[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
今年もあの季節がやって来たな…と気付いたのは、自分の希望で付けたカレンダーのお陰だ。 季節はどんどん秋の装いを深めてきている。 「ハロウィン?」 「そう、ハロウィン」 魔物の住み着くこの城で、しかも魔物相手に何を言っているのか。 まあ、馬鹿らしい事かもしれないが…いいじゃないか。 偶には季節感というものを感じてみようじゃないか。 「ああ…それで、かぼちゃか」 「そういう事」 俺の手元にあるかぼちゃを覗きこんで、彼は納得したようにそう言った。 別にお菓子を欲しがるような年ではないが、こういうイベント事は好きだ。 クリスマスは流石に祝い難いが、しかし今回のイベントは魔物である彼等をメインに行われる。 ならば、祝ったって心苦しくない。 と、いう事で…自分は、かぼちゃのランタン作りをしていたのだ。 「ところで、くり抜いているが、煮付けにはしないのか?」 「……はい?」 いやいや、これ飾り用のかぼちゃだから、食べれないんだけど…。 とりあえず、教えておいてあげるべきかな? 「マティウス、それは冬至だ」 1、小豆が要るのは十二月 真夜中にそっと起き出して、机の上に置いてあった林檎を手に取る。 一口、真っ赤な林檎に噛り付く。 途端、口の中に広がる独特の酸味と甘み。 ハロウィンの日の真夜中に、林檎を食べて鏡を見る。 すると、その鏡に将来のパートナーが映る…という話だ。 ちょっとした、都市伝説のようなものだ。 そんな話を急に思いだした。 一度も試した事なんてなかったのだが…。 本当に、映るのだろうか? もし、魔術のようなもので、それが映し出されるのだとすれば。 少し気になる、かもしれない。 口に含んだ林檎を飲み込み、用意していた手鏡を取り出す。 暗闇で見えなくては困るから、窓際へと向かう。 月の光が明るいから、これなら大丈夫、見えるはずだ。 目を閉じて、その鏡を自分の前に持ってくる。 ゆくりと閉じた目を開いていく、自分の手にした鏡を覗く。 「えっ!!」 ビックリして、ついその手鏡を取り落とす。 床に落ちた鏡が、音を立てて割れる。 嘘だ…ありえない。 「…何しているんだ?フリオニール」 そういいながら、背後から急に現れたその人は俺の顔を覗き込む。 「!!マティウス…いや、別に…その……」 「?…どうした?」 「なっ!何でもない!!何でもないんだ!!」 そう言って取り繕うも、彼は納得してないようだ。 見間違いなら、いいと思う。 でも、どうすれば見間違いになんてできるだろう? 月の光が見せた、悪戯だという事にしたい。 鏡に映らないはずのアナタの顔が、一瞬、俺に笑いかけているのを見た、なんて…。 2、月と林檎と鏡とアナタ 森の中を足取り軽く歩いていく。 初めて来た時にはこの道も荒れていたんだけれど、庭の手入れを行うだけで大分変わった。 「どこへ行くんだ?」 「クラウド」 声を掛けてきた相手は、木の枝に座っていた。 「ちょっと散歩かな?クラウドも一緒に行く?」 「…ああ」 そう返事すると、彼は木の枝から下りた。 「今日はハロウィンなんだけど、クラウドはハロウィン知ってる?」 「人間の行事には、あまり詳しくない」 「やっぱりそうなんだ…」 そう言って歩いて行く、その足音を聞いたのか、前方で何かが身を隠した。 「誰だ?」 「あっ、大丈夫だクラウド。スコール、どうしたんだよ?」 そう身を隠した何かには、見覚えがあった。 友人の狼男である。 「……頼む、来ないでくれ」 茂みの中からそんな声が返って来る。 「どうしたんだよ?怪我でもしたのか?」 「いや、違う…違うから、大丈夫」 しかし彼の声からは動揺しか聞き取れない。 「ちょっと待ってろ」 そう言うと、クラウドは茂みへと音もなく近付き、声の主を難なく補かくした。 そろそろと近づき、彼の姿を見る。 「……笑うなら、笑え」 彼は頭に付いた尖った耳と、ふさふさの尻尾を見て溜息交じりにそう言った。 呆れた顔をして、クラウドはその様子を見ている。 スコール曰く、満月が近付くと、時々狼の尻尾と尾が先に出てきてしまうらしい。 変装用の付け耳とは違う、本物の耳。 「……スコール」 「何だ?」 「触らせてくれ」 3、変装要らずの狼さん 「trick or treat!!」 