男同士の付き合いなんて、こういうものなのか 馬鹿なくらい正直な奴「あー、クソ……降ってきやがった」任務の途中、鬱陶しそうに空を見上げていた仲間は、黒い雲に向けて悪態を吐いた。 ポツリポツリと落ちてくる雨、だが本降りではないのだろう、ずぶ濡れになる心配はまだ無い。 その時、別働隊として動いていた俺達の元に、作戦を一時中断するという通信が入った。 現地の天候はここよりも酷いらしい。 「どうするよ、このままここで待つのか?」 「……指示は別にないな」 「ならもう少し先まで行こうぜ、ここじゃ雨宿りにもならねえ」 確かに、だだっ広い草原では雨をしのげる様な場所もない。 このままボサッとしているのも、後の作戦において為にはならないだろう。 幸いな事に敵の姿は無いので、攻撃される心配はない、身を低くする必要もなくフィールドを走る。 普通に降りだした雨は、稲光を伴って前も見えないくらいのものに変化していった。 「畜生!なんなんだよこの天気は!」 相変わらず天気に文句を言う仲間は、俺よりも一歩前を走っている。 雨音と二人分の水分を含んだ足音が響く中、ふと別の音を捉えた。 雷の唸る音ではない、似てはいるけれど、もっと人為的で機械的な音だ。 神経を研ぎ澄ませば気付く、それは遠くから走って来る。 向こうはこちらを気付いているんだろうか、前を行く仲間に声をかける。 「何だよ、敵か?」 「おそらく、こちらに気付いていないかもしれないが……」 そうは言うものの、向こうはどうやら俺達の方向へ向けて進んできているらしい。 だんだんと近くなってくるエンジン音に、隣に居たコイツは口角を上げて笑った。 「へえ……好都合なんじゃねえの?」 そう言うと、自分の右手に魔法の力を貯め、相手のライトが見える位置になった頃にそれを放つ。 行く筋もの雷撃が車体へ向けて放たれる、本体に当たる事はなかったらしく急停車した車は斜めに止まった。 しっかり自分の武器を構えて、敵軍へと突っ込んでいく仲間に溜息を零すも。文句は後で言ってやろうと考え直し、俺も銃を構える。 「敵襲」と騒ぐ兵士を槍で貫き、反対側から下りて来た兵士を引き抜いた槍で突き倒す。 アイツの背後に迫った相手は俺が撃ち倒し、荷台から下りて来た兵士にも一発、弾丸を額に向けて撃つ。 「楽勝だな」 自分が倒した兵士を見下ろしてそう言うアイツは、武器を仕舞ってこちらへと歩いてくる。 その時、倒れた相手の手元が確かに光った。 しっかりと狙いを定めて撃ち抜く。 「ちょっ、危ね」 驚いた様にその軌道をそれるアイツの、元居た場所ギリギリを通りぬけ、狙い通りに弾丸は飛ぶ。 まだ死んでいなかった相手に当たった銃弾、その方面から空へ向けて銃声が聞こえた。 「気を抜くな」 「…………悪かったな」 バツが悪そうにそう言うと、ナインは車の中へと入り込んだ。 俺も続けて荷台に飛び乗ると、乗せられていた荷物の袋をアイツが投げて来たので、それを避けて近寄る。 「あー……補給用の車じゃないのか、あんまりいい物は無さそうだな。ま、雨宿りくらいには使えるだろ」 そう言うと、敵兵の鞄の中に入っていた回復薬の瓶を俺に差し出した。 魔導院で支給されるポーション等とは少し成分が違うらしいが、体力回復には相応の力を見せてくれる。 戦場では使えるものならば、何でも使用するのでこの薬もそこそこ馴染みのものになっている。 「すまない」 「ん」 自分の分と二つ取り出し、鞄へと仕舞うと床にドカッと座る。 「あー畜生、ずぶ濡れになっちまったじゃねえか」 マントを外し上着を脱ぐ相手に俺もならって、制服の上着を脱ぎインナーのタンクトップの端を絞る。しっかりと水を含んだ服からは、大量の水が落ちた。 「お前、もう少し相手の様子を見てから飛び込んだらどうだ」 「はぁ!?何でんな面倒な事しなきゃならないんだよ」 「敵が単体で動いているとは限らないだろ、近くに他の敵部隊が居たらどうする」 「そんなもん、全部片付ければいいだろうが!」 簡単に言うものの、俺達二人だけで果たしてそれが可能なのかもう少し慎重に考えるべきだ。 好戦的な一面は、ある場合では戦況を突破するのに必要な事ではあるのだが、それで判断を誤れば命取りだ。 「俺は馬鹿じゃねえよ」 ムスッとした顔でそう言うと、ナインはそっぽを向いた。 もしかしたら、クイーンに馬鹿だと言われてるのを思い出したのかもしれない、そうだとしたら悪かった。 「俺は、お前を馬鹿だとは思ってない」 「嘘つけ」 「ナイン……」 何を言おうか迷っていると、稲光と共に轟音が響く、それと同時に地面を打つ雨が更に酷くなった。 無線からは、各地で動く朱雀軍への指示とそれに対応するやり取りが続いている。 どうやら水門が壊れたらしく、この雨で増水した川が氾濫したらしい。 自軍も敵軍も被害は甚大なものらしく、もしかしたら、このまま作戦が中止になるかもしれない。 