俺達は、この世でただ一つ同一の存在だ
でも……俺はお前とは違うし…お前も俺とは違う
片方だけじゃ、足りないんだろう
結局、俺もお前も…一緒じゃないと駄目なんだ
俺を愛してる弟へ…
すっと目を開けると、いつもとは違う天井があって…どうしてだろうかと、ふと疑問に思う。
「あっ、起きたの兄貴?」
そんな軽やかな声と一緒に、俺の視界に相手の影が落ちる。
「…………あっ」
裸のままの弟の姿を見て、自分がどこに居て、何が起こったのか記憶が蘇ってきた。
途端、自分の顔に熱が集まって来るのを感じ、相手の視線から逃れる為に布団に顔を埋める。
「…何?まだ羞恥心残ってるんだ、まったく……兄貴は本当に可愛いよね」
煩いと相手に向かって怒鳴ろうとするも、自分の喉の痛みにそれを断念する。
「兄貴、水いる?」
「ん……欲しい」
喉の痛みを我慢してそう言って、相手に手を伸ばす。
「うわ……兄貴、エロい声」
「はぁ?」
気ダルイ体に鞭を打って無理矢理上半身を起こすと、シャドウがニヤッとしたイヤらしい笑顔で俺を見返していた。
よく見ると相手は上半身こそ裸だか、下は愛用のスウェットをしっかり履いている。
俺が寝ている間も、どうやらコイツは起きていたんだろう事は分かった。
「ね、ねぇ兄貴。もう一回“欲しい”って言ってよ」
俺に向かって、そうお願いし出す弟を見て、俺は小さく溜息。
「何、馬鹿な事言ってるんだよ…いいから、水」
そう言って、相手の手にしてあるミネラルウォーターのペットボトルを奪おうと手を伸ばすも、ペットボトルを持った手を俺の手の届かない場所へ。
「水……」
「うん、もう一回“欲しい”って言ってくれたらすぐにあげるから」
「いいから、もぅ…早く……」
俺は喉痛いんだよ。
「!」
すると、相手は驚いたように目を見張る。
うん?俺、何か驚くような事言ったか?
「ああ…もう、兄貴には敵わないよ」
「何が?」
「……兄貴は、無意識にエロいよねって話」
「はぁ?」
そう言うと、「はい」と自分の手にしていたペットボトルを差し出す。
「ありがと」
礼を言って、水を飲む俺の姿をベッドの端に腰かけて眺めるシャドウが「なあ、兄貴…」と、俺を呼び掛ける。
「どうした?」
水で喉を潤した事によって、少し声を出すのが楽になった俺が相手に用件を尋ねる。
「いや……あの、さ」
「どうしたんだよ?」
歯切れ悪く、そう言う相手に普段の威勢の良さやフザケた雰囲気もない。
「ん……兄貴、さ…さっきの言葉、本気?」
「さっきの?」
何だろうか?と思案を巡らす俺に、相手は小さく溜息を吐いた。
「俺の事、好きだって……言ったでしょ?アレ、本気?」
真剣な表情でそう尋ねる相手。
自然、俺も真面目な表情になる。
「本気、だけど……」
「そう」
「うん」
恥ずかしい事、思い出させないでくれよ。
俺がコイツに「好きだ」と伝えた瞬間の事を思い出して、俺は自分の顔に血が昇って来るのを感じた。
怖がらなくっても大丈夫だよ。
別に俺は、頭に血が昇って…あんな事言ったんじゃないんだ。
理屈とか、理由とか…そういうの聞かれたら、困るけどさ……。
そんなのは、お前も一緒だろ?
