恋人達に、幸あれ!!
St. Valentine's Day【双子編】
俺は今、とてつもなく幸せな時間を過ごしています。
はぁ……やっぱり、兄貴はいつ見ても可愛いね!!
「お前、本当に眼科行った方がいいぞ…」
そんな俺の呟きを聞いた兄貴は、呆れ顔で俺にそう言った。
「可愛いもの可愛いって言って何が悪いんだよ?それと、俺の資力は2.0です」
「……それ、絶対に視力検査の時に何かミスがあったな」
何のミスもなかったよ!何勝手に俺の視力を下げようとしてるんだよ!!
大体、兄貴だって視力めちゃくちゃいいんだろ?「兄弟揃って視力が2.0…って、そんな所まで一緒かよ!」……なんて事を、例のお気楽な同級生に言われただろ?
全く、兄貴ったら照れちゃってさ…そういう所もまあ、可愛いんだけどね。
「だから、俺は別に可愛くなんかないって……」
溜息混じりにそう言うも、彼の頬が少し赤くなっているのを見て、俺は微笑む。
やっぱり、兄貴は可愛いよ。
「兄貴はさ……バレンタインデーにはチョコくれるよね?」
俺の発言に対し、洗濯物を干していた兄貴の手が止まった。
「バレンタインデー……って、お前なぁ…あれは、基本的に女子の為のイベントだろ?」
呆れたようにそう言う兄貴、これは…言い出さなければ間違いなく、用意する気なかったな。
「違うよ!恋人達の為のイベントだよ!!それで、兄貴は俺の恋人でしょ?チョコくらい用意してくれていいじゃん!」
そこらの女子よりも家事レベルの高い兄貴は、お菓子作りに関してもその腕前を発揮してくれる。
俺達の誕生日には、何度かケーキ焼いてくれてるし、それ以外でも俺が頼めば大抵のものは作ってくれる。
兄貴のこの才能は、そこらの主婦にも負けていないに違いない。
本人曰く、お菓子作りは難しいらしいんだけど…そんな風にはどうしても見えない。
大体、失敗したところなんて見た事ないし……。
そんなかんじだから、俺の期待も自然と高まって来るわけで…。
バレンタインデーには、腕にノリをかけたチョコをくれるんじゃないかな…なんて少し期待していたのだが、やはり甘かったか……。
「兄貴!恋人である俺に対して愛を頂戴!!」
「はぁ?お前なぁ…愛情、愛情って毎度毎度よく言えるな、恥ずかしい」
耳まで真っ赤に染まった兄貴は、そう言いながら洗濯物を干していく。
そんなに俺に対しての愛情が薄いっていうのは、なんていうか…ちょっと寂しいぞ。
大体、こちらからお願いしないとくれないっていうのも、結構問題なんだけど……。
「なあ兄貴、お願いだって……」
「チョコ食べたいなら、自分で買って来たらいいだろ?」
「そうじゃなくって!!」
俺は別に、チョコレートが食べたくて兄貴にお願いしてるわけじゃない、今年のバレンタインが日曜だから、学校なんかで貰える量が減る事を嘆いているわけでもない。
全国の男子には悪いが、他の女から貰うチョコなんて、俺自身はあまり興味がない。
俺は、兄貴が作ったチョコを食べたくてお願いしているのだ。
……だというのに、兄貴はそんな俺に対してチョコレートを作ってくれるような、そんな気配なんて一切見せない。
どうしよう、なんか虚しくなってきた。
ベランダにほど近い場所に座って、兄貴を眺めていた俺は小さく溜息を吐く。
分かってたけどね、兄貴は恥ずかしがり屋だし…こういう恋人のイベントに関して、あんまりオープンに祝ってくれるわけないって。
いいですよ、いいですよ…当日、チョコ貰えない代わりに、夜に兄貴を美味しく頂いてやりますよ。
なんて、心の中で不純な事を考えていた俺を、振り返った兄貴が見て溜息。
「はぁ……それで、何が食べたいんだ?」
「えっ……」
兄貴の台詞に、ふと俺の意識がそれる。
それは、もしかして…もしかしなくともですか?
「作ってくれるの?」
「ああ……俺の手作りなんかで、いいならな」
そんなのいいに決まってるだろ!!
「ヤッタ!!兄貴、マジ愛してる!!」
そう言って抱き付く俺を見て、兄貴は照れているのか真っ赤に頬を染めて怒る。
そんな兄貴も可愛いな…なんて思いつつ、その日が幸せな一日になると分かって、俺の頬は緩んだ。
甘い匂いに包まれた兄貴が、キッチンでボールの中身をかき混ぜるのを見つめながら、俺の笑顔は止まらない。
「……何だよお前、ニヤニヤ笑って気持ち悪い」
兄貴を見つめる俺を見て、兄貴は君が悪そうにそう言う。
「お菓子作る恋人って、可愛く見えるもんだろ?」
「何だよそれ」
もう、そんなに照れなくていいじゃんか!本当の事だし!!
