知ってるか? アンタが好むその花には、色んな意味があるって事…… 何事も、綺麗なだけじゃ終われない その幸福の裏側には、いつだって負の二面性が付いて回っているんだ 花弁の裏側に恋人達の幸福…というのは、当人にとってすれば、この世に存在する何よりも輝く代物なのだろうが…周囲の人間にとってすれば傍迷惑以外の何物でもない。 それは勿論、人目も憚らない程にイチャつき続けるバカップルの事を指し、節度を弁えて自分達の幸せを噛みしめている恋人達というのは、どちらかというと微笑ましいだろう。 赤の他人の事ならね。 視線の先に居る、二人組を睨みつけて俺は溜息。 一人は自分想い人、もう一人は…俺の嫌いな、想い人の恋人。 「荒れてるなぁシャドウ」 「煩い、黙ってろ」 隣りにやって来た旅人のからかい口調が気に入らず、苛立ちをぶつける様にそう返す。 そんな俺に、相手は笑って、俺の態度なんて気にも留めずに「やっぱり気になる訳だ…」なんて俺の視線の先の二人を追う。 ここで、別に気にならないなんて嘘を言った所で、どうせ無駄なんだろう。 この旅人は、俺の気持ちを知っている上で俺に話かけてきているに違いない、なら、嘘なんて言うだけ無駄な事だ。 「不思議なんだけどさ、お前とフリオニールって元は一緒なんだろ?」 「ああ」 実験で生みだされたのは、俺の方。 俺の元になったアイツとは、身体能力においては寸分違わず同じ。 だが……。 「それなのにさ、何でお前はフリオニールが好きなワケ? 普通はさ、元が一緒だったら取り合いになるのはウォーリアの方だと思うんだけど?」 「アイツの名前は言うな」 不機嫌な声でそう言うと、「ゴメンって」と、全然反省の見えない返答が返って来た。 しかし、その質問は中々面白いと思うし、それにそんなに的を外していない考えでもある。 射ては…いないんだけどさ。 「俺とアイツは全くの別物なんだよ、ただ俺がアイツを元に作られただけで」 「性格は確かにそうだよな、フリオニールは怒っててもそんな仏頂面はしないし」 今の俺の表情は、内側から沸き起こってくる苛立ちにより、機嫌が悪いからなのだが…生憎、俺が何かにつけて苛立ちを隠し切れていない為に、この表情がデフォルトだと思われている節がある。 まあ、他人の俺に対する評価に等は無頓着なので、そんな事は気にも留めていない…ただし、フリオニール以外で、だが。 「性格だけじゃなく、好みも違うんだ。 俺はアイツみたいな…正義感バリバリの真面目で堅苦しい奴は嫌いだ……それに、アイツの恋人って所も気に入らない」 「へぇ…そんな、お前の好みは、純情で初心な家庭的な子なワケだ」 二ヤ二ヤと笑う相手を、俺は無言で睨みつける。 「怒るなって!本当の話だろ?」 「フン……」 そう言う旅人に俺は一瞥をくれてやると、再び視線を元の二人に戻す。 アイツの隣りで笑う、俺の最愛の人は……普段よりもずっとずっと、幸せそうだ。 俺の前では、決して見せない笑顔。 俺に向けられるのは、仲間に向けられるモノと同じか、または自分の分身という気兼ねない相手に対する安堵からの笑顔。 そのどちらとも、あの笑顔は違う。 幸福を絵に描いた様な、そんな輝く表情だ。 「人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまうんだぞ」 こちら近付いて来た盗賊が、そう言って俺の肩に手を置く。 「アンタだってさ、相手が好きなら幸せを願ってあげたらどうなんだよ? 皇帝みたいな奴ならオレ達だって止めに入るだろうけどさ……相手だって別に悪くないし、実際にフリオニールは幸せなワケなんだしさ」 「そうだろうな」 そう見える、確かに幸せそうには見えるさ。 