オイオイ、本当に意味分かんねえぞコラ!


理解不能の証明文

初めて出会ってから、俺達12人の中で一番気が合う奴はキングだった。
今だって、俺の事を分かってくれてる奴だと思う。マザーの他に誰を信じるかと聞かれたら、一番最初に名前を挙げるのはアイツだ。
「好きなんでしょ?」
ジャックが言ってた通り、俺はアイツが好きだ。だけど、恋愛って……おかしいだろ!友達を好きになるとか、マジでありえねえし。
でも、アイツは笑って言った。
「僕はナインが好きだよ」
頭打ったんじゃねえか、と本気で思った。コイツはいっつも冗談ばっかり言ってるし、その時も顔が笑ってた。
そういえば、目は笑ってなかったな……と思い返して気付く。
で、その後に何したかって言うと……キスしてきたんだよな、まあ口じゃなくてほっぺだったけどよ、そりゃ驚くよな。んで、なんかカーってなって、一発殴っちまった。
「嫌だった?」
「そりゃ嫌に決まってんだろ!男にキスされて嬉しい野郎はいねえだろ、コラ!」
殴られても笑ってやがるから、どうしたらいいか分からねえ。
「そう?じゃあさ、相手が僕じゃなかったらどうなの?例えば、キングだったらさ」
何でアイツの名前が、と思ったけど。そういえば、相談したのは俺だった。
キングが気になる、この分からねえ感じは何なのか……。
もしも、今の相手がキングだったらどうだったのか……。
「アハハ、ナイン顔真っ赤!」
「なっ!!」
指摘されて初めて、スッゲー顔が熱いのに気付いた。
「やっぱり好きなんだね」
「はあ?」
いや、だから有り得ねーだろ!だって、相手はアイツだぞ。本当、マジで無い!
無い……ハズだ。


「ナイン、これから講義だぞ」
中庭で一人ボーっとしてたら、そう声をかけられた。
「あっ、お……おう」
この間までは何も気にしなかったのに、今はこの間の事が頭の中に出て来て普通にできねえ。
アイツが、余計なこと言ったせいだ。
「どうした?最近、やけに大人しいな」
隣りに腰を下してそう言う相手に、ちょっとビクつく。
「あっ、誰が?」
「お前がだ、ボーっとしてる事が多い」
「そうか?」
気付かれてないようで安心した。
気になるから、色々と考えてしまう。結局のところ、分かんねえ。
友達で好きだとか、恋愛だとか、男同士だとか、考えれば考えるほどにグチャグチャになっていく。
「ああっ!面倒だぜ!!」
大声で溜めこんでいたことを吐き出すと、隣のキングは「どうした?」と眉間に皺を寄せて尋ねた、相変わらず人相悪いな。
「オイ、キング!俺とキスしろ」
そう言ったら、眉間の皺がもっと増えた。
「何で?」
「いいからさせろ」
男同士だったら普通は嫌だろ?じゃあ、嫌じゃなかったら好きだって事だろ。
分かりやすいじゃねえか、これでハッキリする。
理由を聞かれたら、そう答えるつもりだった。

「はあ……いいぞ」
いいのかよ!
だが、「ほら」と言われて気付いた。
俺がコイツにキスしないといけないんだよな……それ、なんかスゲーこと言っちまったのか。
そのまま動けないでいる俺を、じっと黙って見つめ続けるキング。そうされていると、よけいに動けないだろうが!!
「……しないのか?」
「いや、する!ってか、いいんだな?」
「いいって言っただろ」
確かにそうだ、いや……っていうか何でコイツ、こんな平然としてんだよ。
「ナイン」
「だぁっ!黙ってろ」
心臓の音が煩いんだよ、何だよコレは。
何なんだよ、アイツは簡単にできたのによ。

「はぁ……いい加減に認めろ」
「な、何を?」
そう問い返すと、また溜息を吐いた。
「俺が好きなんだろ?」
「はぁ!なっ、誰が……そんなこと」
「前に、俺に相談してきた時から気付いていた」
「いや……ちょっと待て、誰も好きだとは言ってはねえぞ!」
分かんねえから聞いた。
返ってきたのは「お前にはまだ早い」っていう、意地の悪い笑顔。
コイツ、何考えてんだよ?

他に何か言うよりも先に、動いたのは相手の方だ。

向かい合った顔が、近付く。
ガッシリ掴まれた左手と、押さえられた頭。
傍に感じる息使い。
焦点の合わない相手の顔と、唇に感じた熱。
……あれ?

「どうだ?」
「…………はぁ?」
「キス、したかったんだろ?」
平然とそう言われて、確かに最初に言い出したのは自分なんだと思い出した。
そして、何を目的で言い出したのかも思い出した。
めちゃくちゃ普通に口にキスしてきやがって、何でこんなにお前は平気なんだよ。
思い返して顔が熱くなる、心臓がずっと煩いままだ。
そういや、嫌だったのかどうかも分かんなかった。
「分かんねえ」
正直に答えると、相手はちょっと口の端を上げて笑った。
「俺はお前が好きだが」
「そうかよ……ぁあ!?」
ビックリした、ってか聞き間違いじゃねえだろうな。
コイツがジャックみたいな冗談言うなんて、しかもこのタイミングで、有り得ねえよな。
「キング、お前」
「ずっと前から好きだったんだがな、同性だって引け目もあるから黙っておこうと思っていたんだが……お前が俺を好きなら、話しは別だ」
駄目だ、コイツの言ってる事が分かんねえ。
クイーンに馬鹿だって言われても、今はちょっと仕方ねえ気がしてきた。いや、アイツだって絶対に分からねえ。
何だよ、どうなってんだよ?
「俺と、付き合うか?」
何でそこで疑問形なんだよ、言いきれよ馬鹿。
返答がいらないように言いきってくれないと、俺が返答しなきゃいけねえじゃねえか。

「ナイン」
「なっ……なんだよ?」
頑張って、なんとかそう答えるとアイツは息を零して笑った。
「酷い顔してるぞ」
「んなの……誰のせいだと思ってやがんだコラ!!」
お前のせいだよ、どうしてくれんだよ!
「そうだな、サボるか?」
「何を?」
「講義だ、どうせ今は何を聞いても頭の中に入ってこないだろ?」
いや、いつも何言ってるか分かんねえけどよ。今日はあのクラサメの顔も見たくねえ。
「いいのかよ、お前は行かなくて?」
「別に構わない。というか、お前を放って行けないからな」
行くぞ、と手を取られた。
どこに?とは聞かなかった。
ただ、じわじわと伝わって来る相手の熱が嬉しくて……なんていうか。
俺、コイツのことやっぱ好きなんだな。




あとがき
理解不能シリーズ……最初は全くシリーズにする気は無かったんですけど、気が付いたらシリーズになってたシリーズ。
キングとナインが結ばれれば、それで結論で良いかなと。
それにしても、少女マンガ全開のナイン君で申し訳ないのです。
馬鹿なナイン君と、余裕のありそうなキングを書くのが楽しいですね。
2011/11/20


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