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「どうして」という疑問に対して、彼は笑顔で答えてくれるだろう それが本物なのかは分からないけれど 彼の言葉を、俺はどう受け止めればいい? いつの間にか、俺と彼の関係が“友達”から“恋人”に鞍替えされた。 アイツがそれを望んだと言えばそれで良い、実際に告白してきたのは相手の方なんだから。だけど、それを受け入れた自分こそ、彼よりもそれを望んでいたんじゃないかと思えて仕方ない。 そんな事を考えながら床に座って銃の手入れを続ける俺の背中に、そっともたれかかってくる別の温もり。ナインの背中だ。 「キング、寒い」 「なら上着を着ろ」 そう言うと拗ねたようで、こちらへより体重をかけてきた。手元が狂うと文句を言っても止める気配はない、仕方なく彼に前に来る様に言う。そうすれば喜んでこちらへと回りこんでくる、擦り寄ってくる様は正しく大型犬と言った方が良いだろうか? これだけならば彼が俺に懐いている、甘えていると取らてしまうだろう。彼が俺に依存していると見られても仕方ない、実際に彼は図体の大きさに反比例して、鬱陶しいくらいにくっ付きたがる。流石に人目がある場所ではしないけれど、自分達の部屋であれば自重なんてしない。 「お前の心音、なんか安心するんだよ」 抱きつく理由を尋ねれば、そんな言葉が返ってきた。子供のような理由であれば迷惑だとハッキリ言ってやろうかと思ったけれど、どうも拒否し難くなってそのまま放置されている。どうせ少し身動きが取り難くなるだけだ、とても困っているわけではない。立ち上がるのに縋りついてくるほどしつこい訳でもない、ただ側に寄りたいと思っているのは間違いない。 大人っぽい事を言う癖に、どうしてこんなに甘えたなのか。 「キングはちょっと、ナインを甘やかし過ぎなんじゃない?」 休憩と言われ、ちょっと息を付いた時に話しかけてきたのはケイトだった。今日はケイト、トレイと外で射撃訓練を受けている。 他の者達も自分達の武器の特性を生かした訓練を受けているが、俺達は特別メニューだった。トレイ、ケイトそして俺は彼等の中でも遠距離に特化している、狙撃ができるのは戦場では強みになる。 「そんな事ないだろ」 「あるって!あの子が駄々こねたって何だかんだで聞いてあげるじゃない」 「そうですよ。彼はこうは言っちゃなんですが、我々の中でもトラブルメーカーなわけですし、偶には厳しく接してあげないと付け上がりますよ」 二人の批判に対して溜息を零す。 「アイツは犬か……」 「みたいなもんじゃない、いっつもキングにくっ付いて回ってるし」 「どちらかと言うと、犬よりはクアールみたいですが」 「クアールなんて可愛いもんじゃない、怒った時なんてベヒーモスみたいになって手つけられないし。よく付き合ってられるわよね」 本当はそんな事はない、そう言っても信じてもらえないだろうから黙っておく。 「そんなに気が合うんですか?」 「まあな」 「フーン、共通の話題なんて無さそうなのにね」 実際に話しをするのは常にアイツの方だ、トレイの様に自分の知識を披露するように話し続けるのとは違う。時折、俺に意見を求める事もする、ただ強制はされないので相槌すら打たなくても彼は満足して話し続ける。彼が声を上げる限り、俺がそれを聞いているのを知っているんだろう。 「でもさ、キングは迷惑じゃないの?」 「何が?」 「ナインに絡まれる事。別にナインのこと嫌いだとは言わないわよ、でも四六時中は無理。そうじゃない?本当は迷惑したりしてないの?」 「別にそんな事はない」 アイツの裏側を知らないからこそ、彼等はそういう風に言えるのだ。 自分だけが知っている本性、彼の素顔。 そう思うと、不思議と優越感に包まれる。 「どうかしましたか?」 「何が?」 「いえ、今なんだか嬉しそうな顔しましたから」 「そう?いつも通りの鉄面皮だけど」 流石にそこまで言われる筋合いはない、そうは思ったけれど苦笑するだけに留める。 甘やかしている、そう言われればその通りかもしれない。 だけど、実際のところはどうなんだろう? 俺に懐いているアイツを見て、安心している自分が居るのは間違いない。 普段のアイツは馬鹿なフリをして人に迷惑をかけ続けているが、最近それが落ち着いて来た。その所為だろうか、彼を避けるような傾向は少なくなったような気がする。 ただ単純に、慣れただけかもしれないが。 その所為だろうか、彼が他の奴と話したり関わっているのも増えた。 ただ、近過ぎる距離を心良く思っていない者も多いだろう。それ故に、彼との心の距離は本当は遠い。 恐らく本人はそれを見越しているんじゃないんだろうか、それくらいの能力はあるだろう。 それで、一人の時にはくっ付いてくる。 俺との距離はそれで良いと、そう思っているんだろうか? だとしたら、嬉しい。 だけどふとした時に思う。 俺にそう感じさせている事すらも、計算しているんじゃないのかと。 確証なんて無い、本人に言ったところで本当の事なんて教えてくれないだろう。 