なあ知ってるか?
9は王様の数字なんだぜ


王様の数字

魔導院の寮にある自分の部屋で、ベッドに腰かけたクラスメイトは笑ってそう言った。
銃の手入れをしている俺に、構って欲しくてそう言ったのかもしれない。

「3って数字は“完成”って意味なんだってよ、それで、その3が3つ揃った9は完全に完成した数字。
だから9は一番偉い奴、王様の数字なんだぞコラ」
「そうか……お前が完全?」
ちょっと笑うと、相手はムッとしたようで「笑うんじゃねえよ!」と叫んだ。ついでに言うと、その話しは俺も知ってる。
「正確に言うと、9は王じゃなくて皇帝の数字だ」
「ああん?そんなの大して変わらないだろ」
「そうだな」
確かにそうだ、俺達にとっては王も皇帝も大した違いは持たない。
それは『国を統べる者』、それ以上でも以下でもない。
敬意は示す、が崇拝はしない。

今までベッドに腰かけていた相手は、小さく溜息を吐くと目の前へとやって来た。
手元にあった銃を取り上げられて、顔を覗きこまれる。綺麗な目に吸い込まれる様に、触れたいと少し思った。
「なあ、これがどういう意味か分かるか?」
「意味?」
首を傾げると、相手は得意げな顔を見せる。何を考えているのか分からないが、悪い事ではなさそうだ。
更に近付くと俺の膝の上に座る。
「なあキング、何だか分かるか?」
ニヤッとした笑顔は悪戯っぽくも、艶っぽくも見える。
何を言いたいのか知らないが、先にやっぱり触れてやろうかと、手を伸ばすよりも先に、相手の手が俺の頬に触れた。
柔らかく触れた相手の温もりに、ふっと息を漏らすと、思っていたよりも相手との距離が近くなっていた。
柔らかく笑んだ唇が、自分のものと重なる。
自分が触れたいと、思っていた相手からの接触に喜びが溢れる。

「9は王様の数字で、俺はナイン、お前はキングだろ?」
さっき言った事を繰り返す相手、何を言いたいのかはなんとなく気付いている。
だけど、もしこれが当たっているなら、相手の口から是非とも聞きたい。だから、まだ首を傾げると、ナインは深い溜息を吐いた。
「つまりよ、俺はお前のモン……って事だよ」
不貞腐れているのか、自慢げなのか、それとも羞恥心が今になって蘇ってきたのか、少し赤くなってそう言う相手に、心の底から満足感を覚える。

真っ赤になった相手を逃げない様に抱き締めてやると、「何すんだよ」と言いながらも、大人しく捕まってくれる。
「何するんだよ」って、最初に触れて来たのはお前の方だ。
相手の額に唇で触れると、くすぐったそうに身を捩る。
擦り寄って、触れ合って、傍に居るんだと感じさせてくれる、熱。
「そんな事、知ってる」
「ああん?」
「お前が俺のものだって事」
そう言ってやると、背中に回って来た手に力が籠った。
聞きたい事も、言わせたい事も、まだたくさんある。

「そんなに俺が好きか?」
耳元で囁いてやると、ビクッと面白いくらいに肩が跳ねた。
「別、に……そんな事は言ってねえぞコラ!」
そうだな、好きとかそれ以上の事だったな。
子供をあやす様にそう言い聞かせると、怒ったのか離れようと腕の中で暴れる。
止めろって言ってるのに、この馬鹿力は加減を知らない。すっかり体勢を崩し、二人して床に倒れ込む。
そこでも結局ナインはこの腕の中で、より強く感じる相手の鼓動を嬉しく歓迎する。
その一方で、腰にかかる重圧をなんとかしたい気持ちもある。

「ナイン、重い」
「ウルセエ!退いて欲しいなら、さっさと腰の手をどけろコラ!」
文句を言いつつも、腕を下す事はしないし。反対に、振り払う事もしない。
大して温かみもないフローリングの床の上、寝そべるには不向きだというのに、離れるのも億劫だと思う。
本当に、面倒な相手だ。
まあ仕方ない。
コイツは俺の持ってる“完全”だから、傍に居てくれるだけで満足できる。
どんな場所でも、多分、そう。
だから、俺の傍に居ろよ。

絶対に絶対を重ねて、更に絶対の約束を交わしたら。きっと、完全になるから。
何回でも言おう、忘れない様に。

「ナイン、お前は俺のもの」




後書き
9は中国では皇帝の数で、縁起の良い数字なんだと……現地のガイドさんが話していたのを、ふと思い出したんです。
皇帝の公園なども見に行ったんですが、そこの階段は決められた様に九段ずつなんですね。
因みに3が完全数というのは、ピタゴラス学派の意見でもあるらしいです(数占いの知識)。

まあ、何が言いたかったのかって……ナインはキングのものだ!って、だけですよ。
2011/11/24


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