「別に、お前の事なんか好きじゃねーよ!!」 嫌嫌内好「おはようございます!」 挨拶をしてくる舎弟に返答し校内を歩けば、俺の前を避ける様に人が引いて行く。 族の総長というだけで大袈裟な扱いだ……まあ障害物がなくなるので、歩き易くなっていいが。 「やぁヴァイパー君、今朝も相変わらず低血圧気味な表情だね」 そんな俺に何の躊躇いも無く話かけて来るコイツ、葛水月という鬱陶しい同級生は今日もまた珍妙な格好をしている。制服のYシャツにネクタイを締めているのに、下は袴に下駄なのだ。家が旧家なのか知らないが、その意味の分からん和洋折衷の格好はどうにかしろ。 「君こそ、改造の末に原型すら留めてない制服着てるだろ」 「オイ、地の分にツッコミを入れるんじゃねぇ!」 これが小説だという事を忘れたのか?物語としての規格からはみ出して来るんじゃねえ。 「ところで……今日は何の日か知ってるかい?」 そんな俺の心の声を今度は盛大にスルーして、コイツはそう尋ねた。 考えるうのも億劫なので、適当に「ぁあ?」とどうでもいい返事をする。 「今日はバレンタインデーだろ?」 「菓子会社の陰謀がどうした?」 別に恋人の居る奴等を妬んでいる訳ではない、こういう浮かれたイベントが好きじゃないだけだ。 実際に、学校に来てから今コイツに言われるまで、この校内で見かけた浮かれたカップルは数知れず…正直、目を覆いたくなるくらいだ。 「とか言いつつさ、ヴァイパー君もちゃっかり便乗してるんだろ?」 ニヤニヤと笑うスイゲツ、その手には掌に乗る程度の見覚えのある小さな箱がある。 「テッメェ!!それ何時の間に!!」 「ハハハ、僕の家業って元々泥棒だしさ…君の鞄からコレを抜き取るのくらい、容易い事だって!」 「返せこの野郎!!」 「そんなに怒鳴らなくったって返すよ、返す!」 案外すんなりと返されたものの、コイツの顔に張り付いたニヤニヤした嫌な笑いは消えない。 「知ってるよ、君が誰かの為にそれ用意したんだって事。何せ、君の行動を部下に言い渡して数日監視させたから」 「何してやがるストーカ―野郎!!」 何て無駄な事に自分の部下を使ってやがるんだコイツは!……いや、問題はそんな事でコイツの部下からの信頼が地に落ちるとか、そういう事ではない。 「フン……俺が誰かに物をあげるなんて事、天地がひっくり返ってもありえな…」 「因みに今日、ムーンサルト君は休みだよ」 「えっ…………」 一瞬、俺とコイツの間に流れる沈黙。 そして、俺は思った…コイツを前にしてムキになるのは馬鹿のする事だと。 「やっぱり、ムーンサルト君にあげるつもりだったんだね」 「なっ!!別に、そんなんじゃねぇよ…違うぞ!アイツだけは絶対にありえねぇ!!」 してやったり、奴の顔はまさしくそう言っていた。 畜生!俺の馬鹿!! 「ハハハ、君はムキになり易い上にそういう時は嘘が下手だからさ…からかうと面白いんだよね」 笑われて余計に腹が立ってきた。顔が熱い、今ならこの髪と同じくらいに顔が赤いんじゃないかと思う。 「テメェこそ嘘が下手じゃねぇか、あの体だけは頑丈な優等生が休みだと?笑わせてくれる…」 「本当よ、インフルエンザにかかったって」 「は?」 そう答えたのはスイゲツではない。スイゲツとムーンサルトのクラスメイト、金髪で髪の長いその女は、バイク用のゴーグルを常に首からぶら下げている、確かソラという名前の女だ。 「今朝のホームルームで担任がそう言ってたの」 「な…んだと?」 アイツ……何、流行に乗ってやがるんだ。 本人が居れば大声で笑ってやりたい所だが、なんだかそんな気分にならない……そんな俺を見て、ソラは首を傾ける。 「心配ならお見舞いに行ってあげたらどう?」 「はっ!?誰が!」 「君以外に誰が居るのさ?…いいじゃないか、行ってあげなよヴァイパー君」 ニヤニヤと相変わらず嫌な笑顔のままそう言うスイゲツに、黙れ!と一発鉄拳をくれてやる。 「全く……知ってるかい?君のその反応を、世間では“ツンデレ”って呼ぶんだよ」 「誰がツンデレだ!!」 一応俺の名誉の為に言っておこう、俺は一切アイツに対してデレた事はない! 一度もだ!一度も!! ……と言いつつも、俺は何故ここ居るんだろうか? 放課後の学生寮のある部屋の前、誰の部屋かなんていうのは言わずもがな……奴だ、ムーンサルトだ。 自宅から通う俺がどうして奴の部屋を知っているのか、そんな事はどうでもいい…何故、俺はここまで来てしまった? とりあえず、入るべきかどうしようか…と逡巡する俺に向け、「そこで何をしているのです?」と嫌味ったらしい声が飛んできた。 「人の部屋の前で邪魔なんですよ」 俺…いや、誰に対しても見下した様な態度を崩さんムカつく同級生にして、俺が尋ねて来たアイツのルームメイトはドアの前で固まって居る俺を見て笑う。 「それで、梅の人は俺の部屋に何の用なんです?」 「誰が梅の人だ!!ヴァイパーだヴァイパー!いい加減に名前を覚えろ!」 確かに梅という字は“バイ”と読むが…解説しなけりゃ、読者に伝わらんだろうが…コイツも小説の規格無視かそうか! 「はぁ……俺が用あるのはお前じゃないんだよ」 「そりゃそうでしょ、俺と梅の人には何の関連もありませんからね……ああ、ム―サに会いに来たなら奴は居ませんよ」 「……何?」 