キッチンの入り口に立ち、兄貴の作業を見つめる俺に対し、迷惑そうに俺を一瞥すると小さく溜息。
頬を赤く染めてチョコを作り続ける兄貴が、めちゃくちゃ可愛い。
絞り出したチョコを、手で丸くまとめる兄貴は、それはもう慣れたような手つきで作業を進めていく。
トリュフチョコがいい!と言った俺に対し、溜息と一緒に馬鹿か…と言う兄貴は、それでも本を引っ張り出して来てレシピ片手にチョコ作りをしてくれている。
「ねえ兄貴、ちょっと味見していい?」
キッチンに入り、兄貴に笑顔を向けて近付く。
「えっ、もうちょっと待てないのか?」
「さっきから良い匂いがするから、お腹空いてきちゃってさ…いいでしょ?」
「まったく…これ、まだまだ全然出来てな…」
そう言いかけた兄貴の手を掴み、そのまま口へと運ぶ。
「あっ!コラ、お前…」
自分の手でチョコレートを丸めていた為に、掌には作りかけのチョコレートが付いたままの兄貴の手に、ぺロリと舌を這わせる。
ああ……いいね、甘くて美味しい。
「うん、美味しい」
感想を言って兄貴の手を放すと、真っ赤になった兄貴が俺を睨みつける。
「おっ!!お前!!何して……」
「だってもったいないじゃんか、美味しく頂いてもらえるなら、いいんじゃない?」
「全然よくない!!」
照れ隠しに俺を怒鳴りつけ、キッチンの流しで手を洗う兄貴。
何だよ、そこまで嫌がる事ないだろ?
「まだ、仕上げ残ってるんだからさ…もうお前、出て行けよ……」
出来たら呼んでやるから、と言うと俺の背を押してキッチンから追い出す。
まったく…まあいいや、そういう照れ屋で可愛い所も好きだからさ。
しかし……ちょっと、イタズラし過ぎたかな?
キッチンから普段は聞こえない、ガラガラという物をひっくり返す音がしたのを聞いて、ちょっとだけ反省した。
「ほら、できたぞ」
白い皿に綺麗に飾り付けられたチョコを片手に、兄貴がリビングへとやって来る。
今までに、バレンタインで手作りチョコを貰った事もあるが…贔屓無しに今までの中で一番美味しそうなんだけど。
白い皿と一緒に俺の目の前に置かれたマグカップには、熱い湯気の立つミルクティー。
どこまで気が利くんだろう、俺の嫁は。
「ありがとう、兄貴」
「はぁ……一応言っておくけど、初めて作ったから味に自信はないぞ」
俺の前の椅子に座って、溜息と一緒に自分のマグカップの中身を飲んでそう言う。
目の前の皿に盛られたチョコを一つ手に取り、口の中へと放り込む。
甘い幸せの味を噛みしめると、口の中一杯に広がる味。
「凄い美味しいよ!兄貴!!」
「本当だろうな?」
俺の言葉に対し、兄貴には疑いの眼差しを向ける。
「本当だって!」
嘘でも美味しいと言うつもりだったけど、まあ、そんな心配は最初からしてないんだけどさ、でも……予想以上に美味しいんだけど。
やっぱり、兄貴は料理上手だね。
「ああ…幸せ」
「まったく、安い幸せだな…主な材料、百円の板チョコなんだぞ」
おいおい、そういう細かい点なんて言っちゃ駄目。
っていうか、百円のチョコをここまで昇華できますか……その兄貴の腕前にビックリですよ。
「兄貴の愛情が籠ってるから美味しいよ!」
「愛情って…お前は本当に、そればっかりだな」
呆れたように笑う兄貴に、俺は満面の笑みで頷き返す。
「信じてないなら、食べてみれば」
はい、と一粒取って兄貴へ向けて差し出すと、それを見返して兄貴は一度瞬き。
それに手を伸ばそうとした兄貴の手に、俺は逃れる。
訝しげに俺を見返す兄貴へ、俺は笑顔。
「アーンしてあげるから、口開けてよ」
「はぁ?」
「いいから、ほら」
強引に推し進める俺に対し、兄貴は諦めたように溜息を吐き、恥ずかしそうに頬を染めて口を開ける。
その口の中へ、甘いチョコを入れて上げると、ゆっくりと粗食する兄貴の表情を観察する。
「ん…悪くない、かな?」
「ね?美味しいでしょ?」
「……うん」
少し照れたように頷く兄貴に、俺は大満足。
やっぱり可愛いな、兄貴。
「ホワイトデーには、3倍返ししてあげるからね」
「3倍って……そこまでしなくていいよ」
「3倍にしても、300円だぞ」
「ップ……確かにそうだな」
そう言って笑う兄貴に対し、俺は幸せだな…なんて思う。
さてと兄貴、そうやって嬉しそうに笑ってるけど、分かってるよね?
今晩は、俺と甘い一時を過ごすんだよ……なんてね。
二月といえば、バレンタインだろう!!…という事で、一人で勝手にバレンタイン祭開催です。
その第一弾【双子編】アナザー×ノーマルフリオ、現代パロ。お兄ちゃんの料理風景を、じーと眺めていられるのも弟の特権です。
トリュフチョコは作るの面倒だ、とか言いますね……作った事無いんで、よく知りませんけれども。
この後、弟君は美味しくお兄ちゃんも頂いたんでしょう…。
最初から目的はそれだっただろう…と言われても、否定はしません。
2010/2/1