愛しているから、全てを与えても惜しくはない
愛しているから、全てを手にしないと満たされない
Nocturnus〜愛は惜しみなく…〜
ジャラ…という金属音が、私の独占欲を刺激する。
「……オイ、マティウス…これは一体何のつもりだ?」
不機嫌そうに私を睨む相手に、私は素知らぬ顔で「何だ?」と尋ねる。
「何だじゃないだろ!!こんなもの付けて、一体何のつもりなんだ!!」
自分の首に巻かれた、黒い革製の首輪を指して彼は私にそう尋ねる。
首輪には銀の鎖が付けられ、その端は私の手の中にある。
「何のつもりだ?フン、お前は私のモノだろう?持ち物を失くさぬように管理して何が悪い?」
「はぁ!?お前正気なのか?大体、人を物扱いするな!!」
私の返事に納得いかないのか、怒りの含んだ声でそう叫ぶ。
キッと睨む琥珀色の勝気な瞳が、中々私は気に入ってる。
「物扱いはしていない。ただ、お前が他の者と関わるのは、黙って見過ごせない」
そう言って鎖を引っ張れば、椅子に腰かけた私の側へと無理に連れ出し、床の上にへたりと座り込む。
「フリオニール、私はお前を愛している」
彼の耳元に低い声でそう囁けば、途端に赤く染まる彼の頬が愛らしい。
「他の誰かに取られたら、事だろう?」
「それ…は……取られる方にも落ち度が、あるだろ?」
私の視線から逃れるように、目を逸らしてそう言うフリオニール。
ほぅ……中々言ってくれる。
「だから、こうして繋ぎ止めているのだ…まあ、首輪も鎖も、ただの飾りなのだが」
「…飾り?」
床に座り込んだままのフリオニールが、訝しげにそう尋ね返す。
「そうだ」
彼の体を抱え上げ、私の膝の上に座らせてそう返事する。
「お前を私の元に繋ぐのに、そんな人間の小道具など必要ない、私の魔力を使えば、貴様を手元に縛り付けるなんぞ容易い事だ」
「じゃあ外せ!!」
怒りを含んだ赤い顔でそう叫ぶ相手の首筋に顔を埋めると、くすぐったそうに身を捩る。
「ちょっとした遊びだろう?マンネリ化せん為の私なりの工夫だ」
反抗しようとする彼の耳へ舌を這わせそう言えば、ビクッと彼の体が大きく震える。
いい反応だ。
「ん…もう、いいから外せよ!!」
解放を要求する相手の額にそっと口づける。
「断る」
彼の願いを即刻取り下げると、彼は私から視線をそらし「なら…」と新たな要求を切り出す。
「せめて、ここから下して…ちゃんと、服着させてれ」
頬を赤く染めて、小さな声でそう言う。
「何だ?ちゃんとシャツは着てるだろ?」
「俺は…下の服を着させてくれと、そう言ってるんだけど……」
恨めしそうに私を見返す彼。
「全裸でないだけマシだろう?」
そんな彼にそう返答すると、彼は「なっ…!!」と言葉を詰まらせる。
「シャツから伸びたお前の生足が、私は好きなんだが」
「済まないマティウス、真顔でそういう変態臭い事を言わないでくれ」
呆れたように溜め息を吐くと、脱力したように彼はそう言う。
なんだ?好きなものを好きだと言って何が悪い?
好きなものを愛でる為ならば、どんな事でもしよう。
「あのな、いくら何でも…寝てる間にズボン脱がすのはないだろ……」
「頼んで見せてくれるなら、私もこんな苦労はしないのだが」
彼が、そんな素直に私の願望を叶えてくれるとは思えない。
ならば、実力行使に打って出るまでだ。
「打って出ないでくれ」
疲れたようにそう言う彼の額にキスを贈り、それは無理な相談だと、彼に答える。
全て欲しいのだ、お前の全て、余すところなく。
全て手にしてしまったら、今度はもっと別の姿が見たくなる。
私が見たいと望む、彼の様々な姿。
それを叶えていきたくなるのだ。
「だからって、これはない…」
「そう言うな、中々色っぽいぞ」
「全然嬉しくないんだけど」
そう言う彼の言葉を奪うようにキスをして、ゆっくりと足を撫でれば、強まる官能的雰囲気に、抱き締めた体が震える。
「ふん、ちゃんと感じているんじゃないか」
「お前がイヤらしい手付きで、んっ!触るからだろ!!」
私の所為か?
