オイオイ、本当に意味分かんねえぞコラ! 理解不能の証明文今だって、俺の事を分かってくれてる奴だと思う。マザーの他に誰を信じるかと聞かれたら、一番最初に名前を挙げるのはアイツだ。 「好きなんでしょ?」 ジャックが言ってた通り、俺はアイツが好きだ。だけど、恋愛って……おかしいだろ!友達を好きになるとか、マジでありえねえし。 でも、アイツは笑って言った。 「僕はナインが好きだよ」 頭打ったんじゃねえか、と本気で思った。コイツはいっつも冗談ばっかり言ってるし、その時も顔が笑ってた。 そういえば、目は笑ってなかったな……と思い返して気付く。 で、その後に何したかって言うと……キスしてきたんだよな、まあ口じゃなくてほっぺだったけどよ、そりゃ驚くよな。んで、なんかカーってなって、一発殴っちまった。 「嫌だった?」 「そりゃ嫌に決まってんだろ!男にキスされて嬉しい野郎はいねえだろ、コラ!」 殴られても笑ってやがるから、どうしたらいいか分からねえ。 「そう?じゃあさ、相手が僕じゃなかったらどうなの?例えば、キングだったらさ」 何でアイツの名前が、と思ったけど。そういえば、相談したのは俺だった。 キングが気になる、この分からねえ感じは何なのか……。 もしも、今の相手がキングだったらどうだったのか……。 「アハハ、ナイン顔真っ赤!」 「なっ!!」 指摘されて初めて、スッゲー顔が熱いのに気付いた。 「やっぱり好きなんだね」 「はあ?」 いや、だから有り得ねーだろ!だって、相手はアイツだぞ。本当、マジで無い! 無い……ハズだ。 「ナイン、これから講義だぞ」 中庭で一人ボーっとしてたら、そう声をかけられた。 「あっ、お……おう」 この間までは何も気にしなかったのに、今はこの間の事が頭の中に出て来て普通にできねえ。 アイツが、余計なこと言ったせいだ。 「どうした?最近、やけに大人しいな」 隣りに腰を下してそう言う相手に、ちょっとビクつく。 「あっ、誰が?」 「お前がだ、ボーっとしてる事が多い」 「そうか?」 気付かれてないようで安心した。 気になるから、色々と考えてしまう。結局のところ、分かんねえ。 友達で好きだとか、恋愛だとか、男同士だとか、考えれば考えるほどにグチャグチャになっていく。 「ああっ!面倒だぜ!!」 大声で溜めこんでいたことを吐き出すと、隣のキングは「どうした?」と眉間に皺を寄せて尋ねた、相変わらず人相悪いな。 「オイ、キング!俺とキスしろ」 そう言ったら、眉間の皺がもっと増えた。 「何で?」 「いいからさせろ」 男同士だったら普通は嫌だろ?じゃあ、嫌じゃなかったら好きだって事だろ。 分かりやすいじゃねえか、これでハッキリする。 理由を聞かれたら、そう答えるつもりだった。 「はあ……いいぞ」 いいのかよ! だが、「ほら」と言われて気付いた。 俺がコイツにキスしないといけないんだよな……それ、なんかスゲーこと言っちまったのか。 そのまま動けないでいる俺を、じっと黙って見つめ続けるキング。そうされていると、よけいに動けないだろうが!! 「……しないのか?」 「いや、する!ってか、いいんだな?」 「いいって言っただろ」 確かにそうだ、いや……っていうか何でコイツ、こんな平然としてんだよ。 「ナイン」 「だぁっ!黙ってろ」 心臓の音が煩いんだよ、何だよコレは。 何なんだよ、アイツは簡単にできたのによ。 「はぁ……いい加減に認めろ」 「な、何を?」 そう問い返すと、また溜息を吐いた。 「俺が好きなんだろ?」 「はぁ!なっ、誰が……そんなこと」 「前に、俺に相談してきた時から気付いていた」 「いや……ちょっと待て、誰も好きだとは言ってはねえぞ!」 分かんねえから聞いた。 返ってきたのは「お前にはまだ早い」っていう、意地の悪い笑顔。 コイツ、何考えてんだよ? 他に何か言うよりも先に、動いたのは相手の方だ。 向かい合った顔が、近付く。 ガッシリ掴まれた左手と、押さえられた頭。 傍に感じる息使い。 焦点の合わない相手の顔と、唇に感じた熱。 ……あれ? 「どうだ?」 「…………はぁ?」 「キス、したかったんだろ?」 平然とそう言われて、確かに最初に言い出したのは自分なんだと思い出した。 そして、何を目的で言い出したのかも思い出した。 めちゃくちゃ普通に口にキスしてきやがって、何でこんなにお前は平気なんだよ。 思い返して顔が熱くなる、心臓がずっと煩いままだ。 そういや、嫌だったのかどうかも分かんなかった。 「分かんねえ」 正直に答えると、相手はちょっと口の端を上げて笑った。 「俺はお前が好きだが」 「そうかよ……ぁあ!?」 ビックリした、ってか聞き間違いじゃねえだろうな。 コイツがジャックみたいな冗談言うなんて、しかもこのタイミングで、有り得ねえよな。 「キング、お前」 「ずっと前から好きだったんだがな、同性だって引け目もあるから黙っておこうと思っていたんだが……お前が俺を好きなら、話しは別だ」 駄目だ、コイツの言ってる事が分かんねえ。 クイーンに馬鹿だって言われても、今はちょっと仕方ねえ気がしてきた。いや、アイツだって絶対に分からねえ。 何だよ、どうなってんだよ? 「俺と、付き合うか?」 何でそこで疑問形なんだよ、言いきれよ馬鹿。 返答がいらないように言いきってくれないと、俺が返答しなきゃいけねえじゃねえか。 「ナイン」 「なっ……なんだよ?」 頑張って、なんとかそう答えるとアイツは息を零して笑った。 「酷い顔してるぞ」 「んなの……誰のせいだと思ってやがんだコラ!!」 お前のせいだよ、どうしてくれんだよ! 「そうだな、サボるか?」 「何を?」 「講義だ、どうせ今は何を聞いても頭の中に入ってこないだろ?」 いや、いつも何言ってるか分かんねえけどよ。今日はあのクラサメの顔も見たくねえ。 「いいのかよ、お前は行かなくて?」 「別に構わない。というか、お前を放って行けないからな」 行くぞ、と手を取られた。 どこに?とは聞かなかった。 ただ、じわじわと伝わって来る相手の熱が嬉しくて……なんていうか。 俺、コイツのことやっぱ好きなんだな。 あとがき 理解不能シリーズ……最初は全くシリーズにする気は無かったんですけど、気が付いたらシリーズになってたシリーズ。 キングとナインが結ばれれば、それで結論で良いかなと。 それにしても、少女マンガ全開のナイン君で申し訳ないのです。 馬鹿なナイン君と、余裕のありそうなキングを書くのが楽しいですね。 2011/11/20 BACK |