「雨、止まないな」 「そうだな」 水分を含んで張り付いた髪を面倒そうに払い退けるナイン、黙っていればそこそこ綺麗な顔をしている。 「何見てるんだよ?」 苛立った口調でそう言う相手に、下手な言葉を返すと喧嘩腰に言い返してくるのは分かってる。 「いや、寒くないか?」 「これくらい平気だ」 むしろ脱ぎたいと言い出すナインに、男同士だから気にするなと言ってやると。タンクトップを脱ぎ捨てズボンのベルトに手をかけた。 慌ててその手を止めると、また苛立ちを含んだ目が俺を見返した。 「下は止めとけ、もし敵襲があった時に直ぐに動けない」 「この雨で敵襲もないだろ」 「…………敵襲でなくとも、誰かに見られた時に言い訳をし難い」 「はあ?」 「考えろ、男同士で片方がほぼ裸だとして……何を想像する」 そこまで言えば流石に何を意味するのか伝わったらしく、ビクッと肩を震わせると「分かったよ!」と言って下を脱ぐのは止めた。 見れば、頬が赤く染まっている。 コイツのこういう表情は珍しい、恥ずかしいのか照れているのか、押し黙って下を向いている。 「…………キング」 「何だ?」 「野郎同士の恋人とか、マジで居るのか?」 「恋人までいくかは知らないが、そういう趣味の奴は朱雀軍にも確かに居る」 「マジかよ……」 「俺も、男に好きだと言われた事がある」 絶句しているところを見ると、コイツにはそういう体験は無いらしい。 意外と言えば意外だな、多少短絡的な所はあるが、実力もあって顔も良い。 女性に好かれないのは、その性格が由来しているのかもしれないが……男からも駄目なのだろうか? 「それ、どうしたんだ?」 「断った」 「……そうだよな、流石に、男に興味はないよな」 引きつった笑顔、もっと盛大に噴き出すかと思ったんだが。 「お前も興味ないのか?」 「男にか?そんな趣味悪いわけねえだろうが!」 赤くなってそう叫ぶ。 「別に、俺は構わないんだがな」 「はぁ?」 「男同士で恋愛してようと、本人がいいならいいと、俺は思っている」 「えっ…あっ、でも!断ったんだろ」 「俺は相手に興味が無かったからな」 そう答えると、意味が分からないという風に首を傾けた。 「両思いだったら構わないだろ」 「そういう問題か?」 「こういうのは、本人達の問題しかない」 そう言うと、ナインは納得いかないのかムスッとした顔で溜息を吐いた。 雨が小ぶりになって来た頃、無線で連絡が入った。 結局、今日の作戦は中止。 迎えの飛空艇を出すのでそのポイントまで移動する様に、との事だった。 洪水の被害がかなり酷いらしく、川から離れた場所に発着所は設けられていた。 幸いな事にここからそんなに遠くはない。 司令部に了解の返事を返し、立ち上がる。 「服は乾いたか?」 「まだ濡れてる、まあ移動するだけなら問題ねえだろ」 文句を言いつつも上着の袖を通し、マントを付ける。 地面に下りると、大きな水溜りが出来ていた。 隣りをすり抜ける様にしてナインが水溜りに思いっきり飛ぶ。濡れている事を嫌がってたクセに、こういう所は子供っぽい。 「おい、泥が跳ねるから止めろ」 「いいじゃねえか、どうせ全部、洗濯する事になるんだからさ」 確かにそうだが、だから汚れていいという理由にはならないだろう。 「さっさと行くぞ」 「ああ、待てよ」 後ろから追いかけてくる相手に、ちょっと立ち止まって待ってやると相手はニッと口角を上げて笑った。 「おっ、あそこだよな?」 草原に止められている朱雀軍の飛空艇に向けて、走り出すナイン。 その後を追いかけようとしたら、盛大にアイツはこけた。 「イッテェ……ああ、なんだよ畜生!」 先日も戦闘があったから、何か兵器の残骸でも転がっていたんだろう。 悪態を吐く仲間に手を貸してやると、ムッとした顔でそれに従ってくれた。 払いのけられるのかと思ったが、どういう訳か今日は素直だ。 「俺、お前が男に好かれる理由……分かったぜ」 「突然なんだ?」 「いや、キングは格好良いんだよ、それだけ」 どうしてそういう事をさらっと口に出来るのか。 そして、褒められていると取って礼を言えばいいのか、冗談として流せばいいのか分からない。 「…………そうか」 結局、言える事はそれくらいで。相手はそれで何が楽しいのか、ニヤニヤと笑っている。 よく分からない奴だ、本当に。 まあ、馬鹿がつくくらい正直なところは羨ましい時もあるがな……。 後書き FF零式体験版をプレイしてみて、キング×ナインはいけるかもしれない!とか思ったんですけれど。 何か、気が付いたら意味が分からないものができ上がってました。最悪、×でもなくなっているという……。 軍事部隊で若い子達ばっかりだと、こういう会話とかしてたりしないかな……みたいな雰囲気だけ伝わればいいです。 しかし、キングとナインは仲良しだと私はとても嬉しいです。 無口優等生に懐いてる不良とか、とても美味しいです。 2011/8/23 BACK |