雨は嫌いだ
思い出したくない事を、思い出してしまうから
そう言うと、アイツも「一緒だな」と言って、力なく少し笑った
冷たい雨
「うわっ…冷たい……」
雨に濡れた髪を乾かすために、バンダナと結んでいた髪を解き、ふうっと息を吐く。
「スコールは大丈夫か?」
「ああ」
上着に付いた水滴を払ってそう答える。
髪は濡れたが、彼とは違って短い為にすぐに乾くだろう。
問題はガンブレードが濡れてしまった事で、火薬がしけったりしてしまう事だが、それは問題なさそうだ。
探索の組み合わせを決めた。
ジタンが作ったクジで決めたのだが、俺は“偶然”にもフリオニールと組む事になった。
「何か、仕組んだだろ?」
組み合わせ決めが終わった後、仲間の盗賊の元へ向かいそう尋ねると、彼は「何の事だか?」と白を切った。
「ジタン、ハッキリさせよう」
「本当にオレは何もしてないって!それに、何かしてたってもう決まったんだからいいだろ?後から言いっこは無しだぜ?」
確かにその通りなのだが、俺が彼に話があるのはもっと別の理由だ。
「別に、そこまでしなくてもいい」
「何だよ、人の気遣いはありがたく受け取れって!」
……やっぱり、何か仕組んでいたんだな。
それに気付かなかった俺も、俺か。
小さく溜息を吐く俺を見て「まったく、お前も奥手だよな…顔に似合わず」と零す盗賊。
顔に似合わずは、余計だと思う。
「いい加減にさ、お前も本腰入れろよ、前に二人で留守番した時にはいい雰囲気だったんだろ?」
まあ、確かにそれはその通りなのだが……。
「近付きたいなら、もっと積極的に行動しろよ、な?」
それができるなら、苦労はしない。
「とにかく!明日は天気良いし。頑張れよスコール」
ニッコリと満面の笑みで笑い、グッと親指を立てて「頑張れよ!」と言われたのだが…。
「完全に外れてるな」
「何が?」
珍しく、思った事が口に出ていたらしい。
「いや……昨日、ジタンが今日は天気が良くなると、そう言っていたんだ」
「そっか、まあ恵みの雨とはいうけど…俺達からすると、迷惑だったな」
装備品を外して乾かしながら、フリオニールはそう言って微笑む。
森の木の葉を打って落ちてくる雨を見つめて、溜息を吐く。
薄暗い洞窟、岩に囲まれたこの場所がなければぬかるんだ大地を歩く事になっただろう。
「しばらくは止みそうにないな」
「ああ」
装備品を全て外し、軽装になった彼が俺の横に立ってそう呟く。
「寒くないか?」
袖のない彼のシャツ姿を見ると、寒気の流れ込んできた最近では、見てる此方が寒くなってくる。
「えっ?いや…大丈夫」
俺の質問にそう返答するが、雨に降られて水気を含んだ衣服と、濡れた長い髪が風に当たった肌を冷やして、鳥肌が立っている。
このまま冷えれば、風邪を引きそうだ。
それに……。
「着ておけ」
「いいよ!本当に平気だから」
突きつけた俺の上着を返そうとする手を、押し留める。
「お前に倒れられると、一番俺達の生活に支障が出る」
「でも……」
まだ何か言葉を続けようとする彼を、俺は見つめ返す。
それから後に続く言葉はなく、しばらく沈黙が続く。
「分かった…ありがとう、スコール」
申し訳なさそうに礼を言うと、貸した上着に袖を通す彼の姿を見て、俺は安堵の溜息を吐く。
装備を外した衣服から覗く首筋や、普段あまり見かけない髪を下した彼の姿が、とても色っぽくて目に毒だとは…流石に口が裂けても言えない。
ただ、口が裂けずとも、自分は思った事をあまり口にしない性質なだけに、そういう心配はしなくても大丈夫だろう。
降り続く雨を見つめていたが、ふと気が滅入ってきそうになり、空から目を逸らし、洞窟の奥へ移動する。
「どうかしたか?」
俺の方を振り返ってそう尋ねる相手の声が、洞窟の奥へ木霊する。
「別に……ただ、雨は嫌いなんだ」
素っ気なくそう返答する俺に、彼はふと笑みを零し「一緒だな」とそう言った。
「俺も雨は嫌いなんだ…嫌な気分になる」
