光によって、色を変える。 きっと、一つが二色に変わるんじゃなく、二色が一つだったんだ。 そして、俺達は更に分かれてしまった 分かれて良かったと、俺は思うよ アレキサンドライト兄貴は青いシャツを片手に、息を吐いた。 「溜息吐くと、幸せが逃げるんだぞ」 「溜息だって吐くたくなるよ、こう雨続きだと、洗濯物も乾かないし」 そんな主婦染みた事を言う兄貴は、本気でこれから専業主婦を目指すといいと思う。 勿論、嫁ぎ先は俺で。 「馬鹿じゃないのか?」 「はいはい、俺は馬鹿ですよぉ!兄貴の事しか考えられない馬鹿ですよぉ!!」 「そんな事を開き直るな」 そう言うと再び溜息を吐く、今度はきっと気疲れからの溜息だ。 俺の兄貴への愛情が兄貴の気疲れって……。 あっ…何か自分で言っておいて何だけど、虚しくなったぞ。 「お前なぁ、その盛大な独り言を言う癖、いい加減に直したらどうなんだ?」 独り言ではありません、これは兄貴への意思表示ですぅ。 「今日のお前のキャラクターは、残念ながら、俺の苛立ちを刺激してるぞ」 酷く冷めた表情・冷めた声で言う兄貴。 烈火の怒りではなく、氷点下の怒り。 「ゴメンなさい、すみません、怒らないで下さい!!」 兄貴に向けて謝れば、「それで済む話じゃないだろう…」と、もっともな答えが返って来た。 そんな休日は、何時も通りだ。 俺はバイトに行って帰って来て、兄貴は俺よりも少しだけ早く帰宅して、家事をしていて…。 全く同じ姿をした人間が、全く違う場所で全く違う仕事をする。 俺は今日も同期であるバイト仲間に、兄貴について惚気話をして呆れられたし(それでも止めない)。 兄貴の方は、あの仲の良いらしい先輩と一緒に作業していたそうだ(浮気は厳禁だと言い聞かせてある)。 自分が二人居る気分というのは、不思議な事だが、嫌ではない。 生まれた時から一緒だから、もうそれが当たり前だと思っているからだろう。 周囲からすれば、それでどんな違和感を感じるのか、そういう事に興味が引かれるらしいが…実際は、対して違和感もない。 俺と兄貴は、元から違う色なのだ。 兄貴が青で、俺が赤。 気が付けば決まっていた自分の色、それは彼とは反対の色。 もし、俺達が一人だったなら、この中間が好きだったのかもしれない。 だけど……そうだな、そんな事が無くて良かったと本当に思う。 俺には兄貴がいつだって居る、だけど、一人だったならば、それは叶わない。 自分の内側に向けて、何かを発するのは、酷く寂しくないだろうか? 一つが二つに分かれたからこそ、俺達のバランスが保てている。 中間なんて、無くて良いんだ。 俺達は、二人でバランスを保っているんだから。 それで、日々は充実しているんだから。 「あーあ、明日は晴れてくれないかな?そうしないと、着る服が無くなる」 「そうなったら、生まれたままの姿で居れば?」 「黙ってろ、変態!!」 いや兄貴、変態は認めたくないけど…それ以前に一つ。 そのデカイ裁ち鋏を、俺に向けるのは止めて下さい、本気で怖いです。 「まったく……あんまりふざけた事言ってると、お前の髪切るぞ」 鋏を針と糸に持ち変えた兄貴が、そんな事を言う。 「止めて!!それは止めて!!兄貴とお揃いじゃなくなるでしょ!!」 自分の髪を持って、盛大に首を振る俺に、兄貴は噴き出した。 「そこまでして切ろうとは思わないよ、だけど…俺は切りたいかな、そろそろ」 そんな兄貴に、俺は再び凍りつく。 今、この人…切るって、言ったよね?そうだよね? 「え……切るって、その髪?」 「ああ、もう長すぎるだろ?肩ぐらいでバッサリ切ってもいいかなって思って…」 「それは駄目!絶対駄目!!断固拒否!!」 反対の意を強く唱える俺に、兄貴は苦笑い。 「何だよ、別にいいだろ?」 気分転換にもさ、なんて言うけれど…分かっていない、俺にとっては兄貴の髪型は死活問題であるのだ。 「ダーメ!!兄貴は長い方が似合う詩!てか、その方が美人なの!!」 「そんな事、言われてもな」 本当に、兄貴は何を言い出すんだか。 俺が兄貴のその綺麗な長髪に、どれ程の性的魅力を感じると思っているのだ。 「絶対切る」 真面目な表情で、兄貴はそう宣言した。 