好きだ好きだと喚く5題




ぎゅう、っと俺を抱きしめる逞しい腕。

「……あの、ウォーリア?」
「何だ?」
いや…何だ?じゃないよ。

「離してくれないかな?ウォーリア」
俺を抱きしめる腕からの解放を申し出てみると、彼はゆるゆると首を振った。
「無理だ」
えっ!?無理なの?駄目じゃなくて無理なの!?

「あの……どうして?」
そう尋ねる俺に、ウォーリアは普段と変わらないブレない表情で俺を見返す。

一体…どういう状況なんだろう、これは?
俺は、どうしてこの人の腕の中に居るんだろう?
ただ少し、でっぱりに引っ掛かりコケそうになっただけなのに…。
何故か、気付けばこの人の腕の中。
……助けてくれたのは感謝するけど、でも…これはちょっとやり過ぎだろう?

「ウォーリア、そろそろ離してくれないかな?」
「何故だ?」
「何故って…だって、何て言うか…その、恥ずかしい…だろ?」
そう進言する俺に、彼は納得したように頷く。

「こういう行為をするのに、君は私だと恥ずかしいと?」
「いや…あの、貴方だから恥ずかしいとかそういうんじゃ……」
まあ確かに、彼のような人がこんな事をするとは思えないから、今とても緊張してるんだけど。

「君の気持ちは、よく分かった」
「はぁ……」
これでようやく解放してもらえるのか…と思ったら、彼は酷く真面目な顔で俺を見つめ返した。

「君は、やはり彼の方がいいのか?」
「彼?」
ウォーリアの質問に、俺は首を傾げる。

彼、とは一体誰なんだ?
当事者である俺すらも分からない。

「フリオニール、聞いてくれ」
「は、はい……」
彼のかしこまった言葉に、俺も姿勢を正す。
そして、彼はそれはそれは真面目な表情で、ブレないいつもの彼のまま…。
俺を、酷くブレさせる言葉を、それはもう全力で言った。


1、君のことが好きだ!


「フリオ好きッス!!」
ガバッと俺の背中に、それはもう突進と言った方がいいくらいの力で抱き付く仲間。
スキンシップ過多の弟のような彼は、どうも俺の事が気に入っているらしい。

「ティーダ…お前、いい加減そこから下りろよ」
「嫌ッス!フリオの側に居たいんッス!!」
「何で!?」
「だって、フリオの事好きッスもん!!」

ああ…どうしてこの若者は、そんな恥ずかしい台詞を平気で口にできるんだろうか?

「好きなものを好きだって言って、何が悪いんッスか?」
いやいや、お前には羞恥心というものはないのか?

「フリオが他の人に抱きつかれるのは、オレ嫌なんッス」
「はぁ?俺がお前以外の誰に抱きつかれ……」
そう言いかけ、俺は言葉に詰まる。
この仲間は……もしかして、見ていたんだろうか?
光の戦士が俺に告げた、衝撃の告白を…。

「フリオ……真っ赤ッスよ」
俺の頬が赤いのを指摘するティーダの声が、酷くつまらなそうに聞こえる。
「うっ、うるさいな!!別にいいだろ!……いいから、離れろよ」
「嫌だ……オレは、フリオの側に居たい」
酷く真面目な声でそう言うティーダに、俺は戸惑う。

「ティーダ……」
彼がこんなに真面目に話をするなんて、珍しくて…俺も真面目な顔をする。
そこで……。

「フリオの事、好きッスよ!!」
再び、普段通りのティーダに戻って、俺は脱力する。
「はいはい……」
「あっ!それ、信じてないだろ!!オレ、本気だからな!!本気でフリオの事好きだからな!!」
「分かった、分かったって!!」

どうして、お前はそんな事を平気で叫べるんだ!!
そう思う俺に彼は笑いかけ、それが当たり前の事であるように俺に向かって言った。


2、だって好きだ!


「まったく、どうして信じてくれないんッスか?」
ようやく離れてくれたティーダは、頬を膨らませて俺にそう言う。
「何を?」
なんていうか、俺には思い当たる節がなくて尋ね返すしかない。

「オレがフリオの事、好きだって事!!」
そう叫ぶティーダに、俺は更に力が抜ける。
「お前の好意は、よく理解してるよ」
「いーや、全然分かってない!!」

そう力説する彼に、俺は溜息。
「あのなぁ…それだけ毎日好きだ好きだってお前、飽きないか……」
「当たり前ッス!フリオがオレの気持ちにちゃんと気付いてくれるまで、ずっと言うッスよ」
それ、俺の迷惑は考慮されないのか?
考慮されないんだろうな。

「まったく、お前が俺にこだわる理由って…一体何なんだよ?」
そう尋ねる俺に、彼は盛大な溜息を吐く。
「ほら……全然分かってない」
「はぁ?」
意思疎通のできていない俺に、業を煮やしたティーダは再び俺に抱き付く。

「うわぁ!!」
勢い任せの彼のスキンシップを受け止めきれず、背後へと倒れる。
マウントポジションを勝ち取ったティーダは、真面目な表情で俺を見下ろす。
「フリオ、よく聞くッスよ!!」
3、君だけが好きだ!