ただ、幸せに見える事それがイコールして、本当の幸せかどうかなんて……誰に分かるっていうんだ? 「じゃあさ、お前ならフリオニールを本当に幸せにしてやれるのかよ?」 そう尋ねるバッツに、俺は一言「さあな」と言って、返答を誤魔化す。 一つ言えるのは、アイツ等が幸せでも、それで俺の中ではどんどん苛立ちが増えていく、って事だ。 それが自分本位の嫌な考え方だ、なんて言われたって否定はできないが…自分本位以外で、どうやって人は生きて行くんだろうか? どうせなら、作ってくれた時に…こんな感情なんて外してくれれば良かったのに、それなら苦しまないで済んだ…。 そう思うのは、作られた俺の身勝手な感情か?どうでもいいけど。 「まぁ、略奪愛なんて言うしさ…盗みの手立てなら、お前の得意分野だろ?」 「そうだけどさ、人の心っていうのは一番盗み難いものなワケ…分かる?」 そんな言葉の応酬を繰り返す二人組、段々話の中心から離れて行く俺は、再び遠くの二人を見た。 そっと、フリオニールの髪へと手を伸ばす相手の手。 その手の温もりに安堵感を覚えているのか、彼は安心した様に微笑む。 そんなフリオニールと、相手の顔が一瞬重なった。 瞬時に赤く染まる、フリオニールの頬。 離れた相手に向けて、何か一言二言呟くものの、嫌な素振りは決して見せない…そんな彼に苛立ちを覚えた。 「シャドウ、どうしたんだ?」 「何が?」 「気難しい顔してるぞ」 夜、一緒になった天幕の中でフリオニールは俺を見つめてそう尋ねる。 思ったよりも間近にある表情、温もりのある琥珀の瞳には疑問が宿っている。 「何も無い」 「本当に?」 「ああ……」 そう返答するしかない、というよりそれ以外の言葉なんてかける気は無いので、さっさと話を逸らす。 「それよりお前、良かったのか?俺と一緒で」 「何が?」 質問される側になったフリオニールは、不思議そうに俺を見返す。 どこか幼い表情は可愛らしいが、俺の質問が通じていない事に、俺の中の苛立ちが早速湧いてくる。 「あの眩しい人と一緒が良かったんじゃないのか?って、俺は聞いてんだよ?」 「眩しい人って…ウォーリアの事か?……何で?」 何でと尋ねる時に、お前、一瞬表情が強張ったぞ。 どうせ、図星だったんだろ? 「本当はあの人と一緒が良かったワケだ」 「違っ…別にそんなんじゃ」 否定するものの、視線が泳いでるぞ…バレてるっての。 お前は、嘘吐くの下手なんだよな……誰が見たって見破れる。 「恋人の側に居たいのは当たり前の感情だろ?行きたいなら行けよ」 「恋人って…別に、そういうんじゃ……」 少し頬を染めて、小さな声でモゴモゴと俺の言葉を否定する相手に、俺は更に苛立ちを感じた。 「へぇ……じゃあ、お前は好きでも無い相手とキスして平気なワケなんだ?」 「はっ!?えっ!!……何、言ってるんだよ!?」 真っ赤になって、そう言う相手を俺は睨みつける。 「昼間っから外でアツーいキスしてる奴が、何言ってんの?」 俺の言葉に、ワナワナと震えるフリオニール。 見る見る内に、頬が上気して真っ赤に染まる。 「お前…見てたのか!?」 「気付かなかった?まあ俺だって気付きたくなかったけどさ」 その言葉に、相手は羞恥の為か下を向く。 自分の中の色々な感情と、今きっと対決しているんだろう。 「なぁ…アイツと恋人じゃないなら、俺とキスするのも平気なんだよな?」 「はぁ?何言って…」 そう言う相手の唇を、俺のモノで塞ぐ。 昼間にアイツにされていた様に、髪にそっと手を差し入れて、アイツとは違って離れない様に乱暴に引き寄せて。 開きかけていた柔らかい唇のその奥、熱い舌に自分のモノを絡める。 