そう言いながら、俺の隣りへと歩いて来て、そっと隣りへ腰を下ろす。
「多分、嫌な思い出があるんだろうな、雨の日に…その時の記憶は今はないのに、なんだか気分が落ち込むんだから、よっぽど嫌な思い出だったんだと思う」
「同じ、だな」
雨の日は嫌いだ、誰か…大事な人の事を思い出してしまいそうだから。
それが誰なのか、今の俺には分からないのに…なのに、その人はもう居ないという事実が自分の中に確かに存在していて、余計に嫌になる。
大切なものを失くした、そんな虚無感…そして、埋め合わせようもない悲しさ。
どうしても消せない、そういう感情を持て余してしまう。
「俺の中にあるのも、スコールと似たようなモノだよ」
俺の話を聞いていた相手が、ふと、そう零す。
「そうか……」
「だけど、俺のは少し違う…虚無感というか、そうだな……寂しいという方が、正しいかな?」
彼はそう言うと、力なく微笑む。
彼が“寂しい”とそう言った意味が分かった。
確かに、その時の彼の笑顔は寂しそうに見えた。
微笑む彼の笑顔が、綺麗で顔を背ける。
見ていられなかったのだ、悲しみや寂しさを含んだ表情は、酷く綺麗だが…その象眼めいた表情は、アンタには不釣り合いだ。
生きているモノの暖かさの欠如した、そんな表情。
アンタらしくない表情だ。
冷たい雨が、そのまま体温や心の温度まで落としていったようで。
洞窟の中に響く静かな雨の音が、酷く恨めしい。
雨は、やっぱり嫌いだ。
「でも…お前と二人で良かったよ」
そんな彼の言葉に、俺の心臓が大きく高鳴る。
「俺一人だったら、寂しさは消せないけど、お前が居るから平気だ」
「そう、か……」
「うん」
そう返答する彼の表情が、見慣れた暖かい表情に戻ったのを見て安堵する。
だけど、どことなく心の中にぽっかりと隙間が空いている、そんな気がする。
今、お前の隣りに居るのは俺だけど、それは俺でなければならなかったわけではない……。
他の“誰か”でも良かったんだろう。
俺は、コイツの中では大した存在ではない。
それは分かっている、分かってたハズなのに…。
どういうわけだか、悔しい。
「フリオニール……」
「うん?どうしたんだスコー…ル?」
手を伸ばして相手を抱き寄せると、彼はビックリしたように身動ぎする。
相手の肩に顔を埋めて、腕の中に居る相手を更に強く抱きしめる。
「あの?スコール…スコール、どうしたんだ?」
そう尋ねられても、困る。
どうしたんだろう?
何だか、離れたくない。
離したくない。
「どうしたんだ?」
「……済まない、ちょっとの間このままでいてくれ」
「えっ…ああ……分かった」
理由は聞かずに、そのまま大人しくなる相手。
一人というのは気が楽だが…時々、本当に時々、人の温もりがどうしても欲しい時がある。
雨の日なんて、特に。
「済まない……」
「いや、いいんだ」
彼の表情は見えない、ただ背中に揺れる彼の長い髪を見つめ、ふと溜息を吐く。
俺はどうしたんだろう?
らしくない。
「寒いな…」
「うん」
ただ降る雨が冷たいから、温もりが側に欲しい。
…なんて、そんな理由だけではないだろう。
「…寂しいんだ」
多分、違う。
「そうか、なら…大丈夫だ、俺が居るから」
違うんだ、俺は……。
今の俺の立ち位置が、他の誰かでもいいと…そう思えたのが嫌なだけ…。
雨はまだ降り続く。
スコ→フリオ、ほとんど勢いだけで仕上げてしまいました、別にスコールの上着を着るフリオを書く事を目的で、書いたわけでは…ないですよ。
以前、梅雨時期くらいに雨降りの話を書いた時の相手キャラで、スコールとティーダで最後まで迷った結果、私の中でティーダに負けたスコール、今回再チャレンジしてみました。
抱きしめていたスコールは気付いてないですが、この時フリオは顔真っ赤でしょうね、何しかスコールイケメンなんで。
無口なイケメンの突然の積極的な行動には、ドキドキしますよね、って話です。
2009/11/25