お前の表情も、言葉も、接してくるその手さえも。 もしかしたら、全部が全部、自分のための演技なのか? だとしたら、俺の価値は何なんだ? 「あれスッゲェな、どうやったらできんだよ!」 笑顔でそう言う彼は相手の肩に腕を回して、サイスが迷惑そうにしている事なんて気にも止めていない。 どうやら別で行っていた訓練で見た技が気に入ったらしい。しかし、そういう接触を好まないサイスにとっては迷惑この上ない事のようで、俺を見つけた瞬間に睨みつけて来た。 「オイ、キング!コイツを早くなんとかしな!」 いくら何でも叫ぶ必要なんてないだろう、しかしこれで完全に人の視線を集めたのは間違いない。 仕方なく彼を引き剥がすために近付く、彼女の首からナインの腕を引き剥がすと怨念の籠っていそうな目で睨みつけられる。 「気安く触んじゃないよ、鬱陶しい奴だね」 「ぁあ?んだよ別に良いだろうが」 暴れたりしないように抑えつける俺に向け、サイスは続ける。 「アタシは仲良しごっこなんてゴメンなんだよ、アンタ達と違ってね」 「ぁあん?どういう意味だコラ」 「止めろナイン」 「フン」 それだけ言うとサイスは奥へと引き上げて行く、まだ追いかけようとするナインを抑えつけていると、戻ってきたセブンが苦笑いしてこちらを見返した。 「苦労するな」 「そうでもないぞ」 「そうか、報告は済ませてあるし部屋に戻っても大丈夫だぞ」 つまり早々に連れ帰ってくれ、という事だろう。黙って彼を引き連れて部屋に戻る。 ドアを閉めた瞬間にその場で大人しくなる彼に「どうした?」と尋ねる、そうしても返事はない、仕方ないので彼を引き摺るようにしてベッドまで連れて行く。座った俺が腕を伸ばせば、大人しく彼はそこに収まる。 「仲良しごっこ、って……そう思ってる?」 「気にするな、人がどう思うかなんて」 「そうだな」 何が彼をこんなに追い詰めているのか、その理由が分からない。ただ縋りつくその手を取って、頭を撫でて、彼が話し始めるのを待っている。 「キング、俺のこと信じてるか?」 「何だ急に」 「答えろ」 顔を上げた彼の有無を言わさぬ目に、思わず委縮する。 どうしてそんな事を聞くんだと質問したいのだが、彼が求める言葉以外を伝えるのが怖い。 「信じてる」 そう言っても、ただ相手は無言で睨みつける。 取ってつけたような台詞では、満足してくれないか?しかし、そうは言っても本当の事だし、これ以上どう説明しろと言うのか。そもそも、話しをするのが苦手だというのに。 腕の中に居る相手をより強く抱き締める、安心すると言った心音が聞こえるように、胸の中心へ。 「信じてなきゃ、こんな事、許さないだろ」 「うん」 そう答えた声が柔らかくなった、どうやら許してくれているようだ。 「俺はお前が好きだ」 「知ってる」 「信じてるな?」 「ああ」 頭を撫でてやると、嬉しそうに擦り寄って来る。 可愛らしい、嬉しいと思うけど、こうしていても不安だ。 彼の語る言葉が、本当ではないのかと疑っているのは本当だから。 だけど。 「別に仲良しごっこのつもりはないからな」 「分かってる」 分かってるよ、そう言い聞かせているのは自分に対してもだろう。でも、何かを必死に伝えようとしてくるコイツの事は信じられる。 俺は特別なんだろ? 「俺の事、好きか?」 顔を上げて、再び有無を言わさぬ目でこちらを見る。 「ああ」 俺の心なんて、本当は分かってるんだろうと言いたくなるのを堪えて、彼の質問に短く答える。 好きだよ、知ってるんだろ。 「じゃあキスしろ」 驚いたものの、拒否する理由もない。 少し緊張しながらも、触れるだけのキスをする。震えていたのは多分、俺の方だろう。 「俺とキスするの嫌か?」 離れて、少し不貞腐れたような顔でそう言う相手に溜息。 「そうじゃないが……こういう接触は苦手だ、知ってるだろ?」 「慣れたかと思ったんだけどな、いっつもくっ付いてるから」 「お前がくっ付いてくるんだろうが」 そう言いつつも、離す気はない。嫌がらないのを知った上で、こうしているんだろう。 俺が自分が好きだと知った上での横暴、と取れなくもない。 「なあキング、普段の俺とお前の前だけの俺、どっちの方が好きだ?」 突然の質問に沈黙、何を言いたいんだコイツは? 「どっちが……というか、お前が好きなんだが」 「演技の方が、扱いやすくて好きかと思ってさ」 「そういう訳じゃない」 「じゃあ、やっぱり素のままの俺の方が良いんだよな?」 その笑顔は穏やかだが、その分、奥に何が隠されているんだろう……という不安感を煽る。 本物の笑顔で、いいんだよな? 「俺はお前の好きな俺でいるから、特別でいるからな?仲良しごっこでもなんでもないぞ」 「ああ、分かってる」 それで縛れるのも、分かってるんだろ? 既に俺が自分の物だというのも、分かってるんだろ? 後書き 計算高いナイン君に対し、疑心暗鬼に陥ってるキングさんがとても楽しく仕方ない感じの作者です。 この辺りまでがマザーの元で暮らしていたくらいの話で、そろそろ魔導院に戻そうかと思っております。 2012/3/29 BACK |