「ああ!!もう俺駄目だ!!」
しゅんと静かになったと思ったら、急にそんな事を叫んで抱きつかれる。
「はぁ!うわっ!!ちょっと、お前」
ぎゅうっと俺に抱きつき、胸の顔を埋める相手に俺はどうしたらいいのか分からず、慌てる。
「どうしたんだよ?急に…」
「うん……俺さ、今なら幸せで死ねると思う」
嬉しそうにそう語る弟に、俺は呆れてものも言えない。
「大袈裟だな」
そんな事で死ねたら、この国の人口はもっと減っているな。
「全然、大袈裟じゃない。兄貴は、俺がいつから兄貴の事想ってるか知らないから、そんな事言えるんだ」
抱きしめた腕をそっと離し、顔を上げてそう言う相手のあまりにも真剣な表情に、俺は圧倒される。
俺とコイツとじゃ、そもそも思い悩んでいた時間が違う。
確かに、それは相手の主張の通りなのだ。
「俺幸せだ、本当に」
すっと俺の頬を撫でる相手の手に、少し気恥ずかしさを覚える。
「止めろよ…くすぐったい」
「いいじゃんか、触らせてよ」
ニヤニヤと笑いながら、相手は今度俺の頬に唇を寄せる。
チュッと軽い音を立てて、優しくキスを繰り返し俺に送る相手に、恥ずかしさを覚えて顔を背けようにも、彼の両手が優しく俺の顔固定していて逃げられない。
「もう…兄貴ってやっぱ、可愛い」
「何言って…ん」
すっと俺の口に相手の唇が触れる。
優しく、少し触れるだけ。
そっと離れて、俺に向かって微笑みかける弟。
どうしてだろうな?同じ顔なのに…俺とは全然違う。
同じ遺伝子を持って生まれているハズなのに。
他の人は、俺達の事を見分けられないというのに……。
俺達二人は一緒のハズなのに、相手と自分は違うのだという意識がある。
「さてと……兄貴の大事な大事な処女、貰っちゃったわけだし…ちゃんと責任取らないとね」
そっと俺の頭を撫でて俺に微笑みかけてそう呟く弟に、俺は顔から火が出るか思った。
「……お前な、そんな恥ずかしい事、平気で口にするなよ」
ふいっと相手から視線を逸らしてそう言う俺に、「ん?ゴメンゴメン」とシャドウは軽く謝る。
「大体、責任取るってどうやって……」
「兄貴の事、一生幸せにしてあげるから…安心してって事」
口調こそ冗談めいているが、そう語る相手の雰囲気がどこか真面目で、俺は深くにもドキッとした。
「…っあ、今さ、俺の事カッコいいって思ったでしょ?」
「なっ!別にそんな事思ってない」
慌てて誤魔化すも、相手はニヤリと確信めいた笑顔を見せる。
「嘘だ、兄貴顔真っ赤だし」
「……さっきから赤かっただろ?」
動揺した時点で、もう既に認めたも同然だったんだけど、まだそう言い訳してみる。
「でも、俺には分かるんだよ」
そう言って微笑む相手に、俺は小さく溜息。
ああ、敵わないな……と、そう思った。
そして、それは全然嫌な事じゃない、とも……。
「……一生とか、そんな軽々と約束して大丈夫なのか?」
「平気平気。ていうか、絶対に幸せにしてあげるからさ」
一体どこからそんな自信が出てくるのか、俺には理解できないけれど、あまりにも自信満々に相手はそう話す。
「今までの人生で、兄貴と離れたいって思った事、一度もないんだよね。むしろ、片時も離れたくないくらい。
俺は、絶対に兄貴から離れられないと思うんだよね、だから…兄貴にも離れてもらっちゃ困るわけ」
「だから、離れられないように幸せにするって?」
「そういう事。俺本当に、兄貴の事愛してるからさ」
「お前なぁ…」
小さく溜息を吐く俺を見て、相手は笑いかける。
その邪気の無い、綺麗な微笑みに俺も微笑み返す。
確証の無い話かもしれないけど、なんかお前が言うと、本当に叶いそうな気がしてくるから不思議だ。
取りあえず、落とされたからには、責任取ってもらおうか……。
まあ、死んだ父さんと母さんに怒られる事になったら、一緒に頭下げてあげるよ。
the END.
アナザー×ノーマルフリオ、現代パロ。
ラブラブ兄弟、イチャイチャさせたかったんです、主に弟に。
情事の後のちょっと掠れた声で、あんな事言っちゃう兄貴は、無意識で色気振り撒いてしまう人だと本気で思ってます。
最近、アナノマが大好き過ぎるのです。
また続編書きます、絶対に。
2009/12/8