「どうして、分からないんですか?」

誰だって分かる事を、分からないなんて
……だけど
こんなに難しい問題もありませんね


理解不能の問題文

「なあ、クイーン。聞きたい事があるんだけどよ」
彼がそんな事を言うのも珍しくないので、「何ですか?」と尋ね返す。
分からない問題を質問して、解決しようという意思は尊重しましょう。いつもなら、分からないまま放置されている事の方が多いので。
私に答えられるものなら答えますよ、と付け加える。
彼が真面目に授業を受けてくれるなら、それは良い進歩だと思ったから。
「なんかよ、嫌いな訳でもウザってえ訳でもねえし、一緒に過ごしてる時とかは別に普通っていうか……なんだろうな、まあいい奴だと思ってる。なのに……よく分かんねえけど、偶に見ててイライラする」
よく分かんねえと再度言って、「これ、どういう事だ?」と質問するナインに溜息。

私達だって16・17歳、年頃の男女ですからそういう感情を抱く相手が表れる事だってあるでしょう。
別に感情は人の自由ですから、それを止める理由はありませんし。むしろ彼に対しては喜ばしい事かもしれません。
誰かを思いやる心を、もう少し持つべきだと感じる事も多いですから。
だから彼にとって素敵な人が表れれば良いのに、と思わない事もありませんでした。
そうしたら、彼が変わるかもしれないと少なからず期待していたんです。
なのに、それに気付けないとは。
本当に子供のままなんですね、貴方の感性は。

恋愛感情を、理解する事ができないなんて!

「喧嘩して覚えてねえだけなのか、とか思うんだけどよ。何か引っ掛かったままなのが、よく覚えてねえんだよな」
「本人に確認しないんですか?」
「するわけねえだろうがコラ!それで何も無かったら、俺がバカだとか思われんだろ」
多分、その方も貴方が知識人だとは思っていないので変わらないとは思いますが。
でも悪い印象を与えたくないと、心のどこかで感じているんでしょう。これは本当にそうかもしれないです、期待できます。
「なんかの病気とかじゃねえよな?」
「ええ。でも、ある意味では病かもしれないですが」
「はあ?どういう意味だコラ」
恋煩いです、とハッキリ言ってやろうかと思ったけれど。こんな彼を見るのは珍しいから、もう少し詳しい話を聞いてみたい。
乙女の好奇心、というやつです。
ニッコリ笑って、彼が気になるという人物について質問してみる。
「その人とは、よく一緒に話したりするんですね?」
「ああ?まあそうだな、気が合うから話したりもするけどよ……」
ナインと気が合うというのも、珍しいですね。まあ、馬鹿ですし怒りっぽいですけど、真っ直ぐで明るい子ではあるので。そういう単純な部分で通じるなんて人も居るのかもしれないですけれど。
いやいや、彼が気が合うというのは、きっと自分を分かってくれるという事ですから。面倒見の良い方なのかもしれないですね。
「じゃあ、候補生という事ですね。まさかとは思いますが、0組の誰かだったりして」
「ああ、まあそうだけどよ……」
何ですって!
でも、そうですよね。ただでさえ目立つ私達0組の中でも、協調性に多少難があるナインの事ですから。他のクラスの方達と普通に接するのは難しいですよね。特に女性ならば余計に。
でも、でもだとしたら0組の誰なのかしら?
普段から話しをしてると言うのなら、流石にレムではないでしょう。なら、最近よく一緒に居残りで補習をしてるシンクやケイトでしょうか。でも、普段から過ごしているのならサイスの方がそれらしいかしら。面倒見の良さから言うとセブンかもしれないけれど……案外、デュースのような大人しい子の方が好みなのかしら?
「おい、おいクイーン!」
「はい!?」
「何、ボーっとしてんだコラ」
私とした事が、一人で先走ってしまっていました。
こうして相談してくる以上は、相手は私ではないでしょうから。できるだけ、いえ全面協力してあげたい。
「それで、その人って誰なんですか?」
できるだけ笑顔で、優しく尋ねる。
すると彼はいつもの「意味が分からない」と言う時の顔で、見返した。
「キングなんだけどよ」
「…………えっ?」
今、私の聞き間違いでなければ。予想した誰でも無い人の名前が挙がった気がするんですが。
「キング、なんですか?」
「ああ、何か悪いのか?」
悪いのか、ですって?
これ以上ないくらいに悪い事ですよ!!
「貴方、本当に馬鹿なんですか!!」


信じられない……信じられない!
いくら感情が自由だって言っても、こんなの認めたくない。
同性同士での恋愛なんて、いくらなんでもそれは絶対に駄目。
私達はマザーの元に来てから、何年も共に過ごして来た。いわば兄弟の様な関係で……。
元は他人かもしれないけれど、それだけじゃ終らないだけの繋がりが私達の中には確かに存在している訳で。
だから、彼の言葉は裏切りの様に聞こえてしまった。
勿論、同性同士の不純な関係を認める訳にはいかないっていうのもあるけれど……。

