今日が何の日か、知っているだろうか?

11/22

冬めいてきた空を見上げて、ふと息を吐く。
吐き出した息は白く、大気中で凍ってしまったようだ。
身に染みる寒さにコートの襟を立てて、駅から出ると、自宅への道を急ぐ。


「ただいま」
大学に入学して、新しく借りたマンションのドアを開けて中へ入り、奥へ向けてそう声をかける。
「おかえり、ウォーリア」
一年前までは、誰も出迎えてはくれなかったのに、今の家では君がこうやって笑顔で出迎えてくれる。

「外寒かっただろ?良かったら熱い飲み物淹れるけど、何がいい?」
「なら、そうだな…コーヒーを入れてくれ」
「ああ」
ニッコリと笑顔で答えて奥へ向かう恋人の姿を見て、私も微笑む。

ルームシェアを提案したのは、やっぱり正解だった。


高校時代、彼はよく私の元へ来てくれていた。
一応、自活しているつもりだったのだが、家の仕事はあまり得意な方ではない、そんな私を心配して、彼は私の家へ顔を出してくれた。
君は良い嫁になれるな、と何度となく彼にそう言って、「俺は嫁には行けないよ」と苦笑いされた。

高校を卒業し、大学へ通い始めても、彼は暇を見つけてよく私の家へ来てくれていた。


「お前はアイツに、いつまで通い妻をさせる気なんだ?」
ある日、友人がやって来てそう問いかけたのがきっかけだった。

「通い妻?」
疑問形で終わった私の言葉に対し、クラウドは小さく溜息を吐いた。
「…恋人同士なら、いい加減に一緒に住んだらどうだ?」
「同棲か……」
「いや、世間的な目からすると…同居だな」
そんな事はどちらでも構わない、ようは同じ屋根の下で暮らせと、そう言ってるのだろう?
しかし……彼が同意してくれるかどうか、それが問題だ。

すると友人は、「大丈夫だろう」と私の心配を寸断した。
「お前もフリオニールも、同じ大学に通ってるんだろう?ここから通うのはそこそこ不便なんじゃないか?」
「まあ、否定はしない」
正直、確かにここから大学まで通うのにこの家は不便だ。
それは近所に住む彼からしても、同じ事だろうとは思う。

「だったら引っ越したらいいだろう?」
「君はそう簡単に言うが……」
「大学の周辺なら、学生が住むのに丁度いいくらいのマンションがあるだろう?ルームシェアって言えば、アイツも考えてくれるんじゃないか?」
そう言われて、私もふと落ち着いて考えてみる。

生活費も、二人で暮らすのならば半分で済むか……。
彼にとっても、悪い話ではないだろう。

「一度、彼と相談してみる」
「そうか……」


その後、ルームシェアの話をしたら「家族と話して考えてみる」と言われたのだが、彼の家族と話し合いをした結果、意外とあっさり許しが出たらしい。
「大学生になったんだし、そろそろ独り立ちしないといけない頃だろうって」
私の元へ来て笑ってそう報告する彼に、私は安堵する。
「でも、本当に良いのか?俺と一緒に住むなんて」
不安そうにそう尋ねる彼に、私は小さく息を吐いてから告げた。
「通い妻は止めさせろ、と言われたんだ」
「何だソレ?」
意味が分からないという彼に、私は微笑む。
「そろそろ、私の元へ嫁として来いと…そういう事だ」
「なっ!!ちょっとウォーリア、嫁って……」
それ以上何か文句を言われる前に、彼の唇を塞ぎ言葉を止めた。


「はい、ウォーリア」
マグカップに入ったコーヒーが、私の前に出された。
「ありがとう」
礼を言って受け取り、淹れたての熱いコーヒーを口に運ぶ。
ミルク無し、砂糖は一つ。
私の好みを理解した上で淹れてくれた、“いつもの味”だ。
ほっと息を吐いた所で、私の隣りへ腰かけた彼を見る。
同じようにマグカップを片手に、私の視線に気づいてふと微笑みかける彼と、彼の淹れてくれたコーヒーの熱で、冷えた体の温度が少し上がる。
「暖かいな」
「うん」

ああ、幸せだな…と思う。
こうやって、君と一緒に過ごせるなら、日常生活でさえ幸せな日々に変化する。
そんな事に気付いて、もう何年経つだろうか?


できるなら、これからもずっとこうして二人で一緒に過ごしていたい。


「フリオニール」
「ん?」
「今夜は冷えるそうだ」
「そうらしいな」
今日の天気予報でも今夜は冷えるとそう言ってたな、と彼はそう言った。
そんな彼を横目で眺めながら、私は思った事を口にする。

「だから、今晩は一緒に寝ようか」
「はぁっ!!?えっ!ちょっ…ウォーリア、何言ってるんだよ!!」
真っ赤になって叫ぶ彼。


「何を想像したんだ?フリオニール」
そんな事聞かなくても、赤く染まった彼の顔を見れば誰だって分かる事だろう。
「えっ…なっ、何って、その……」
言いかけて言葉を濁す彼を、ニヤリと人の悪い笑顔で見返せば、頬を赤く染めたまま私を睨み返す彼。

「俺をからかったのか!ウォーリア?」
怒って叫ぶと、そっぽを向く恋人に私は苦笑する。
「別に、からかってなどいない」
そう言って、彼の顔を私の方に向ける。
照れて赤くなっていた顔が、今はすねた表情に変わっている。
まあ、どちらにしろ見ている方としては、“可愛らしい”という形容詞しかつかないのだが……。

「私はいたって真面目だ。
真面目に、今夜は君と一緒に寝たい」
「えっ!えええええ!!っわ!と、わわわ…」
慌てふためいて、手にしていたコーヒーを思いっきり零す恋人を見て、私は呆れつつ微笑む。


しっかりしているが、少し抜けている。
こういう所が、彼の可愛い所だ。


「火傷してないか?」
「うん、大丈夫」
零れたコーヒーのかかった彼の手を取り、そっとその手を拭いてやると、恐縮したように彼は縮こまる。

「冷やさなくても、大丈夫そうだな」
「うん……だから、大丈夫だって…」
頬を染めた彼は、私から視線を逸らし小さな声でそう言った。
それを見て、私はそっと横に座った彼を抱き寄せる。

「ウォーリア?」
一体どうしたのか?と尋ねる彼を見つめて微笑めば、彼の目が少し見開かれる。
見惚れてる?
もしそうだとするなら、恋人としては嬉しいな。


「寒いと、人恋しくなるものなんだ」
ぎゅっと、彼を抱く手に力を込めてそう告げる。
「何だよ…ソレ……」
私の返答に少し呆れたようだったが、しかし、彼の頬が少し緩む。


寒いのだから、側に居て欲しい。
それだけで、今日の日が幸せになれるのだから。

「いつまでも、隣に居て欲しい」

これから先も、ずっと……。

あとがき

何とか間に合った!11/22(いい夫婦の日)小説!
DFFでの夫婦といえば、やっぱりWOL×フリオだろう!!と意気込んで書き始めたのはいいものの、夫婦ってどうするんだよ?とか思いながら色々考えた結果、最終的に、お茶でも飲みながら二人で身を寄せ合ってるような、そんな光景がいいか…という結果がコレでした、夫婦に見えますかね?
個人的な設定では、以前に書いた学パロのその後、大学生になったら二人で同居すればいいと思ったのです。

多分、何やかんや言って、二人はこの日一緒に寝るでしょうね。
冬は仲良く身を寄せ合って寝ればいいんです。
2009/11/22

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