子供っぽい笑顔と共に、そんな言葉をかけられる。 「……何してるんですか?ジェクトさん」 「んだ?今日はハロウィンなんだろ?さあ、お菓子か悪戯か、どっちなんだ?」 そう言って俺の目の前に手を出すジェクトさん。 どう考えても、貴方良い大人ですよね? そんな彼に溜息を吐きつつも、俺は自分の服のポケットに手を突っ込む。 「どうぞ」 赤い包み紙に包まれた飴を手渡す。 「ちっ…なんだ、菓子持ってたのか」 残念そうにそう呟くも、手渡された飴を彼は受け取った。 「悪戯…したかったんですか?」 「ん?美人さんに、悪戯してみたいと思っちゃ悪いか?」 いやいや、開き直られてしまっても。 てか、俺…美人じゃないし。 「まあ、アンタに手出したら、ここの城主が怖いからなぁ」 そう言いながら、彼は包み紙を開いて飴を口に放りこんだ。 「まあいい…そうだ、これから城に戻るなら、アイツに気をつけろよ」 そんな謎な言葉を残し、ジェクトさんは立ち去った。 「気を付けろって…何を?」 「trick or treat」 ジェクトさんとは違い、静かな声でそう言うマティウス。 昨日はハロウィンの意味を理解してなかった癖に、一体どこから情報を仕入れてきたんだ? まあいい、仕方ないので自分の服のポケットに手を突っ込む。 あっ……さっき、ジェクトさんに上げたので最後だったっけ?あの飴。 「持ってない、みたいだな…菓子」 ニヤリと面白がるように、彼は笑う。 ああ…絶対に、絶対にコレを狙ってたんだな。 公然に悪戯…という名目で、セクハラするつもりなんだ。 「頼む、マティウス…悪戯は止め……」 「だが菓子を持ってないんだろう?なら、そうだな…代わりになるものを貰おうか」 「代わりになる、物…?」 そう尋ね返す俺の耳元に、マティウスは唇を寄せる。 「 」 「!!」 その一言に、俺は一気に顔が赤くなる。 「嫌か?嫌なら…」 「いいよ!いいよやるから!!」 だから悪戯は止めて下さい。 俺は、小さく溜息を吐き、マティウスを見つめる。 余裕の微笑みで、俺を見返すマティウス。 仕方なく、俺は彼の両肩に手を乗せてそっと背伸び。 甘く、優しいキスは、お菓子の代わりには充分なようで…。 4、お菓子がなくてももてなせます 「……それで、今日はハロウィンに合わせてみたわけなのか?」 「いいだろう?」 そうは言っても、この長いダイニングテーブルを使用するのは俺と、この吸血鬼だけなんだけど。 オレンジと黒を貴重にした、テーブルコーディネート。 向かい合って座る俺とマティウス。 だが、食器の音は俺の方からしかしない。 彼の食事は、俺が終わってからなのだ。 「ご馳走様でした」 食後の挨拶をしていると、マティウスがクスリと笑った。 分かってるよ、子供っぽいって言いたいんだろう? 「微笑ましいな」 「そうかよ…」 ふいっと横を向く俺に、彼はまた微笑みかける。 そして、ゆっくりと立ち上がり俺の隣りへとやって来た。 「私も…そろそろご馳走にありつきたいんだが……」 ああ、もう!!そんな事、耳元で囁くな!! 真っ赤になった俺を見て、彼はまたクスリと笑う。 そして、俺の隣りに腰かける。 俺はもう諦めて、手にしていたティーカップを置き、そして、彼の膝の上に座る。 恥ずかしくて頬を染めても、彼はそれを見て「可愛い」と言うだけ…。 どんどん外されるシャツのボタン。 露わになる、俺の肌。 それを見て、ニヤリと笑うマティウス。 ああ…それは、捕食者の目だ。 一度捕らえたら、離すつもりの無い目だ。 その慣れない目に俺は、少し肩を震わせる。 それを見て、マティウスはフッと微笑み、俺に優しくキスをした。 俺を宥めるように、頭を撫でて。 振れるだけの優しいキスを。 そっと離れると、彼は優しく微笑む。 「では、頂きます」 「……召し上がれ」 5、血も肉も骨も召し上がれ お題提供元 蝶の籠 後書き ハロウィンに合わせてみた、季節もの拍手御礼。 吸血鬼パロをやってるので、その設定で書いてみました。 正直、日本人のハロウィンの祝い方には疑問を抱かざるをえないのですが、「楽しめればいいや精神」は大事だと思ってます。 それに乗っかってるので、自分だって人の事は何も言えないんですけれども。 ハロウィンは好きですよ、雰囲気がいいですよね、それに色々とネタにできますし…。 さてと、十一月の拍手御礼はどうしようかな……。 BACK |