「ああ、それなら分かるよ」
よく知ってるよ、でも……
教えたくないなぁ


理解不能の解答例

ムスッとした顔で教室に座ってるのはいつもと同じ、でも今日は特別にイライラしてるみたいで、みんな遠巻きにして関わらないようにしてるっぽい。
「どうしたの?」
声をかけてみたら、ナインはちょっと睨みつけてきた。ここで引いたって、更に踏み込んだって、最初から機嫌が悪いんだから怒られるのは一緒だもんね。
「なんか、難しい顔してるよ。悩み事?」
「悩み……まあ、そんなもんか。なーんか、よく分かんねえことがあってよ」
ちょっとだけ怒りが収まったのか、眉間の皺が減って目つきの悪さが改善された。どうやら、受け入れてくれてるみたい。
「この間の課題?あれ、なんか意味分かんなかったよね?」
「ああ?違えよコラ。んな面倒なもん、考えてるわけないだろ」
あっ、やっぱり?ナインが授業について考えてるなんて珍しいな、って思ったんだ。
じゃあ、何について悩んでんの?と軽い調子で尋ねると、ムスッとした顔のままポツポツと話し始めた。
「なんかよ、最近キングを見てると変な感じになるんだよな。イライラするっていうのか、なんつーか。話してる時とかは普通だし、クラサメみたいにウザいわけでもねえし。わけ分かんねえぞコラ」
なーんか、今のナインって自分に向けてキレてるみたい。まあ、自分のことなのに考えて分からないなら、そうかもね。
「なるほど、それ、僕は分かるよ」
そう言ったら、ビックリしたみたいで。「マジかよ」って目をちょっと丸くして呟いた後で、何か思い出したのか目つきがまた険しくなった。
「そう言ったの、お前で三人目だ」
他に相談した人いたんだ、でも、何でその人は教えてくれなかったんだろう?
そう尋ねたら、物凄く嫌そうな顔をした。
「クイーンには馬鹿だって言われた。あと、キングにはお前には早すぎるって、なんか笑われた」
「ぷっ、そりゃあ相手が悪いよ!」
噴き出したのが気に喰わなかったのか、掴みかかりそうな勢いで睨みつけられちゃったけど、でも彼の行動から考えるとしょうがない。あのカタブツ二人に聞くとか……しかも、キング本人に聞いちゃうとか、本当にそういうトコ真っ直ぐだよね。
でも「お前にはまだ早い」かあ、そんなこと言ってもいいのかな?
「ねえねえ、ナインはキングのことどう思ってんの?詳しく教えてよ」
「ああ?……なんていうか、イイ奴だぜ。俺の話ちゃんと聞いてくれるし、授業でも訓練でもミッションでも、みんなが俺のこと避けてる時でも、いつもなんか気にかけてくれるし。なんか一緒に居て落ち着くっていうか……まあ、好きだぜ」
「好きだよ」とか、単調なわりに威力ある言葉だよね。
どんなに御託並べたってさ、結論でそれ言われちゃったら何も覆しようないじゃん。
「ぁあ?」
意味が分からないって、そのままの顔だね。
「だからナインが悩んでいたのは、ナインはキングのことが好きってこと」
「はあ?そんなことか?」
確かにそうだよね、言葉にしたらなーんか単純だから、そんなことって思っちゃうんだけどさ。
まあ、無意識だからなあ。
っていうか、意識してたらそもそもこんなこと言ったりしないよねよ。ようやくここまで来た、ってかんじだけど。
でも、残念だなあ。
「僕もナインのこと好きだから、その気持ち分かるよ」
「そうなのか?」
不思議そうに首を傾けるナインに、笑いかけて「でも」と続ける。

「僕のこと好きじゃないナインは嫌い」

ニッコリと笑顔を崩さずに言ったからかな、相手はしばらくポカーンとこっちを見て固まってて。それから意味を理解したみたいで、眉間の皺が更に三割増した。
「オイ、どういう意味だ?」
そんな機嫌悪そうな顔しないでよ、嫌いって言われたからってさ。
痛いのは、僕の方なんだから。

