寒い冬には、これがつきもの…

猫と、コタツと、みかんと…

期末試験も終わり、授業の数もほとんどなくなった学期末の学校。

「両親が来週末旅行に行くんだけど…良かったら俺の家、泊まりに来ない?」
ある日、恋人が控えめに私にそう尋ねた。
「いいのか?」 「両親も別に構わないって言ってるし…あの、夕飯だけでも食べに来ない?」
一人で過ごすのは、多少心細い等と可愛らしい事を言う恋人に、笑顔で「願ってもない事だ」と、週末の予定を彼と合わせる。
期末試験も終わったのだから、二人でゆっくり過ごしたいという彼の言葉に、私は「どこにでも付き合おう」と言うと、彼は嬉しそうにそうに頷いた。


「今日は付き合ってもらって、ありがとうな」
午前中から日が暮れるまで、彼の予定に付き合って町を歩いていた事に、フリオニールは礼を言った。
「構わないさ、色々な場所に行けて楽しかった」
「そう?良かった」
そう言って微笑むと、彼は夕飯の食器を片付ける為に台所へと向かう。

「手伝おうか?」
「いや、大丈夫…料理は後片付けまでが料理だからさ」
家庭的な恋人はそう言うと、いそいそと洗いものを始めた。
その背中を見つめつつ、手持無沙汰になった私は居間に置かれたコタツの中へ入ろうとした。

「みゃあ」
私の入ろうとした場所に先に陣取っていたモノが顔を出し、自分の存在を主張した為に、仕方なくその隣へと移動する。
「大きくなったな、のばら」
座った私の膝の上に移動してきた茶トラの猫の頭を撫でてそう言うと、フリオニールは振り返って「ソイツまたコタツの中入ってたのか?」と尋ねた。
「姿見かけないなと思ったら、大体冬はコタツの中で昼寝してるんだよ、ソイツ」
自分で命名した名前の猫を見て、彼はそう言った。

「猫はコタツで丸くなる、か……」
「本当に歌の通りだろ?」
面白そうにそう話す彼の横顔を見つめ、私もふと笑みを零す。

いいな、こんな風に彼と一緒の生活……。
いつか二人で暮らしてみたい、という…そんな願望が胸の中に生まれる。
そんな日が来たらいいな、と思っていると、膝の上に乗った猫が多少寒くなったのか、それとも居心地の良い定位置に戻る事にしたのか、再びコタツの中へもぐり込んだ。

「ふう、冷たい…あっ、そろそろお風呂沸く頃かな?ウォーリア、先に入る?」
水仕事で冷えた手をこすり会わせつつ、私の差向かいに腰を下ろす。
「ふぁっ!!ちょっ、のばら…お前」
どうやらコタツの中の住人が、今度は飼い主である彼の元へと向かったようだ。

「どうかしたのか?」
彼の上げた可愛い悲鳴の理由を尋ねると、彼は頬を染めて「いや……」と視線を逸らす。
「のばらがさ、急に俺の足の甲に擦り寄って来るからさ…」
「へぇ……」
彼を見返しそう呟くと、彼は居心地がコタツの住人をそっと脇に退けて、その場所に座った。

「ウォーリア、みかん食べる?」
籠に山と積まれたオレンジ色の果物を差し出してそう言う彼に、「いただこう」と言って山一番上のものを貰うと、彼も一つ取って皮をむく。
「あっ、美味い」
どうやら当たりだったらしく、甘酸っぱい果物の実を嬉しそうに頬張る彼の可愛い表情を見つめていると、ふと…悪戯心を擽られた。


そっと向かいに座った彼へ、少し行儀が悪いが足を伸ばす。
「っ!」
ビックリしたように目を見開いて私を見つめる彼。

「どうした?」
「どうした……って」
恨めしそうな目で私を見つめる彼に、私は微笑み返す。
座っている相手の足に、自分の足をそっと伸ばしてすり寄せる。
足の裏からくるぶし、そしてふくらはぎにかけてゆっくりと上がって行く。

「ウォーリア…くすぐったい、って……」
顔を赤く染めてそう訴える彼の表情が、中々可愛らしい。

「さて、何の事だか」
コタツの上に肘をつき、ニヤリと笑って相手を見返せば、困ったような顔をする彼。
「なあウォーリア、お願いだから止めてくれ」
分かっていないな、そんな頬を染めて困ったような表情で訴えたって、加虐心を刺激するだけだ。

そんな彼をもう少しからかってみたくなって、そっと彼のズボンの裾につま先を忍びこませる。
「ふぇっ!……あっ」
ビクッと震えて顔を背ける彼、さっきよりも頬に一層朱が増して、耳まで赤く染まっている。
「くすぐったい、のか?」
「ん……ちょっ、ウォーリア…本当に止めてって」
忍びこませたつま先をそのまま上へと持ち上げて、彼の素肌を撫で上げれば、小刻みに震える彼の背中。
「も……もう!本当に無理!!」
顔を俯かせたまま、コタツの中から非難して部屋の壁まで下がる。

ああ、逃げられたか……。

壁際へと逃げて、此方がそれ以上仕掛けるつまりはないと確認すると、ようやく彼は一息大きく息を吐いて私を見た。
「何するんだよ!?ウォーリア!!」
怒りの含まれた問い掛けに、私は平然と「ちょっとした悪戯だ」と答える。
「悪戯って……ちょっと度が過ぎるぞ」
ムッとした表情で私を見返す彼。
「そうか?」
「こういうのって、セクハラだよな?」
目に軽く涙を貯めてそう言う彼。


なんていうのか、彼の行動はいちいち初心で可愛い。
それ故に悪戯されるのだと、そろそろ気付いてもいい頃だろう。
…だがまあ、彼からその純粋さがなくなったら、それも問題なので此方からは決して指摘するつもりはない。


しかしこの辺で折れなければ、あとあと彼の機嫌を損なう事になりかねない。
「済まないフリオニール、君の反応が可愛かったから少々調子に乗った」
「少々って……」
彼はムッとしていたが、それでも再度謝れば、「もういいよ」と小さく笑って許してくれた。
彼の良い所だ、とても人に優しい。
それを逆手に取られないかと、時々冷やりとさせられるが…それでも、彼の純粋さは彼の大きな魅力だ。


「さて、フリオニール」
「うん?何?」
「一緒に風呂に入ろうか?」
そう言うと、彼は再び顔を真っ赤に染めて「何言ってるんだよ!」と困ったように叫ぶ。


やっぱり、君はからかいがいがある。
残念ながら、この申し出は本気だが。


赤い顔で文句を言う彼説き伏せて、一緒に風呂に入る事を了承させると、「ならば早速」と彼を連れ出す。
残された部屋の中で、コタツの中の猫が大きな欠伸をした。

あとがき

WOL×フリオ現代パロ、こっちは大学生ではなくまだ高校生設定の方です。
某ビールのCMを見ていて、「あー…コタツに、差向かいか……ネタにいけそう」とか思ったのです。

セクハラしててもブレない、そんなWOLを目指してみてます。
2009/11/30

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