何気ない日々の5のお題


上機嫌…とまではいかないのかもしれないが、自分の気持ちが浮かれているのは本当の事だろう。
大した事はないのだが、俺にとっては嬉しい事だ。


「明日、私の家に来ないか?」
急な申し出だったけれど、明日は休みだし、何も予定は無かった。
何より、そう言ってくれたのが嬉しかった。
別に、何か特別な事があるわけじゃなかったんだけど。

「何時に行けばいい?」
「君の好きな時間でいい、私も明日は一日家に居る」
そう言われてしまい、少しだけ考えを巡らせる。

「昼食、作りに行こうか?」
俺の申し出に、ウォーリアは嬉しそうに頷いた。

「じゃあ、また明日…待ってる」
「うん、また明日」
そう言って笑顔で別れて、なおも機嫌よく笑っていられるのは…一体どうしてか。


一年の大半は“何でもない日”だ。
童話の帽子屋とネズミ達のように、ずっとはしゃいでいられるのは無理だろうけど。
ただ少し、ほんの少しの言葉で、平凡は特別になるのだ。
その約束が、どんなに平凡な事でも……。


何でも無い日、万歳!


1、昨日の約束


急な申し出だったのに、嬉しそうに頷いてくれた彼の笑顔を思い返し、思わず口元が緩む。
一緒に居たいと思うのは、そんなに悪い事ではないだろう…そう自分に言い聞かせて。
あくまでも言い訳でしかないのだが、だが喜んでくれたのならそれでいい。
そう思い、自分の部屋の片付けを急ピッチで進める。

元来、几帳面と称される自分の性格上、部屋が汚いと言われた事もないし綺麗にはしているつもりだ。
しかし、事前に来客が分かっていながら、掃除を怠るという事もできない。
部屋の掃除を終わらせて、戸締りをしようかと思う頃にはもう夜中だ。
窓を閉めようとすれば、静かに輝く月が私を見下ろしている。
特別な事でもないというのに浮ついている自分に“落ち着け”と、そう冷たく言っているような、そんな白さ。

そんな下らない事を考えて、自嘲気味に笑う。
彼の事になれば、落ち着いてなんていられないのだ。
小さく溜息をした後、窓を閉める。


彼も同じ気持ちであればいい。
そんな事を考える私を、あの月はどう思っていただろうか?


2、昨夜の月


幸せな夢を見た。


綺麗な月が、笑っている夢だ。
月が笑う……なんていう詩的な文章はロマンチストのようだが…それ以外の言葉が思い浮かばない。
嘲笑っているのではない、優しい光を感じた。
そして、「貴方は幸せ者ですね」と彼女は言った。

そう彼女だ、綺麗な女性の声。

「貴方は愛されてるんですね」とも、彼女は言った。
誰に?と尋ねれは、ただ彼女は笑う。
答えなんて、とっくに分かっているだろう……とでも言うように。


天体というのは、空高くから俺達を見下ろしているものだから…何もかも、お見通しなんだろう。
建物の影なんて関係ないんだ、俺達が隠れても同じ事。

だから、俺達は悪い事をすると罪悪感に苦しめられるんだろう。
誰にも見つからない罪なんて、きっとないのだ。


そう、俺は夢の中で思った。


ただ、彼等は優しいから、俺達へ向けて何も語らない…。
なのに、どうして彼女は俺に話しかけたんだろう?

「貴方が羨ましいからです、あんな素敵な人に好かれるなんて…」
俺の心の中の疑問に、彼女はそう答えた。

そして彼女は笑うのだ。
全てを見通していながらも、優しく笑いかけてくれる。

どう答えればいいのかと、俺が考えていると彼女は笑って「いいんですよ」と言った。
「貴方はそれでいいんです…貴方の大切な人も、きっとそれでいいんです」
何がそれでいいんだろう?
そう尋ねようとした時、俺はその夢から覚めてしまった。
瞼を開けると同時に、夢の記憶は掻き消えて……。
ただ、幸せな夢を見たんだ…という事しか、俺には残っていなかった。


3、今朝の夢


「お邪魔します」
勝手知ったる…と、言ってもいいくらいだというのに、彼はそれでも私の家に上がる時は挨拶をする。
私はそんな彼を出迎える。
自然と零れてくる笑顔。
彼の機嫌が良く見えるのは、気の所為なんかじゃなければいい。

約束通り昼食を作ってくれた彼と、他愛無い話をしながら食事する。
ふと思い出した、見たいと言っていた映画のDVDを借りに駅前のレンタルビデオショップまで行く。
午後は、二人で映画鑑賞会。

ただの日常の延長線。
平凡も特別も、日常の延長である事に変わりは無い。
ただ、感じ方の違いなのだろう。
出来事ではなく、その一日に自分がどれだけ幸せであったのかの違い。


平凡の中に、幸せになれる要素をつぎ込めば…この世に平凡な日なんてなくなるのだ。


「もう、このまま泊まっていかないか?」
夕方を過ぎて、彼が作ってくれた夕飯を食べながらそう話す。
「迷惑じゃないのか?突然」
私の提案に対し、そう尋ねる彼に首を横に振る。
「いや、君の予定さえ大丈夫なら…だが。無理か?」
「うーん、本当にいいのか?」
私からの誘いなんだから、私は勿論OKだ。
むしろ、了承してくれる方が嬉しい。
それだけで変わるのだ、私の日常の延長は。


君さえ居れば、いつだって幸せだ。


4、今夜の寝床


窓から差し込む夜風が、少し冷たくて…ゆっくりと体を起こすと窓のサッシに手をかける。
その私の隣りで寝ていた相手が身じろぐのを感じ、起こしてしまったか…と少し動きが止まる。
「ウォーリア……?」
トロンとした甘さのある声は、恐らくは無意識なんだろう。 彼に「起こしてすまない」と謝れば、ゆるゆると首が振られる。
「大丈夫、さっきから軽く意識はあったから」
「そうか」
「うん」
そう返答し、ゆっくりと私の側へと近づいてくる。
見上げた視線の先には、昨夜よりも少し薄くなった月。

「綺麗だな」
「ああ」
彼の言葉に同意を示しつつも、夜風の冷たさに体が冷えないよう体を寄せる。
月光に浮かび上がる彼の、綺麗な銀の髪を撫でながら…ゆっくりと流れて行く静かな時間。

「明日は晴れるかな?」
ふいに零れた疑問は、もしかしたら、ただの独り言だったのかもしれない。
「晴れたら、どこかへ出かけようか?」
「ああ、そうだな」
そう言って微笑む彼に、私も笑みを返す。


ゆっくりと窓を閉めると、明日を夢見る彼の唇をそっと塞いだ。


5、明日の天気





お題提供元
蝶の籠




後書き
三月の拍手御礼小説、WOL×フリオです、学パロラブラブの二人組です。
三月と言えば何だろうかと思ってたんですけど…卒業とか面白くないし、結局季節感なくいつもの日常をという事に。
やっぱり、この二人は夫婦だと思うんです。
先月・先々月とギャグチックなものを置いておいたので、今月こそ真面目に!と思ったのです。


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