「キングが好きな好きなナインは嫌い。だってそれって、僕のこと一番に好きじゃないからさ。それは嫌。
ナインが一番に僕のこと好きなら、それで幸せになれるんだけど。だから、キングじゃなくて僕のことを好きになってほしいんだよね」
意味分かんないって顔してるね、もうそろそろ、この笑顔でいるのも辛いんだけど。
分からないかな?
「……って、ナインはキングに対して思ってる。違う?」
「はあ?」
「だから!キングと仲が良いのは自分だって自信あるかもしれないけど、でも彼が自分以外の人と話してたりしたら恐いんでしょ?その人のこと、自分よりも好きだったらどうしようとか思うんじゃない?
だけどそれって、自分だけじゃどうしようもないことだから、なんかイライラする。違う?」
ここまで噛み砕いて言ってあげたら、ようやく理解できたみたいだった。声で聞かなくっても顔見れば分かるよ。ナインって、嘘つけないんだよね。
しばらく、今言ったことを考えてたのかうつむいて沈黙してる。その間に、そっと彼から視線を逸らした。
はあ、痛いなあ。
調子外れた歌でも唄って、誤魔化したくなるくらい。
「なあ」と呼びかけられたから、「何?」といつもと同じトーンで聞き返す。
「それって、嫉妬じゃねえのか?」
「正解!これで分かったよね?」
「何が?」
駄目だな、本当にこういう感情に疎くって。「まだ早い」って言った、その気持ちもなんか分かる。
あっ!そっか。
ナインは頭じゃなくて体で考えてるんだっけ?前に確かそんなこと言ってたよね。じゃあ、行動で示した方が早いかな。
「つまりね、こういうこと」
ちょいちょいと手招きして、耳を貸すようにジェスチャーすると、訝しげながらも体を寄せてくれた。
駄目だよ、もうちょっと人のこと疑わないと。自分は平気だって思ってそうなタイプだから、余計に心配だなあ。
いつか、悪いヤツに食べられちゃうよ?

ふにっと、思ったより柔らかかった温もり。
とってもビックリしたみたいで、見たことないくらいに目は丸くしてる。
「ぁ……何?」
「アハハ、ナイン顔真っ赤!いいじゃん、ほっぺにチューしたくらい」
「なっ!テメェ!!」
でも本当のことじゃん、っていうか、顔どころか耳まで赤くなってるし。
なんか意外だな、こんな初心な反応見れるとか。
やっぱり好きだな、僕。
「恋しちゃってるわけだよ」
笑って言ってやると、何か言い返そうとして口を開けた相手。でも、喉の奥から声が出てこない。
「どうする?」
笑って言ってやる。
ねえ、どうする?


「その顔、どうしたんだ?」
教室を出たら、今一番、会いたくなっかった相手に声をかけられた。
タイミング悪いなあ。
「いや、どうもフラれちゃったみたい」
笑ってそう言うと、キングはなんか恐いをした。
「殴られたのか?」
「うん、右ストレート一発。凄い効いた」
完全に頭にきたみたいで、一発殴って「分かんねえよバカ!」って叫んで出て行った。
バカって君に言われちゃったら、救いようないよね。
にしても本気で殴ることないじゃん、殴られた頬もそうだけど、その拍子に椅子から落ちたから色んな所が痛いし。
「腫れてるぞ」
「やっぱり?マザーのところでも行って、治してもらってくるよ」
そこで会話を終わらせて出て行こうと思ったんだけど、呼び止められてしまった。
「なあに?」
笑って尋ねる、けど、今はいつもの顔かな?
「何を言ったら、そんなフラれ方するんだ?」
「それを今聞いちゃうの?ただでさえ、傷心なのに」
ああ、ムカつくなあ。
「キングのことは大嫌いってだけどね」
そう言うと、流石に驚いたみたいでいつもより一層に目つきが悪くなった。
ほんと、この人も顔つき悪いよね。
「今だけね……その子が、君のこと好きだとか言い出すから」
「…………」
そんな恐い顔しないでよ、冗談だからさ。
たぶん。
「じゃあ、またね」
笑ってそう言って、背中を向ける。
廊下の扉を閉めてアイツの姿を閉め出して、溜息。

「僕、何か間違えたかな?」
分かんないや。
なーんか、一人になりたい気分だなあ。




後書き
予想外になんか続いてしまったK→←9の話。
実はJ×9とか凄く良いと思うんですけど、誰も何も手をつけてないという事は、メジャーではない感じのようで。
別に純粋なジャックが嫌いなわけじゃないんですが。笑顔とか冗談とかで誤魔化してるようで、笑顔で酷いこと言っちゃうようなジャックを見たかったんです。
しかし、自分でやっても萌えないですね。誰か下さい。
2011/11/12


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