「当たり前でしょう?共同生活している寮の中に流行病の人間を置くのは危険です、直ぐに他の人間に広がりますからね…奴なら今、下の医務室ですよ。お陰で部屋が広くていいです、ム―サは一人居るだけで俺の1.5倍は場所を取るんで」 これで用は済んだだろう、とムカつく同級生は自分の部屋のドアを開けて中へと入って行った。 確かに言われてみればそうだった、風邪ならばまだしもインフルエンザだ、寮の自分の部屋に置くのは無理があった。 医務室だったら一階の端で、寮の中でもあんまり目立たずに行けただろうが…。 しかし悔やんでも仕方ない、ここまで来たならばコレをアイツにやらずに帰るのは癪だ。 心を決め、俺は医務室へ向かう。 「見舞いにな…以前そう言って、後輩の看病に来たコイツがこの有様なんだ。悪いが、今回は面会謝絶だ」 「…………」 医務員の言葉に、俺は沈黙する。 ここまで来て面会謝絶か!……っていうか、テメェは何でそんなお節介な事をしたムーンサルト!マジで自業自得じゃねぇか!! 「マジかよ……」 「悪いな。しかし、ムーンサルトも何だかんだで人に好かれてるんだな」 そう言う医務員が見つめる机には、綺麗に包装された包みが幾つか置かれている。 『親方先輩へ この間はありがとうございます!早くよくなって下さい!!』『ムサ男がインフルエンザなんて有り得ない、早く元気になってよ』等と書かれたカードが目に付いた。 確かにそうだ、アイツはどうも人を引き寄せる力があるらしい。 心配したり思いやってくれる人間は、他にいくらでも居るんだろう。 そう思うと、何だか……イラッとした。 「あっ、お前…そっちは」 医務員が止めるのを聞かずに俺は置くのベッドへと向かう、カーテンで覆われたソコを思いっきり開け放つ。 「ちょっ、何……」 「どうせ起きてたんだろ、ムーンサルト!」 「…もぅ、うるさいなぁ……一応、俺…病人なんだけど」 少し掠れた小さな声でそう言うと、恨みがましそうに俺を見つめるアイツ、熱がある所為か顔は赤い。 「お前が来るなんて、思ってもみなかった……」 「別に来たくて来たんじゃねぇよ!スイゲツが行けって言うから」 「そっか……でも、ありがとうな」 そう言って弱々しく微笑むアイツを見て、ビクッと俺の肩が大きく揺れた。 何だ今の?…俺は、別に感謝される様な覚えは…いや、感謝されて当然か?そうだよな、わざわざここまで足運んでやったんだし、しかも俺がお前なんかの為に!!いや、別に…何か特別とかそういう事じゃないんだ、そうだ…別にコイツに会いたかったとかそういう事じゃなくて、なんていうか…………ああ、っもう面倒だ!! 用意していた小箱を取り出し、奴に向けて思いっきり投げつける。 投げつけた所で、布団にほとんど埋もれた状態のアイツの前に落ちるしかなかったんだけど…。 「……?ヴァイパー、コレ」 「べっ!別にお前の事なんか好きじゃぁねぇよぉお!!」 怒鳴る様にそれだけ告げ、俺は医務室を後にした。 何だ!何なんだアイツは? 何でアイツに関わると、俺はあそこまで平静でいられないんだ…。 嫌いなんだろ?そうだ、多分…うん?何だこれは? いや、いやいや……ありえない。 「ツンデレなんて誰が認めるかぁ!!」 そう叫んだ俺の声は、二月の空一杯に響いた。 後書き 7万HIT&二周年フリーリクエストで、オリキャラコラボ学パロ小説でした…。 まず最初に祐喜様ならびに、祐喜様のヴァイパー君が好きだという皆様…すみませんでした! 以前に、祐喜様本人から「ヴァイパーとム―サは普通に出会ってたら仲良くなれたかもね」……みたいな話を聞いた時、もしそうだとしたらヴァイパーはツンデレキャラだと可愛いと思う、と思った私が悪いんです。 正直、ヴァイパーがムーサに向かってチョコレート投げつけて「別にアンタなんて好きじゃないんだからね!」という、ツンデレのお決まりの台詞を言わせてみたかっただけだとか……もう本当に申し開きできません。 そして、バレンタインデー過ぎてからアップした事についても申し開きできません。 祐喜様のみお持ち帰りOKです…もし、気に入って頂ければ幸いですが……いつでも返品OKなのです。 2011/2/15 今回は学パロという事で…配役を考えてみたけれど、出てこなかったor見ただけじゃ分からない人が居るので以下で配役紹介。 年齢の無理は無視して下さい、何故ならば学パロというのはそういうものだからです(笑)。 ヴァイパー、水月、空、クロミヤ、ムーンサルト……共に高等部二年生 ヴァイパー以外の三人は同じクラス、ヴァイパーだけ隣りのクラスでしたり ピピコ…中等部三年生 医務室にあったお見舞い品の一つは彼女の、女子寮の方に住んでるから届けに来れたんです サカサノ…高等部一年生 インフルエンザで休んでてム―サに看病されたのは彼 ツカハラ…医務員さん 一番困った配役…そして、ツカハラさんのキャラ…私よく分かってなかったんだけど大丈夫なんだろうか? 他にも購買部を取り仕切ってるのが商人さんだったり、実は校長がカッシーナだったりするんですけど…話に関わるのはこの人達くらいなので、この辺で終了させてもらいます。 BACK |