋愛とかそういう方面においては、とても純粋なまでに不器用。
そんな微笑ましい特徴を知り、俺は内心彼の反応を楽しんでいるわけなんだが……。
もうそろそろ、彼に打ち明けた方がいいかもしれない、とそう思ってる。

「あんまり無理するな……心配するから」
「ごめん…」
つい、っと居心地悪そうに視線を逸らす相手。

気付いたのだ。このままだと、彼の方からは絶対にその思いを打ち明けてくれる事はないだろうな、と…。
その感情は、彼にとって踏み込まれたくない領域に存在するから、だから…彼は必死で隠そうとしているんだろう、と。
……まあ、意識している事で逆にバレているんだけど……。
でも、それは俺が求めるものなのだ…だから。

「フリオニール……俺の事、好きか?」
「へっ!!えっ!?!!いや、あの…俺は……」
真っ赤になって言い淀む彼に、俺はフッと微笑みかける。

「俺は、お前の事好きなんだが?お前は、どうなんだ?」


9、復活ロータス・ピンク

一蓮托生、オレ絶対にアンタから離れる気ないッスよ。

「ティーダ、お前いい加減にくっ付くの止めろよ」
「いいじゃないッスか、減るもんでもなし」
「あのなぁ…」
「オレ、フリオの事大好きッスから!!」
「はぁ…それ、理由になってないぞ」

何言ってるんだろう?充分に理由になってる。
好きだから一緒に居たい、触れていたい。

「フリオはオレと一緒に居るの嫌なんッスか?」
「流石に、四六時中ベッタリくっ付かれると嫌にもなるぞ……」
呆れたようにそう言う想い人の言葉に、オレはショックを受ける。
そ…そんな、フリオがオレの事嫌だって…。
完全に打ちひしがれ、隅っこで動かなくなったオレを見て、フリオは盛大な溜息を吐いた。

「あのなぁ…俺は別に、お前の事“嫌い”だとは言ってないぞ」
「本当ッスか!?」
犬だったらピンと耳が立つくらいの勢いで、相手を振り返ると「当たり前だろう」と呆れたように笑って彼はそう言った。
「ただ…お前の過剰なスキンシップはもう少し控えてほしいって思ってる、それだけだから」

そんな事言われても、好きなものは仕方ない。
アンタの言葉に一喜一憂、落ち込むのは早いけど、復活するのも早い。
アンタの言葉一つで、気遣い一つですぐに元通り。
だって、フリオはオレに優しい。
だからオレは、この人の側を離れられない。

一蓮托生、嬉しい事も辛い事も全て共有。
でもアンタが居れば、オレは辛い事からなんて直ぐに復活できるッス!!


10、略奪コチニール

その赤色が、酷く、酷く…魅力的だった。

「ック!……ぅ」
魔法攻撃の爆風と煙、その中から離脱する為に奴はすっと後退した。
だが、甘い。
「!!これは」
私の仕掛けた罠に足を取られ、体の自由を奪われる相手。
私は焦らず、ゆっくりと彼の側に近寄る。

その体のあちこちに、刻みつけられた無数の傷。
傷から零れ落ちる、血…。
その鮮血の、生々しい赤色に、この体が歓喜に沸いた。

嗚呼、美しい…。
例え人が自分を異常だと言おうとも、狂気だと言われようとも関係ない。
傷付き、血を流し、苦痛に顔を歪めるその義士の姿こそ、この世で一番美しいものだと思う。
本当に……閉じ込めて、私一人だけで鑑賞したいものだ。
永久に。

「どうだ?私の支配を受け入れる気になったか?」
「っ…誰、が」
そうだ、その目だ。

その憎悪に光った鋭い目が、私を高ぶらせる。
嫌うがいい、恨むがいい、憎むがいい。
その暗い激情が、より一層お前の美しさを引き立てる。
私の心を、より強く満たしてくれる。