まあ、確かにその通りだが。
「では、もっとヨくしてやろう」
「…それ、断る権利、ある…の、か?」
「勿論、ない」
「……だよな」
諦めたように溜息を吐く相手の頬に手をやり、そっと撫でてやる。
「そんな嫌がるな、ご主人様が直々に可愛がってやると言ってるんだ」
「誰が、誰のご主人様だよ……?」
「私がお前の飼い主なのは、周知の事実だと思っていたのだが…」
「俺は、別にお前に飼われてる気は…ふぁっ!!ん」
相手の内股を撫で、反応を示し始めていた雄に手を掛ければ、可愛い声を上げて鳴く。
「ちょっ…本当に、ヤるつもり?」
「当たり前だろう?」
そう言って、首の付け根に軽く歯を立てて噛みつけば、ビクリと大きく震える。
牙が肌を裂くプツリという感覚と、滲み出してくる芳しい血の味。
「っつ…ぁあ、ん」
軽い痛みと、それを超える鋭い快感に身を震わせる相手に、ふと笑いかけてやる。
「何、笑って?」
「ん?お前はいつも、可愛らしいな」
愛玩物というのは、常に愛らしくなければ意味がない。
お前は、私の理想に叶った愛玩物だ。
故に、望むのは独占。
たった一つのものだからこそ、他の者に等しく与える…など言語道断。
私一人だけのものであればいい。
しかし、犬も猫も、等しく動物というものは気移りのし易い動物だ。
愛情を与えてくれる者には、従順になる。
だから躾が必要だ。
私にだけ、愛情を与えるように。
だが、まあ…犬猫のような愛玩動物よりも、コイツの場合はもっと格が上だ。
何せ私を虜にする程の魅力を持った、人間。
知恵のある者として、彼を自分のモノにするならば、それはもう“恋人”意外のどの位置でもない。
「ヒァッ!ん…や、止め、激し……」
突き上げる度、快楽の波から逃れようとして頭を振る彼の首元で、銀の鎖が揺れる。
鎖の端を引き、彼の上半身を起き上がらせてその耳元に唇を寄せる。
「フッ、私を咥え込んで離さんクセに、何を言う?」
「あっ!や、ちが…」
目に涙を貯め「違う」と言おうと、それを今、否定の意味として受け取れられるわけがない。
事実、彼の体は快楽に満たされ、私の律動に合わせその腰が揺れているのだ。
こんなモノを見てしまうと、もう欲しくて仕方ないと言っているようなもの。
まあ、彼の上の口が素直じゃないのはよく知っている。
その初心な反応と、相変わらずの純情さは、まあちょっとした愛嬌だ。
「もう、駄目…イク、ぅあ…イッちゃ……」
「構わん、イけ」
限界を訴える彼に、許しを与えれば涙の溜まった潤んだ瞳が私を見つめ返した。
その瞳には今、私しか映っていない。
彼を独占できている、そんな事実が私の中の欲望を掻き立てる。
「ん、あっ!ぁああん!!」
最奥を穿った瞬間、快楽の頂点を極め自分の欲望を吐き出す。
その瞬間の締め付けに耐えきれず、彼の中に私も欲望を吐き出すと、小刻みに震えその感覚に耐え忍ぶフリオニール。
汗ばんだ額に張り付いた髪を退けてやり、そっと頭を撫でてそこにキスを落とせば「ん……」という甘えた声を上げる。
「愛しているぞ、フリオニール」
「ま、てぃ…うす……」
舌足らずな発音で私の名を呼ぶ相手にそっと微笑みかけると、彼は小さく息を吐いた。
そっと頬から首元へと指を滑らせて、彼の首輪に触れる。
お前は私のものなのだ。
愛している、だから全てを与えよう。
全てを、奪おう。
「フリオニール、愛しているぞ」
そう言って彼に口づけると、嬉しそうにそれを受け入れた。
ああ、彼への愛は何よりも惜しみなく……。
皇帝×フリオ、友人にお題をくれと言ったら「首輪」と言われたのです。
で、首輪と言われたら独占欲過多の皇帝様だろう、という簡単な方程式で出来ました。
吸血鬼パロの皇帝様はエロ紳士なんですが、途中ただの変態になりかけました。
でも、真顔で変態発言しても、皇帝様は許されると思ってます。
2009/11/27