「お前に聞いたのが間違いだったぜ、もう面倒クセェ!もう、本人に聞いて確かめてくるからいいぜ!!」
ついカッとなって叫んでしまった後、口論になって彼は最後にそう叫んで出て行った。
あれから二日、きっと彼はもう尋ねてしまったんだろう。
それに対してキングがどんな反応をしたのか、まあ彼の事ですから適当に話しを逸らしてくれると思いますが。その感情が、それだけで止められるとは思えないのが恐い。
ここは、彼にもなんとか話しをつけてもらうべきでしょう。
そうと決まれば早く行動に移しましょう、なんだか自分が単純化している気がしたけれど、そんな事に構っていられる状況ではありません。
中庭に居たキングに声をかけようかと思ったら、見知らぬ女の子が寄って来る姿が見えて思わず身を隠してしまった。
本当に、先日から私はツイてないんでしょうか。こんな場面になんて居合わせたくないのに!
少女の言葉を聞きながら、溜息。だって、彼の返答が安易に想像できたから。
「すまない、そういう感情は受け入れられない」
耳に届いた声が、胸に刺さって痛い。
同じ事を、ナインが言ったとして彼はどう答えたんだろう。同じ言葉を返したんだろうか、それとも……もっと他の言葉に変えたんだろうか。
もし、もしも……彼がそれを受け入れるとするなら。
いいえ、そんな事はありえない!!

「ところで、いつまでそこに隠れてるつもりなんだ?」
姿が見えてなくとも、流石に気付かれてはいたようで。驚いたのを気付かれないように、隠れていた木の後ろから這い出す。
「一応言っておきますが、私は別に立ち聞きする気は無かったんですよ」
「そうか」
私がここで何をしていようと興味なさそうな、素っ気ない返事。いつもの事だけど、今はちょっとイラッとした。
「折角なのに、断ってしまうんですね」
「知らない相手だからな」
「そうですか?少なくとも、相手は貴方の事を知っているようでしたが」
勿論、この魔導院の中で私達の事を知らない人が居ないのは知っているけれど。それでも言葉がキツくなってしまう。
「彼女、可愛らしかったですよ」
「だから何だ?明日死ぬかもしれない相手と、恋愛ごっこなんてしても虚しいだけだろう」
そんな冷たい返事に、溜息。
亡くなった訳でもないのに記憶に留められていない少女に、本当なら道場すべきなんでしょうけれど。どこか、それで良かったんだと思っている自分が居る。
「まあ、そうかもしれませんね……私達は、この魔導院の中でも浮いた存在ですから。本当の意味で分かり合えるのは、0組の中だけなのかもしれません。だけど、私達はどちらかと言うとそうね…兄弟と呼んだ方が正しいのかしら」
「それがどうした?」
問い返す彼を無言で見つめ返す。じっと見つめていると、相手は私が何を言おうとしているのか気付いたみたいで。深い溜息を吐いた。
「ナインの事なんですけど……」
そう言った時に、僅かながらも肩が震えた。眉間に少しだけ深く刻まれる皺。やっぱり彼はもう話してしまった後なんですね。
「この際、はっきり言わせて頂きますが。そういう感情はやっぱり、止めた方が良いと思うんです」
はっきりと思っていた事を言えた。勿論、この一言でどうにかできる問題ではないでしょう。でも、彼ならば理解してくれる。
そう信じていた。
「感情は自由だ」
返ってきたのは、私の意見を真っ向から否定する言葉。
どうして?
「そうは言っても、やはり一般常識から外れる事は問題だと思うんです。その、なんというか……不純です」
私は間違ってない。
彼の事を正してあげなきゃいけないって、ただそう思ってるだけで。
何で痛いの?
「人が心の中で思う事まで、口出しされる言われはないだろう」
「そうかもしれませんが!」
そうかもしれないけれど、駄目なんです。これだけはどうしても、認められない。
お願い、最後まで聞いて。

私は……私が言いたいのは……。

最後に溜息をついて、背中を向けて歩いて行ってしまった彼。
誰も居なくなったその場所で、一人座り込む。
「私って、最低ですね……」


簡単な問題だと思って、頭でさっと考えた解答ほど最後の最後で間違えてしまう。
ナインに対して思わずカッとなったのは、彼が言う通り、彼とキングが本当に仲が良いから。
キングに忠告をしようと思ったのは、万が一にでも彼が受け入れてしまう恐れがあったから。
告白した女の子を見て傷付いたのは、彼が言う拒絶の言葉が自分にとっても恐怖だったから。
素っ気なくされてイラ立ったのは、彼女と同じ扱いをされているのではないかと疑ったから。
私の意見を否定されて必死で言い返したのは、不純だからとか言い訳していただけで……。
結局のところ、私が彼に少しでも近付きたいと願っていただけに過ぎない。

ああ、なんだ簡単な事。
もっとちゃんと考えなくちゃ駄目ね。ナインの事、馬鹿にできないじゃない。

「私、貴方が好きなんです」




後書き
予想外に続いているK→←9の話なんですが……それに最初に巻き込まれた人、クイーンさんです。
ミリテス皇国から脱出時の、キングとクイーンが忘れられないんです。だからノーマルならK×Qがかなり好きなんですが。
私にしては珍しくノーマルな雰囲気を持ったBLを書いてみました、恋愛してる女の子って難しいですよね。本当に少女漫画にしかならないんですよ……。
次回でこの話は一応終了の予定です、ナイン君がようやく本気で行動に出ます。
2011/11/14


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