人を一人殺すたび、心が一つ死んでいく 全ては生きるためだって分かってるさ なのに何でかな、俺の魂がだんだん死んでく気がするのは リレイズ手にしていた銃器を、相手の手に持ち替えさせる。俺が殺す直前に弾を一発撃ってるので、検死されても火薬の反応が出るから、まあバレたりしない。 これでようやくルブルムに帰れる。 頼んでいた通り、迎えの者に落ちあって魔導院へと辿り着き軍部に報告すれば「しばらく休息を取る様に」と言われた。まだ残ってる今日の分の授業も、もう休んでいいと言われたので「了解」と笑顔で返す。 できるだけ人に会いたい気分じゃないから、これは嬉しい。まだ午後からも生徒は授業があるから、あんまり顔を合わせる事もないだろうし……。 「あれ、お前この間の鬱陶しい系じゃねえ?」 あーあ、何でこんなタイミングで出会っちゃうかな? 「酷いなあ、俺はナギ!皆のアイドル、ナギだってば!!」 覚えといてよと言うと、彼は眉間に皺を寄せて「面倒な野郎だな」と嫌そうなのを隠しもせずにそう言った。 0組のメンバーとはこの間、顔合わせをした。これから先、一緒に仕事をする仲間になる。 表のミッションではなく、裏の“言えないお仕事”の方の。 「んな所で何してんだよ、もうすぐ授業だろ?」 「生憎、俺はこれからお休みなワケ。だから、授業に行かなきゃいけないのは君の方だよ、ナイン君」 これだけ言えば行ってくれるかな、とか思ったけど、相手は更に顔をしかめた。 「ああ?授業とか受けてられるかよ。意味分かんねえし」 「勉強とか嫌い?」 それっぽいけどね。 「嫌いっつうか……まあ、アイツ等の言ってる事全く意味分かんねえんだよ」 実力で評価して欲しいぜ、なんてボヤく相手を見てニッコリ笑って「そっか」と答える。 しかめっ面の相手は、不機嫌そうにこちらを見つめる。 「何?」 「機嫌ワリーなら笑ってんじゃねえよ、気味ワリー」 「えっ……」 腹の中に真っ黒なもんが渦巻いてても、笑顔を作る術を心得てから、どれくらい経っただろうか? 未だに、俺の仮面に気付いた奴はほとんど居ない。特に、候補生達にバレた事はない。 なのに何で?……いや、そこは流石の0組って事なのかな? 「凄いね。この顔を一発で見破るとか、珍しいんだぞ」 相変わらず笑顔でそう答えると、相手は「ああ?」と首を傾けた。 「一目瞭然だろうがオイ、そんなけ、殺意振り撒いてたらよ」 「殺意、ねえ」 まあ気は高ぶってるけど、ちょっと色々違うかもね……誰かを殺して来たワケだから。怒りとか、やるせない気持ちもある訳なんだけど。 それより何より……。 殺して来た相手と一緒に、自分の中の“何か”も一緒に死んでいったみたいで、なんか気味が悪いんだ。 それこそ、笑ってないと自分を保っていられなくなる位に、不安で仕方ない。 死んだ者はクリスタルが忘れさせてくれるから、俺の中で死んだ何かも、息を引き取った瞬間に記憶の中から姿を消したんだろう。生きて行くのに必要だったかもしれない何かなのに、それが何だったのかも分からない。 俺としても、この笑顔が無駄だって事はよく分かってる。作ってるだけで、それが自分の中で失った人の形を補ってくれるとは、どうしても思えない。 だけど、他に人を保つ方法も思い浮かばない。 ……いや、もう一つくらいこの感情を治める方法もあると思われるんだけど。 それは八つ当たりに近いものだし、許される人が居ないから、今まで試した事はほとんどない。 目の前の彼なら、どうだろうか? 「あのさぁ、さっき君が言った通り。俺は今、ちょっと虫の居所が悪いんだよね」 「ああ?だから何だってんだよ、言っとくけどやるんならかかって来いよコラ!」 「んー……ちょっと意味が違うかな」 「はあ?」 分かってない相手に顔を寄せて、それまで浮かべてた笑顔を消す。 「サボたいならおいでよ、俺の部屋に」 三日ぶりに帰って来た自分の部屋、ここの寮は普通、二人で一部屋だけど。9組でも特に俺みたいな“ズバ抜けた奴”には特別に一部屋を一人で使わせてくれたりするんだよね。まあ、狭い部屋なんだけどさ。 「ようこそ!俺の部屋に人が来たのは君が初めてだよ」 「そうかよ」 邪魔するぞと、窓を越えて入って来た相手にニッコリ笑って「歓迎するよ」と言ったら、また顔をしかめられた。 「だから、それやめろっつうの!」 やっぱり作り笑いはバレるみたいだ。 「悪いね、これもクセ付いてるんだよね。俺の中にある感情でも、どんな名前付いてるのかは分からない何かなんだけどさ。それが高ぶってる最中は、こうやって押し込めておくか、全部吐き出すかしか方法が無くってさ」 「吐き出す?」 首を傾ける相手を、その場に組み敷く。 「ッテェ!何すんだよコラ」 「ああ、ゴメン。頭でも打った?」 謝っておきつつ、上から退く気は全くない。嫌いらしい笑顔は消して、どんな感情から生み出されているか分からない顔で、相手の衣服に手をかける。 そんな俺を見上げて、相手は溜息を吐いた。 「オイ、別に好きにすりゃいいけどよ……とりあえず床は固いからやめろ」 拒否する訳でもなく、平然とそう言ってのけられて逆に面喰ってしまう。 「何?抱いていいの?」 