「貴様にその気が無いのならば…力で、屈服させるまで」
喜びと楽しみを含んだ声で、そう高らかに宣言する。

欲しいものは、力で奪う。
この赤色も、また……。


11、解放エッグシェル

「ね…ねぇ……ちょっと、お願いがあるんだけど…」
俺のマントの裾を引っ張って、小柄な少年は視線を逸らしながらそう言った。

「本当に、僕にも作れるんだよね?」
「勿論さ」
そんな疑いの眼差しを向ける少年に、俺は微笑んで首を縦に振った。

『最近、ティナが元気ないんだ…それでさ……ねえ、僕にでも作れる料理ってある?』
そんな少年の頼みを叶える為に、キッチンの中の材料をかき集めた。
作るのは、簡単なお菓子『ホットケーキ』。
教えてほしいけど、手は出さないで欲しいという少年の願いを叶える為の、簡単なメニュー。

「粉の準備はもうそれでいいよ、次は卵を割って入れて」
俺よりも小さな少年の手に卵を手渡すと、彼は少し緊張した面持ちで卵にヒビを入れる。
パキッ…パリ……「っあ!……」そんな小さな声と共に、黄身の崩れた卵が粉の中に落ちる。
「大丈夫だよ、どうせ混ぜ合わせるんだから…ほら、殻取り除いて」
「……うん」
落ち込んだ表情の少年を元気付けて、卵を割るコツを教えてあげる。
「ほら、もう一個入れて」
「うん」
パキッ…パリ……「今度は成功!!」嬉しそうな笑顔でそう言う少年に、俺も微笑み返す。

「よし!後は牛乳を分量分入れて混ぜ合わせて」
言われた通りに必死でボールの中をかき混ぜる少年に、「ダマにならないように気を付けるんだぞ」と注意しつつ、フライパンを取り出しておく。

「もういいよ、後は熱したフライパンで焼くだけ」
「本当に簡単だね…」
そう言いつつ、少年は慎重に熱せられたフライパンへお玉で救ったタネを入れる。
「料理は質じゃないんだよ、簡単なものでも食べて欲しい人が居るから作るんだ」
「フーン……だから何時もフリオニールは皆の料理、作ってくれるの?」
「かな?…喜んでくれる人が居ると、嬉しいだろ?」
「そうだね」
真剣にフライパンの中を見つめる少年は、キツネ色に焼けて行くホットケーキを見つめる。

「ティナ…ちょっといい?」
「どうしたの?オニオン君」
少し緊張した面持ちで、彼は少女の前に出る。
「これ…僕が作ったんだけどさ……良かったら食べてくれる?」
「ホットケーキ…いいの?」
「うん…」
「じゃあ、いただきます……凄い!美味しいよ!!」
「本当に?」
「うん」
笑顔の少女を見て、少年は少し照れたように笑う。

(上手くいったみたいだな)
物陰からそっと覗いていた俺は、そんな二人を見て安堵する。

「フリオニール…」
その日の夕飯の準備をしていた俺の元へ、再びオニオンナイトがやって来る。
「昼間はありがとう…それで、その…御礼しようと思ってさ、夕飯の準備手伝うよ」
そう申し出てくれた少年に、俺は微笑み「じゃあ、早速だけど…卵割るの手伝ってくれるかな?」とそう聞いた。


12、切願フォゲットミーナット・ブルー

全て終わった。
永久に続いていた戦いの環から、我々は解放される。
遂に、本当の終わりが来たのだ…。
元の世界へと帰って行く仲間を見送りながら、底知れぬ不安が胸の内に生まれる。

私はこれからどうなるのか?
それは、これから先、待ち受ける己の未来への不安…そして。

「ウォーリア」
自分の夢の形を体現した花に目を落としていた青年が、私の名を呼ぶ。
その表情の中に、自分と同じ何かを見た。

「元の世界に帰っても……俺の事、忘れないでくれよ」
真っ直ぐ私の目を見てそう言う。

愛別離苦。
別れという、耐えがたい現実を受け入れなければならぬ苦痛。
それが今、私とこの青年の中に存在する感情。

「勿論だ」
決して、君を忘れるわけなんてない。
「君も、私の事を忘れないでくれ」
この感情を共有した事を、いつまでも覚えててほしい…私は……。
「必ず、君に会いに行こう」
そう言って、彼の唇に自分のものを重ねる。