「何をしてるんだ?」
背後に酷く不機嫌なオーラを纏ったウォーリアが、俺とティーダを見下ろしてそう言う。
「何って、見て分からないッスか?愛を確かめあってるんッス!」
「何言ってるんだティーダ!!」
ティーダの台詞に、ウォーリアの背後の不機嫌なオーラが更に深まる。

何をそんなに怒っているのか、思い当たる節のある俺としては…これ以上、彼を刺激してほしくはない。
そして、今になって気付く、ウォーリアが言った“彼”が一体誰だったのか。

「彼から離れなさい、ティーダ」
「嫌ッス」
ウォーリアに向かって思いっきり啖呵を切るなんて、コイツの肝は一体どんなに太いのか……。
そんな彼に対し、彼はティーダの首根っこを掴むと、俺から無理矢理引き剥がした。

「何するんッスか!」
「それは私の台詞だ」
いや、俺の台詞だよ…二人共。

なんだろうこの疲れた感じ、ようやく状況が分かって来た俺は、どうしようもない脱力感に襲われる。

つまりは…三つ巴ですか?

18年間、浮いた話の無かった俺が、どうして突然こんな状況に陥るんだ?
しかも男二人って……絶対、この歪んだ世界が生んだ幻想に違いない。

「あの……二人共、ちょっと正気に戻ってくれよ」
睨み合いを続ける彼等二人の間に入り、そう言う。
「あの……二人共、その…俺の事、恋愛で…好きなのか?」
「「勿論!!」」
ああ、ここで否定してくれればという希望は、完全に打ち砕かれた。

「二人共…今の状況は確かに男女比がおかしいけど、でもさ…。
いくら相手がいないからって、俺相手に恋愛はおかし…」
「何を言ってるんだフリオニール!!」
「おかしな事言わないで欲しいッス!!」
俺の発言に対し、二人はとても剣幕になってそう言う。
……何なんだろう?この状況。

「あの、だから…二人共、ちょっと目を覚まして」
「目ならば覚めている」
「もうバッチリッス!!」
いや何も分かってないだろう?全然覚めてないだろう?

そんな俺に対し、彼等二人は声を揃えて言った。


4、君だから好きだ!


「あの……二人の気持ちは、よく分かったよ」
そう告げる俺に、二人共喰ってかかる。
「いや、分かってない」
「そうッス!俺があれだけ毎日愛の告白しても気付いてくれなかったじゃないッスか!!」
いやいやいやいや、普通男からの告白なんて信じられないだろ?
余りにも自分の置かれた状況が把握できず、盛大な溜息を吐く俺の手を、両側から伸びた別の手が握る。

「それで、我等の想いを知った今」
「フリオはどっちを選ぶんッスか?」
えっと…………それは、選ぶ事が前提なのか?
断るという選択肢は、そこには含まれてないのか?

「私は君の事を愛している!!」
「オレの方がフリオの事好きッスよ!!」
どうしてそんな事で張り合おうとするんだ?どうしてこの人達は俺に対してそんなに本気なんだ?
頼むから、もう本当に頼むから……俺の事なんか諦めてくれよ。

「それは無理だ!」
「ありえないッス!」
どうしてそこまで声を揃えて、俺の願いを全否定できるんだ?
そんな俺の心からの質問に、二人は再びステレオで返答した。

「当たり前だろ?」
「だって……」


5、どうしようもなく大好きだ!!


お題提供元
蝶の籠





後書き
2月の拍手御礼です、WOL→フリオ←ティーダ。
季節一切関係無い、という……いや、バレンタインにかけようかと思ったんですが、恋愛ものにしたらこの結果になりました。
フリオ関係で考えられる三つ巴の中で、結構好きな組み合わせですね。
お父さんと息子がお母さんを取り合ってる図、のようにも見える……WOLをジェクトに変えたら本物の親子ものになるという。
誰でしたっけ、二月はもうちょっと真面目なものを置いておきます…って言ったのは(お前だよ)。


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