「気が済むんなら好きにしろよ、別に逃げやしねえし」 そういう相手の表情は呆れているのか、憐れんでいるのか、それとも両方なのか分かんなかったけど。それでも、こんな俺を受け入れてくれるらしい事、それがなんか嬉しくて。 その言葉に甘えて、好きにさせてもらうべく……相手の唇を塞いだ。 思っていたよりも柔らかくて、温かい人の熱に酔いそうだった。 「ねえ、こんな事して怒られたりしないの?」 俺のベッドで伏しているナインに尋ねると、彼は億劫そうにこちらを見返した。 目を開けた相手が俺の姿を探して首をひねる、椅子の背もたれを前にして座って居た俺が笑いかけると、「んだよ?」と億劫そうに尋ねた。 どうやら、俺の笑顔は彼が嫌がるくらいに不自然なものじゃなくなったらしい。 確かに、今は腹の中でグルグルと黒いものが渦巻いてない、気分的にはスッキリしている。 「サボッてんだから、怒られんのは当たり前だろ?」 その声にいつものような覇気はない、喉を大分使ったせいかもしれない。 水の入った瓶を手渡すと、それを黙って受け取った。 「クラサメの野郎に怒られんのが、そんなに面白いか?」 一口飲んでそう答える相手に、「違うよ」と手を振る。 「君の恋人に怒られないかって、そう聞いてんの」 嫌がらなかったから大体は予想できたけど、ナインは男性経験があるらしい。 魔導院に来てそんなに時間が無い0組のメンバー。なら、あのクラスの中にそういう相手が居るという事だと勝手に思った。 まあ、恋人がその指揮隊長だったら話は別だけどさ。いや、どっちでも怒られるのは一緒か。 指揮官くらいならいいけど、武官とか魔導院の関係者はこういう面倒な規則には煩いからな……若者の健全な育成がどうとか、勝手に言ってろよ、って感じ? 「あのよ、俺……恋人とかいないぞ」 「えっ……そうなの?そういうお相手がいるとかじゃなくて?」 「あー……まあ、処理くらいならよ、一人でするだろ?それが面倒な時は、相手してやってるだけだし」 「セフレ?」 「まあ、そんなもん」」 てっきり良い子ちゃん達ばっかりなのかと思ってたけど、実際はそうでも無いわけだ。 「0組って結構、女の子居るよね?」 「あー……なんていうか。今更、女として見れねえとかあるんだよ」 「そんなものなの?」 「なんつーか、恋人っつーよりよ。もう兄弟みたいな?そんな感じなんだよな」 「ああ、家族だから手を出しにくいって事?」 あんまり実感は沸かない、自分と長い時間を共有している相手が居ないせいかもしれない。 昔は居たんだと思う、彼の言う家族の様な存在が。だけど、長い時間をかけて一人一人と減っていって。俺の中にはそういう相手は残っていないんだろう。 しかし、だからって男同士でっていうのは虚しい気がするんだけど。まあ彼等も同じ所に住んでる訳だし、男女で寮棟は別のハズだから、そういう事いたすのは無理に近いか。 「だから、俺とスルのも平気って?」 「嫌悪感はねえけどよ、だからって誰でも平気だって訳じゃねえよ」 そう言うと、ナインは起き上がって俺の方を見た。 普段からずっと怒りの感情が強く現れてるその顔に、今は疲れと、どこか遣る瀬無さを感じ取る。 「俺がいいと思った相手じゃないと、こんな事はさせねえよ」 「ふーん、じゃあ俺は君の判定だとOKなんだ」 「構わねえってだけだよ。鬱陶しいヤローだけど、腹ん中に溜めこんでるもんの方がずっと鬱陶しいっぽいからな。それ消せんなら、これくらいしてやるよ」 そう言って、俺の頭に手を伸ばすとワシワシと撫で回される。正直、年下と思われる相手にされるといつもなら苛立つんだけど、今回は平気だ。 それにしても、温かいな。 冷たく無い、人の温度だ。 「ナイン」 「んだよ」 椅子から下りて、ベッドに腰かけるとその胸の中に顔を埋めた。 「オイ、どーしたんんだよ?オイ?」 無視して腰に手を回して抱き寄せると、上から溜息が聞こえた。 「んとに、メンドーな野郎だな」 そう言いながらも、頭を撫でる手が止まらない。ぎこちないし乱暴だけど、嫌いじゃない。 安心する。 ああ、心の底に戻ってくる。 俺の中の“人間”が。 「なあナイン、こういうムシャクシャする時はさ。誘ったら来てくれる?」 顔を上げて尋ねると、その眉間に皺が寄るのが見えた。 「ああ?面倒クセー奴だな。……まあ、暇だったらいいぞ」 「そう、ありがとさん」 笑って言うと、そっぽを向いて溜息を吐いた。 一発で俺のどす黒い腹ん中に気付いて、しかもそれをこの距離で見ても動じない。 普段の言動に似合わず、本当は優しくてお人好し……ってところかな? そういう善良な奴って好き。分かり易いし、信用できる。 何よりコイツは伝説の0組、戦場で簡単にくたばったりしない。 求めれば傍に居てくれるだろう、俺が生きている間くらいは。 いいよ、そういう奴。 「君のこと、スキになれるかも?」 後書き マイナーなのは分かってるんですけれど、ナギ×ナインとか見てみたいとか思ってたんです。 人物辞典のナギの紹介を見て、腹の底に黒いもの押し込めてる子っぽいなあとか思ったのが、全ての事の発端です。 ナインは色事に無頓着な子でも萌えます、かなり! それ見て嫉妬気味のキングさんとかも、萌えます! 2011/12/11 BACK |