「君を愛している」
最後の告白に、彼は優しい微笑みを残し、彼は元の世界へと帰っていった。
彼の声にならなかった言葉は、ちゃんと読みとれた。

『必ず、会いましょう』

何時か、いっと会おう。
勿忘草色の空に、私はそっと誓いを立てた。


13、穏健ヘリオトロープ

「僕の考えは甘いと思うかい?」
ある日、突然に彼はそう尋ねた。

敵に縁者を持つ彼は、彼の兄と和解の道を選ぼうとしている。
そんな自分の考えは、甘いのか…そう彼は聞いているんだろう、そうすぐに分かった。

「……いや、そんな事は」
「嘘吐かなくていいよ」
そうやって穏やかに笑うセシルに、俺は居心地が悪い思いがした。
「無理しなくていいからさ」
「…甘いとは思わないよ、ティーダもそうだけど、できれば家族とは仲良くした方がいいと…俺は思う」
「そんな事、本当にできると思う?」
彼は微笑んだまま、少し首を傾ける。

「分からない。だけど…セシルはそれを望んでいるんだろう?なら、できると信じたらいいじゃないか」
「そうだね……」
「それに、大事に思える家族が居るのは……良い事だと思う」
俺の言葉に、彼はしばらく沈黙し「フリオニールのご両親は、亡くなったんだっけ?」と、少し声のトーンを変えてそう言った。

「ああ、俺が子供の頃に、戦争に巻き込まれてな…」
「そっか…僕の両親も、僕が小さい頃に亡くなったんだ…残ったのは、僕と兄さんだけ」

だからだろうか、彼が残った家族を大切にしたいと思うのは。
でも、その気持ちは分かるかもしれない。
場合にもよるのかもしれないが、俺だって彼と同じ立場になれば、彼と同じ道を選んだだろう。

甘い考えだと言われても、それでも構わない。

「自信持てよ、セシル…お前の願い、きっと届くから」
「ありがとう、フリオニール」


14、約束サンセット

あの日の約束は、忘れていないさ。

天幕の横で、今日の夕飯の用意に取り掛かっていた仲間の姿を見つけた。
「手伝おうか?」
「あっ、ありがとうクラウド」
背後から声をかけると、振り返って笑顔でそう言う仲間に、俺も少し微笑み返す。

「最近、クラウドはよく笑うよな」
「そうか?」
「うん、前と比べて…何か少し落ち着いたというか……そうだな、前よりも明るくなった」
だとすれば、それはきっと彼のお陰だと思う。

彼の夢に触れて、たった一つ、変わらない夢を探したいと思った。
そんな彼の純粋な心が、多分俺を変えたんだと思う。

「お前の言う通り、俺も何か…大事なものが見えてきているのかもしれない」
「本当か?」
「ああ……」
そうやって、人の事なのに一緒に喜んでくれるこの仲間が、酷く嬉しい。

あの日の約束は、覚えてるさ。

「もし…この気持ちがちゃんと定まった時は、その時は俺の話聞いてくれるか?」
「勿論だ」
夕日に輝くその笑顔に、もう一度約束する。

この気持ちが定まった時、その時は……。


15、偶像スノー・ホワイト

奥州の雪は、非情なまでに降り積もる。
ただ静かに、しかし確実に…内と外を遮断する。
彼等に心があるならば、人を想ってくれても良いものを…。

「ha!!馬鹿らし…」
音もなく降り続ける雪へ向けて、そう吐き捨てるように言う。

雪国は、冬には外界から切り離される。
高く降り積もった雪は、白く美しいかもしれないが…この国に住む者からしたら、ただの厄介者に過ぎない。
こう寒くては、人も中々訪れない。
反対に、こちらから外へ向かう事もなかなか難しいものだ。

「海を統べる鬼なら、冬の荒波も渡って来いよ…なあ、元親」
雪雲立ちこめる寒空を見上げて、南国に居る恋人の事を思い起こす。
今頃何してるんだか…なあ、どれくらい会ってないかな?
「会いてえな……」
そう呟いた声すらも、この寒空の下、凍っていきそうだ。

奥州の雪は、非情なまでに降り積もる。
この白い壁さえなければと、一体どれ程思った事か。
偶像に縋って、この願い叶えられるなら、祈ってみるのも悪くない…だが。
「まあ、こんな願い叶えてくれやしないんだろうけどな…」

祈れども、この地は白い壁の中……。





お題提供元
蝶の籠




後書きを読む


BACK