あっ……この表情は、本気だ。 「やーめーてー!!そんな綺麗な髪なのに勿体ない!!」 「男の髪に綺麗とか、何もないだろ?」 何を言う、その辺に居る女なんかよりも、断然兄貴の方が美人だぞ。 しかもよく気が利く上に、家事も上手い、これこそ大和撫子というものだろ。 「そんな事、同じ顔の奴に言われてもなぁ……」 そうだ。 どんなに相手の容姿を褒めたって、俺は信じてもらえない。 俺と兄貴は同じだから。 だけど、お互いお互いが違うものだと感じる。 同じなのに…違う色を持っている。 目に見える形ではなく、もっと…別の部分の色が違うのだ。 俺と兄貴は、違うんだ。 同じじゃない。 違う色を双方とも持ち合わせて生きてる。 そして、俺はその相手を美しいと感じるのだ。 そんな俺に溜息を吐くと、兄貴はシャツのボタンを慣れた手つきで直して行く。 少し俯くと、兄貴の耳元で髪が揺れて、隠れていた耳が露わになる。 その耳を彩る赤い石。 俺が好きな色。 俺の色。 そこでふと思った。 本来は、あの色は兄貴の色なんじゃないのか…って。 兄貴の耳元を彩る、赤い石は静かに輝く。 赤い色が兄貴の色なら、俺が兄貴を綺麗に思う理由だって分かる。 そう、互いが互いを求めているのならば…。 俺が青い色を持っていて、兄貴がそれを求めてくれているのなら。 相手の色を、美しいと思うから…それを好み、それが入れ替わってしまった。 表面上は、違う色を宿している。 だけど、光に当てればどうなるのか分からない。 双方は一つ。 相手を求めあって、一つの形になる。 もしそうなら、いいなぁ……。 兄貴と俺、切り離せない関係。 何か背徳的で、禁忌に触れているようで…ぞくぞくする。 なぁんて……下らない考えだけどさ。 「俺から見れば、やっぱり兄貴は綺麗なんだよ」 「お前なぁ…そんな事言ったって、何も出ないんだぞ」 「分かってるよ」 そう言う兄貴の頬が染まっているのに、気分を良くする。 赤は俺の好きな色だ。 ボタンを付け終え、糸を噛み切る兄貴が針を置くのを待って、俺は起き上がると兄貴の後ろへと回る。 その後ろから、兄貴の髪を持ち上げると…その項にキスを贈る。 「コラ、くすぐったいだろ?」 「んー?いいじゃん兄貴、そろそろ構ってよ」 結っていた兄貴の髪を解き、その髪を背中に流す。 裁縫道具を片付ける兄貴は、そんな俺から逃れようと身を捩るも、それを許す俺ではない。 「やっぱり、兄貴は美人だよ」 そう言う俺が、ちゃんとした拘束力を持って兄貴に接している。 兄貴は手にしていたシャツを畳んで横に置くと、俺の方を向き直る。 その手が、俺の後ろ髪に伸び、同じ様に結っていた髪を解く。 「やっぱり、お前と俺は同じ顔だよな」 向かい合って抱き合う俺を見つめ、「鏡の様だ」と呟く相手。 俺も、同じ事を思っていた。 「でも、やっぱり俺と兄貴は違うでしょ?」 そうでなければ、惹かれ合わなかった。 同じなのか、違うのか…。 外側と内側の問題。 全て溶け合わせて、一つになってしまえば、もうどうでもいい。 「ねぇ兄貴、このまま兄貴の愛情確認しても…いいよね?」 「疑問じゃなくて、確認なんだな…」 既に前提がおかしい、と俺の文句を言う兄貴。 そんな相手に、俺は笑いかける。 「兄貴と一つになりたいんです」 そう言って、俺は兄貴の唇を塞ぐ。 零になった距離。 さあ、溶けて一つになりそうなくらい、熱く交わし合おうか。 お互いの色を、求めあって。 一つになって色が変わるまで。 from 忍冬葵 後書き 薬中王子様へ捧げます、誕生日祝い小説。 誕生日が過ぎてから、誕生日だった事を知りました…大変申し訳ないのです、本当に申し訳ないのです。 相互リンクまでして下さっているというのに、東京行った時にお世話になったのに申し訳ありません。 という事で、一日仕上げで急遽小説書きました、色々と荒い可能性が否定できません。 薬中王子様といえば、アナザー×ノーマルフリオなので、とにかくこの二人を絡めてみました。 宜しければお持ち帰り下さい、苦情は受け付けます。 最後に、誕生日おめでとうございます!! 2010/6/7 BACK |