なんとか俺から逃れようともがく相手を、俺は腕の中に閉じ込める。 身体能力は互角だ、だが…それに付加する精神的な面はコイツと俺では全く違う。 力の使い方が変わるのだ。 ショックでグラグラの相手なんて、抑え込む事は雑作も無い。 そのまま、俺は相手を天幕の床に押し倒す。 「イッ…タ、何するんだよ!!」 怒りなのか、生理的なものなのか、目に涙を薄く溜めて俺を睨み返す相手を、俺は真顔で見つめる。 「俺、アンタの事が前から好きなんだけどさ…知ってた?」 「え……」 見開かれた琥珀の瞳の奥に、俺が映っていた。 それを見て、俺は少し微笑む。 「あの眩しい人しか、アンタは見てないもんな…俺の事なんて見てくれない」 でも、今その瞳に映っているのは俺だけだ。 俺だけが独占してる。 「シャドウ…」 俺を不安そうに見上げる相手の首筋に、俺は噛みつく。 ビクンと痛みに跳ねる体、その両肩を押さえつけて、今度はゆっくりと舐め上げる。 「俺は結局、お前の“影”でしかないから、だから…光の事なんて分からない」 だけど、そう…影の主に見てもらえない事が、どれ程に辛いか分かる? 俺はお前しか見れない、それなのに…お前は俺を見むきもしない。 時々、思い出したかの様に俺の方を向いて、居てくれて助かるなんて…そんな偽善めいた事を言うのだ。 受け入れるなら、全部飲み込んでくれよ…いらないなら、最初からそう言えばいい。 お前は良い奴過ぎるんだ…何でもかんでも、受け入れられると思ってる。 俺は、そういうお前の善意で生かされてて。 そういうお前の善意に、殺されそうだ。 「俺さ…いい加減に、アンタの事を手に入れたいんだよな」 押し倒した相手の耳元で、そう呟くと、怖々と俺の方を見返すフリオニール。 俺が言いたい言葉の意味を、理解できているようだ。 「お前さ…嫌われてよ、アイツに」 「えっ……」 「あの眩しい奴に嫌われろよ、そうすれば…」 “そうすれば、俺のモノになってくれるだろう?” この思いつきは、中々傑作だと思う。 というより、どうして今まで考えなかったんだろう? 嫉妬するくらいなら、奪い取ればいいんだ。 俺の大好きな、大好きな…この人を。 俺の力で。 「なぁ…冗談、止めろよ!」 「冗談?何が?」 俺は本気だよ。 むしろ、冗談だ…なんて言われた事に怒りを感じて、俺から逃げようと暴れる相手を押さえつけて、無理矢理その唇を塞ぐ。 相手の呼吸を奪うキス。 全部、全部…俺のモノに。 醜い感情だとか、そういう事はどうでもいいんだ。 満たされてしまえば、もう全ていいじゃないか。 「ウォー、リア…」 俺の下で、小さく呟かれる名前。 自分では無い名前に対し、俺の中で沸き起こって来るのは…相手への嫉妬か?この人への独占欲か? 首筋に噛みつけば、ジワリと血が流れ落ちてくる。 所有の証を刻みこめ。 俺のモノだ、って証を、この体に。 これを見つけられたら…どういう事を言われるだろう? そう思うと、俺の笑顔が止まらない。 「嫌われろよ、光になんて」 影で、全て包み込んであげるから。 from 忍冬葵 後書き 青花子龍様への、誕生日祝い小説。 えっと…WOLフリ前提のアナフリ→フリオで、アナフリの嫉妬話という事でしたが…どうでしょうか?ご期待に添えたでしょうか? アナフリがちょっとへそ曲がりだし腹黒いし、結構性格悪い子です。 ノマフリに怒りをぶつける感じで、との事でしたが嫉妬の対象はウォーリアなので、何か雰囲気が微妙ですね…すみません、力不足でした。 このような物でよければ、良かったらお納め下さいませ!お誕生日おめでとうございます!! 2010/5/27 BACK |